FALL
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お願い。
止まってて。
そのままでいて。
信号が青になった瞬間走り出し、芽衣子ちゃんがだんだん近くなる。
10m離れた辺りで一度呼吸を整えた。
芽衣子ちゃんはまだ気付いていない。
「芽衣子ちゃん!」
「えっ」
弾けたように顔を上げて、俺とは反対方向へキョロキョロする芽衣子ちゃん。
ちがうって。こっちだよ(笑)
クックッと笑いを堪えながら、後ろから芽衣子ちゃんの肩をぽんと叩いた。
「相田さん!」
クルッと振り向いて、本当にビックリした様子の芽衣子ちゃん。
「まだこっちにいたんだね。
こんな所でどうしたの、買い物? 靖子も一緒?」
「あっはい。
ヤスコは昨日の休日出勤で疲れたから、今家で休んでます。
ひとりで適当に歩かせて貰ってます(笑)」
ジャケットの立てた襟に顔を竦めて、照れくさそうに芽衣子ちゃんは微笑んだ。
「でも、あー、ビックリした。急に声掛けられるんだもの」
「ナンパかと思った?」
「いえ! あ、でも、何かの勧誘かと思いました(笑)」
「え、なんで?」
と言いかけて、そこで自分がまだバイトの格好だった事に気付く。
「うは、恥ずかしー(笑)
ねえ芽衣子ちゃん、ちょっとここで待ってて。
俺、あそこのガソリンスタンドでバイトしてて、さっき上がった所なんだ。
着替えて来るから、いいかな?」
「あっはい。いいですよ。待ってます」
あの日と同じ笑顔をくれる、芽衣子ちゃん。
俺はまた、青信号に変わると同時に走り出した。
浮き足立っているのが、自分でも分かった。
…