短編置き場です。
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細道の路地裏。暫く進んで開けた道へ出たら多くの人が行き交う街だけど、人目を忍んでなのかなんだか辛気臭くて薄暗い場所が約束の待ち合わせ場所。
2人並んで歩くには少し狭いほどの通路。
「恵ってどこの学校通ってるのー?」
少し先を進む彼の背中を追いながら聞こえるように質問したつもりだったけど、答えは特に返ってこない。
少し前に、なまえが不思議な事故に巻き込まれた事がきっかけで出会ったばかり、名前と連絡先しか知らなかった。
制服を着ているし、自分とは近い年齢だろうと思ったものの見たことのないデザインの制服がずっと気になっていた。
「聞いてる?」
立ち止まった彼の横に並んでなまえが顔を覗き込むと大き目の手の平に視界を覆われ、そのまま前髪を上げられた。
「怪我はあの後大丈夫か」
出会った時に、ちょっとした怪我をして額についた傷。
不意打ちで触れられて、顔を近づけられて、余裕のあった気持ちはどこかへ行ってしまう。
一瞬合った気がした目はすぐに逸らして、添えられた手は下を向いて払った。
「跡は残るかもって言われたけど・・・ちょっと治るの遅いけど痛くないし、前髪下ろしてたら見えないから。大丈夫。」
「恵こそ、怪我大丈夫?」
乱れた前髪を手櫛で直しながら聞き返す。
「俺は大丈夫」
よくある事だ、と付け足すとポケットから小さめの小瓶を取り出し
「この前は悪かった。
薬を貰ってきたから、これを使った方が良い。」
実際のところ、出会った時の事故のことはなまえはあまり覚えていなかった。
でも、恵に助けてもらった瞬間の事だけは明確に覚えている。
そしてその日からずっと忘れられなくて、気になって、困ってはいるのだけど。
「・・・?ありがとう。」
貰ってきたって、誰に?
市販の薬と何か違うのかな。
「謎ばっかりだね、恵って。」
受け取った小瓶を見つめながら軽いため息をつくと、恵は手元に持っていたスマホの画面を確認してまた歩き出した。
「また連絡する。」
私の怪我が治ったら、もう会えないのかな。
私とは世界の違う人なのかも。それはなんとなくわかる、感じる。
「なまえ、俺の学校の事は次会った時に、話せたら。」
大分先を歩いていた彼が振り返って私にそう言った。
期待しないようにと、自分に言い聞かせようとした所だったのに。やめてよ。
「うん、またね。」
手を振って見送った後、ぼんやりと通路の出口を眺めていた。
手元に残った小瓶を開けてみると、中には確かに塗り薬らしいものが入っていたけど、何より彼と同じ香りがした事に驚いた。
「・・・香水じゃなかったんだ。」
助けてもらった時も、今日も、近くにいると感じる不思議な香り。勝手に香水だなんて思っていたなまえは、急に自分と彼との大きな違いに気付いてしまった気がした。
「はぁ・・・今度会ったら何か話せるかなぁ」
薄暗い抜け道のような通路にしゃがみ込むと、両手で包み込むように持った小瓶を暫く眺めて、まだ明るい人混みの中に溶け込む気にはなれなかった。
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