第51話 練りもの逃避行
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「小松田くーん! 手分けしてちり紙の補充しよっ」
腕いっぱいに抱えたちり紙を落とさないよう、あごを使って押さえながら、倉庫の戸をひじで閉める。
「私は校舎へ向かうね」
「僕は忍たま長屋から始めます!」
「終わったら倉庫の整理しましょ」
「ひぇ〜っ。今日は忙しいなあ」
困り顔の小松田くんを励まし気合を入れる。正式に事務員として採用され、やる気に満ちあふれていた。もう、あいまいな存在ではないんだ。そう思うと嬉しくて仕方がない。はずむ気持ちをおさえ小走りで校舎へ向かう。
広い敷地を行ったりきたり。身体を掠める風は冷たさが和らぎ、春の訪れを感じさせる。学園を囲む土塀のそばには、草花が小さく揺れていた。
駆け回り補充しつつ、先生方に出会うと少しだけ言葉を交わす。いつも一年は組にイヤミを言う安藤先生もにこやかに笑って、私の無事と採用を喜んでくれた。でもやっぱり、最後には「は組の世話を焼きながら、名前さんも大変になりますねえ」なんて言われて苦笑いするのだった。
ちり紙を補充し終わると、両手が空になりだいぶ楽になった。足取り軽く吉野先生の部屋へ向かっていく。授業中だからか廊下はしーんと静かで、事務室の障子を引く音が際立つ。
小松田くんはまだ戻っていないようで、部屋には吉野先生だけだった。先生は私に気がつくと手を止め、優しくほほ笑んでくれる。
「失礼します。ちり紙の補充が終わりましたので、倉庫の整理に向かいますね。それが終わったら、」
「名前くん。よく働いてくれて助かるのですが、あまり無理しないように」
「仕事が楽しくて、つい。事務員として採用されたのも、先生のおかげですから。お返ししたくて」
「いえいえ。君の一所懸命さに他なりませんよ」
「先生っ、嬉しいです」
学園に来た当初。下手な字で先生を引きつらせてしまったことを思い出す。みんなの為になりたいと毎日必死で……。そんな私が、今では信頼してもらっている。少し照れ臭くなって、ぽりぽりとほほを掻いた。
「本当にそう思ってますから。これからも、よろしく頼みます。ああ、倉庫の整理ですがね……」
「吉野先生、名前さーんっ!」
ドタドタと足音が大きくなって、小松田くんが勢いよく中へ入ってきた。先生と二人、何事かと顔を見合わせる。
「小松田くん、どうしたの!?」
「……泥だらけじゃないですか。落とし穴にでも落ちたのでしょう?」
「そ、そうなんです〜! 遅くなってすみませんでした!」
ねずみ色の事務服が茶色く汚れて、木の枝まで絡みついていた。その姿を見た吉野先生は眉を下げため息をつく。
「小松田くんに倉庫の整理をお願いしようと思ったんですが……。明日、名前くんと二人でお願いします」
「へ、へ〜? ぼく、ですか?」
「あの、明日って……? 吉野先生、私はこの後でもかまわないですよ?」
「名前くん。実は、土井先生に君を貸して欲しいと言われてまして。プリント作成のようです」
「土井先生が……? そのあと、食堂のお手伝いをしても大丈夫でしょうか」
「もちろんです。食堂のおばちゃんも君を頼りにしていますから」
小松田くんがポカンとするなか、吉野先生は淡々と仕事の指示を出した。土井先生からそんな依頼があったなんて。お手伝いとはいえ、一緒に過ごせると思うと急にドキドキしてしまう。最近どうしたんだろう……?
「名前くん? ……大丈夫ですか」
「えっ、は、はい!」
「では明日、倉庫整理を二人にお願いします。分かりましたね、小松田くん。一人でやらないように」
吉野先生は、細い目でジロリと小松田くんを牽制するように見つめる。その様子に苦笑いしつつ、部屋を失礼するのだった。
*
――カタン
「土井先生、名前です。お待たせしましたっ」
職員室で授業の報告書を作成していると、小さな足音が近づいてきた。控えめに障子がひかれ、すき間から名前さんが見える。手元には、お盆にのせた湯呑みが二つ。
最近、彼女はとても楽しそうだ。はりきって仕事に取り組んでいる。それはとても喜ばしいことだけれど、無理をしていないか心配で心配で。
しかも、正式に雇われたからか他の先生方にも引っ張りだこで全然話ができない。忍たま達だってそうだ。名前さんが元気になったと聞くやいなや、みんなで取り囲むのだから。
――プリント作成で名前さんをお借りしたい。
仕事にかこつけ、吉野先生にお願いして……彼女を呼び寄せてしまった。
「あれ。山田先生はいらっしゃらないのですか」
「裏山の下見に行っているんだ。明日の実技の授業で、は組を連れて行くからね」
「実技、みんな怪我しないといいな」
「そうだね。さあ、こっちへおいで」
お茶を受け取ると名前さんの背中に手を添え、山田先生の文机へ座らせる。距離をつめると頬が染まった気がしたが、勘違いかもしれない。
作成するプリントをトントンと揃えて手渡す。名前さんは、手本をじっと見つめてから筆に墨をつけていた。口を尖らせ、真剣な表情で書き写す様子を片肘をついて眺める。可愛らしさに、クスッと漏らしてしまった。
「先生……?」
「っ、すまない。あまりに一所懸命に書くものだから、つい」
「あ、あのっ。……ずっと見られてると恥ずかしい、です」
「分かったよ。私は報告書を終わらせないとな」
名前さんの少し潤んだ瞳が責めるように私へと向けられる。慌てた姿が照れ隠しのようで、もっと見つめていたいのに。自身も筆をとり、すずりに毛先を浸す。
しばらく手を動かし、半紙が擦れる音がわずかに響くだけだ。名前さんは作り終わったプリントを床に並べ、また文机に向かう動きを繰り返していた。
同じ空間にふたりきり。
いつもの日常がこんなに幸せだなんて。もう、名前さんはどこへも行かない。行けないのだ。ずっと、ここに居てくれる。そわそわして、彼女をちらりと窺った。
気配を察したのか、揺れる瞳と視線がかち合う。
「そんなに私のこと、気になります?」
「……気になる」
「ちゃ、ちゃんと読める文字で書いてますから……! 不安にならないでくださいっ」
「不安になんか思っていないよ。そうじゃないんだ」
「え……?」
少し離れたところに正座する名前さんをしっかりと見つめる。筆をもつ小さな手は空で止まり、戸惑いと期待が入り混じったような表情をしていた。
「名前さん。また君とこうやって、一緒にいられることができて嬉しいんだ」
「せんせ……」
「私は、その、君と……」
――ガタン
「半助に名前くん。こりゃすごいプリントの量だな」
山田先生が勢いよく障子を開けて中へ入ってくる。床に並べ置かれた紙に驚きつつ、裏山での準備をこぼしていた。
名前さんはまぶたをパチリと瞬かせ、慌ててプリントを拾い集めていく。私も、何事もなかったかのように筆を走らせるフリをした。
「山田先生、お疲れ様でした! あの、お茶をお持ちしたのですが……冷えてしまったかもしれません」
「それはありがたい。ちょうどのどが渇いていたところでな。名前くん、助かるぞ」
山田先生はゴクゴクとお茶を飲み込むと、ふぅ、と息を吐いた。落ち着いたところで私も声をかける。
「裏山の準備はどうでした? 手伝えずにすみません」
「手こずったんだが何とかなった。いやぁ、あいつらは想定外の動きをするからな。道案内の向きを直したり、大きな岩をどかしたり……」
「ははは……目に浮かびますね」
山田先生の苦労がありありと伝わり、相づちをうちながら口の端が引きつる。
そしてまた、名前さんへの言葉が中途半端になってしまった。心の中でため息を連発する。
あのまま、二人きりだったら……?
勢いで名前さんに気持ちを伝えられただろうか。もし、彼女も同じ想いだったら……
「あのー、土井先生? 私、プリントの作成が終わりましたので食堂のお手伝いに行きますね!」
「あ、ああ。ありがとう、いってらっしゃい」
名前さんから紙の束を受けとると、おぼんを小脇に抱えた姿を目で追う。まぶしい笑顔とともに、ぺこりと頭をさげて食堂へ向かってしまった。
あぐらをかいた山田先生と、ぬるくなったお茶をすすっている。遠くから、こちらへ近づいてくる足音が聞こえ耳を澄ました。
――ドタドタドタ
「山田先生、土井先生〜っ!」
「なんだぁ? ずいぶん騒がしいじゃないか」
「きり丸、廊下は走るなと言ってるだろうが……!」
「すみませーん、って先生! あの、ちょっとお願いがありまして。あひゃあひゃ」
私服姿に大きなかごを背負ったきり丸がニヤニヤしている。後からやってきた乱太郎としんべヱも満面の笑みだ。
何なんだ、いったい。
嫌な予感しかないぞ……!
とは思いつつ、話を聞くため今度は三人を部屋へと招き入れるのだった。
*
「食堂のおばちゃんっ。夕飯作りのお手伝いに来ました!」
「あらぁ、名前ちゃんありがとう! ちょうど良かったわ。いまね、頼んでいた食材が届いたところなのよ。それがね……」
割烹着を身につけ調理場へ入っていく。事務仕事に追われ、食堂の手伝いは金楽寺の事件以来だった。久しぶりに料理ができるとあって一段と心が弾む。
一歩進むと、困り顔のおばちゃんが見える。勝手口には大量の箱が積み置かれていて、中をのぞくと茶色い物体がつめ込まれていた。
「こ、これは……」
「練り物、ケタを間違えて注文しちゃったのよ。私ったら、もういやだわ」
「間違えちゃうなんて珍しいですね!?」
「疲れてたのかしら……」
ふうと盛大なため息をもらし、ほほに手を当てている。いつものおばちゃんらしくない。どうしたんだろうと心配になってしまう。
「私が、なかなかお手伝いできなかったから、でしょうか……?」
「そうねえ、名前ちゃんにだいぶお願いしてたから。でも気にしないでちょうだい、私がボケっとしてたせいよ」
「また、いつも通りお手伝いします! 吉野先生も良いって言ってくれましたし」
肩を落とすおばちゃんの手を取り、元気に振る舞う。それに釣られたのか、おばちゃんの曇った顔が少しだけ明るさを取り戻した。
「そうね、またこれからもよろしくね」
「はいっ」
「じゃあ、さっそくだけど……」
「……?」
「練り物づくしメニューを作らなくちゃ!」
張り切るおばちゃんの言葉に耳を疑う。練り物づくしって……!? 土井先生、大丈夫だろうか。なにか食べられるものをこっそり作ってあげなきゃ。
「名前ちゃんも早く」なんて急かされて、私も腕まくりするのだった。
――食堂から美味しそうな匂いが漂う。空はぼんやり赤く染まり、遠くの藍色に飲み込まれていく。
もうじき、お腹をすかせた忍たまや先生方がやって来るころ。食堂のテーブルで今夜のメニューを書き、入り口のあたりにペタリと貼り付けた。
A定食はカレーで、B定食はオムライス。
見た目は何も問題ない。けれど、メインから小鉢まで全てに練り物入りなのだ。
大量に消費しなきゃいけないから、仕方がないのは分かっている。それでも、土井先生のげっそりした顔が頭に浮かんで離れない。簡単なものでも、夜食で出したら喜んでくれるかな……?
おばちゃんが井戸へ向かったスキに、釜から熱々のご飯をすくい急いでおむすびを作る。熱さのせいで手のひらは真っ赤になって、思わず取り落としそうになる。どうにか形を整えると、最後に塩をふって竹の葉にくるんだ。
「あら、名前ちゃん何してるの?」
「お、おばちゃん! 何でもないですっ。あれ、忍たまのみんなが来たかも……!」
勝手口から戻ってきたおばちゃんが不思議そうな顔で見つめてくる。後ろ手に包みを隠すと、カウンターへ急いだ。
*
土井先生に今日のメニューを伝えようと思ったのに……。もう食堂で注文してしまった後だった。定食を前に、うなだれる先生を遠巻きに眺める。メイン料理はしんべヱくんが食べてくれたのか、綺麗になくなっていた。
メニュー表に、もっと大きく「※全て練り物入り!」と書いておけば良かった。
調理場にいるおばちゃんと、テーブルに縮こまる土井先生を交互に確認する。おばちゃんは厳しい表情でダメよ、と首を横に振っていた。
そのうち、忍たまで賑わっていた食堂も人がまばらになる。おばちゃんと一緒にうつわを片付け、ほとんど終わりそうだ。
なのに土井先生は、まだ一人残ってツンツンと小鉢を突いてはため息をついていた。そんな姿を見たら居ても立ってもいられず、勢いよく先生の元へ駆け出した。
「……あら、名前ちゃん!?」
「おばちゃん、ごめんなさい!」
先生の目の前でバシンとテーブルに手をつく。箸を奪い取ると、残された練り物の小鉢を口の中に突っ込む。ごくりと飲み込み、一気にお茶で流し込んだ。先生は目を大きくして固まって、微動だにしない。
そばにしゃがみ込んで、黒い袖口をきゅっと掴む。先生は驚いた顔のまま私を見つめた。
「……いっしょに、逃げましょ?」
「っ、名前さん、それは……!?」
「あらまぁ、ちょっと、二人とも〜!」
先生の大きな手を握りしめ思いきり引っ張ると、おばちゃんの声を振り切ってただひたすら走る。
入り口を突破して、長い廊下を二人で駆けていく。すれ違う忍たま達は不思議そうに首をひねっていた。それはそうだ、いつも「廊下を走るな!」と言っている教師が規則を破っているのだから。
私が先頭を切って走っていたのに。
中庭に出るころには先生に手を引かれて、位置が逆転する。
外は太陽は沈み、うっすらとその残光をのぞかせる。代わりに丸い月が濃紺の空に輝いていた。
息があがって足がもつれ始めると、攫われるように抱きかかえられた。落ちないよう先生の首へ腕を回し胸元にすり寄る。ほんのり焦げた煙と少し汗っぽい匂いに、心臓がドキンと跳ねた。
「……きゃっ、」
「そのまま私につかまって」
先生はあたりの様子をうかがい、半鐘へ続くはしごを登っていく。最上部へ着くと、そっと身体を開放された。
へりに背中を預けて座り込むと、並んで膝を抱える。すっぽり隠れているし誰にも見つからないはずだ。
「ここなら、もう大丈夫だ」
「ふぅ。心臓に悪いですね……!」
呼吸を整えながら、ふたりで顔を見合わせ小さく笑い合う。こんなこと初めてだ。いたずらがバレた子どもみたいなことをして……。
「よかったら、飲むかい?」
「ありがとうございます。わぁ、可愛いっ!」
「金楽寺の桜まつりで売るらしいんだ。市場調査とか言って、きり丸達から買わされてね」
土井先生がふところから竹筒を手渡してくる。それは桜の花びらが彫られていて、なんとも素敵だった。くるくると回しながら繊細な模様をじっと見つめる。一周してから、こくりとひと口いただく。先生にもすすめてみると一息に飲み干していた。
口元を荒っぽく拭う姿が男っぽくて目を奪われる。唇の端から伝う水がきらりと光って……。じっと見つめる視線を、あわてて竹筒へ向けた。
「これ、きり丸くんが作ったのですか……?」
「いや。アイツのことだ、きっと長次にでも頼んだのだろう」
「なるほどっ。そうかも知れませんね」
きり丸くんが長次くんに頼み込む姿や、黙々と模様を掘り進める寡黙な長次くんも、全て想像できてしまう。おかしくて笑い出しそうになるのをこらえ、膝をぎゅっとかかえ込んだ。
「桜まつりかぁ。前に約束しましたよね、面白い甘酒を作ったとき……。覚えてます?」
「もちろんだよ。落ち着いたら行こうって。君と、ふたりで」
「先生。……私は、ずっとここにいられます」
「そうだね。夏祭りも、その先も、名前さんと一緒に」
先生のかさついた手のひらがほほを包む。するりとあごに指先が添えられ、もう逃げられない。恥ずかしくてたまらないのに、先生を見つめるしか選択肢はなかった。
じわじわと距離が近づく。こげ茶の前髪からのぞく、柔らかな瞳に吸い込まれそうだ。
言葉なんかなくても、想いがつながる気がして……。胸が甘く締めつけられ苦しくなる。
「はんすけ、さん……」
「さっきは言えなかったけど、名前さん。私は、君と……」
……ぐぐーっ、
「す、すまない!」
「……お腹、空きましたよね」
「うう……。私としたことが、こんな時に……!」
「あっ、そうだ! おむすびを作ったんです。食堂に置いてきちゃいました」
困ったように眉を下げ、優しく笑う先生がいつもの先生で。ドキドキしたのも束の間、自然とほほが緩む。
ふたり、櫓の囲いに背を預けて座り直すと半鐘越しに夜空を眺めた。青みがかった闇に点々と星が瞬く。少しだけ、先生の肩に頭をのせてみた。
「……食堂に戻りましょうか」
「そうしよう。君の作ったおむすびも食べたいしね」
「その前に、おばちゃんに謝らなきゃです」
「ああ。ふたりで、ね」
何となくお互い顔を合わせて、ほほ笑み合う。すくっと立ち上がった先生に手を引かれ、支えられながらはしごを降りていく。手を繋ぎながら、今度は歩いて食堂へ向かうのだった。
(おまけ)
「「おばちゃん、ごめんなさい……!」」
「まったく。二人して逃げなくても良いじゃないの」
食堂から、ちょうどおばちゃんが出ていくところだった。名前さんと一緒に駆け寄って頭を下げる。けれど、おばちゃんの声色から柔らかさを感じ、とたんに拍子抜けしてしまった。カミナリが落とされると思っていたが、その心配はなさそうだ。
「まあ、私も練り物の注文間違えちゃったしねえ」
そう言って、バツが悪そうに笑いながら立ち去るおばちゃんをぼんやり眺める。名前さんも同じくぽかんとしていた。
*
しーんとした食堂で、名前さんとおむすびを頬張る。遠慮する彼女に「一緒に食べたいんだ」と無理やり一つ差し出して、我がままを聞いてもらったのだ。
「慌てて作ったから、塩むすびで……」
「とても美味しいよ、ありがとう」
「先生、幸せそうな顔してる」
「幸せだからなあ」
ほのかな塩味とお米の甘さにほっと心が癒される。柔らかく握られたおむすびから名前さんの温かさが伝わってニヤけてしまいそうだ。
「あ、そうそう。まだ練り物が余っているので……。しばらく頑張ってくださいね、半助さんっ」
「……っ!?」
いたずらっぽく首を傾げる名前さんに、のどを詰まらせそうになる。可愛らしい姿と正反対の、とんでもない発言にガクンと気持ちが沈んでいくのだった。
腕いっぱいに抱えたちり紙を落とさないよう、あごを使って押さえながら、倉庫の戸をひじで閉める。
「私は校舎へ向かうね」
「僕は忍たま長屋から始めます!」
「終わったら倉庫の整理しましょ」
「ひぇ〜っ。今日は忙しいなあ」
困り顔の小松田くんを励まし気合を入れる。正式に事務員として採用され、やる気に満ちあふれていた。もう、あいまいな存在ではないんだ。そう思うと嬉しくて仕方がない。はずむ気持ちをおさえ小走りで校舎へ向かう。
広い敷地を行ったりきたり。身体を掠める風は冷たさが和らぎ、春の訪れを感じさせる。学園を囲む土塀のそばには、草花が小さく揺れていた。
駆け回り補充しつつ、先生方に出会うと少しだけ言葉を交わす。いつも一年は組にイヤミを言う安藤先生もにこやかに笑って、私の無事と採用を喜んでくれた。でもやっぱり、最後には「は組の世話を焼きながら、名前さんも大変になりますねえ」なんて言われて苦笑いするのだった。
ちり紙を補充し終わると、両手が空になりだいぶ楽になった。足取り軽く吉野先生の部屋へ向かっていく。授業中だからか廊下はしーんと静かで、事務室の障子を引く音が際立つ。
小松田くんはまだ戻っていないようで、部屋には吉野先生だけだった。先生は私に気がつくと手を止め、優しくほほ笑んでくれる。
「失礼します。ちり紙の補充が終わりましたので、倉庫の整理に向かいますね。それが終わったら、」
「名前くん。よく働いてくれて助かるのですが、あまり無理しないように」
「仕事が楽しくて、つい。事務員として採用されたのも、先生のおかげですから。お返ししたくて」
「いえいえ。君の一所懸命さに他なりませんよ」
「先生っ、嬉しいです」
学園に来た当初。下手な字で先生を引きつらせてしまったことを思い出す。みんなの為になりたいと毎日必死で……。そんな私が、今では信頼してもらっている。少し照れ臭くなって、ぽりぽりとほほを掻いた。
「本当にそう思ってますから。これからも、よろしく頼みます。ああ、倉庫の整理ですがね……」
「吉野先生、名前さーんっ!」
ドタドタと足音が大きくなって、小松田くんが勢いよく中へ入ってきた。先生と二人、何事かと顔を見合わせる。
「小松田くん、どうしたの!?」
「……泥だらけじゃないですか。落とし穴にでも落ちたのでしょう?」
「そ、そうなんです〜! 遅くなってすみませんでした!」
ねずみ色の事務服が茶色く汚れて、木の枝まで絡みついていた。その姿を見た吉野先生は眉を下げため息をつく。
「小松田くんに倉庫の整理をお願いしようと思ったんですが……。明日、名前くんと二人でお願いします」
「へ、へ〜? ぼく、ですか?」
「あの、明日って……? 吉野先生、私はこの後でもかまわないですよ?」
「名前くん。実は、土井先生に君を貸して欲しいと言われてまして。プリント作成のようです」
「土井先生が……? そのあと、食堂のお手伝いをしても大丈夫でしょうか」
「もちろんです。食堂のおばちゃんも君を頼りにしていますから」
小松田くんがポカンとするなか、吉野先生は淡々と仕事の指示を出した。土井先生からそんな依頼があったなんて。お手伝いとはいえ、一緒に過ごせると思うと急にドキドキしてしまう。最近どうしたんだろう……?
「名前くん? ……大丈夫ですか」
「えっ、は、はい!」
「では明日、倉庫整理を二人にお願いします。分かりましたね、小松田くん。一人でやらないように」
吉野先生は、細い目でジロリと小松田くんを牽制するように見つめる。その様子に苦笑いしつつ、部屋を失礼するのだった。
*
――カタン
「土井先生、名前です。お待たせしましたっ」
職員室で授業の報告書を作成していると、小さな足音が近づいてきた。控えめに障子がひかれ、すき間から名前さんが見える。手元には、お盆にのせた湯呑みが二つ。
最近、彼女はとても楽しそうだ。はりきって仕事に取り組んでいる。それはとても喜ばしいことだけれど、無理をしていないか心配で心配で。
しかも、正式に雇われたからか他の先生方にも引っ張りだこで全然話ができない。忍たま達だってそうだ。名前さんが元気になったと聞くやいなや、みんなで取り囲むのだから。
――プリント作成で名前さんをお借りしたい。
仕事にかこつけ、吉野先生にお願いして……彼女を呼び寄せてしまった。
「あれ。山田先生はいらっしゃらないのですか」
「裏山の下見に行っているんだ。明日の実技の授業で、は組を連れて行くからね」
「実技、みんな怪我しないといいな」
「そうだね。さあ、こっちへおいで」
お茶を受け取ると名前さんの背中に手を添え、山田先生の文机へ座らせる。距離をつめると頬が染まった気がしたが、勘違いかもしれない。
作成するプリントをトントンと揃えて手渡す。名前さんは、手本をじっと見つめてから筆に墨をつけていた。口を尖らせ、真剣な表情で書き写す様子を片肘をついて眺める。可愛らしさに、クスッと漏らしてしまった。
「先生……?」
「っ、すまない。あまりに一所懸命に書くものだから、つい」
「あ、あのっ。……ずっと見られてると恥ずかしい、です」
「分かったよ。私は報告書を終わらせないとな」
名前さんの少し潤んだ瞳が責めるように私へと向けられる。慌てた姿が照れ隠しのようで、もっと見つめていたいのに。自身も筆をとり、すずりに毛先を浸す。
しばらく手を動かし、半紙が擦れる音がわずかに響くだけだ。名前さんは作り終わったプリントを床に並べ、また文机に向かう動きを繰り返していた。
同じ空間にふたりきり。
いつもの日常がこんなに幸せだなんて。もう、名前さんはどこへも行かない。行けないのだ。ずっと、ここに居てくれる。そわそわして、彼女をちらりと窺った。
気配を察したのか、揺れる瞳と視線がかち合う。
「そんなに私のこと、気になります?」
「……気になる」
「ちゃ、ちゃんと読める文字で書いてますから……! 不安にならないでくださいっ」
「不安になんか思っていないよ。そうじゃないんだ」
「え……?」
少し離れたところに正座する名前さんをしっかりと見つめる。筆をもつ小さな手は空で止まり、戸惑いと期待が入り混じったような表情をしていた。
「名前さん。また君とこうやって、一緒にいられることができて嬉しいんだ」
「せんせ……」
「私は、その、君と……」
――ガタン
「半助に名前くん。こりゃすごいプリントの量だな」
山田先生が勢いよく障子を開けて中へ入ってくる。床に並べ置かれた紙に驚きつつ、裏山での準備をこぼしていた。
名前さんはまぶたをパチリと瞬かせ、慌ててプリントを拾い集めていく。私も、何事もなかったかのように筆を走らせるフリをした。
「山田先生、お疲れ様でした! あの、お茶をお持ちしたのですが……冷えてしまったかもしれません」
「それはありがたい。ちょうどのどが渇いていたところでな。名前くん、助かるぞ」
山田先生はゴクゴクとお茶を飲み込むと、ふぅ、と息を吐いた。落ち着いたところで私も声をかける。
「裏山の準備はどうでした? 手伝えずにすみません」
「手こずったんだが何とかなった。いやぁ、あいつらは想定外の動きをするからな。道案内の向きを直したり、大きな岩をどかしたり……」
「ははは……目に浮かびますね」
山田先生の苦労がありありと伝わり、相づちをうちながら口の端が引きつる。
そしてまた、名前さんへの言葉が中途半端になってしまった。心の中でため息を連発する。
あのまま、二人きりだったら……?
勢いで名前さんに気持ちを伝えられただろうか。もし、彼女も同じ想いだったら……
「あのー、土井先生? 私、プリントの作成が終わりましたので食堂のお手伝いに行きますね!」
「あ、ああ。ありがとう、いってらっしゃい」
名前さんから紙の束を受けとると、おぼんを小脇に抱えた姿を目で追う。まぶしい笑顔とともに、ぺこりと頭をさげて食堂へ向かってしまった。
あぐらをかいた山田先生と、ぬるくなったお茶をすすっている。遠くから、こちらへ近づいてくる足音が聞こえ耳を澄ました。
――ドタドタドタ
「山田先生、土井先生〜っ!」
「なんだぁ? ずいぶん騒がしいじゃないか」
「きり丸、廊下は走るなと言ってるだろうが……!」
「すみませーん、って先生! あの、ちょっとお願いがありまして。あひゃあひゃ」
私服姿に大きなかごを背負ったきり丸がニヤニヤしている。後からやってきた乱太郎としんべヱも満面の笑みだ。
何なんだ、いったい。
嫌な予感しかないぞ……!
とは思いつつ、話を聞くため今度は三人を部屋へと招き入れるのだった。
*
「食堂のおばちゃんっ。夕飯作りのお手伝いに来ました!」
「あらぁ、名前ちゃんありがとう! ちょうど良かったわ。いまね、頼んでいた食材が届いたところなのよ。それがね……」
割烹着を身につけ調理場へ入っていく。事務仕事に追われ、食堂の手伝いは金楽寺の事件以来だった。久しぶりに料理ができるとあって一段と心が弾む。
一歩進むと、困り顔のおばちゃんが見える。勝手口には大量の箱が積み置かれていて、中をのぞくと茶色い物体がつめ込まれていた。
「こ、これは……」
「練り物、ケタを間違えて注文しちゃったのよ。私ったら、もういやだわ」
「間違えちゃうなんて珍しいですね!?」
「疲れてたのかしら……」
ふうと盛大なため息をもらし、ほほに手を当てている。いつものおばちゃんらしくない。どうしたんだろうと心配になってしまう。
「私が、なかなかお手伝いできなかったから、でしょうか……?」
「そうねえ、名前ちゃんにだいぶお願いしてたから。でも気にしないでちょうだい、私がボケっとしてたせいよ」
「また、いつも通りお手伝いします! 吉野先生も良いって言ってくれましたし」
肩を落とすおばちゃんの手を取り、元気に振る舞う。それに釣られたのか、おばちゃんの曇った顔が少しだけ明るさを取り戻した。
「そうね、またこれからもよろしくね」
「はいっ」
「じゃあ、さっそくだけど……」
「……?」
「練り物づくしメニューを作らなくちゃ!」
張り切るおばちゃんの言葉に耳を疑う。練り物づくしって……!? 土井先生、大丈夫だろうか。なにか食べられるものをこっそり作ってあげなきゃ。
「名前ちゃんも早く」なんて急かされて、私も腕まくりするのだった。
――食堂から美味しそうな匂いが漂う。空はぼんやり赤く染まり、遠くの藍色に飲み込まれていく。
もうじき、お腹をすかせた忍たまや先生方がやって来るころ。食堂のテーブルで今夜のメニューを書き、入り口のあたりにペタリと貼り付けた。
A定食はカレーで、B定食はオムライス。
見た目は何も問題ない。けれど、メインから小鉢まで全てに練り物入りなのだ。
大量に消費しなきゃいけないから、仕方がないのは分かっている。それでも、土井先生のげっそりした顔が頭に浮かんで離れない。簡単なものでも、夜食で出したら喜んでくれるかな……?
おばちゃんが井戸へ向かったスキに、釜から熱々のご飯をすくい急いでおむすびを作る。熱さのせいで手のひらは真っ赤になって、思わず取り落としそうになる。どうにか形を整えると、最後に塩をふって竹の葉にくるんだ。
「あら、名前ちゃん何してるの?」
「お、おばちゃん! 何でもないですっ。あれ、忍たまのみんなが来たかも……!」
勝手口から戻ってきたおばちゃんが不思議そうな顔で見つめてくる。後ろ手に包みを隠すと、カウンターへ急いだ。
*
土井先生に今日のメニューを伝えようと思ったのに……。もう食堂で注文してしまった後だった。定食を前に、うなだれる先生を遠巻きに眺める。メイン料理はしんべヱくんが食べてくれたのか、綺麗になくなっていた。
メニュー表に、もっと大きく「※全て練り物入り!」と書いておけば良かった。
調理場にいるおばちゃんと、テーブルに縮こまる土井先生を交互に確認する。おばちゃんは厳しい表情でダメよ、と首を横に振っていた。
そのうち、忍たまで賑わっていた食堂も人がまばらになる。おばちゃんと一緒にうつわを片付け、ほとんど終わりそうだ。
なのに土井先生は、まだ一人残ってツンツンと小鉢を突いてはため息をついていた。そんな姿を見たら居ても立ってもいられず、勢いよく先生の元へ駆け出した。
「……あら、名前ちゃん!?」
「おばちゃん、ごめんなさい!」
先生の目の前でバシンとテーブルに手をつく。箸を奪い取ると、残された練り物の小鉢を口の中に突っ込む。ごくりと飲み込み、一気にお茶で流し込んだ。先生は目を大きくして固まって、微動だにしない。
そばにしゃがみ込んで、黒い袖口をきゅっと掴む。先生は驚いた顔のまま私を見つめた。
「……いっしょに、逃げましょ?」
「っ、名前さん、それは……!?」
「あらまぁ、ちょっと、二人とも〜!」
先生の大きな手を握りしめ思いきり引っ張ると、おばちゃんの声を振り切ってただひたすら走る。
入り口を突破して、長い廊下を二人で駆けていく。すれ違う忍たま達は不思議そうに首をひねっていた。それはそうだ、いつも「廊下を走るな!」と言っている教師が規則を破っているのだから。
私が先頭を切って走っていたのに。
中庭に出るころには先生に手を引かれて、位置が逆転する。
外は太陽は沈み、うっすらとその残光をのぞかせる。代わりに丸い月が濃紺の空に輝いていた。
息があがって足がもつれ始めると、攫われるように抱きかかえられた。落ちないよう先生の首へ腕を回し胸元にすり寄る。ほんのり焦げた煙と少し汗っぽい匂いに、心臓がドキンと跳ねた。
「……きゃっ、」
「そのまま私につかまって」
先生はあたりの様子をうかがい、半鐘へ続くはしごを登っていく。最上部へ着くと、そっと身体を開放された。
へりに背中を預けて座り込むと、並んで膝を抱える。すっぽり隠れているし誰にも見つからないはずだ。
「ここなら、もう大丈夫だ」
「ふぅ。心臓に悪いですね……!」
呼吸を整えながら、ふたりで顔を見合わせ小さく笑い合う。こんなこと初めてだ。いたずらがバレた子どもみたいなことをして……。
「よかったら、飲むかい?」
「ありがとうございます。わぁ、可愛いっ!」
「金楽寺の桜まつりで売るらしいんだ。市場調査とか言って、きり丸達から買わされてね」
土井先生がふところから竹筒を手渡してくる。それは桜の花びらが彫られていて、なんとも素敵だった。くるくると回しながら繊細な模様をじっと見つめる。一周してから、こくりとひと口いただく。先生にもすすめてみると一息に飲み干していた。
口元を荒っぽく拭う姿が男っぽくて目を奪われる。唇の端から伝う水がきらりと光って……。じっと見つめる視線を、あわてて竹筒へ向けた。
「これ、きり丸くんが作ったのですか……?」
「いや。アイツのことだ、きっと長次にでも頼んだのだろう」
「なるほどっ。そうかも知れませんね」
きり丸くんが長次くんに頼み込む姿や、黙々と模様を掘り進める寡黙な長次くんも、全て想像できてしまう。おかしくて笑い出しそうになるのをこらえ、膝をぎゅっとかかえ込んだ。
「桜まつりかぁ。前に約束しましたよね、面白い甘酒を作ったとき……。覚えてます?」
「もちろんだよ。落ち着いたら行こうって。君と、ふたりで」
「先生。……私は、ずっとここにいられます」
「そうだね。夏祭りも、その先も、名前さんと一緒に」
先生のかさついた手のひらがほほを包む。するりとあごに指先が添えられ、もう逃げられない。恥ずかしくてたまらないのに、先生を見つめるしか選択肢はなかった。
じわじわと距離が近づく。こげ茶の前髪からのぞく、柔らかな瞳に吸い込まれそうだ。
言葉なんかなくても、想いがつながる気がして……。胸が甘く締めつけられ苦しくなる。
「はんすけ、さん……」
「さっきは言えなかったけど、名前さん。私は、君と……」
……ぐぐーっ、
「す、すまない!」
「……お腹、空きましたよね」
「うう……。私としたことが、こんな時に……!」
「あっ、そうだ! おむすびを作ったんです。食堂に置いてきちゃいました」
困ったように眉を下げ、優しく笑う先生がいつもの先生で。ドキドキしたのも束の間、自然とほほが緩む。
ふたり、櫓の囲いに背を預けて座り直すと半鐘越しに夜空を眺めた。青みがかった闇に点々と星が瞬く。少しだけ、先生の肩に頭をのせてみた。
「……食堂に戻りましょうか」
「そうしよう。君の作ったおむすびも食べたいしね」
「その前に、おばちゃんに謝らなきゃです」
「ああ。ふたりで、ね」
何となくお互い顔を合わせて、ほほ笑み合う。すくっと立ち上がった先生に手を引かれ、支えられながらはしごを降りていく。手を繋ぎながら、今度は歩いて食堂へ向かうのだった。
(おまけ)
「「おばちゃん、ごめんなさい……!」」
「まったく。二人して逃げなくても良いじゃないの」
食堂から、ちょうどおばちゃんが出ていくところだった。名前さんと一緒に駆け寄って頭を下げる。けれど、おばちゃんの声色から柔らかさを感じ、とたんに拍子抜けしてしまった。カミナリが落とされると思っていたが、その心配はなさそうだ。
「まあ、私も練り物の注文間違えちゃったしねえ」
そう言って、バツが悪そうに笑いながら立ち去るおばちゃんをぼんやり眺める。名前さんも同じくぽかんとしていた。
*
しーんとした食堂で、名前さんとおむすびを頬張る。遠慮する彼女に「一緒に食べたいんだ」と無理やり一つ差し出して、我がままを聞いてもらったのだ。
「慌てて作ったから、塩むすびで……」
「とても美味しいよ、ありがとう」
「先生、幸せそうな顔してる」
「幸せだからなあ」
ほのかな塩味とお米の甘さにほっと心が癒される。柔らかく握られたおむすびから名前さんの温かさが伝わってニヤけてしまいそうだ。
「あ、そうそう。まだ練り物が余っているので……。しばらく頑張ってくださいね、半助さんっ」
「……っ!?」
いたずらっぽく首を傾げる名前さんに、のどを詰まらせそうになる。可愛らしい姿と正反対の、とんでもない発言にガクンと気持ちが沈んでいくのだった。