FALL
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再び帽子屋に戻ると、芽衣子ちゃんは帽子を色々試着していた。
「お待ちどおさま。
あ、買うの? 行ってきたら?」
「あ、いえ、ただ被ってただけです」
芽衣子ちゃんが俺に気付いて、持っていた帽子を棚に戻した。
「そう?
あ、芽衣子ちゃん。お昼ってもう食べた? 俺これからだから、一緒にどこか入らない?
あ、もちろん芽衣子ちゃんがよければ、だけど」
純粋に腹へったから出た言葉だけれど、我ながらベタベタな誘い文句だったと、後で気付いた。
こんな突然言われたら、芽衣子ちゃん困るよな。
ふられるのを覚悟していると、予想と反して、芽衣子ちゃんはぱっと表情を明るくしてこう言った。
「ほんとですか? 私もまだなんです。
そしたら相田さん、相田さんオススメのラーメン屋さんに連れてって下さい。
今回の旅行で美味しいラーメンを食べるのが、目標のひとつなんです。
あ、今笑いましたね? 呆れたんでしょ!」
芽衣子ちゃんが熱弁している途中で吹き出してしまったので、イーッと威嚇されてしまった。
その仕草もかわいくて、堪えようとすればするほど、肩の震えを止められなかった。
「もう、相田さん!」
「あー、ごめんごめん(笑)
ご案内致します、お嬢さん。本当に、俺のオススメでいい?」
そう言うと、芽衣子ちゃんの膨れっ面が消えて、
「はい、ぜひお願いします」
さっきよりもいい笑顔を俺に向けてくれた。
…