立花仙蔵
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〜落とし穴に落ちたら〜
どこからか、女の声が聞こえてくる。だが、中庭を見回してもそれらしき人は見当たらない。
土塀の上に飛び乗りあたりを確認すると、離れたところに落とし穴が掘られていた。
……だれか落ちたのだろうか。
「おーい、穴に落ちたのは誰だ? 大丈夫か?」
「あっ。せ、仙蔵くん!? ……落ちたのはわたし、です」
「その声は……今行きますから!」
聞き馴染みのある声が聞こえる。それは不安げに揺れ、いつもの元気さがない。何でそんな変化に気がつくかって? ……それは気になっている女の子だからだ。
穴の底に片膝をついて着地する。幸いにも、穴の中は枯れ葉が敷き詰めてあって柔らかい。彼女に怪我はないだろう。
手をパンパンと払い彼女を見れば「すごーい!」なんて褒められてしまった。大したことはないのだが、キラキラした眼差しでそう言われると悪い気はしない。
……むしろ嬉しい。
「着物を着てますが、街にでも行ってたんですか?」
「うん。食堂のおばちゃんに頼まれてお味噌を買いに」
「そうでしたか」
淡い桃色の着物に赤い紅をさした余所行きの姿に、思わず心臓がはねる。
たすき掛けで忙しく定食を渡すいつもの彼女とは違い、足を崩し土壁にもたれて困る様がなんとも大人っぽく、艶やかだ。
「せっかく綺麗にしたのに、もったいない」
「……えっ」
戸惑う彼女にぐっと近づいて、唇の横に着いた泥汚れを親指で拭う。
そのまま、ほほに手を添えると少しばかり時が止まったように感じられた。ぽっと顔を赤らめ、目線をキョロキョロさせる様子は普段の彼女のままで可愛らしい。
「しばらくこうしていたいのですが、ここにいては冷えてしまいます。さあ、私と一緒に出ましょうか」
「面倒かけちゃって、ごめんなさい」
「そんな事ないですから」
にこりと余裕を見せつつ、サラリと髪をなびかせほほ笑む。
……完ッ璧だ!
「「立花せんぱーい!」」
「げっ、もしかして……!」
「しんべヱくんと喜三太くんっ!」
嬉しそうに顔をほころばせて、上からこちらを見つめている二人。これは嫌な予感しかしない。絶対に回避せねばと覚悟を決めるが如く、ふぅと呼吸を整える。
「立花先輩ってば、穴に落ちて出てこないから。ぼくたち心配で〜!」
「落ちたのではないッ! 降りたんだ! お前たち、いいからあっちに行ってくれ!」
「ぼくたちが助けますっ! なめさん、ちょっと待っててね。 ……って、あれ?」
――ぼとぼとぼと
「うわぁぁ〜! なめさん達大丈夫ー!?」
「……なめさんたち、大丈夫、だと……?」
頭に降り注ぐなめくじを振り払い、何とか怒りを鎮めようと歯を食いしばる。足元にも這い回って、目の前の彼女は「ひぃっ……」と小さな悲鳴をあげた。
「せ、仙蔵くんっ、この風呂敷使って……!」
「ありがとうございます……」
まったく、あの二人に絡まれると碌なことがない!あと少しで完璧さをアピール出来たというのに……。ガックリとうなだれながら、彼女に渡された風呂敷にひたすらなめくじを集めていくのだった。
どこからか、女の声が聞こえてくる。だが、中庭を見回してもそれらしき人は見当たらない。
土塀の上に飛び乗りあたりを確認すると、離れたところに落とし穴が掘られていた。
……だれか落ちたのだろうか。
「おーい、穴に落ちたのは誰だ? 大丈夫か?」
「あっ。せ、仙蔵くん!? ……落ちたのはわたし、です」
「その声は……今行きますから!」
聞き馴染みのある声が聞こえる。それは不安げに揺れ、いつもの元気さがない。何でそんな変化に気がつくかって? ……それは気になっている女の子だからだ。
穴の底に片膝をついて着地する。幸いにも、穴の中は枯れ葉が敷き詰めてあって柔らかい。彼女に怪我はないだろう。
手をパンパンと払い彼女を見れば「すごーい!」なんて褒められてしまった。大したことはないのだが、キラキラした眼差しでそう言われると悪い気はしない。
……むしろ嬉しい。
「着物を着てますが、街にでも行ってたんですか?」
「うん。食堂のおばちゃんに頼まれてお味噌を買いに」
「そうでしたか」
淡い桃色の着物に赤い紅をさした余所行きの姿に、思わず心臓がはねる。
たすき掛けで忙しく定食を渡すいつもの彼女とは違い、足を崩し土壁にもたれて困る様がなんとも大人っぽく、艶やかだ。
「せっかく綺麗にしたのに、もったいない」
「……えっ」
戸惑う彼女にぐっと近づいて、唇の横に着いた泥汚れを親指で拭う。
そのまま、ほほに手を添えると少しばかり時が止まったように感じられた。ぽっと顔を赤らめ、目線をキョロキョロさせる様子は普段の彼女のままで可愛らしい。
「しばらくこうしていたいのですが、ここにいては冷えてしまいます。さあ、私と一緒に出ましょうか」
「面倒かけちゃって、ごめんなさい」
「そんな事ないですから」
にこりと余裕を見せつつ、サラリと髪をなびかせほほ笑む。
……完ッ璧だ!
「「立花せんぱーい!」」
「げっ、もしかして……!」
「しんべヱくんと喜三太くんっ!」
嬉しそうに顔をほころばせて、上からこちらを見つめている二人。これは嫌な予感しかしない。絶対に回避せねばと覚悟を決めるが如く、ふぅと呼吸を整える。
「立花先輩ってば、穴に落ちて出てこないから。ぼくたち心配で〜!」
「落ちたのではないッ! 降りたんだ! お前たち、いいからあっちに行ってくれ!」
「ぼくたちが助けますっ! なめさん、ちょっと待っててね。 ……って、あれ?」
――ぼとぼとぼと
「うわぁぁ〜! なめさん達大丈夫ー!?」
「……なめさんたち、大丈夫、だと……?」
頭に降り注ぐなめくじを振り払い、何とか怒りを鎮めようと歯を食いしばる。足元にも這い回って、目の前の彼女は「ひぃっ……」と小さな悲鳴をあげた。
「せ、仙蔵くんっ、この風呂敷使って……!」
「ありがとうございます……」
まったく、あの二人に絡まれると碌なことがない!あと少しで完璧さをアピール出来たというのに……。ガックリとうなだれながら、彼女に渡された風呂敷にひたすらなめくじを集めていくのだった。
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