ねぇ。
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薬草の香り漂う医務室。
放課後の、開放感にあふれた忍たまたちの声が聞こえる。のんびりして手が止まりそうになるも、包帯をくるくる巻いて束にしていく。
新野先生と保健委員のみんなは、薬の買い出しで街に出かけていた。医務室の留守番を頼まれ今に至る。
それにしても、けが人や病人が来ることなく平和だ。それはとても良いことで、このまま何事もなく一日が終わったらいいな、なんてぼんやりする。
包帯を何本も巻いて――単純作業を続けるからか、だんだん眠気が襲ってくる。夢とうつつを行き交う感覚。意識がふわふわして、なぜか思い浮かぶのは大好きな先生の姿ばかり。
ボサボサの茶色い髪は太陽に当たるとキラッと輝く。それに凛々しい太い眉。白い鉢巻を風になびかせて、ニカっと少年みたいに笑う彼。はだけた胸元にドキドキして……って、それは今もだった。
でも、それだけじゃない。ラビちゃんやケロちゃんにデレデレで、自分の子どもみたいに心配しているところ。大ざっぱに見えるのに、雨の日も雪の日も野菜たちに世話を焼くところ。豪快で荒っぽいけれど、忍たまへの熱い指導はこちらも夢中になるくらいだ。次から次へと浮かんでくるけれど……。
先生にとって、私の好きなところってどこだろう?
「おい、ここにいたのか」
「……っ、お、大木先生!?」
ガラッと障子がひかれ、そこに現れたのはずっと頭に浮かべていた想い人だった。ニヤリとして、犬歯がのぞく口元。それに何かを企んだような、楽しそうな垂れ目にドキンとする。
「どこにいるかと思えば、気の抜けた顔で寝おって」
「そ、それは……! もう。気の抜けた顔ってひどいですよ」
「ははは、さぞいい夢でも見ていたんだろう」
図星で、あまりにも恥ずかしくて両ほほを手で隠した。だらしなく口を開けてはいなかったし、白目にもなってない。そんなに変な顔で寝ていたわけじゃないはず……! せっかく甘くて幸せな夢だったのに。大木先生と会えて嬉しいやら、からかわれて悔しいやら、眠気が一気に吹き飛んだ。
「先生こそ、元気そうですけど。なんで医務室に来たんです?」
「そりゃー、お前に会いにきたんだ」
「私に……!?」
「まさか、わしが野村に会いに行くわけないじゃろ」
「そうですね……!」
どこだー?って探し回ったのかな、私のこと。その姿を想像したらクスッと吹き出してしまった。先生が怪訝そうな顔をするから、「どうぞ、こちらに」なんて近くに座るよう促す。
先生はどかっと胡座をかくと、膝にほおづえをついた。あたりを眺めるその顔は、うーむ……と眉間にしわが寄っている。
「包帯がたくさんあるな?」
「えぇ。新野先生に頼まれまして、包帯を作っていたんです」
「事務に食堂の手伝い、それに保健委員もやっているのか」
「せんせ。あと、杭瀬村の畑仕事もですよ?」
「そうだったなぁ! まったく、よく働くやつだ」
呆れたように言う先生。でも褒められて嬉しい。少しでもみんなの役に立てたら……。そんな想いが原動力で、まったく苦にはならなかった。もちろん、大好きなあなたに認めてもらいたくて。伝わっているのかな……? 細かいことは気にしない、大木先生に。
「ねぇ。せんせ」
「……ん、なんだ?」
包帯を指先でつんつんしながら、ぽつりと呟いてみる。それは自分でもびっくりするくらい甘えた声色だった。珍しく、先生が動揺している。
「私の可愛いとこ、おしえて?」
「っ、なにを言い出すかと思えば、お前は……!」
先生のほほが心なしか赤くなっている。一流の忍者なのに、ふと見せるそんな姿が可愛い。私は先生の可愛いところも、格好いいところもいっぱい知ってる。
先生は……?
気になる気持ちが強くて、もう後には引けない。可愛いところなど何も無い、なんて言われたら悲しいけれど。熱っぽく彼を見つめる。
「うーむ、お前の可愛いところ……」
思案しているのか、口を尖らせ言葉につまる先生。しばらく沈黙が続く。遠くから、忍たまのはしゃぐ声や木々の揺れる音が聞こえるだけ。先生はしかめっ面でうんうん唸っている。
膝立ちになって、そろりと先生に近づく。静かな空気を壊すように、彼の背後から思い切り抱きついた。手入れしていない髪が顔に当たるからチクチクする。太い首元にぎゅうっと腕を巻きつけ、大きな背中に身体をくっつけた。体温が、ほのかに伝わって温かい。
「……せんせ、考えすぎです」
「なかなか難しい質問だぞ?」
「ねぇ、答えは?」
腕に力を込めて、彼の耳元で囁いてみる。ピクリと驚く先生にもっとイジメてみたくなるのを抑えた。
「……全部だ」
先生は、参ったなと言うように頭をガシガシとかく。その答えはずるい。けれど、くっついた背中がひときわ熱く感じて嬉しさを噛みしめる。
「そう言うお前はどうなんだ? わしの、好きなところなんかあるのか?」
本当はいっぱいある。だけど、今は私も――
「全部ですっ」
そう言って、くすくす笑うのだった。
放課後の、開放感にあふれた忍たまたちの声が聞こえる。のんびりして手が止まりそうになるも、包帯をくるくる巻いて束にしていく。
新野先生と保健委員のみんなは、薬の買い出しで街に出かけていた。医務室の留守番を頼まれ今に至る。
それにしても、けが人や病人が来ることなく平和だ。それはとても良いことで、このまま何事もなく一日が終わったらいいな、なんてぼんやりする。
包帯を何本も巻いて――単純作業を続けるからか、だんだん眠気が襲ってくる。夢とうつつを行き交う感覚。意識がふわふわして、なぜか思い浮かぶのは大好きな先生の姿ばかり。
ボサボサの茶色い髪は太陽に当たるとキラッと輝く。それに凛々しい太い眉。白い鉢巻を風になびかせて、ニカっと少年みたいに笑う彼。はだけた胸元にドキドキして……って、それは今もだった。
でも、それだけじゃない。ラビちゃんやケロちゃんにデレデレで、自分の子どもみたいに心配しているところ。大ざっぱに見えるのに、雨の日も雪の日も野菜たちに世話を焼くところ。豪快で荒っぽいけれど、忍たまへの熱い指導はこちらも夢中になるくらいだ。次から次へと浮かんでくるけれど……。
先生にとって、私の好きなところってどこだろう?
「おい、ここにいたのか」
「……っ、お、大木先生!?」
ガラッと障子がひかれ、そこに現れたのはずっと頭に浮かべていた想い人だった。ニヤリとして、犬歯がのぞく口元。それに何かを企んだような、楽しそうな垂れ目にドキンとする。
「どこにいるかと思えば、気の抜けた顔で寝おって」
「そ、それは……! もう。気の抜けた顔ってひどいですよ」
「ははは、さぞいい夢でも見ていたんだろう」
図星で、あまりにも恥ずかしくて両ほほを手で隠した。だらしなく口を開けてはいなかったし、白目にもなってない。そんなに変な顔で寝ていたわけじゃないはず……! せっかく甘くて幸せな夢だったのに。大木先生と会えて嬉しいやら、からかわれて悔しいやら、眠気が一気に吹き飛んだ。
「先生こそ、元気そうですけど。なんで医務室に来たんです?」
「そりゃー、お前に会いにきたんだ」
「私に……!?」
「まさか、わしが野村に会いに行くわけないじゃろ」
「そうですね……!」
どこだー?って探し回ったのかな、私のこと。その姿を想像したらクスッと吹き出してしまった。先生が怪訝そうな顔をするから、「どうぞ、こちらに」なんて近くに座るよう促す。
先生はどかっと胡座をかくと、膝にほおづえをついた。あたりを眺めるその顔は、うーむ……と眉間にしわが寄っている。
「包帯がたくさんあるな?」
「えぇ。新野先生に頼まれまして、包帯を作っていたんです」
「事務に食堂の手伝い、それに保健委員もやっているのか」
「せんせ。あと、杭瀬村の畑仕事もですよ?」
「そうだったなぁ! まったく、よく働くやつだ」
呆れたように言う先生。でも褒められて嬉しい。少しでもみんなの役に立てたら……。そんな想いが原動力で、まったく苦にはならなかった。もちろん、大好きなあなたに認めてもらいたくて。伝わっているのかな……? 細かいことは気にしない、大木先生に。
「ねぇ。せんせ」
「……ん、なんだ?」
包帯を指先でつんつんしながら、ぽつりと呟いてみる。それは自分でもびっくりするくらい甘えた声色だった。珍しく、先生が動揺している。
「私の可愛いとこ、おしえて?」
「っ、なにを言い出すかと思えば、お前は……!」
先生のほほが心なしか赤くなっている。一流の忍者なのに、ふと見せるそんな姿が可愛い。私は先生の可愛いところも、格好いいところもいっぱい知ってる。
先生は……?
気になる気持ちが強くて、もう後には引けない。可愛いところなど何も無い、なんて言われたら悲しいけれど。熱っぽく彼を見つめる。
「うーむ、お前の可愛いところ……」
思案しているのか、口を尖らせ言葉につまる先生。しばらく沈黙が続く。遠くから、忍たまのはしゃぐ声や木々の揺れる音が聞こえるだけ。先生はしかめっ面でうんうん唸っている。
膝立ちになって、そろりと先生に近づく。静かな空気を壊すように、彼の背後から思い切り抱きついた。手入れしていない髪が顔に当たるからチクチクする。太い首元にぎゅうっと腕を巻きつけ、大きな背中に身体をくっつけた。体温が、ほのかに伝わって温かい。
「……せんせ、考えすぎです」
「なかなか難しい質問だぞ?」
「ねぇ、答えは?」
腕に力を込めて、彼の耳元で囁いてみる。ピクリと驚く先生にもっとイジメてみたくなるのを抑えた。
「……全部だ」
先生は、参ったなと言うように頭をガシガシとかく。その答えはずるい。けれど、くっついた背中がひときわ熱く感じて嬉しさを噛みしめる。
「そう言うお前はどうなんだ? わしの、好きなところなんかあるのか?」
本当はいっぱいある。だけど、今は私も――
「全部ですっ」
そう言って、くすくす笑うのだった。
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