お試し 檜佐木修兵
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仕事も終わり、今日こそは修兵をご飯に誘ってみようかな…なんて考えていると、少し向こうに彼の霊圧を感じた。
(びっくりさせてやろ…)
蘭夢は霊圧を消してそっと彼に近づいていく。すると、彼の霊圧の影に、小さな霊圧を感じた。近づくにつれて、その霊圧の主が昼に修兵のそばにいた女性の1人であることに気づいた。聞き耳を立てるつもりはなかったが、気になって話に耳をすましてしまった…
「…です…」
「でも…俺は…」
「分かっています!蘭夢さん…ですよね?」
「だったら…」
「それでも!私にもチャンスが欲しいんです!」
「それは…」
ショックだった。綺麗な人だった。私には勝てるわけもない。何よりも、修兵がはっきりと断っていなかったことが。蘭夢は最後まで話を聞くのが怖くなって、霊圧を消すことも忘れて元来た道を瞬歩で戻った。
「… 蘭夢…?」
息が切れるのも気にせずに、一目散に自分の部屋まで駆け抜けた。もう終わりかもしれない。いや、もうずっと、終わっていたのかもしれないと思うと涙が出てきた。最近、最後に二人で話したのはいつだっけ?デートしたのは?付き合う前は、ただ修兵の彼女になりたくて、一緒にいたくて、必死だったのに。同じ気持ちだってわかった時には、涙が出るほど嬉しかったのに。あの時とは違う涙が溢れて止まらない。誰かに見られる前に、部屋の扉を閉めて、暗い部屋で1人、誰にも気付かれないように、声を殺して泣いた。
「結構泣いたな…」
たくさん泣いてお腹も空いたな…次に会った時には、別れ話とかされちゃうのかな…
もう枯れかけた涙が、また溢れそうになった時、部屋の外に優しい霊圧を感じた。
「蘭夢…?いるか…?」
霊圧を感じるから所在は分かるはず。それなのに、名前を呼んで丁寧に聞いてくれるところ。久しぶりに彼の口から聞いた自分の名前に、心臓が跳ねるのを感じた。
「何?」
泣き腫らした目を見られないように、扉越しに応える。
「いや、何…してるかなって思って。」
「何も…してないよ」
泣いていたことがバレないように、できるだけ自然に応える。彼の声から、彼の仕草一つ一つが感じとるように分かる。少し暗い表情。困ったように首の後ろを掻く左手。彼の声音と仕草から、先程の悪い予想が当たる気がして体が強ばる。
「そっ…か…最近あんまり会えなかったから…話…したいなって…」
「やだ!」
反射的に言ってしまった…別れ話は嫌だ…修兵の口から聞きたくない…
「そんな事言うなよ…ちょっと顔見せてくれよ…」
切なそうな声…悪い予感がどんどん膨れあがる。
「ダメだよ…今、修兵の顔なんか見たら…絶対泣いちゃう…」
「蘭夢…?泣いてたのか?」
修兵の声から不安が伝わってくる。あの後、あの女の人といい雰囲気にでもなったのだろうか…それなら…もう既に自分は邪魔なのではないか…もしそうなら…
いっそ…
意を決して蘭夢はそっと顔を見せる。もうこちらから、話をしようと…
「修兵…私と…別れて欲しい」
絞り出すように言葉が出た。久しぶりに見た修兵の顔は、驚きと悲しみと…複雑な表情をしていた。
「じゃ…」
あまり顔を見ると、本当に涙が止まらなくなってしまう。それだけ伝えるとすぐにまた扉を閉めようとした。
ガッ
「ちょ…っと待った」
ふと足元を見ると扉が閉まるのを防ぐように修兵の足があった。
「久しぶりにちゃんと話せたのに、それは無いだろ?俺、何かしたか?」
首を横に振るのが限界だった。
「俺と…別れたいのか?」
俯くことしか出来ない。本当は別れたくない。でも、自分に自信が無い。これからも、あんな場面を見る度にこんなに泣くくらいなら。他の女の人が彼の隣にたっている方が似合うのでは…なんて毎日考えるくらいなら、離れた方が楽になるのかもしれない。
「今日…見てたのか?」
修兵から出てくる言葉に、静かに頷く。
「俺は…お前と… 蘭夢と別れるつもりなんてない。あんなとこ見せて、不安にさせたなら謝る…すまなかった…」
修兵からはっきり言われた、‘“別れるつもりは無い”の言葉に、なんだかまた涙が溢れてくるのを感じた。
「俺は、昼休みに誰といても、窓際でこっちを見てるお前を見てた。蘭夢がこっちを見てる気がすると、なんかくすぐったくて、顔が赤くなるんだ…恥ずかしいからそんな顔のままお前のとこに行けなかったけど…今日だって、お前の霊圧を感じたんだ。今の話を蘭夢が聞いてたんじゃないかって思ったら、会いに行かなきゃって思ったんだ。」
私がないているのを感じてか、修兵が話し始める。
「それなら…それならすぐにはっきり断ってくれればよかったのに…曖昧な返事ばっかり…」
今度は自分の中から怒りみたいな…グツグツした感情が湧き上がってくる。そのまま言葉になって勝手に口から飛び出していく。
「それは…悪かった…気持ちを伝えられてどう断ったらいいか分からなかったんだ…お前が不安になるなら、これからははっきりする。俺は蘭夢が好きだから。蘭夢の彼氏でいたいから」
ついさっきまで、不安だっり怒りだったりがグルグルしていた胸の真ん中が、“好き”の一言でスーッと晴れていくのがわかる。
扉がずっと開いて、修兵の大きな腕に包まれる。
「修兵…私も大好き」
これからはちゃんと伝えるから。