FALL
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「昨日はー、チョー楽しかったねー。
なんだっけ? 飲み屋のメニューの“ひとくちの幸せ”ってやつ、あーくるとはねぇ。
考えたよね、お店の人」
「えっナニソレ? 俺、食べてないんだけど!」
車内でごはんを食べながら、昨日の集まりの話で盛り上がる。
「あ、それ俺もいただいた(笑)」
「私もー」
「まじか! 何で俺だけ? 俺も幸せ欲しかった!」
ちょうど信号で止まって、わざとらしくハンドルに突っ伏す坂本に、皆の笑いが止まらない。
「チョーうける。
そうそう、カラオケの時さぁ、相ちゃんかわいかったねぇ、ねっマナ?」
「うん、かわいかった(笑)」
「ええ? またまたー(笑)」
「そうだそうだ! コイツは音外しただけっしょ?
かわいくて上手かったのは、芽衣子ちゃん!」
また不意に、芽衣子ちゃんの名前が出てきて、ドキリとした。
並んで歌った事、ありありと思い出す。
「あーあの子。男子たちほとんど狙ってたでしょ(笑)
靖子サンだっけ? あの人も面白い人だったけど。
ナニ? 相ちゃんの友達だったの?」
「靖子は高校の時の同級生、芽衣子ちゃんはその従妹。○○県から来たって言ってた」
「うわ、めっちゃ遠いじゃん! じゃあもう、会う事ないね、ねっマナ」
「うん…今日帰るって言ってたんでしょ? 大変だよね」
いや実は帰っていない。それを知っているのは俺だけ。でもいつ帰るかは知らない。
スイちゃんの言うように、もう会う事はないんだろう。
(もしまた会えたら)
昨日別れ際に言った芽衣子ちゃんの言葉が蘇る。
でもそれは叶わない事だな…と思った。
芽衣子ちゃん、昨日は無事に靖子んちに着けたのかな。
そうしている内に、車は海のすぐそこまで来ていた。
…