短編置き場です。
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幸せな時間は、長く続かないと知ってるけれど
だからこそこんなにも抱きしめたくなるほどに、愛しくて、涙が出る程に苦しいのね。
「と!げ!こっち来てー!」
歩く道の坂下に広がるのは一面に広がる秋桜の群生。
今年は気候のせいか遅咲きの上に長持ちした花が風に揺れて早めの夕日に照らされていた。
日が落ちるのも早いこの頃は空気も冷たくなってきて肌寒いというのに、遮るもののない花畑では風が吹き込み、尚更の気温だった。
「やっと来れたけど、やっぱりちょっと寒いね。」
先を走っていたなまえに棘が追いつくと、道の端で身体を丸くしてしゃがみ込んだなまえが景色を眺めながら呟いていた。
「しゃけしゃけ」
ずっとなまえが来たいと言っていた場所。
棘が忙しくなかなか一緒に来ることは叶わなかったけど、突然昨日の夜に今日が休みになったと連絡があった。
『近くを通ったら、まだ咲いていたから』
とメールが入っていて、大慌てで翌日の準備をしたのだった。
(だって今日って・・・)
「今日、何時くらいまで大丈夫?棘、明日も忙しいよね?」
なまえがそう言って立ち上がり振り返ると、タイミング悪く吹きつけた強風が身体を煽りバランスを崩してしまった。
「えっ・・・ひゃぁっ!!」
背後には下り坂。
もう諦めて落ちるしか無い状況なのは分かっていたけど、ギリギリでとっさに掴んでしまった棘の袖。
予測できない一瞬の出来事に油断をした彼もまた、一緒に坂を転げて行った。
「痛ったぁ・・・ごめん、棘大丈夫?」
身体を起こして強く瞑っていた目をゆっくり開きあたりを見渡すと、坂下の花畑まで落ちてしまったらしく、自分より背の高い秋桜に周りを囲まれていた。
「おかか・・・」
ぼんやりした視界の中、声がした方を向くと自分が仰向けの彼の足の上辺りに跨るように乗っていたことに、その時ようやく気づいた。
「!!ごめんっ!」
慌てて離れようとした所に、そのまま棘が身体を起こしてなまえの身体を抱きしめるように掴んで離れないようにと目で制した。
「棘・・・?」
自分の状況を理解した時にはもう身動き出来なくて、全身が恥ずかしさで熱くなって行くのを感じていた。
涼しげな目線を至近距離で合わせてくる彼の目からも逃げられず、手も足も、やり場に困ってどうにかしそうだった。
「なまえ」
耳まで真っ赤になったなまえの姿を見て、抱きしめていた腕を緩めると隠した口元をずらして目の前の困り顔に追い討ちをかけるように口付けた。
何が起きたのか分からないまま、状況を受け入れて、やり場に困った両手は彼を抱きしめて目を瞑るとほんの数秒のはずなのにとても長い時を過ごした気がした。
なまえが目を開くと棘はまだ目を瞑ったまま。
会える時なんて殆どない。
もしかしたら今日が最後で、ずっともう会えないかもなんて、何度も考えたし何度も伝えられた。
それでもやっぱり、何度でもあなたに会いたい。
「棘、お誕生日おめでとう。大好き。」
衝撃で千切れてしまったらしい秋桜を、彼の頭に飾り付けると優しく目を細めた表情がなまえの心を満たしていた。
抱きしめた腕に力を込めると、自然と涙が溢れたけど、満たされた心ではただ笑顔にしかならなかった。
どうか、ずっとずっとこの時間が続きますように。
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「これ、怒られないかな?」
ようやく身体を起こして、折れてしまった秋桜を見渡すと既に畑の外側にいる棘が走り出すジェスチャーをして待っていた。
「こんぶ!」
「え?逃げるのー?!待って待って!」
次はいつ会える?
約束はしないの、できないから。
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