中在家長次
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〜落とし穴に落ちたら〜
雲ひとつない青空の下。サーっと風が吹くと、さわさわと色づいた葉が揺れる。
放課後。
木の幹にもたれて座り、季節の移り変わりを感じながらボーロ作りの本を読み進める。紙をぺらりと捲り、ゆったりと過ごしていた。
時折り顔を上げては、前を通る忍たまを確認する。……また、綾部が落とし穴を掘ったのだ。
上級生は地面に置かれた記号を怪しんで、何ともなく避けていく。下級生が来たら声を掛けようと思っていたのだが、思ってもない人物がやって来た。
遠くからパタパタと足音が聞こえ、本から視線を外しその姿を捉える。大量の書類を抱えた、鼠色の忍装束がチラリと見え隠れしていた。
「きゃっ……!」
声を掛けようとした瞬間。
高い悲鳴を上げ、その姿は地面の中へ吸い込まれていった。白い紙が舞い上がる。咄嗟に伸ばした手を引っ込め本を懐へしまうと、落とし穴を覗く。
白い紙と土にまみれ、困った顔でへたり込む小さな身体が埋まっていた。
「長次くん!? あの、落とし穴に気付かなくって……」
「……今、助ける」
狭い穴へ飛び降りていく。
足の裏に木の葉や柔らかな土を感じ、ひどい怪我はしていないだろうと安心した。
「……痛むところはないか」
「うん。大丈夫!」
「……よかった」
脱げかけた灰色の頭巾から、艶やかな髪がこぼれている。絡みついた枯葉を払うように優しく頭を撫でると、目元を少し赤く染めてこちらを見つめてくる。
窮屈な空間で、ただでさえ身体が必要以上にくっ付いてしまう。自身も慣れないことをしたせいか、顔に熱が集まってきた。
「長次くんが来てくれて、ほんと助かったよ」
「……近くで読書をしていたのだ」
「そうだったんだ! 教科書を読むなんて、勉強熱心なんだね」
「ボーロの作り方を……」
「ぼ、ボーロ!? 南蛮のお菓子だよね、すごいなあ!」
土で汚れた顔を綻ばせて、期待するように覗き込まれる。その無邪気さに、隠していた気持ちが露わになってしまいそうだった。
「……早く、仕事に戻った方がいい」
「そ、そうだった。……あの、申し訳ないんだけど、ここから……ひゃぁっ!」
「……落ちないように」
言葉を遮るように横抱きにして、華奢な身体をかかえる。女性特有の柔らかさにドキリとして、腕に力がこもる。
首に細い腕が回されると、吐息が感じられるほど距離が近づいた。ふわりと甘い香りが鼻先をくすぐり、落とし穴から脱出するのが惜しくなってしまう。
「長次くん……?」
「いくぞ」
底を思い切り蹴り上げ、地面へと着地する。そっと降ろしてやると、忍装束についた葉っぱを取り除いていった。
「……これで大丈夫だ」
「ありがとっ」
「……そこで、待っていろ」
「……え?」
もう一度穴へ飛び込み、散らばった書類を集め腕に抱える。一人では大変だろうに。いつもにこにこ働く姿に、つい手を差し伸べたくなってしまうのだ。
「拾ってくれたんだね、ごめん。あとは私が……!」
「手伝おう」
彼女に少しだけ手渡し、二人並んで教員長屋へと向かっていく。
「さっきの話しなんだけど……」
「なんだ?」
「長次くんの作ったボーロ、食べてみたいなっ」
「……もそ」
もちろん、そのつもりだ。
優しく目を細め、首を傾げながら言われると……。言葉がうまく出せずに口ごもってしまう。きっと甘く作りすぎてしまうな、と心の中で照れるのだった。
雲ひとつない青空の下。サーっと風が吹くと、さわさわと色づいた葉が揺れる。
放課後。
木の幹にもたれて座り、季節の移り変わりを感じながらボーロ作りの本を読み進める。紙をぺらりと捲り、ゆったりと過ごしていた。
時折り顔を上げては、前を通る忍たまを確認する。……また、綾部が落とし穴を掘ったのだ。
上級生は地面に置かれた記号を怪しんで、何ともなく避けていく。下級生が来たら声を掛けようと思っていたのだが、思ってもない人物がやって来た。
遠くからパタパタと足音が聞こえ、本から視線を外しその姿を捉える。大量の書類を抱えた、鼠色の忍装束がチラリと見え隠れしていた。
「きゃっ……!」
声を掛けようとした瞬間。
高い悲鳴を上げ、その姿は地面の中へ吸い込まれていった。白い紙が舞い上がる。咄嗟に伸ばした手を引っ込め本を懐へしまうと、落とし穴を覗く。
白い紙と土にまみれ、困った顔でへたり込む小さな身体が埋まっていた。
「長次くん!? あの、落とし穴に気付かなくって……」
「……今、助ける」
狭い穴へ飛び降りていく。
足の裏に木の葉や柔らかな土を感じ、ひどい怪我はしていないだろうと安心した。
「……痛むところはないか」
「うん。大丈夫!」
「……よかった」
脱げかけた灰色の頭巾から、艶やかな髪がこぼれている。絡みついた枯葉を払うように優しく頭を撫でると、目元を少し赤く染めてこちらを見つめてくる。
窮屈な空間で、ただでさえ身体が必要以上にくっ付いてしまう。自身も慣れないことをしたせいか、顔に熱が集まってきた。
「長次くんが来てくれて、ほんと助かったよ」
「……近くで読書をしていたのだ」
「そうだったんだ! 教科書を読むなんて、勉強熱心なんだね」
「ボーロの作り方を……」
「ぼ、ボーロ!? 南蛮のお菓子だよね、すごいなあ!」
土で汚れた顔を綻ばせて、期待するように覗き込まれる。その無邪気さに、隠していた気持ちが露わになってしまいそうだった。
「……早く、仕事に戻った方がいい」
「そ、そうだった。……あの、申し訳ないんだけど、ここから……ひゃぁっ!」
「……落ちないように」
言葉を遮るように横抱きにして、華奢な身体をかかえる。女性特有の柔らかさにドキリとして、腕に力がこもる。
首に細い腕が回されると、吐息が感じられるほど距離が近づいた。ふわりと甘い香りが鼻先をくすぐり、落とし穴から脱出するのが惜しくなってしまう。
「長次くん……?」
「いくぞ」
底を思い切り蹴り上げ、地面へと着地する。そっと降ろしてやると、忍装束についた葉っぱを取り除いていった。
「……これで大丈夫だ」
「ありがとっ」
「……そこで、待っていろ」
「……え?」
もう一度穴へ飛び込み、散らばった書類を集め腕に抱える。一人では大変だろうに。いつもにこにこ働く姿に、つい手を差し伸べたくなってしまうのだ。
「拾ってくれたんだね、ごめん。あとは私が……!」
「手伝おう」
彼女に少しだけ手渡し、二人並んで教員長屋へと向かっていく。
「さっきの話しなんだけど……」
「なんだ?」
「長次くんの作ったボーロ、食べてみたいなっ」
「……もそ」
もちろん、そのつもりだ。
優しく目を細め、首を傾げながら言われると……。言葉がうまく出せずに口ごもってしまう。きっと甘く作りすぎてしまうな、と心の中で照れるのだった。
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