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やがて私の周りにも激戦に敗れた人達がポツポツと座ってきて、どうやら席替えは落ち着いたみたい。
軽く挨拶を交わした後、私は曲選びに集中した。今回の周りの人達はすでにくだけた仲のようで、私はその輪に入れそうもなかった。
それに折角カラオケに来たのだから、一曲くらい歌いたい。歌うのはわりと好き。
曲本をじっくり見ている途中、ずっと空いていた私の隣に誰かが座ってきたのに私は気付いていなかった。ちょうどお気に入りの曲を見つけたところだったから。
「歌、決めた? 入れてあげるよ」
だから、そう声を掛けられた時は飛び上がりそうなほどびっくりした。
「えっ、あっ、いいんですか? ありがとうございます!」
そう言いながら声の主を見た。
背の高い、物腰の柔らかそうな男の人。
「こんな人数だからさ、中々順番が来ないんだ。一緒に歌わせてくれる?」
知らない人に突然こんな風に来られたら、普段なら警戒心を持っただろうに、この時の私はそうは思わなかった。その人がちょっぴり困ったような顔をして言ったからだと思う(笑)
私も、知らない中でひとりきりで歌うより、一緒に歌ってもらった方が心強いと思い、その誘いに乗った。
「いいですよー。じゃあ…この歌! 知ってますか?」
「オーケー!」
その人はリモコンに手を伸ばして、私の膝の上に乗せている曲本を見ながら番号を入力してくれた。
ありがと、ごめんね、急に割って入ってきた事を詫びながら申し訳なさそうに笑う彼、きっとすごくいい人なんだろう。全く嫌な気持ちを抱かなかった。
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