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早く働いて、自分で生活が出来るようにならなくては。
部屋を用意するからと言われた時は、テレビで見た事のあるような小さなワンルームを想像していたのに。
いざ案内された部屋はまたテレビで見た事のある、広過ぎるほどのリビングにシステムキッチンのついたガラス張りの窓辺、エレベーターでどれだけ上がったかなんて覚えてない、街を見渡せるほどの高さ。
無償でこんな生活を与えられるなんて考えると段々怖くなってくるのも確かで、一刻も早くこの生活をどうにかしなくてはと焦る。
小さな村の端の田舎から出てきて、東京に着いた日に必要最低限のものを買ったまま、後は部屋にあるものと言えば田舎から持ち込んだ生活必需品が入った大きな鞄があるだけ。
「服とか、もっとまともな物用意すれば良かった・・・。」
無音を紛らわすためのテレビではトレンドの春服を買いに行く企画が放送されていて、自分の持ち込んだ地味な服にがっかりするばかり。
田舎から持ってきた暗色のファッション。
楽だし、向こうではこれで問題なかったけど少ししたら服も買いに行かなくては。
ため息をついて空のクローゼットのドアを開けると、そこには悟の置いた紙袋が端に置いてあり、中身を確認すると凛にとっては規格外であろうサイズのシャツやトレーナーが出てきた。
「・・・いくらなんでも大き過ぎじゃない?」
夕刻の窓際に立ち、涼しげな顔で外の景色を眺める彼の姿を見ながら思わず独り言が溢れるほどに、顔を顰めて袋に入っていたそれを両手で広げて掲げながら首を傾げた。
「やっぱり大き過ぎたー?
何も持ってきてないって言うから、とりあえず僕の部屋にあったの用意したんだけど」
聞こえたのか、シャツを広げる凛の姿が目に入ったのか、「本当は事情が話せたら野薔薇にでも用意させたんだけど」と付け足しながらシャツを持つ凛の元へ来るも理解はできず、きょとんとしているとサングラスをずらした彼と目が合った。
慌てて目を逸らすと追うように顔を覗き込まれて、持っていたシャツで顔を隠す。
「あのね、あんまり私の目は見ない方が・・・」
「恋人なのに?」
どんな顔して言ってるのかなんて、数日しか会ってなくても分かるくらい。
「思ってないでしょ」
出会った時に思わず出た言葉。
ここまでして貰っておいて、後悔とかはないけれど忘れたい記憶ではあるかも。
「次会ったとき、教えてよ。凛のこと。」
顔を隠してるシャツを上から下げるように引っ張ると俯いた凛がいて、まだ顔は見えない。
観念したのか覆ったシャツを下げた凛は視線をチラリと悟へ向け、そのまま下を向くとぽつりと呟いた。
「・・・信じられないと思うよ。」
"私普通の人じゃないし"
本当に伝えたい事はうまくはっきり声が出なくて、こんな予定じゃなかったのにと色んな後悔が押し寄せてきて、今この瞬間でさえ逃げ出したいくらいに、少しの沈黙には後悔ばかりが重なった。
「じゃあ一緒だね」
伝えられた言葉はあまりにも優しい声。
思わず顔を上げるとサングラスで目は隠れた彼がいて、その言葉の真意を求めようとすると重ねるように彼が続けた。
「僕も特別だから。」
いつものように口角を上げ、少し笑うと「そろそろ帰るね」と玄関へ向かっていった。
「見ず知らずの他人にお金をかけて住居を提供する人が普通じゃないことくらい、私だってわかるわ。」
後ろを追いながら出た言葉に、前方からは笑い声が響いてきて、自分で言っておいて酷い罪悪感を感じた。
「あの、ありがとう色々。」
「いーよ。そんな事より次会った時、教えてね。
・・・本当は紹介したい人もいるし、今後の事も考えなきゃいけない。」
肩をポンと叩かれて、自分のこの待遇が単なる気紛れなんかじゃ無い事だけは確信する。
「まぁ悪いようにはしないしないからさ。」
じゃ、と手を上げてドアを閉めて行った彼を見送ると静かになった部屋に戻ってソファにうつ伏せに全身を投げ出した。
本当は誰にも話さず、普通の人間として生きていくつもりだった。
だって、そうでなくては田舎から出てきた意味が無くなってしまうから。
「やっぱり、運命からは逃れられないって事なのかな」
手の甲を窓辺にのばして一人ため息をつくと、顔を上げた先に見える街の景色が夜の街に変わっていて。見慣れない光景に不思議な気持ちになる。
明日は街に出て服を買いに行こう。
さっきまで握りしめていた規格外のシャツを横目に、少しだけ笑ってしまう自分がいた。
「変な人。」
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