1章
名前変換
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〜第8話 いざ、忍術学園へ(後編)〜
ランチを食べ終え土井先生とお茶をすすり一息つく。
食堂のおばちゃんの料理は、食材の良いところを上手く活かし、優しい味付けで心に染み入ってくる。
秘伝のレシピを伝授してもらって、私もこんなに美味しい料理を作れるようになりたい!と早くも明日のお手伝いが楽しみだ。
……――ドタドタドタ
そんな平和な雰囲気をぶち壊すようなボロボロヨレヨレになった二人が現れた。
「お二人とも、大丈夫ですか?!」
野村先生と雅之助さんが食堂に戻ってきたので声をかけるが、それと同時にその凄まじい姿に言葉を失いかけた。
怪我はしていないのかな?!
驚いている私をよそに、雅之助さんは先程と同じ私の隣にドカッと座る。野村先生は食堂の端に座って、二人は中断していたランチをすごい勢いで食べ始めた。
「名前さん、大丈夫ですよ。いつものことですから……」
土井先生が乾いた笑いを浮かべている。
――学園長先生へのご挨拶や食堂のおばちゃんへ野菜を渡したり、ランチをいただいたり……
すべて終えたこともあり、雅之助さんは杭瀬村へ帰ることとなった。
仕事を中断して来てくれた山田先生、土井先生、そしてヘムヘムが門のところまでわざわざ一緒に見送りに来てくれた。私も並んで見送る。
小松田さんは、来た時と同じく「はい、出門表にサインを〜」と雅之助さんに筆を渡すと満足そうな顔をしていた。
カラになった荷車が、まるで私の気持ちを表しているようで。
雅之助さんとお別れだと思うと急に鼻の奥がツンと痛くなる気がした。今生のお別れじゃ無いのに。
さっきは泣かないです!なんて強がって言ってはみたものの、これから始まる忍術学園での生活がうまく行くのかという不安も重くのしかかる。
「名前のこと、よろしく頼みます」
いつもの姿とは違う、山田先生と土井先生へ真剣な表情で伝える雅之助さんに目が離せない。
「じゃあな、名前!しっかりやるんだぞ!」
大きく手を振って、ジャリ、ジャリっと荷車をひいて歩を進めて行く。
姿がだんだんと小さくなって……
行ってしまう。
足が勝手に駆け出して止まらない。
遠くから出門票〜!と叫ぶ声が聞こえたが、そんなのどうでも良かった。
息を切らしながらなんとかたどり着く。
手を伸ばして雅之助さんの袖をきゅっとつかんだ。
心臓がうるさくて、上手く呼吸ができない。足元はグラグラするようだった。
「あのっ……!本当にありがとうございました!また、会いに来てくれますか……?」
激しく上下する胸もとを押さえて、背の高い彼を見上げる。雅之助さんはゆっくりと荷車の持ち手を地面に置き、こちらに向かい合ってくれた。
「名前、また近いうちに会いにくる」
やっぱり寂しいんだろう?なんてからかわれるかと思ったら。差し伸べられた大きな手は、大丈夫だと優しく私の頭を撫でてくれた。
「……美味しいご飯を作れるように、食堂のおばちゃんからたくさん教えてもらいます」
「そうか。楽しみにしてるぞ!」
いつものように快活に笑ってくれて、私まで笑顔になる。
名残惜しかったが、これでさようならと言えた。再び荷車を引いて遠ざかって行く姿をいつまでも眺めているのだった。
――門の前で、名前さんが駆けていくのを見つめている。
「山田先生。……名前さん、大丈夫でしょうか」
「まあ、すぐに慣れるだろう」
名前を頼みますと言われて、いつもの大木先生らしくないなと思う。あんなに心配性だっただろうか。任せてくださいという気持ちを込めて力強く頷いたけれど……。
二人が言葉を交わす様子を遠巻きに眺めるが、その姿になんとも言えない気持ちになる。そんな自分に苦笑しては、ほほをぽりぽりと掻いた。
*
――空が夕焼けで赤く染まるころ。
私は土井先生に連れられ、山田先生と共に食堂で夕飯をいただいていた。
教え子の一年は組のみんなのこと、いろんな委員会があること、学園長先生の思い付きで授業が進まないこと、夏休みや秋休みがあること。
土井先生も山田先生もとっても楽しそうに話すものだから、早くみんなと仲良くなりたい!学園長先生の思い付きも体験してみたい!なんてわくわくしてきて。さっきの不安が消えて行くのを感じた。
でも、夏休みかぁ。
まだ少し先だけど、どうしよう。
野菜畑の収穫前のお手伝いもしなきゃだ。
なんて考えていると、きり丸くんが、名前さん!とこちらに駆け寄ってくる。一緒にいたメガネの男の子と、ぽっちゃりした福々しい男の子も挨拶してくれた。
「こっちが乱太郎で、こっちはしんべヱです」
「あー!美味しいものたくさん知ってるしんべヱくんでしょ?それに、絵の上手い乱太郎くん。名前です、よろしくね!」
美味しいお店に詳しいというしんべヱくんに出会えて胸が高鳴る。乱太郎くんのスケッチも見てみたい。
「きり丸くんは、アルバイトたくさんしてるんでしょ?私にも今度ぜひ紹介してね!」
「いいっすよ!名前さんならきっと大丈夫です、一緒に頑張りましょう!」
目を小銭にしながら意気揚々としている。
みんな可愛いなあと思ってにこにこしてしまう。
「名前さん、色々あったみたいで大変でしたね……」
乱太郎くんが急に気の毒そうな顔で言うので、ん?と続きを促すと、きり丸から聞きましたと例の話を始めた。
「名前さん。食堂のご飯、いっぱい食べてね!」
しんべヱくんが目に涙を浮かべてこちらを見てくる。頭が痛くなり、思わずこめかみを押さえながら土井先生に助けを求めるように視線を送る。
「お前たち、名前さんは疲れているから話はこれくらいでお終いだ。さあ、早くご飯を食べて来なさい」
「「「はーい」」」
土井先生が三人に言うと、元気よく定食を受け取りに向かった。
「土井先生、ありがとうございます。なんだかこの話、すでに広まってそうですね……」
苦笑いすると、山田先生も参ったなあと言う顔で。
「まーったく、あいつらときたら。そう言う話だけはよく覚えてるんだから。困ったもんだ」
*
夜。
夕闇が一層濃くなり、星が煌々と輝いている。
寝る支度を済ませて、寝巻き姿のまま自室の前の廊下に出ていた。まだ夜は肌寒いけれど、お風呂上がりの火照った体にすーっと吹き抜ける風が心地よい。
シナ先生が一緒にお風呂を誘ってくれて。あまりにも気持ちが良くて、つい長風呂になってしまった。
……夜空を見上げて、まぶたを瞑り、ひとり佇む。
「起きてたんですね」
少し離れたところからあの穏やかな声が聞こえて、ゆっくりと目を開ける。
土井先生もお風呂上がりなのか、ぷっくりとしたほほが少し上気しているような気がした。昼間の忍装束とは違う寝巻き姿や高く結った髪が露わになって、どきりとする。
「今日は色々あったので、すこし落ち着こうと思って。」
「大変でしたね。でも、明日からもっと大変になるかもしれませんよ。みんな、名前さんと話したがっていますので」
土井先生はふわりと目元を細めている。
……そうなのかな?すごく嬉しい。
「あの、土井先生。私、お邪魔にならないように、こそっと授業をのぞいても良いですか……?」
「いいですけど……、興味があるんですか?」
「忍者に憧れてたので……!」
「名前さんが元いた所には忍者はいたのですか?」
……元の世界。どうだったのだろうか。
頭にモヤがかかったみたいで、上手く思い出せない。なんだか惨めな気持ちになる。
でも変に覚えていて口を滑らせることも怖った。
そして……覚えていないからか、寂しさも感じなくて。知らない、覚えていない方が気持ちが楽かもしれない。
「忍者……いたのでしょうか。元の世界のこと、あまり覚えていなくて」
「……そうでしたね。失礼しました」
土井先生は気まずそうに身を縮こませた。
元の世界でも、同じ月が輝いてるのだろうか。夜空を見上げながらぼーっとしてしまう。
「さ、冷えてしまいますから。もう休みましょう。明日、寝坊しないように起こしましょうか?」
「いえいえ、お気遣いなくっ」
小首を傾げながら、にこっと聞いてくる土井先生がなんだか色っぽい。男の人に言うのも変かもしれないけれど……。
「おやすみなさい、名前さん。ゆっくり休んでくださいね」
優しくかけられた言葉が眠りに誘うようだったが、先生の寝巻き姿を思い出して……やっぱり眠れないかもしれないと思うのだった。
ランチを食べ終え土井先生とお茶をすすり一息つく。
食堂のおばちゃんの料理は、食材の良いところを上手く活かし、優しい味付けで心に染み入ってくる。
秘伝のレシピを伝授してもらって、私もこんなに美味しい料理を作れるようになりたい!と早くも明日のお手伝いが楽しみだ。
……――ドタドタドタ
そんな平和な雰囲気をぶち壊すようなボロボロヨレヨレになった二人が現れた。
「お二人とも、大丈夫ですか?!」
野村先生と雅之助さんが食堂に戻ってきたので声をかけるが、それと同時にその凄まじい姿に言葉を失いかけた。
怪我はしていないのかな?!
驚いている私をよそに、雅之助さんは先程と同じ私の隣にドカッと座る。野村先生は食堂の端に座って、二人は中断していたランチをすごい勢いで食べ始めた。
「名前さん、大丈夫ですよ。いつものことですから……」
土井先生が乾いた笑いを浮かべている。
――学園長先生へのご挨拶や食堂のおばちゃんへ野菜を渡したり、ランチをいただいたり……
すべて終えたこともあり、雅之助さんは杭瀬村へ帰ることとなった。
仕事を中断して来てくれた山田先生、土井先生、そしてヘムヘムが門のところまでわざわざ一緒に見送りに来てくれた。私も並んで見送る。
小松田さんは、来た時と同じく「はい、出門表にサインを〜」と雅之助さんに筆を渡すと満足そうな顔をしていた。
カラになった荷車が、まるで私の気持ちを表しているようで。
雅之助さんとお別れだと思うと急に鼻の奥がツンと痛くなる気がした。今生のお別れじゃ無いのに。
さっきは泣かないです!なんて強がって言ってはみたものの、これから始まる忍術学園での生活がうまく行くのかという不安も重くのしかかる。
「名前のこと、よろしく頼みます」
いつもの姿とは違う、山田先生と土井先生へ真剣な表情で伝える雅之助さんに目が離せない。
「じゃあな、名前!しっかりやるんだぞ!」
大きく手を振って、ジャリ、ジャリっと荷車をひいて歩を進めて行く。
姿がだんだんと小さくなって……
行ってしまう。
足が勝手に駆け出して止まらない。
遠くから出門票〜!と叫ぶ声が聞こえたが、そんなのどうでも良かった。
息を切らしながらなんとかたどり着く。
手を伸ばして雅之助さんの袖をきゅっとつかんだ。
心臓がうるさくて、上手く呼吸ができない。足元はグラグラするようだった。
「あのっ……!本当にありがとうございました!また、会いに来てくれますか……?」
激しく上下する胸もとを押さえて、背の高い彼を見上げる。雅之助さんはゆっくりと荷車の持ち手を地面に置き、こちらに向かい合ってくれた。
「名前、また近いうちに会いにくる」
やっぱり寂しいんだろう?なんてからかわれるかと思ったら。差し伸べられた大きな手は、大丈夫だと優しく私の頭を撫でてくれた。
「……美味しいご飯を作れるように、食堂のおばちゃんからたくさん教えてもらいます」
「そうか。楽しみにしてるぞ!」
いつものように快活に笑ってくれて、私まで笑顔になる。
名残惜しかったが、これでさようならと言えた。再び荷車を引いて遠ざかって行く姿をいつまでも眺めているのだった。
――門の前で、名前さんが駆けていくのを見つめている。
「山田先生。……名前さん、大丈夫でしょうか」
「まあ、すぐに慣れるだろう」
名前を頼みますと言われて、いつもの大木先生らしくないなと思う。あんなに心配性だっただろうか。任せてくださいという気持ちを込めて力強く頷いたけれど……。
二人が言葉を交わす様子を遠巻きに眺めるが、その姿になんとも言えない気持ちになる。そんな自分に苦笑しては、ほほをぽりぽりと掻いた。
*
――空が夕焼けで赤く染まるころ。
私は土井先生に連れられ、山田先生と共に食堂で夕飯をいただいていた。
教え子の一年は組のみんなのこと、いろんな委員会があること、学園長先生の思い付きで授業が進まないこと、夏休みや秋休みがあること。
土井先生も山田先生もとっても楽しそうに話すものだから、早くみんなと仲良くなりたい!学園長先生の思い付きも体験してみたい!なんてわくわくしてきて。さっきの不安が消えて行くのを感じた。
でも、夏休みかぁ。
まだ少し先だけど、どうしよう。
野菜畑の収穫前のお手伝いもしなきゃだ。
なんて考えていると、きり丸くんが、名前さん!とこちらに駆け寄ってくる。一緒にいたメガネの男の子と、ぽっちゃりした福々しい男の子も挨拶してくれた。
「こっちが乱太郎で、こっちはしんべヱです」
「あー!美味しいものたくさん知ってるしんべヱくんでしょ?それに、絵の上手い乱太郎くん。名前です、よろしくね!」
美味しいお店に詳しいというしんべヱくんに出会えて胸が高鳴る。乱太郎くんのスケッチも見てみたい。
「きり丸くんは、アルバイトたくさんしてるんでしょ?私にも今度ぜひ紹介してね!」
「いいっすよ!名前さんならきっと大丈夫です、一緒に頑張りましょう!」
目を小銭にしながら意気揚々としている。
みんな可愛いなあと思ってにこにこしてしまう。
「名前さん、色々あったみたいで大変でしたね……」
乱太郎くんが急に気の毒そうな顔で言うので、ん?と続きを促すと、きり丸から聞きましたと例の話を始めた。
「名前さん。食堂のご飯、いっぱい食べてね!」
しんべヱくんが目に涙を浮かべてこちらを見てくる。頭が痛くなり、思わずこめかみを押さえながら土井先生に助けを求めるように視線を送る。
「お前たち、名前さんは疲れているから話はこれくらいでお終いだ。さあ、早くご飯を食べて来なさい」
「「「はーい」」」
土井先生が三人に言うと、元気よく定食を受け取りに向かった。
「土井先生、ありがとうございます。なんだかこの話、すでに広まってそうですね……」
苦笑いすると、山田先生も参ったなあと言う顔で。
「まーったく、あいつらときたら。そう言う話だけはよく覚えてるんだから。困ったもんだ」
*
夜。
夕闇が一層濃くなり、星が煌々と輝いている。
寝る支度を済ませて、寝巻き姿のまま自室の前の廊下に出ていた。まだ夜は肌寒いけれど、お風呂上がりの火照った体にすーっと吹き抜ける風が心地よい。
シナ先生が一緒にお風呂を誘ってくれて。あまりにも気持ちが良くて、つい長風呂になってしまった。
……夜空を見上げて、まぶたを瞑り、ひとり佇む。
「起きてたんですね」
少し離れたところからあの穏やかな声が聞こえて、ゆっくりと目を開ける。
土井先生もお風呂上がりなのか、ぷっくりとしたほほが少し上気しているような気がした。昼間の忍装束とは違う寝巻き姿や高く結った髪が露わになって、どきりとする。
「今日は色々あったので、すこし落ち着こうと思って。」
「大変でしたね。でも、明日からもっと大変になるかもしれませんよ。みんな、名前さんと話したがっていますので」
土井先生はふわりと目元を細めている。
……そうなのかな?すごく嬉しい。
「あの、土井先生。私、お邪魔にならないように、こそっと授業をのぞいても良いですか……?」
「いいですけど……、興味があるんですか?」
「忍者に憧れてたので……!」
「名前さんが元いた所には忍者はいたのですか?」
……元の世界。どうだったのだろうか。
頭にモヤがかかったみたいで、上手く思い出せない。なんだか惨めな気持ちになる。
でも変に覚えていて口を滑らせることも怖った。
そして……覚えていないからか、寂しさも感じなくて。知らない、覚えていない方が気持ちが楽かもしれない。
「忍者……いたのでしょうか。元の世界のこと、あまり覚えていなくて」
「……そうでしたね。失礼しました」
土井先生は気まずそうに身を縮こませた。
元の世界でも、同じ月が輝いてるのだろうか。夜空を見上げながらぼーっとしてしまう。
「さ、冷えてしまいますから。もう休みましょう。明日、寝坊しないように起こしましょうか?」
「いえいえ、お気遣いなくっ」
小首を傾げながら、にこっと聞いてくる土井先生がなんだか色っぽい。男の人に言うのも変かもしれないけれど……。
「おやすみなさい、名前さん。ゆっくり休んでくださいね」
優しくかけられた言葉が眠りに誘うようだったが、先生の寝巻き姿を思い出して……やっぱり眠れないかもしれないと思うのだった。