第7話 思わせぶりな再会
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
青々とした葉のすき間から降り注ぐ朝日。
城主から任された忍務を終え、敵の城から帰る道すがら。商人に変装しているから、頭には手拭いをかぶり少し汚れた着物姿だ。背には大きなカゴを背負って、その中には売り物に見せかけた花がつまっている。
初めて通る村の、初めて見る景色。
道端に並ぶ木々を見上げると、陽の光が直に瞳へ届き思わず目を細めた。
仕事終わりの、このひと時が好きだった。闇夜に暗躍して、日中は何食わぬ顔で過ごす。憧れた忍者そのものを、まさに自分がやっている。このあと、忍務の報告書を作らなきゃいけないけれど……。今だけは、解放感を目いっぱい味わってもバチは当たらないはずだ。
足裏に感じる小石が、歩くたびジャリッと小さな音を立てる。小気味よさに気持ちまで浮き立って、自然と口角が上がる。すれ違う行商人に軽くあいさつしちゃって、なんて素敵な朝だろう。そう思いながら遠くにそびえる山々を眺めた。
城仕えの忍者になって数年たった。だからもう、仕事は慣れっこだ。ときどき大きな案件はあるけれど、たいていは街での調査や姫の護衛をしていた。
ところが、今回の忍務は珍しく危険なものだった。敵の焔硝蔵に忍び込み、火薬に水をかけたり火縄銃に泥をつめたり――。物理的に武器を使用不能にすること。そして相手の戦闘意欲を削ぐことが目的だった。
無事にやり遂げた満足感のあとは、とてつもない疲労感が押し寄せる。
「お腹すいた……」
ぐーっと大きな轟音がお腹の中で鳴り響く。ぱっと腹部に手をやり、その音を押さえ込む。それでも空腹は消えてはくれない。
「花じゃなくて、野菜を背負っておけばよかったな」
そう、ひとりごとを呟いてチラッとカゴの中身を振り返る。すると視界の端に小さな切り株が飛び込んできた。歩いていた時は見過ごしていたみたいだ。少し休むのに調度いい。
「ふぅ、」
道端にある切り株に腰掛けると大きく伸びをした。それから、だらんと身体から力が抜けて小さく丸まるように座る。手で顔をおおって目をつぶると、このまま眠ってしまいそうだ。
一緒に忍務にあたった仲間は城に戻ったかな……? こんなところで油を売っていてはダメなんだけど――
「おい、そこのお前。大丈夫か?」
男の声がして顔を上げる。誰なのか、私に向かっての言葉なのか分からないけれど、なぜか懐かしい感じがする。
「具合でも悪いのか?」
「……?」
「どこんじょーだ!」
「……えっ!?」
泥で汚れた赤と水色の着物姿。それは初めて見るも、茶色の長い髪やヒゲ剃りの傷跡は恋焦がれていた先生そのものだ。
それに、ど根性って……! 突然の再会に心臓が飛び出そうなくらいドキドキする。気持ちを落ち着かせようと胸元を押さえた。
「も、もしかして、大木先生、ですか……?」
「先生だと……? なぜそれを――」
先生はきょとんとした顔をしたあと、すぐに合点がいったと言うように大声を出した。
「あ〜っ! お前は名前だな!?」
「そうですっ、覚えていてくださって嬉しいです……! その節はお世話になりました」
「見ない間に変わったなぁ。それにしても、なぜ朝早くからこんな所にいるんだ? 道端でうずくまるとはただ事ではないぞ」
「すみません……! じつは忍務を終えたところで」
意味深に言いかけたところで、ググーッと再びお腹がなる。誤魔化すように笑うと、大木先生は私が怪我や病気じゃないと分かったのか「ついて来い」と小さな藁葺き屋根をあごで指した。
「少し歩けばわしの家だ。うまい飯を食わしてやろう」
言われるまま、先生の後ろを小走りで着いていく。
広い背中に背負われたカゴにはたくさんの野菜が揺れている。大根は立派な大きさで、みずみずしい葉が美味しそうだ。先生の汚れた手や足を見るに、今まさに収穫していたのかもしれない。学園を去ってから、先生は杭瀬村にいたのか……とぼんやり考える。
シナ先生が言っていた"畑をやっている"というのは本当だったんだ。一流の忍びだった大木先生が、忍者も先生も辞めてしまった。その事実に胸がチクチクと痛む。
「ちゃんと着いてきてるか?」
「……っ、はい!」
「よーし」
大木先生が振り返る。私がすぐ後ろにいると分かると、満足そうな顔でさらに大股で進んでいく。急いで隣に並ぶと背の高い先生を見上げた。
「鉢巻きの色、白に変えたんですね」
「ああ。似合ってるだろう?」
「はい、とっても」
犬歯をのぞかせ、いたずらっぽく笑う先生。それは教師時代と何も変わらない。その笑顔が嬉しいけれど、先生は私に怒っていないのかという不安が押し寄せる。まずは謝らなければならないこと、それから聞きたいことが山ほどある。
大木先生はそんな私の心のうちを知ってか知らずか、育てている野菜の話を楽しそうに聞かせてくれた。
*
先生に連れられたどり着いた、こぢんまりとした簡素なお家。小さな井戸が近くにあって、辺りは先生が耕した畑が広がっている。キョロキョロしていると、白いうさぎが足元にじゃれついてきた。
「わぁっ、可愛い!」
「わしが飼っているうさぎだ。ラビちゃんという」
「ラビちゃん。よーしよし、いい子だね」
しゃがんでふわふわの体に触れる。指に感じる柔らかな毛並みが滑らかで心地よい。あの大木先生がうさぎを飼っているなんて。それに、ラビちゃんという名前にもびっくりだ。先生を見やると、どうにもその姿に似合わずクスッと吹き出した。
「わしの顔を見て笑うとはどういうことだ?」
「え、あっ、すみません」
「おーい、ケロちゃーん!」
慌てて謝るも先生は白いヤギに向かって呼び掛けている。今度はケロちゃんだって……!? 教師時代には見られなかった、新たな一面を発見してしまったようでなんとも妙な感じだ。こんなに可愛い感性があったのか……!と不思議と嬉しくなる。
「こいつもわしのペットだ。なんでも食べちゃうから気をつけろよ」
「け、ケロちゃん!? た、食べないで〜!」
「おいケロちゃん! 着物は食べ物じゃないぞ!」
大木先生が注意したそばから、ケロちゃんに着物の裾をもぐもぐと食まれる。先生がケロちゃんを引き離してくれて、ひとまず助かった。困った顔で「イタズラ好きなんだ」とこぼす先生が、これまたおかしくて声を出して笑う。
「着物は破れてないか?」
「大丈夫です。ね、ケロちゃん?」
「メェ〜」
「それならいいが……」
着物はべちゃべちゃだけど、幸いにも無事だった。ケロちゃんの頭を撫でてから、ようやく先生のお家へお邪魔する。
「朝飯の支度をするから座っていろ」
お言葉に甘えて囲炉裏のそばで正座すると、隣で料理する先生をのんびり眺めた。
先生は手際よく野菜の皮をむいて、食べやすい大きさに切っている。それを鍋へと放り込んでそろりとかき回した。雑炊を作っているようだ。鍋の周りには串に刺さった魚がジュージューと脂を滴らせて、その香ばしい匂いが辺りに漂う。
部屋の中を見回してみても、小さな箪笥が隅に置かれているくらいだった。土間には大きなツボがいくつかと、農作業に使う鍬なんかがある。大木先生の他に、だれかが生活している気配は感じられなかった。
「おひとりで住んでいるのですか」
「ああ。一人暮らしはなかなか快適だぞ? ラビちゃんやケロちゃんもいるし、新鮮な野菜だって採れる」
「悠々自適ですね。先生にぴったりかも」
鍋の様子を見ていた先生がお椀を取ると、たっぷりと雑炊をよそってくれる。「さあ食べろ」と言わんばかりに渡されて両手で受け取った。
いただきますと呟いてから口へと運ぶ。一晩中、少しの失敗も許されない忍務についていたからか、雑炊の優しい味が身体中に染み渡る。柔らかくなった大根に青葉。ほかにも根菜が混じって咀嚼するたびに色々な食感が味わえる。
「先生、とっても美味しいです……!」
「だろう? 遠慮せずにたらふく食え」
「はいっ」
「そうだ、わしが作ったラッキョ漬けもうまいぞ」
「先生は漬物も作るんですね!?」
「野村のヤツに食わしてだな……!」
「あっ、魚も焼けたみたい」
「いかんいかん、焦げるところだった」
野村先生を思い出し、険しい顔つきになった大木先生に慌てて話題をそらす。焼き魚にかじりつくと、こちらもほほが落ちそうなほど美味しい。先生がこんなに料理上手だなんて思ってもみなかった。
野菜のこと、村おこしのこと。
先生は私の忍務に触れずにいた。意図的だとしたらその振る舞いはとても自然で、やっぱり一流の忍者を感じさせた。
「ごちそうさまでした」
お腹がはち切れんばかりにご飯をいただいてしまった。お椀の中身が無くなると、先生は「もっと食べろ!」とすかさずお代わりを入れてくるのだ。
大木先生の家で朝ごはんを食べるなんて、数刻前まで全く予想していなかったのに。
この機会を逃したら、ずっと思っていたことを伝えられないかもしれない。チラッと先生を見れば、上機嫌でお茶をすすっている。怖いけれど、逃げることはしたくなかった。深呼吸で気持ちを整え、きちんと正座し直す。
「……あの、大木先生」
「ん、なんだ」
「私、先生に謝らなきゃいけないことがあるんです」
あぐらをかいた先生はぽかんとした顔でこちらを見つめる。私が何を言うのか、先生はきっと分かっているはずだ。なんで叱ってくれないんだろう。どうして……?
声が震える。
胸の中が重くなって、喉がつかえたみたいに苦しい。食事のときの朗らかな雰囲気を壊してしまうけれど、今しかないと思った。
気まずくなって、避けられて、もう二度と先生に会えなくなるかもしれない。そんな淋しさも押し込め、意を決して口を開く。
「私が忍者のバイトに失敗したから……。そのせいで先生が学園をお辞めになったことです」
「……はぁ? どうした、急に」
「先生、ごめんなさい! ずっと、ずっと、申し訳なくて、先生に謝らずに卒業してしまって……!」
「ちょっと、待て! お前のせいでわしが教師を辞めたと、そう思っているのか!?」
膝の上で固く握ったこぶしを、さらに握りしめた。手のひらに爪が突き刺さって鋭い痛みが走る。けれど、その痛みがこぼれ落ちそうな涙を抑えてくれた。それでも視界がぼやけて、先生の戸惑う姿がおぼろげになる。
だめだ、ここで泣くなんて。
とっさに俯くと、堰を切ったように熱いしずくがポロポロと落ちていく。
私のせいに決まってるじゃないか。
この期に及んで、まだ本当のことを言ってくれない先生に悲しさが込み上げる。
「……大木先生、ごめんなさい。とんでもないことをしてしまったと反省しています。だから、だから……!」
「おい、名前。わしを見ろ!」
涙でぐしゃぐしゃになった顔を先生に向ける。着物の袖でまぶたを拭いても、涙は次から次へと流れ落ちる。嗚咽を漏らしながら、うわ言のように謝り続けた。
「お前はたいそうな勘違いをしている」
「……っ、」
正面からがしっと両肩を掴まれる。お互いの膝頭が触れそうな近さに、思わず息が止まった。
「か、勘違いって、どういうことです……?」
「いいか、よく聞け。わしが学園を去ったのは名前のせいではない。それは確かなことだ」
「本当、なのですか……?」
「ああ。だからもう泣くな」
そう言われても、涙は止まるどころか安堵でさらにこぼれ落ちていく。大木先生が教師を辞めたのは私の失敗が理由じゃなかったんだ。優しい嘘なんかではない、本当のことだと先生の様子から伝わる。
何年も、深く心に刺さっていたトゲが抜けて消えていく。たまらず手のひらで顔を覆い泣きじゃくった。
「っ、うぅ……おおき、せんせ……っ!」
私の肩を掴んでいた大きな手は、ためらいがちに背中へ回され優しく抱き締められる。しばらくの間、頭から背中を呼吸が落ち着くようにゆったりと撫でてくれた。
「少しは落ち着いたか?」
「……はい」
「まったく。綺麗なおなごになったと感心したんだが、泣き虫は変わらんな」
「……お恥ずかしいです」
「ははは! わしの前だけにするんだぞ、そんなに泣くのは」
大好きな先生にそんなことを言われたら、くのいちなのに気持ちを誤魔化せない。顔や耳がかあっと熱くなって、そのうち体温が急上昇していく。小さくうなずくと先生に頭を荒っぽく撫でられた。
「あの……先生。一つだけ聞きたいことが」
「今度はなんだ?」
「先生が学園を去った、本当の理由を知りたいのです」
「それはだな、野村雄三を倒すため――と言いたいところだが、お前がやっていた忍者のバイトに関係があるんだ」
「忍者のバイト……?」
先生は言葉を選びながら、声を低くして話しはじめた。先ほどまでの空気と一変して緊張感が漂う。
「なぜ、半人前のくのたまであるお前が、重要な忍務を任されたと思う? おかしいと思わないか」
「それは……」
私が街で悪者をやっつけたから……? それ以上深く考えたことはなかった。
先生の指摘はもっともで、痛いところを突いてくる。たしかに、忍たまに依頼するなんて変だ。背景まで思い至らなかった自分の未熟さが際立つ。私の言葉を待たずに先生が続けた。
「それほど、情勢が不安定で人手不足だったということだ」
「危険な状況だったと、いうことですか」
「うむ。多くの城を巻き込んで一触即発だったんだ。だから、学園や街から離れたところ――この杭瀬村に拠点が必要となった」
「だからって、なんで大木先生が!」
納得がいかなくて大声になる。
忍術の腕前も、教え方だって最高の先生だったのに。おかしな理由で学園を去ったと思われるているのも悔しい。先生たちは本当の理由をご存知だろうけど……。この村でひとり忍者を続けていると知ってどうにも辛かった。
「まあ、今はただの"農家"だがな」
「先生……! 教師をお辞めになっても、わたし、大木先生のこと、ずっと、ずっとお慕いして――」
……今でも好きなのです。
そう言いかけて言葉がつまる。
あちこちに視線が泳いでしまって、どうしていいか分からない。先生も何も言わないから、時が止まったみたいに二人して固まっている。
「大木雅之助さーん! お届け物です!」
外から大声が響いた。馬借のお兄さんだろうか。居心地の悪さが断ち切られ、心の中で、助かった……と安堵する。
「おや、何が届いたんだ?」
先生はおもむろに立ち上がると、戸口の方へと歩いて行った。なんであんなこと言っちゃったんだろう。勢いに任せて"好きです"なんて自分勝手に伝えたら、先生を困らせてしまうのに。
ぐるぐる考えていると先生が戻ってきた。その手には文が握られている。
「参ったなぁ」
「悪い知らせですか?」
「いや、そういうわけではないんだ。悪くはないが……困った」
珍しく、先生は歯切れ悪くぶつぶつ言っている。文にさっと目を通したかと思えば、箪笥の引出しを開けてクシャっと中に突っ込んだ。
身を乗り出して覗いてみるとほかにも文が詰め込まれている。男の人だし片付けは苦手なのかな?なんて呑気に眺めていたら。書かれた二文字に心臓が止まる。雷に打たれたような衝撃が走った。
えんだん……?
「……っ、え、縁談!?」
目をぱちぱちさせ、先生と文を交互にを見つめた。血の気が引くとはこういうことなんだ。全身から体温がなくなって指先がわずかに震える。
「わしが独り身だからと、杭瀬村の長老なんかが世話を焼いてな」
「あの文すべてですか……?」
「ああ。いい娘たちだが断るのも一苦労だ」
「お嫁さん、もらわないんですね」
問いかけのような、独り言のような。
キッパリと「嫁はいらん!」と言われたら立ち直れそうにない。だけど、いっそのこと言い切って欲しい気もする……。
先生は苦笑いで箪笥の引出しを閉めた。それから私のそばまで来ると、座り込んで真剣な顔つきになる。
真っ直ぐな瞳に見つめられて、まるで囚われたみたいに動けない。
「わしにもな、忘れられないヤツがいるんだ」
忘れられない人。
それが私のことだったらどんなに幸せだろう。勘違いしそうな口ぶりで、先生は……。
「そういうお前も、嫁にいかないのか〜?」
「っ、わ、私は……! 一人前の忍びになったらお嫁にいきますから!」
「よーし、分かった。それまでわしが待っててやろう」
「え……!?」
私が驚いて目を丸くすると、それが面白いのか先生はくくくと笑いを噛み殺した。私にとっては全然面白くない。好きなのに、好きだからこそ、そんな先生をなじりたくなる。先生は「もう十分、一人前だと思うがなぁ」なんていつもの調子でのたまうのだ。
「大木先生! ご馳走してくださり、ありがとうございました」
これ以上は私の心臓がもたない。すくっと立ち上がり土間へと降りていく。
想定外の再会、初めて知る学園を去った本当の理由、それに思わせぶりな先生。頭の中はぐちゃぐちゃでめまいがする。わらじを履くと花がつまったカゴを背負った。先生も草履をひっかけ戸口まで出てきてくれた。
「また杭瀬村に来い。うまい飯を食わしてやるぞ」
「はいっ、嬉しいです」
「畑仕事は手伝ってもらうがな」
「もちろんですよ、先生」
穏やかなやり取りのなか、戸口にもたれた先生が何かを思い出したように大声を出した。
「あ、そうだ! この前、シナ先生とお前のことを話していたんだが」
「シナ先生と……? 学園にもよく行かれるのですか?」
「あぁ。ラッキョ漬けや野菜を届けにいくから」
「なるほど、それでですか」
「名前、卒業してからあまり学園に顔を出してないようだな? シナ先生が会いたがっていたぞ」
「すみません。忙しくて、つい……」
「城での働きぶりも聞きたいそうだ」
「もしかして、大木先生はご存知なのですか? 私の仕事」
「気になってな、こっそりシナ先生に聞いたんだ」
「え〜っ!?」
目を細めて照れくさそうに頭をかく先生。私はそんな姿にびっくりして間の抜けた声が出てしまった。好きな人に気にかけてもらって、嬉しくないわけない。
「今度シナ先生に会いにいってきます!」
「きっと喜ぶだろう」
軽く頭を下げてから先生に別れを告げる。人懐っこい笑顔の先生に見送られながら、少し歩くとケロちゃんやラビちゃんが寄ってきた。優しく撫でつつ後ろを振り返る。
「また来まーす!」
大きく手を振ってみれば、先生も嬉しそうに応えてくれる。淡く甘い気持ちを抱えて、城へと急ぐのだった。
城主から任された忍務を終え、敵の城から帰る道すがら。商人に変装しているから、頭には手拭いをかぶり少し汚れた着物姿だ。背には大きなカゴを背負って、その中には売り物に見せかけた花がつまっている。
初めて通る村の、初めて見る景色。
道端に並ぶ木々を見上げると、陽の光が直に瞳へ届き思わず目を細めた。
仕事終わりの、このひと時が好きだった。闇夜に暗躍して、日中は何食わぬ顔で過ごす。憧れた忍者そのものを、まさに自分がやっている。このあと、忍務の報告書を作らなきゃいけないけれど……。今だけは、解放感を目いっぱい味わってもバチは当たらないはずだ。
足裏に感じる小石が、歩くたびジャリッと小さな音を立てる。小気味よさに気持ちまで浮き立って、自然と口角が上がる。すれ違う行商人に軽くあいさつしちゃって、なんて素敵な朝だろう。そう思いながら遠くにそびえる山々を眺めた。
城仕えの忍者になって数年たった。だからもう、仕事は慣れっこだ。ときどき大きな案件はあるけれど、たいていは街での調査や姫の護衛をしていた。
ところが、今回の忍務は珍しく危険なものだった。敵の焔硝蔵に忍び込み、火薬に水をかけたり火縄銃に泥をつめたり――。物理的に武器を使用不能にすること。そして相手の戦闘意欲を削ぐことが目的だった。
無事にやり遂げた満足感のあとは、とてつもない疲労感が押し寄せる。
「お腹すいた……」
ぐーっと大きな轟音がお腹の中で鳴り響く。ぱっと腹部に手をやり、その音を押さえ込む。それでも空腹は消えてはくれない。
「花じゃなくて、野菜を背負っておけばよかったな」
そう、ひとりごとを呟いてチラッとカゴの中身を振り返る。すると視界の端に小さな切り株が飛び込んできた。歩いていた時は見過ごしていたみたいだ。少し休むのに調度いい。
「ふぅ、」
道端にある切り株に腰掛けると大きく伸びをした。それから、だらんと身体から力が抜けて小さく丸まるように座る。手で顔をおおって目をつぶると、このまま眠ってしまいそうだ。
一緒に忍務にあたった仲間は城に戻ったかな……? こんなところで油を売っていてはダメなんだけど――
「おい、そこのお前。大丈夫か?」
男の声がして顔を上げる。誰なのか、私に向かっての言葉なのか分からないけれど、なぜか懐かしい感じがする。
「具合でも悪いのか?」
「……?」
「どこんじょーだ!」
「……えっ!?」
泥で汚れた赤と水色の着物姿。それは初めて見るも、茶色の長い髪やヒゲ剃りの傷跡は恋焦がれていた先生そのものだ。
それに、ど根性って……! 突然の再会に心臓が飛び出そうなくらいドキドキする。気持ちを落ち着かせようと胸元を押さえた。
「も、もしかして、大木先生、ですか……?」
「先生だと……? なぜそれを――」
先生はきょとんとした顔をしたあと、すぐに合点がいったと言うように大声を出した。
「あ〜っ! お前は名前だな!?」
「そうですっ、覚えていてくださって嬉しいです……! その節はお世話になりました」
「見ない間に変わったなぁ。それにしても、なぜ朝早くからこんな所にいるんだ? 道端でうずくまるとはただ事ではないぞ」
「すみません……! じつは忍務を終えたところで」
意味深に言いかけたところで、ググーッと再びお腹がなる。誤魔化すように笑うと、大木先生は私が怪我や病気じゃないと分かったのか「ついて来い」と小さな藁葺き屋根をあごで指した。
「少し歩けばわしの家だ。うまい飯を食わしてやろう」
言われるまま、先生の後ろを小走りで着いていく。
広い背中に背負われたカゴにはたくさんの野菜が揺れている。大根は立派な大きさで、みずみずしい葉が美味しそうだ。先生の汚れた手や足を見るに、今まさに収穫していたのかもしれない。学園を去ってから、先生は杭瀬村にいたのか……とぼんやり考える。
シナ先生が言っていた"畑をやっている"というのは本当だったんだ。一流の忍びだった大木先生が、忍者も先生も辞めてしまった。その事実に胸がチクチクと痛む。
「ちゃんと着いてきてるか?」
「……っ、はい!」
「よーし」
大木先生が振り返る。私がすぐ後ろにいると分かると、満足そうな顔でさらに大股で進んでいく。急いで隣に並ぶと背の高い先生を見上げた。
「鉢巻きの色、白に変えたんですね」
「ああ。似合ってるだろう?」
「はい、とっても」
犬歯をのぞかせ、いたずらっぽく笑う先生。それは教師時代と何も変わらない。その笑顔が嬉しいけれど、先生は私に怒っていないのかという不安が押し寄せる。まずは謝らなければならないこと、それから聞きたいことが山ほどある。
大木先生はそんな私の心のうちを知ってか知らずか、育てている野菜の話を楽しそうに聞かせてくれた。
*
先生に連れられたどり着いた、こぢんまりとした簡素なお家。小さな井戸が近くにあって、辺りは先生が耕した畑が広がっている。キョロキョロしていると、白いうさぎが足元にじゃれついてきた。
「わぁっ、可愛い!」
「わしが飼っているうさぎだ。ラビちゃんという」
「ラビちゃん。よーしよし、いい子だね」
しゃがんでふわふわの体に触れる。指に感じる柔らかな毛並みが滑らかで心地よい。あの大木先生がうさぎを飼っているなんて。それに、ラビちゃんという名前にもびっくりだ。先生を見やると、どうにもその姿に似合わずクスッと吹き出した。
「わしの顔を見て笑うとはどういうことだ?」
「え、あっ、すみません」
「おーい、ケロちゃーん!」
慌てて謝るも先生は白いヤギに向かって呼び掛けている。今度はケロちゃんだって……!? 教師時代には見られなかった、新たな一面を発見してしまったようでなんとも妙な感じだ。こんなに可愛い感性があったのか……!と不思議と嬉しくなる。
「こいつもわしのペットだ。なんでも食べちゃうから気をつけろよ」
「け、ケロちゃん!? た、食べないで〜!」
「おいケロちゃん! 着物は食べ物じゃないぞ!」
大木先生が注意したそばから、ケロちゃんに着物の裾をもぐもぐと食まれる。先生がケロちゃんを引き離してくれて、ひとまず助かった。困った顔で「イタズラ好きなんだ」とこぼす先生が、これまたおかしくて声を出して笑う。
「着物は破れてないか?」
「大丈夫です。ね、ケロちゃん?」
「メェ〜」
「それならいいが……」
着物はべちゃべちゃだけど、幸いにも無事だった。ケロちゃんの頭を撫でてから、ようやく先生のお家へお邪魔する。
「朝飯の支度をするから座っていろ」
お言葉に甘えて囲炉裏のそばで正座すると、隣で料理する先生をのんびり眺めた。
先生は手際よく野菜の皮をむいて、食べやすい大きさに切っている。それを鍋へと放り込んでそろりとかき回した。雑炊を作っているようだ。鍋の周りには串に刺さった魚がジュージューと脂を滴らせて、その香ばしい匂いが辺りに漂う。
部屋の中を見回してみても、小さな箪笥が隅に置かれているくらいだった。土間には大きなツボがいくつかと、農作業に使う鍬なんかがある。大木先生の他に、だれかが生活している気配は感じられなかった。
「おひとりで住んでいるのですか」
「ああ。一人暮らしはなかなか快適だぞ? ラビちゃんやケロちゃんもいるし、新鮮な野菜だって採れる」
「悠々自適ですね。先生にぴったりかも」
鍋の様子を見ていた先生がお椀を取ると、たっぷりと雑炊をよそってくれる。「さあ食べろ」と言わんばかりに渡されて両手で受け取った。
いただきますと呟いてから口へと運ぶ。一晩中、少しの失敗も許されない忍務についていたからか、雑炊の優しい味が身体中に染み渡る。柔らかくなった大根に青葉。ほかにも根菜が混じって咀嚼するたびに色々な食感が味わえる。
「先生、とっても美味しいです……!」
「だろう? 遠慮せずにたらふく食え」
「はいっ」
「そうだ、わしが作ったラッキョ漬けもうまいぞ」
「先生は漬物も作るんですね!?」
「野村のヤツに食わしてだな……!」
「あっ、魚も焼けたみたい」
「いかんいかん、焦げるところだった」
野村先生を思い出し、険しい顔つきになった大木先生に慌てて話題をそらす。焼き魚にかじりつくと、こちらもほほが落ちそうなほど美味しい。先生がこんなに料理上手だなんて思ってもみなかった。
野菜のこと、村おこしのこと。
先生は私の忍務に触れずにいた。意図的だとしたらその振る舞いはとても自然で、やっぱり一流の忍者を感じさせた。
「ごちそうさまでした」
お腹がはち切れんばかりにご飯をいただいてしまった。お椀の中身が無くなると、先生は「もっと食べろ!」とすかさずお代わりを入れてくるのだ。
大木先生の家で朝ごはんを食べるなんて、数刻前まで全く予想していなかったのに。
この機会を逃したら、ずっと思っていたことを伝えられないかもしれない。チラッと先生を見れば、上機嫌でお茶をすすっている。怖いけれど、逃げることはしたくなかった。深呼吸で気持ちを整え、きちんと正座し直す。
「……あの、大木先生」
「ん、なんだ」
「私、先生に謝らなきゃいけないことがあるんです」
あぐらをかいた先生はぽかんとした顔でこちらを見つめる。私が何を言うのか、先生はきっと分かっているはずだ。なんで叱ってくれないんだろう。どうして……?
声が震える。
胸の中が重くなって、喉がつかえたみたいに苦しい。食事のときの朗らかな雰囲気を壊してしまうけれど、今しかないと思った。
気まずくなって、避けられて、もう二度と先生に会えなくなるかもしれない。そんな淋しさも押し込め、意を決して口を開く。
「私が忍者のバイトに失敗したから……。そのせいで先生が学園をお辞めになったことです」
「……はぁ? どうした、急に」
「先生、ごめんなさい! ずっと、ずっと、申し訳なくて、先生に謝らずに卒業してしまって……!」
「ちょっと、待て! お前のせいでわしが教師を辞めたと、そう思っているのか!?」
膝の上で固く握ったこぶしを、さらに握りしめた。手のひらに爪が突き刺さって鋭い痛みが走る。けれど、その痛みがこぼれ落ちそうな涙を抑えてくれた。それでも視界がぼやけて、先生の戸惑う姿がおぼろげになる。
だめだ、ここで泣くなんて。
とっさに俯くと、堰を切ったように熱いしずくがポロポロと落ちていく。
私のせいに決まってるじゃないか。
この期に及んで、まだ本当のことを言ってくれない先生に悲しさが込み上げる。
「……大木先生、ごめんなさい。とんでもないことをしてしまったと反省しています。だから、だから……!」
「おい、名前。わしを見ろ!」
涙でぐしゃぐしゃになった顔を先生に向ける。着物の袖でまぶたを拭いても、涙は次から次へと流れ落ちる。嗚咽を漏らしながら、うわ言のように謝り続けた。
「お前はたいそうな勘違いをしている」
「……っ、」
正面からがしっと両肩を掴まれる。お互いの膝頭が触れそうな近さに、思わず息が止まった。
「か、勘違いって、どういうことです……?」
「いいか、よく聞け。わしが学園を去ったのは名前のせいではない。それは確かなことだ」
「本当、なのですか……?」
「ああ。だからもう泣くな」
そう言われても、涙は止まるどころか安堵でさらにこぼれ落ちていく。大木先生が教師を辞めたのは私の失敗が理由じゃなかったんだ。優しい嘘なんかではない、本当のことだと先生の様子から伝わる。
何年も、深く心に刺さっていたトゲが抜けて消えていく。たまらず手のひらで顔を覆い泣きじゃくった。
「っ、うぅ……おおき、せんせ……っ!」
私の肩を掴んでいた大きな手は、ためらいがちに背中へ回され優しく抱き締められる。しばらくの間、頭から背中を呼吸が落ち着くようにゆったりと撫でてくれた。
「少しは落ち着いたか?」
「……はい」
「まったく。綺麗なおなごになったと感心したんだが、泣き虫は変わらんな」
「……お恥ずかしいです」
「ははは! わしの前だけにするんだぞ、そんなに泣くのは」
大好きな先生にそんなことを言われたら、くのいちなのに気持ちを誤魔化せない。顔や耳がかあっと熱くなって、そのうち体温が急上昇していく。小さくうなずくと先生に頭を荒っぽく撫でられた。
「あの……先生。一つだけ聞きたいことが」
「今度はなんだ?」
「先生が学園を去った、本当の理由を知りたいのです」
「それはだな、野村雄三を倒すため――と言いたいところだが、お前がやっていた忍者のバイトに関係があるんだ」
「忍者のバイト……?」
先生は言葉を選びながら、声を低くして話しはじめた。先ほどまでの空気と一変して緊張感が漂う。
「なぜ、半人前のくのたまであるお前が、重要な忍務を任されたと思う? おかしいと思わないか」
「それは……」
私が街で悪者をやっつけたから……? それ以上深く考えたことはなかった。
先生の指摘はもっともで、痛いところを突いてくる。たしかに、忍たまに依頼するなんて変だ。背景まで思い至らなかった自分の未熟さが際立つ。私の言葉を待たずに先生が続けた。
「それほど、情勢が不安定で人手不足だったということだ」
「危険な状況だったと、いうことですか」
「うむ。多くの城を巻き込んで一触即発だったんだ。だから、学園や街から離れたところ――この杭瀬村に拠点が必要となった」
「だからって、なんで大木先生が!」
納得がいかなくて大声になる。
忍術の腕前も、教え方だって最高の先生だったのに。おかしな理由で学園を去ったと思われるているのも悔しい。先生たちは本当の理由をご存知だろうけど……。この村でひとり忍者を続けていると知ってどうにも辛かった。
「まあ、今はただの"農家"だがな」
「先生……! 教師をお辞めになっても、わたし、大木先生のこと、ずっと、ずっとお慕いして――」
……今でも好きなのです。
そう言いかけて言葉がつまる。
あちこちに視線が泳いでしまって、どうしていいか分からない。先生も何も言わないから、時が止まったみたいに二人して固まっている。
「大木雅之助さーん! お届け物です!」
外から大声が響いた。馬借のお兄さんだろうか。居心地の悪さが断ち切られ、心の中で、助かった……と安堵する。
「おや、何が届いたんだ?」
先生はおもむろに立ち上がると、戸口の方へと歩いて行った。なんであんなこと言っちゃったんだろう。勢いに任せて"好きです"なんて自分勝手に伝えたら、先生を困らせてしまうのに。
ぐるぐる考えていると先生が戻ってきた。その手には文が握られている。
「参ったなぁ」
「悪い知らせですか?」
「いや、そういうわけではないんだ。悪くはないが……困った」
珍しく、先生は歯切れ悪くぶつぶつ言っている。文にさっと目を通したかと思えば、箪笥の引出しを開けてクシャっと中に突っ込んだ。
身を乗り出して覗いてみるとほかにも文が詰め込まれている。男の人だし片付けは苦手なのかな?なんて呑気に眺めていたら。書かれた二文字に心臓が止まる。雷に打たれたような衝撃が走った。
えんだん……?
「……っ、え、縁談!?」
目をぱちぱちさせ、先生と文を交互にを見つめた。血の気が引くとはこういうことなんだ。全身から体温がなくなって指先がわずかに震える。
「わしが独り身だからと、杭瀬村の長老なんかが世話を焼いてな」
「あの文すべてですか……?」
「ああ。いい娘たちだが断るのも一苦労だ」
「お嫁さん、もらわないんですね」
問いかけのような、独り言のような。
キッパリと「嫁はいらん!」と言われたら立ち直れそうにない。だけど、いっそのこと言い切って欲しい気もする……。
先生は苦笑いで箪笥の引出しを閉めた。それから私のそばまで来ると、座り込んで真剣な顔つきになる。
真っ直ぐな瞳に見つめられて、まるで囚われたみたいに動けない。
「わしにもな、忘れられないヤツがいるんだ」
忘れられない人。
それが私のことだったらどんなに幸せだろう。勘違いしそうな口ぶりで、先生は……。
「そういうお前も、嫁にいかないのか〜?」
「っ、わ、私は……! 一人前の忍びになったらお嫁にいきますから!」
「よーし、分かった。それまでわしが待っててやろう」
「え……!?」
私が驚いて目を丸くすると、それが面白いのか先生はくくくと笑いを噛み殺した。私にとっては全然面白くない。好きなのに、好きだからこそ、そんな先生をなじりたくなる。先生は「もう十分、一人前だと思うがなぁ」なんていつもの調子でのたまうのだ。
「大木先生! ご馳走してくださり、ありがとうございました」
これ以上は私の心臓がもたない。すくっと立ち上がり土間へと降りていく。
想定外の再会、初めて知る学園を去った本当の理由、それに思わせぶりな先生。頭の中はぐちゃぐちゃでめまいがする。わらじを履くと花がつまったカゴを背負った。先生も草履をひっかけ戸口まで出てきてくれた。
「また杭瀬村に来い。うまい飯を食わしてやるぞ」
「はいっ、嬉しいです」
「畑仕事は手伝ってもらうがな」
「もちろんですよ、先生」
穏やかなやり取りのなか、戸口にもたれた先生が何かを思い出したように大声を出した。
「あ、そうだ! この前、シナ先生とお前のことを話していたんだが」
「シナ先生と……? 学園にもよく行かれるのですか?」
「あぁ。ラッキョ漬けや野菜を届けにいくから」
「なるほど、それでですか」
「名前、卒業してからあまり学園に顔を出してないようだな? シナ先生が会いたがっていたぞ」
「すみません。忙しくて、つい……」
「城での働きぶりも聞きたいそうだ」
「もしかして、大木先生はご存知なのですか? 私の仕事」
「気になってな、こっそりシナ先生に聞いたんだ」
「え〜っ!?」
目を細めて照れくさそうに頭をかく先生。私はそんな姿にびっくりして間の抜けた声が出てしまった。好きな人に気にかけてもらって、嬉しくないわけない。
「今度シナ先生に会いにいってきます!」
「きっと喜ぶだろう」
軽く頭を下げてから先生に別れを告げる。人懐っこい笑顔の先生に見送られながら、少し歩くとケロちゃんやラビちゃんが寄ってきた。優しく撫でつつ後ろを振り返る。
「また来まーす!」
大きく手を振ってみれば、先生も嬉しそうに応えてくれる。淡く甘い気持ちを抱えて、城へと急ぐのだった。