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願わくば星空の下で
雨が止んだばかりで湿ったアスファルトの上を、吉野さんと並んで駅に向かって歩く。視界に入るいくつかのお店には、今も七夕祭りの飾りが少し寂しそうに人々の願いをぶら下げていた。
「そういえば、今日は七夕でしたけどイベントとかはやりませんでしたね」
「そう、ですね……。言われてみれば」
「スターレス、だからですかね?」
「えっ……あぁ、そうかもしれませんね。僕もそのあたりはちょっとわからないですけど……」
何となく思ったことをそのまま口にしてみれば、吉野さんは曖昧な笑顔を作りながらも私の質問に付き合ってくれる。
「近ごろの七夕って、ずっと曇りか雨な気がしません? 織姫と彦星は無事に会えているんでしょうか……」
「うーん……。僕たちのところは雨でも、雲の上なら大丈夫なんじゃないかなって、僕は思います」
「そっか……そうですね。よかった!」
一年に一度しか会う機会がないのに、それすらも奪われてしまってはさすがに可哀想。そう勝手に悲観していたからか、彼の言葉を聞いて、当事者ではないのについ嬉しくなってしまう。
私なら、好きな人とはいつも一緒にいたいと願うだろうから。
声を弾ませたまま他愛のない話を続けていると、やがて駅の明かりが静かに私を迎え入れる。送っていただいたお礼を言って、私は「また明日」と吉野さんに背を向けた。
「あ、あの!」
「……はい?」
高く上擦った声に振り向いたとき、定期を取ろうとした右手をぎゅっと強く握られる。
「吉野さん? どうかしました?」
「……どんなに離れていても、僕はいつでもあなたに会いたいと思っています」
「!」
真っ直ぐに向けられる瞳は真剣そのもので、逸らすこともできなければ、返す言葉を探すこともできない。
そうしてお互いに見つめ合ったまま、数秒。彼の顔がみるみる赤くなっていき、ついに勢いよく手が離された。
「ご、ごめんなさい!」
「いえ……」
「それじゃ、おやすみなさい!」
「おやすみなさい……」
弾かれたようにすぐさま向きを変え、そのまま走り去っていく背中。呆然と立ち尽くす私の足元に、再びポツポツと小さな雨粒が落ち始める。
「吉野さん……」
真剣な瞳が脳裏に焼き付いて離れない。心を読んだかのように告げられた彼の言葉が、どうしようもなくこの胸を震わせる。
――明日、もう一度。
今度は私から彼の手を取ろうと決めて、人通りの少なくなった改札を抜ける。
私は一年に一度なんて耐えられない。
毎日だって、ここを通って彼に会いに行こう。
どんよりと曇った空とは違い、晴れやかな気持ちでホームに立つ。定期を握りしめる右手には、今もほんのりと心地よい温かさが残っていた。
雨が止んだばかりで湿ったアスファルトの上を、吉野さんと並んで駅に向かって歩く。視界に入るいくつかのお店には、今も七夕祭りの飾りが少し寂しそうに人々の願いをぶら下げていた。
「そういえば、今日は七夕でしたけどイベントとかはやりませんでしたね」
「そう、ですね……。言われてみれば」
「スターレス、だからですかね?」
「えっ……あぁ、そうかもしれませんね。僕もそのあたりはちょっとわからないですけど……」
何となく思ったことをそのまま口にしてみれば、吉野さんは曖昧な笑顔を作りながらも私の質問に付き合ってくれる。
「近ごろの七夕って、ずっと曇りか雨な気がしません? 織姫と彦星は無事に会えているんでしょうか……」
「うーん……。僕たちのところは雨でも、雲の上なら大丈夫なんじゃないかなって、僕は思います」
「そっか……そうですね。よかった!」
一年に一度しか会う機会がないのに、それすらも奪われてしまってはさすがに可哀想。そう勝手に悲観していたからか、彼の言葉を聞いて、当事者ではないのについ嬉しくなってしまう。
私なら、好きな人とはいつも一緒にいたいと願うだろうから。
声を弾ませたまま他愛のない話を続けていると、やがて駅の明かりが静かに私を迎え入れる。送っていただいたお礼を言って、私は「また明日」と吉野さんに背を向けた。
「あ、あの!」
「……はい?」
高く上擦った声に振り向いたとき、定期を取ろうとした右手をぎゅっと強く握られる。
「吉野さん? どうかしました?」
「……どんなに離れていても、僕はいつでもあなたに会いたいと思っています」
「!」
真っ直ぐに向けられる瞳は真剣そのもので、逸らすこともできなければ、返す言葉を探すこともできない。
そうしてお互いに見つめ合ったまま、数秒。彼の顔がみるみる赤くなっていき、ついに勢いよく手が離された。
「ご、ごめんなさい!」
「いえ……」
「それじゃ、おやすみなさい!」
「おやすみなさい……」
弾かれたようにすぐさま向きを変え、そのまま走り去っていく背中。呆然と立ち尽くす私の足元に、再びポツポツと小さな雨粒が落ち始める。
「吉野さん……」
真剣な瞳が脳裏に焼き付いて離れない。心を読んだかのように告げられた彼の言葉が、どうしようもなくこの胸を震わせる。
――明日、もう一度。
今度は私から彼の手を取ろうと決めて、人通りの少なくなった改札を抜ける。
私は一年に一度なんて耐えられない。
毎日だって、ここを通って彼に会いに行こう。
どんよりと曇った空とは違い、晴れやかな気持ちでホームに立つ。定期を握りしめる右手には、今もほんのりと心地よい温かさが残っていた。
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