ひみつの味
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今日は大丈夫だろうか……?
半助は物陰にひそみ、恐る恐る食堂の勝手口から調理場を覗いている。
この間は小鉢に練り物が紛れ込んでいたのだ。メニュー表に書かれていなかったから、気付かず頼んで大変な目にあった。
いつも私のために取り除いてくれる愛しい彼女は……あいにくカウンターにいなくて。タイミングが悪かった。
調理台では、彼女が手を動かして何かを作っている。その姿を後ろからじっと眺めていた。
……キョロキョロと辺りを確認しては手元を見つめ、何かを開けたようだ。こそこそする様子が明らかにおかしい。
とろりとした黄金の液体をさじに掬って、そのままパクりと小さな口に運んでいる。にこにこと幸せそうな横顔で、またひと口味わっていた。
「……名前さん。何をしているんだい?」
「えっ、あの、えっと……!」
声をかけると、こちらに振り向き慌てて何かを後ろ手に隠している。かちゃかちゃと食器がぶつかる音が騒がしい。
「ずいぶん嬉しそうな顔をしていたね」
「そ、そうですかっ?!」
「ああ、それはもう。しあわせー!って顔をだな……」
「せんせ……っ!」
「ごめんごめん。あれ、もしかして……はちみつ?」
「……はい。つい、何度も味見しちゃいました」
「良いのかい? そんな高価なものを」
「ご、ごめんなさい……!」
スッと目を細めて問い詰めるように言うと、顔を赤くしてあたふたする彼女が可愛くて。申し訳なさそうにこちらを窺う表情に、ちょっとイジメてみたくなる。
「じゃあ、私も味見させてもらおうか」
彼女のふっくらとした唇についたはちみつを親指で拭い、自身の口元に運んでパクりとくわえる。
「うーん、よく分からないなあ」
「先生も、さじで……」
そう言って調理台に戻りかけた彼女をぐっと引き寄せ、優しく抱きしめる。小さな手に握られたさじがすべり落ち、コトンと軽い音が響いた。
「いや、こちらをいただこう」
そっと柔らかいほほを手で包み、上を向かせる。
薄く開いた唇がひどく無防備だ。
そのままゆっくりと屈んで距離を近づけていく。
私の前髪が顔にかかって、むず痒そうに目をつむる仕草がたまらない。
ぴとっと唇が触れる。
はちみつのせいでしっとりとした感触に、もっと触れたくなる。
何度も食むように口付けると、胸元をぎゅっと握られ幸せな気持ちが込み上げてきた。
「……ぅん……んっ」
鼻にかかった声が聞こえて、ここがどこか忘れて深みに入りそうになる。
最後にちゅっと掠めるように唇に触れると、そっと身体を離した。
「美味しかった」
「……もう。二人だけの秘密、ですよ?」
そう言ってくすくす笑う君は……
はちみつよりも、ずっと甘い。
ひみつ、か。
なんて甘美な響きだろう。
食堂に来た目的も忘れて……。
少しの間、見つめ合いながら甘い余韻に浸るのだった。
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