七夕の夜は
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「まだ戻らんのか」
「雅之助さんも。一緒に星、見ましょうよ」
とっぷりと日が暮れて、外は月明かりもなく闇に包まれている。杭瀬村の夜は、蛙が鳴く声、それに草木が揺れる音だけが響く。
彼女は家の前の、井戸のあたりで長いこと夜空を見つめていた。よくもまあ、飽きないものだ。痺れを切らして開けっぱなしの戸口から声をかけるも、逆に外へと呼び出されてしまった。
床に着く支度を済ませ、あとは眠るだけというのに。学園でお手伝いをしている彼女とは、休みの日くらいしか一緒にいられない。せっかくだ、夜は二人で……という邪な思惑は見事に外れかけている。敷いた布団を横目に、はあ、とため息をついた。
「今いく、待ってろ」
「はやくはやくっ、」
草履をひっかけ、小さな炎だけの薄暗い室内から抜け出す。ザッ、ザと気だるげな足音を鳴らしながら彼女の元へと向かうと、先ほどからずっと空を見上げて何とも楽しそうだ。
「何がそんなに面白いんだ」
「だって、今日は七夕ですよ? 珍しく晴れましたし」
「それで、わしを放って夜空を眺めていたと言うわけか」
「放ってって……。今夜くらい、二人で星空を眺めるのもいいじゃないですか。ねっ?」
「ま、まあ、悪くはないが」
首を傾げながらニコッとほほ笑まれると、それだけで口を封じられたように言葉が出ない。分かってやっているのか、いないのか……。
細めた瞳が夜空の煌めきを拾いあげ、うるうる潤んでやけに色っぽい。視線を逸らせないでいると、彼女は再び空へと顔を向けた。
「あの、一番輝いている星が織姫と彦星かな。きれい……!」
「どれどれ、」
彼女が指差す方へ目を凝らしてみる。だんだんと闇に馴染んできたのか、大きく輝く星以外にも小さな光が現れた。雲ひとつない濃紺の空に、無数の輝きがあふれている。時折り吹き抜ける、湿った夏の風も今は心地よい。
「たしかに、星を見ると言うのもいいものだ。年に一度、会えてよかったな」
「ええ、ほんとにっ」
自分のことのように嬉しさを滲ませる様が可愛らしい。思わず、華奢な肩に手をまわし抱き寄せる。突然のことにピクリと驚くその反応さえ愛おしいのだ。
それだけでは我慢できず、彼女の小さな身体に手のひらを添わせていく。おなご特有の柔らかさを楽しむかのように、くびれた腰からすーっと滑らせ指先で胸もとに軽く触れる。
くすぐったそうに身をよじり、甘い声で嗜められても痛くも痒くもない。それどころか、星空のことなんて吹き飛んでしまうじゃないか。
「ん……ねぇ、だめですってば」
「すまんな、つい」
「わあっ、いま流れ星が見えました!」
「お、そうなのか」
「……もう!」
悪戯する手をきゅっと握られ動きが抑えられる。ほほを膨らませ、いよいよ本格的に怒らせてしまいそうだ。これはマズイと慌てて話題を変えた。
「もう戻らないか。あまり外にいると虫に食われるぞ」
「それって……。雅之助さんっていう虫でしょ?」
得意げな、わしを試すかのような視線で見つめられる。……いい度胸じゃないか。
それに応えるよう口の端を吊り上げた。
「うむ、その通りだ」
「きゃぁっ……!」
彼女を掬いあげ、横だきに抱えると否応なしに家へと歩いていく。バタバタと足を暴れさせ、最後の抵抗をしている姿さえ男を煽るようだ。
「落ちるぞ」
「っ、でも……! ああっ、草履が……」
ぽと、と小ぶりな草履が地面へと置き去りにされている。冗談だったとか、降ろしてくれだの、今さら何を言ってももう手遅れだ。
戸口をまたぐと、後ろ手で引き戸を閉める。邪魔者が入らないよう心張り棒を適当に置いて――
落ちないようにしがみつく彼女をゆっくりと布団に下ろした。
「お前の望み通り、悪い虫になってやる」
ニヤリと笑ってやると、彼女は恥じらいつつ睫毛を伏せるから堪らない。小さな身体をぎゅっと抱き締め、待ち望んだ温もりを存分に堪能するのだった。
「雅之助さんも。一緒に星、見ましょうよ」
とっぷりと日が暮れて、外は月明かりもなく闇に包まれている。杭瀬村の夜は、蛙が鳴く声、それに草木が揺れる音だけが響く。
彼女は家の前の、井戸のあたりで長いこと夜空を見つめていた。よくもまあ、飽きないものだ。痺れを切らして開けっぱなしの戸口から声をかけるも、逆に外へと呼び出されてしまった。
床に着く支度を済ませ、あとは眠るだけというのに。学園でお手伝いをしている彼女とは、休みの日くらいしか一緒にいられない。せっかくだ、夜は二人で……という邪な思惑は見事に外れかけている。敷いた布団を横目に、はあ、とため息をついた。
「今いく、待ってろ」
「はやくはやくっ、」
草履をひっかけ、小さな炎だけの薄暗い室内から抜け出す。ザッ、ザと気だるげな足音を鳴らしながら彼女の元へと向かうと、先ほどからずっと空を見上げて何とも楽しそうだ。
「何がそんなに面白いんだ」
「だって、今日は七夕ですよ? 珍しく晴れましたし」
「それで、わしを放って夜空を眺めていたと言うわけか」
「放ってって……。今夜くらい、二人で星空を眺めるのもいいじゃないですか。ねっ?」
「ま、まあ、悪くはないが」
首を傾げながらニコッとほほ笑まれると、それだけで口を封じられたように言葉が出ない。分かってやっているのか、いないのか……。
細めた瞳が夜空の煌めきを拾いあげ、うるうる潤んでやけに色っぽい。視線を逸らせないでいると、彼女は再び空へと顔を向けた。
「あの、一番輝いている星が織姫と彦星かな。きれい……!」
「どれどれ、」
彼女が指差す方へ目を凝らしてみる。だんだんと闇に馴染んできたのか、大きく輝く星以外にも小さな光が現れた。雲ひとつない濃紺の空に、無数の輝きがあふれている。時折り吹き抜ける、湿った夏の風も今は心地よい。
「たしかに、星を見ると言うのもいいものだ。年に一度、会えてよかったな」
「ええ、ほんとにっ」
自分のことのように嬉しさを滲ませる様が可愛らしい。思わず、華奢な肩に手をまわし抱き寄せる。突然のことにピクリと驚くその反応さえ愛おしいのだ。
それだけでは我慢できず、彼女の小さな身体に手のひらを添わせていく。おなご特有の柔らかさを楽しむかのように、くびれた腰からすーっと滑らせ指先で胸もとに軽く触れる。
くすぐったそうに身をよじり、甘い声で嗜められても痛くも痒くもない。それどころか、星空のことなんて吹き飛んでしまうじゃないか。
「ん……ねぇ、だめですってば」
「すまんな、つい」
「わあっ、いま流れ星が見えました!」
「お、そうなのか」
「……もう!」
悪戯する手をきゅっと握られ動きが抑えられる。ほほを膨らませ、いよいよ本格的に怒らせてしまいそうだ。これはマズイと慌てて話題を変えた。
「もう戻らないか。あまり外にいると虫に食われるぞ」
「それって……。雅之助さんっていう虫でしょ?」
得意げな、わしを試すかのような視線で見つめられる。……いい度胸じゃないか。
それに応えるよう口の端を吊り上げた。
「うむ、その通りだ」
「きゃぁっ……!」
彼女を掬いあげ、横だきに抱えると否応なしに家へと歩いていく。バタバタと足を暴れさせ、最後の抵抗をしている姿さえ男を煽るようだ。
「落ちるぞ」
「っ、でも……! ああっ、草履が……」
ぽと、と小ぶりな草履が地面へと置き去りにされている。冗談だったとか、降ろしてくれだの、今さら何を言ってももう手遅れだ。
戸口をまたぐと、後ろ手で引き戸を閉める。邪魔者が入らないよう心張り棒を適当に置いて――
落ちないようにしがみつく彼女をゆっくりと布団に下ろした。
「お前の望み通り、悪い虫になってやる」
ニヤリと笑ってやると、彼女は恥じらいつつ睫毛を伏せるから堪らない。小さな身体をぎゅっと抱き締め、待ち望んだ温もりを存分に堪能するのだった。
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