FALL

23/87ページ

前へ 次へ


 再び帽子屋に戻ると、芽衣子ちゃんは帽子を色々試着していた。

「お待ちどおさま。
 あ、買うの? 行ってきたら?」

「あ、いえ、ただ被ってただけです」

 芽衣子ちゃんが俺に気付いて、持っていた帽子を棚に戻した。

「そう?
 あ、芽衣子ちゃん。お昼ってもう食べた? 俺これからだから、一緒にどこか入らない?
 あ、もちろん芽衣子ちゃんがよければ、だけど」

 純粋に腹へったから出た言葉だけれど、我ながらベタベタな誘い文句だったと、後で気付いた。

 こんな突然言われたら、芽衣子ちゃん困るよな。

 ふられるのを覚悟していると、予想と反して、芽衣子ちゃんはぱっと表情を明るくしてこう言った。

「ほんとですか? 私もまだなんです。
 そしたら相田さん、相田さんオススメのラーメン屋さんに連れてって下さい。
 今回の旅行で美味しいラーメンを食べるのが、目標のひとつなんです。
 あ、今笑いましたね? 呆れたんでしょ!」

 芽衣子ちゃんが熱弁している途中で吹き出してしまったので、イーッと威嚇されてしまった。

 その仕草もかわいくて、堪えようとすればするほど、肩の震えを止められなかった。

「もう、相田さん!」

「あー、ごめんごめん(笑)
 ご案内致します、お嬢さん。本当に、俺のオススメでいい?」

 そう言うと、芽衣子ちゃんの膨れっ面が消えて、

「はい、ぜひお願いします」

 さっきよりもいい笑顔を俺に向けてくれた。





23/87ページ
いいね!