おやすみ
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冷たく乾いた空気が戸の隙間から吹き込んでくる。すっかり夜も更けて、燭台の灯りがゆらりと心許なく揺れていた。
杭瀬村は忍術学園と違ってとても静かだ。耳を澄ませると、風の音とカサカサした草木が擦れるような音がわずかに響く。
雅之助さんは寝床に入っているけれど、上半身を起こして本を読んでいた。一緒の布団に身体を滑り込ませて、ころんと隣に横たわる。
あまりに真剣な顔で読書をするものだから、本の中身が気になってしまう。起き上がって、雅之助さんの腰まわりに抱きつくと、太ももにちょこんとあごを乗せた。
「また野菜の本ですか?……本当に好きなんですね」
「ああ。美味い野菜をみんなに食わせたいからな」
「……私のことも、そのくらい気にして欲しいのに」
「なにか言ったか?」
「いえっ、なんにも」
「名前。早く寝るんだ」
「はぁい」
首を傾けて雅之助さんを見上げる。
口を真一文字に結んだ男らしい顔つきで、広げた本をじっと目で追っていた。あいている方の手がおもむろに頭に置かれ、そろりと撫でてくる。
何度も繰り返される髪をすく動きに、だんだんと身体の力が抜けていく。抱きつく腕を解き、再び布団に寝転がると、きゅっとまぶたを閉じた。
今度は、大きな手のひらでわしわしを頭をかき混ぜられている。節くれだった指と指の間に髪の毛が絡まって、心地よい刺激にうっとりしてしまう。
「腕、疲れません……?」
「わしが疲れることあるか」
「そうですね」
「こうすると、落ち着くだろうと思ってな」
瞑っていたまぶたを開けて、雅之助さんをぼんやり見つめる。
本に落とされた視線がこちらに向けられ、満足そうに垂れ目を細めている。鉢巻きや元結を解いているからか、茶色の髪が顔にかかって影を作る。普段と違うその姿に、胸がドキリと高鳴った。
「……まだ、読むのですか?」
「もう少しで終わる」
「雅之助さん。一緒に寝たいです」
あやすように頭をさする手をきゅっと掴み、その動きを止める。
「まったく……。しょうがないな」
「ありがとうございますっ」
ボサボサの前髪を荒っぽくかいて伸びをすると、読んでいた本をコトンと床に置いている。
雅之助さんは、身を乗り出して燭台の灯りを吹き消してから、するりと私の隣に横たわった。
太い腕が頭の下に入り込み、腕枕みたいだ。そのまま身体を包み込んでくる。
……そんな風にされると、大切に扱ってくれているようで嬉しくなってしまうのに。
もっと近くに感じたくて、冷たくなった脚を絡ませるようにくっ付けた。雅之助さんの体温がつま先から伝わって、心の中までじんわり温まっていく。
「おい、お前。ずいぶん冷えてるなあ。大丈夫か?」
「こうしていたら、温かいから大丈夫です」
「もっとわしにくっ付け」
「雅之助さん、ぽかぽかしてる」
珍しく心配そうな声色で、肉付きを確かめるように手のひらが背中を這い回る。さわさわと撫で上げられ、時折り首筋をカサついた指でくすぐられると、身体の熱が上がっていく。
目の前にある厚い胸板に耳を当てる。
とくとくと心臓の音が聞こえて、その穏やかさに段々と自分の鼓動も落ち着いていった。
ずっと畑にいるからか、土やラッキョの香りと……男の人の汗の匂いがふわりと鼻腔を掠める。大好きな人の香りと温もりに包まれて、夢か現実か分からなくなってしまいそうだ。
「……いい気持ちです」
「それは良かった。眠れそうか?」
「眠いんですけど……眠るのがもったいなくて」
「どういうことだ?」
「……だって、ずっとこうしていたいから」
「また、そういうことを言いおって」
背中に回された腕に力を込められ、ぎゅうっと強くかき抱かれる。互いの身体が一段と密着して、寝巻きの裾が捲れ上がり下半身が絡み合う。
暗闇で、わずかに布が擦れる音が響く。
耳元に熱い息遣いを感じて、雅之助さんの寝巻きを握りしめた。
「……わしの気が変わらないうちに、早く寝ろ」
「……っ、はい」
「よーし」
クツクツと喉を鳴らす音が耳に届く。
少し身体を離され、その大きな手のひらがまた後頭部に優しく置かれる。指を櫛のようにして幾度も梳かれると、意識がふわりと軽くなっていく。
「今日は畑の手伝いで疲れただろう。しっかり休め」
「……おやすみなさい」
雅之助さんのたくましい身体に閉じ込められながら、満ちあふれる幸せを感じる。眠気に抗うことを放棄して、素直に従うのだった。
杭瀬村は忍術学園と違ってとても静かだ。耳を澄ませると、風の音とカサカサした草木が擦れるような音がわずかに響く。
雅之助さんは寝床に入っているけれど、上半身を起こして本を読んでいた。一緒の布団に身体を滑り込ませて、ころんと隣に横たわる。
あまりに真剣な顔で読書をするものだから、本の中身が気になってしまう。起き上がって、雅之助さんの腰まわりに抱きつくと、太ももにちょこんとあごを乗せた。
「また野菜の本ですか?……本当に好きなんですね」
「ああ。美味い野菜をみんなに食わせたいからな」
「……私のことも、そのくらい気にして欲しいのに」
「なにか言ったか?」
「いえっ、なんにも」
「名前。早く寝るんだ」
「はぁい」
首を傾けて雅之助さんを見上げる。
口を真一文字に結んだ男らしい顔つきで、広げた本をじっと目で追っていた。あいている方の手がおもむろに頭に置かれ、そろりと撫でてくる。
何度も繰り返される髪をすく動きに、だんだんと身体の力が抜けていく。抱きつく腕を解き、再び布団に寝転がると、きゅっとまぶたを閉じた。
今度は、大きな手のひらでわしわしを頭をかき混ぜられている。節くれだった指と指の間に髪の毛が絡まって、心地よい刺激にうっとりしてしまう。
「腕、疲れません……?」
「わしが疲れることあるか」
「そうですね」
「こうすると、落ち着くだろうと思ってな」
瞑っていたまぶたを開けて、雅之助さんをぼんやり見つめる。
本に落とされた視線がこちらに向けられ、満足そうに垂れ目を細めている。鉢巻きや元結を解いているからか、茶色の髪が顔にかかって影を作る。普段と違うその姿に、胸がドキリと高鳴った。
「……まだ、読むのですか?」
「もう少しで終わる」
「雅之助さん。一緒に寝たいです」
あやすように頭をさする手をきゅっと掴み、その動きを止める。
「まったく……。しょうがないな」
「ありがとうございますっ」
ボサボサの前髪を荒っぽくかいて伸びをすると、読んでいた本をコトンと床に置いている。
雅之助さんは、身を乗り出して燭台の灯りを吹き消してから、するりと私の隣に横たわった。
太い腕が頭の下に入り込み、腕枕みたいだ。そのまま身体を包み込んでくる。
……そんな風にされると、大切に扱ってくれているようで嬉しくなってしまうのに。
もっと近くに感じたくて、冷たくなった脚を絡ませるようにくっ付けた。雅之助さんの体温がつま先から伝わって、心の中までじんわり温まっていく。
「おい、お前。ずいぶん冷えてるなあ。大丈夫か?」
「こうしていたら、温かいから大丈夫です」
「もっとわしにくっ付け」
「雅之助さん、ぽかぽかしてる」
珍しく心配そうな声色で、肉付きを確かめるように手のひらが背中を這い回る。さわさわと撫で上げられ、時折り首筋をカサついた指でくすぐられると、身体の熱が上がっていく。
目の前にある厚い胸板に耳を当てる。
とくとくと心臓の音が聞こえて、その穏やかさに段々と自分の鼓動も落ち着いていった。
ずっと畑にいるからか、土やラッキョの香りと……男の人の汗の匂いがふわりと鼻腔を掠める。大好きな人の香りと温もりに包まれて、夢か現実か分からなくなってしまいそうだ。
「……いい気持ちです」
「それは良かった。眠れそうか?」
「眠いんですけど……眠るのがもったいなくて」
「どういうことだ?」
「……だって、ずっとこうしていたいから」
「また、そういうことを言いおって」
背中に回された腕に力を込められ、ぎゅうっと強くかき抱かれる。互いの身体が一段と密着して、寝巻きの裾が捲れ上がり下半身が絡み合う。
暗闇で、わずかに布が擦れる音が響く。
耳元に熱い息遣いを感じて、雅之助さんの寝巻きを握りしめた。
「……わしの気が変わらないうちに、早く寝ろ」
「……っ、はい」
「よーし」
クツクツと喉を鳴らす音が耳に届く。
少し身体を離され、その大きな手のひらがまた後頭部に優しく置かれる。指を櫛のようにして幾度も梳かれると、意識がふわりと軽くなっていく。
「今日は畑の手伝いで疲れただろう。しっかり休め」
「……おやすみなさい」
雅之助さんのたくましい身体に閉じ込められながら、満ちあふれる幸せを感じる。眠気に抗うことを放棄して、素直に従うのだった。
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