第23話 珍しい三人で

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だんだん夏が近づく。
お昼頃はとくに熱い日差しが突き刺さる。お手伝いの合間、食堂の勝手口から外に出ると大きく背伸びし深呼吸した。

ランチも終盤、それから夕飯の仕込みだ。「どこんじょー!」で頑張ろう。なんて、すっかり口癖がうつってしまった。



そとの風にあたり調理場に戻ると、何やら女性と野村先生の話し声が聞こえてきた。

どこんじょー!と叫ぶ声に、意識をすべて持っていかれる。……何だろう? 思わずカウンター越しにおばちゃんへ声をかけた。


「おばちゃん、あの女性は……?」

「あら、初めてだったのね! 北石照代先生。前にここで教育実習をされたの。食堂のご飯をよく食べに来てくれるのよ」

「そうなんですね! 優秀なくの一さんなんだ」

忍びの厳しさに涙したのにも関わらず、やっぱり憧れの気持ちは抑えきれなくて。北石先生は、クリッとした瞳にたっぷりとした髪がとても可愛らしい。


「北石先生、ちょっといいかしら」

「どうしたのおばちゃーん?」


野村先生と話している北石先生に、おばちゃんが割り込んだ。私のことを紹介してくれるみたいで、おいでと手招きされる。カウンターから二人のいるテーブルへと向かった。


「こちら、新しく学園のお手伝いとして働いてる名前ちゃんって言うの。今日のランチのお味噌汁を作ってくれたのよ」

名前と言います。よろしくお願いします!」

「彼女は訳あって、ド根性バカの大木雅之助に拾われ学園で働いているのです。……なんて不憫なっ!」

「野村先生、いえ、あの……。森で倒れていたところ、大木先生に助けていただいて。身寄りがなくって、こちらでお世話になっているんです」

名前さん、色々と大変だったんですねぇ。あ、私、北石照代ですっ。よろしくね!」


野村先生が変なことを言うので慌てて訂正する。まったく野村先生も雅之助さんも……相変わらずの様子に苦笑いだ。


「北石先生って優秀なくの一なんですよね?! さっきおばちゃんから聞きました」

「いやだぁ。優秀だなんて、褒められると照れちゃう!」

「じつは、私、くの一に憧れてて……」

「あら、そうなの!? 憧れてるとこ悪いんだけど……私、教育実習不合格だったのよね。でも、変装してお城に潜入したり……。結構頑張ってるかもっ」


こんなに太陽みたいに明るくて、影なんてないような女の子が。くの一なんだと思うと、尊敬と心配と憧れと……。色々混ざって複雑な気持ちになる。

武勇伝や利吉さんとの仕事について話してくれて、その度にうんうんと食い入るように北石先生を見つめた。


「……北石くんはもう少し頑張った方がいいんじゃないか?」

野村先生が鋭いツッコミをいれると、北石先生は思うところがあるのか、えへへ……と笑っていた。

「まぁまぁ、野村先生。私、くの一の方に教えてもらいたいことがありまして……」

「なになにー? 何でも聞いてっ!」


目を輝かせてぐっとこちらに寄ってくる北石先生に気圧されながら、ずっと気になっていた術を聞いてみることにした。忍術の初級本には書いてなかったのだ。


「前に大木先生から、ぼうちゅう術を教えてやるって言われて。ずっと気になってたんです。虫とか関係あるのかなって……」


「「……!?」」

「ちょっと! そんなこと言われたの?!」

「あのバカッ……!」

北石先生も野村先生もがばっと立ち上がり、顔を真っ赤にして怒っている。なんだか悪い予感がして、聞いてしまったことを後悔した。……雅之助さんは、私に何を教えようとしたんだろう。

北石先生にガシッと両肩を掴まれよろめく。顔を寄せたと思ったら、こそこそと耳打ちされる。


「……色を使うってこと。それで情報を盗み出したりスキを突いて逃げるの」

「い、色って、つまり……」

「そうよ、女の武器ね」

「そ、そんな術だったんだ……! 大木先生ってば、からかうなんて酷い。文句を言いたい気分ですっ」


虫なんかひとカケラも関係なかった。恥をかいてしまって、雅之助さんに一言いってやりたい気分だ。からかうのも限度がある。


名前さんが何も知らないからって、ちょっとやり過ぎよねー!」

「貴女にそんな無礼なことをっ! まったく、酷いヤツだ! この私が納豆をお見舞いしてやりますよ」

……私もそう思います。
野村先生に加勢してしまいそうになる。

ふとおばちゃんの怖い目線に気付いた。食堂で騒いでいると大きな雷が今にも落ちそうで、慌てて話題を変える。


「き、北石先生っ。さっき、どこんじょー!って言ってましたけど……どうされたんですか?」

「そうそう。前に、忍務に失敗して落ち込んでたとき、大木先生にご飯をご馳走になって。どこんじょー!で励ましてもらったの。だから、私の座右の銘なんだっ」

「へえ、そんなことがあったんですね! ……同じ人とは思えないですけど」

「本当よね〜!」

北石先生と二人であははと笑い合う。そんな事があって、照代さんは大木先生を尊敬していると言っていた。同じ気持ちを分かち合えたからか、嬉しくてたまらない。


元をたどると、北石先生が食べていたラッキョの小鉢から大木先生の話になったようだ。

私が初めてこの世界に来た時も、温かいご飯を振る舞ってくれて。思い返すと、その懐の深さと優しさが胸に込みあげる。ついさっき怒ったのも吹き飛んでしまうほどだ。


「アイツに、そんな面倒見の良いところがあったなんて……!」

「野村先生。大木先生だって、良いところあるんですよ?」

名前さんの言う通り! サイテーなところもありましたけど。大木先生の本当の姿を見に、みんなで杭瀬村に見にいきましょーっ!」

「えぇっ!? 今からですか?」


さ、サイテーって!
直球すぎて吹き出しそうになったのに、いきなりの提案で笑いが引っ込んでしまった。

おばちゃんをうかがうと、「いってらっしゃいな」と声を掛けてくれる。雅之助さんに夏休みのことを相談しなきゃいけないし、ありがたく一緒について行くことにした。


「私、着物に着替えるので門の前で待っていていただけますか?」

北石先生達にそう告げて、慌てて自室に戻り藤色の着物に袖をとおす。ちょっとだけリップも直しちゃおう。……気づかれないかもしれないけど。


バタバタしていたからか、隣で仕事をしていた土井先生が様子を見に部屋から出てきた。ちょうど障子を開けたところで視線がぶつかる。


名前さん、外出するのかい?」

「はい。野村先生と北石先生と杭瀬村に行くことになりまして」

よく考えたら変な組み合わせに、変な行き先だ。もじもじ困っていると、珍しいと笑われてしまった。


「不思議な組み合わせだな」

「あはは……私もそう思います。かくかくしかじかでして。あと、夏休みのことをお伝えしなきゃですし」

「そ、そうか。気をつけて」

夏休み、先生ときり丸くんと過ごす約束が頭をよぎる。何となく恥ずかしくて落ち着かない。先生も夏休みに反応したのか、少しそわそわしているようだ。



廊下を早足で進み門へと向かう。前を向いているはずなのに、うつる景色は頭の中を素通りしていく。

雅之助さん、夏休みはどんな予定を考えているんだろう。勝手に杭瀬村に帰るつもりでいたけれど、もしかして私が学園で過ごすと思ってたら……? それとも、土井先生の家に行くっていったら、怒られるだろうか。

グルグル考えていると、あっという間に待ち合わせた場所についた。野村先生と北石先生はすでに門で待っている。

出門票にサインをしてから三人で杭瀬村へと歩を進めた。



「この三人で大木先生に会いに行くなんて、面白いですよね」

「ほんとー! ね、名前ちゃんでいいかしら? あと、私のことは照代でいいから! 先生って言われると照れ臭くて」

「はいっ、もちろん。じゃあ私も……。照代ちゃんで」

照代ちゃんと流行りの化粧やら髪飾りやら、女の子同士できゃっきゃお話しするのが楽しくて。野村先生を置き去りにしてしまいそうだった。

「野村先生、そんな怖い顔しないでください。きっと、新たな大木先生が見られますよ」

「あいつに、そんなところがあるのか……? うーん……」





「杭瀬村に着きましたっ!」


久しぶりの杭瀬村は、いつもと変わらない穏やかさだ。野菜畑が広がり、のびのびと成長している。

こそこそと三人で木の影に隠れながら、畑で作業をする雅之助さんを観察する。

大きな身体を屈ませて、雑草をとったり野菜にほほ笑んでいる。わが子のように接する姿をそっと見つめた。


「野菜になにか語りかけてるのかな」

「きっと、おいしく育つんだよって言ってるのよっ」

「うむ。読唇術で……」

さすが野村先生。唇の動きが読めるなんて……! 感心していると、わなわなと震え大声で叫び飛び出していった。


「「……!?」」

照代ちゃんと、顔を見合わせる。


「大木雅之助ー! 野村のキザ野郎とはなんだーッ!」

「よぉ、野村。お前がキザだって野菜たちに教えてやってたんだ!」

雅之助さんも立ち上がって二人で取っ組み合いが始まった。


「私たちのこと、気付いていたんだね」

「そうみたいね、さすが大木先生……!」


やっぱり忍者の先生には敵わない。こんな遠くにいるのに気配に気づくなんて。そしてこの距離で何を言っているか解読できる野村先生もすごい。

畑でボコボコやり合って、両者掴みあい止まったところで声をかけた。


「あのー! もうその辺でっ、やめにしませんかー?」

照代ちゃんと大きく手を振る。雅之助さんも野村先生からパッと手を離しこちらに向き直った。


「おぉ! よく来たなあ!」

「おい! まだ勝負はついてないぞ?!」

雅之助さんは野村先生を無視してこちらに大股で歩いてくる。


「どうしたんだ? みんな揃って、珍しいなあ」

「「私たち、大木先生の本当の姿を見に来たんですっ!」」

「……はぁ。で、本当の姿とやらは見られたのか?」

照代ちゃんと堂々と言っては見たものの答えに困ってしまった。ごまかし笑いをしながら苦し紛れに答える。

「いやー、あの……どうなんでしょう。照代ちゃん?」

「わ、私?! えーっと、忍者としては一流と思います、けど……」

「なんだあ? 二人して」

本当は尊敬されるような素晴らしい一面があるのでは……なんて思っていたけれど、やっぱりいつも通りの雅之助さんで。照代ちゃんと目配せすると同時に吹き出した。雅之助さんは不思議そうな顔でこちらを見つめるばかりだ。


「私はもう帰る! 北石くん、名前さんも帰りますよ!」

「ええっ、今来たばかりなのにぃ〜っ!」

「そうですよ! 私、ご飯作りますからみんなで食べましょうよ」

「ダメだー! 野村はわしの家には上がらせんぞ! ……名前っ。お前は畑を手伝え!」

もう、本当に大人げないんだから。ケンカするほど仲が良いと言うものの、少しは落ち着いて欲しい。畑仕事はもちろん手伝うけれど……。雅之助さんに冷たい視線を送るも本人はどこ吹く風だ。


「はいはい野村先生、わたしと帰りますよ!」

「照代ちゃん、野村先生っ……!」

名前ちゃんは大木先生を何とかして! また今度、食堂に行くわね」

この場を収めるため、照代ちゃんが野村先生を引きずって行く。

……せっかくみんなでご飯を食べられると思ったのに。ケンカしてバタバタして終わってしまった。「また来てくださいねー!」と力いっぱい叫んで手を振る。

照代ちゃんとお団子屋さんに行ったり、街で一緒にお買い物もしたいなという気持ちを込めて、二人の後ろ姿を見送った。



「……行っちゃったな?」

「雅之助さんのせいですよ!?」

ニヤリと口角を上げる姿に思わずキッと睨む。でもそんな事気にせず、人の話を聞いてないように豪快に笑っているのが雅之助さんらしい。


名前、悪いが少し畑を手伝ってくれ」

「はーい」

夕飯の支度まで、二人で雑草を取り除いたりラッキョを収穫したり。ときどき離れたところから様子を見に来てくれて、その気遣いに嬉しくなる。久々の畑作業は大変だったけれど、体を動かして汗をかくのは心地よかった。




――日が傾き始めた頃

「そろそろご飯の支度しますね」

「残らせてしまったが、学園の仕事は大丈夫だったのか?」

「はい、おばちゃんにも伝えてありますので」

いまさら心配されて苦笑してしまう。私のこと、とっさに引き留めたのかな?なんて勝手に考えてほほが熱い。バレないように手の甲をほほに当て、その熱を冷ました。





家に戻ってトントンと野菜を切っていく。今晩は野菜の煮物とご飯にしよう。ラッキョ漬けもあるし……。

支度が終わり、あたりに美味しそうな香りが立ち込めると、釣られたように雅之助さんが帰ってきた。


「美味そうだな! ずいぶんと上達したじゃないか」

「ありがとうございます! きっと、美味しいです」


自信を持ってほほ笑むと、囲炉裏をかこんでご飯をいただく。

質素だけれど素材は採れたてものだから、それだけで贅沢だ。口いっぱいに頬張って食べてくれる姿にほっと安心する。


前に帰った時は乱太郎くんたちと一緒だったから、二人きりなのは久しぶりだ。そんな風に考えたとたん、またドキドキしてきた。しかも、伝えなきゃいけないこともある。


もぐもぐ食べていたご飯を置いて、こくりとお茶を流し込む。ひと呼吸おいてから、「忘れないうちに……」とぽつり切り出してみた。変に緊張して額に汗がじわりとにじむ。


「あ、あの。夏休みのことなんですけど……」

「ああ、もうすぐだったな! もちろん、帰ってくるんだろう?」

「ありがとうございますっ! 学園に留まっていた方がいいのかな……と思ったので」

「はあ? 人のいない学園にお前を置いておく訳にいかないだろう。まったく、変に気をつかうのはやめてくれ」

「……言ってみただけですっ」

いたずらっぽく言うと、雅之助さんはやられた!と笑っている。仕切り直すようにコホンと咳払いしてから姿勢をただした。


「あと、ちょっとご相談が……」

「今度はなんだ」

「夏休みの後半は、土井先生のお家でお世話になることになりまして……。きり丸くんのアルバイトを手伝いたくって」

なんて言われるだろうか。
叱られる生徒の気持ちで縮こまる。


「ほぉ……大変だな。わしに遠慮しないで、ずーっと土井先生のお世話になってもいいんだぞ?」

「えっ…、あの……」

畑はどうするんだ!って怒られると思ってたのに。何ともない顔で突き放されたような事を言われて、頭が真っ白になる。

急にどうしようもなくなって、顔を見られたくなくてうつむく。私は、自分の気持ちは……。何と言って欲しかったのだろう……?


「……なんて、わしが言うとでも思ったか」

「び、びっくりしました……!」


その言葉に驚き顔を上げる。
雅之助さんはあぐらに肘をつき、グッと身を乗り出して見つめてくる。その視線に心が読まれてしまいそうだ。もう食事どころではなくなってしまう。


「まあ、きり丸もいるし変なことは起こらないだろう。……なあ、名前?」

「へっ、変なことなんて! ないです、そんなっ」

「慌てすぎだ」

「そんなこと……!」

「夏休みは、どこんじょー!で畑の手伝いをしてもらうからな」

雅之助さんはくつくつと喉を鳴らして笑っていた。いつもこの人には振り回されてばかりだ。まったくもう……と小さくつぶやいた。



夕食もなんとか食べ終わって片付けが済むと、学園へ帰る時間が近づく。

「こんなに遅くなってすみません」

「泊まっていってもいいんだぞ?」

「いえっ! みんな心配しますし、仕事もありますので」

「真面目なやつだ」

無断で泊まったりしたら学園のみんなにすごく心配をかけてしまう。おばちゃんに夕食を任せてしまった手前、明日は朝から頑張りたかった。





日が落ちて、濃い青紫と橙色が混じる空のした。カタンと戸口を閉めると薄暗くなった道を歩いていく。


「いきなり訪ねてきて、帰りも送ってもらって……。ご迷惑でしたよね」

「野村だけ迷惑だったな」


迷惑だったかと名前に聞かれて、冗談めかして答える。いきなり北石照代と野村雄三と現れて驚きはしたが、名前が来てくれて純粋に嬉しかった。だからこそ、来て早々に三人で帰るのかと思ったら慌てて引き留めてしまったのだ。


鼻歌まじりに歩く名前にチラリと目をやる。夕飯の時とは打って変わって上機嫌だ。


バツが悪そうに、何を言うかと思えば夏休みのことで。土井先生の家に泊まると言うから、わざと試すようなことを言って大人気ない。ダメだなんて言う権利はないのに。

むしろそれが彼女の気持ちだったら、好きなようにさせてやるべきだろう。でも、あの表情はなんなんだ? 自覚がないのか、気を持たせるようなことをして。


二人並んでゆっくりと砂利道を進む。
時折り、暗くて足元が見えずコケそうになる名前をしっかり抱きとめた。


「そうそう、前に教えてくれるって言ってたぼうちゅー術ですけど。照代ちゃんに聞きました。私が何も知らないからって、からかうのは酷いです!」

「はあ、そんなこと言ったか?」

「覚えてないんですか?!」

唇を尖らせてなじる名前に口元がゆるむ。からかってそんなことを言ったのかもしれない。ずっと気にしていたと思うと、おかしくて吹き出しそうになる。


「ま、くのいちの術などお前には必要ないしな。そもそも、そんなこと……好いた男以外にできないだろう?」

「……分かりませんよ?」

「お、言うなあ!」


予想外の意地っ張りな彼女に一瞬驚く。だが、そんなことを言われると……。イタズラ心がむくむく湧きあがり抑えられない。


名前の細い腰をぐっと抱き寄せる。

その勢いによろけるのも構わず、手のひらを沿わせる。体の柔らかさを堪能するように、やわやわとでん部からわき腹を撫であげていく。布ごしに伝わる感覚がたまらない。

初々しくこわばる体を無視して、さらにその上の膨らみへと滑らせようとしたとき。


ぎゅっと手を掴まれ、動きを止められる。


「だ、だめですっ! 何するんですか急にっ……!」

「さっきの勢いはどうした?」

「それは、その……」

「これくらいで根を上げるようじゃ、まだまだだ」

ニヤリと口角を吊りあげる。怒ってこちらを見上げる名前と視線がぶつかった。恥じらいを含んだ瞳に睨まれても、痛くも痒くもない。もっと困らせてやりたくなるだけだ。


「……もうっ」

「悪かった! そう怒るな」

可愛い反応をするものだからこれ以上はかわいそうで、わしわしと頭を撫でてやる。


「夏休み、楽しみにしてるぞ」

止まった足を再び動かす。名前に合わせて、のんびり学園へと歩を進めるのだった。





忍術学園へと帰る道すがら。

「北石くんッ! なんで名前さんをおいて帰るんだ!」

「野村先生、またすぐ大木先生とケンカを始めるじゃないですかっ。結局、お二人とも大人げないことはよーく分かりました!」

「大人げないとは失礼な!」

「ケンカするからです!」

「……はあ。大木雅之助のところなんかに置き去りにされて可哀想に!」

「ケンカするからですっ」


何で私が野村先生を学園まで送らなきゃいけないのかしら! ……もう、食堂で夕飯も食べちゃおっと。




(おまけ)

外は日が暮れて月がうっすら輝き出すころ。

職員室で、は組用のテストを作っているが……。手は止まり気はそぞろで全く進まない。

夕食時に名前さんはまだ帰っていないようで、おばちゃん一人で忙しくしていた。野村先生は帰ってきていたのに。北石くんはなぜか食堂で夕飯を食べていたし……。


「山田先生、ちょっと門を見てきます」

「半助、また名前くんか? 大木先生がいるから大丈夫だろうに。心配性だなぁ」


山田先生に何と言われようと、気になるものは仕方がない。早足で門へ向かうと、ちょうと名前さんが入門票を小松田くんに手渡しているところだった。


名前さんっ! 遅いじゃないか」

「土井先生すみません、色々ありまして……。小松田くん、遅くにごめんね」

「いーえ、ぼくは大丈夫です! これが仕事なので」

小松田くんが得意げに入門票を抱えて事務室へ戻っていく。


「まさか一人で帰ってきたのか?!」

「いえいえ、門の前まで大木先生に送っていただきました」

「そうだったのか。……あの、例の件大丈夫だったかい?」

「はい、きり丸くんがいるから大丈夫だろうって」

「そ、それは……」

くぅ……。これは暗に牽制されている気がする……!

「なので、夏休みよろしくお願いしますねっ」

笑顔の名前さんに、「こちらこそ……」と力なく答える。乾いた笑いをこぼしつつ、ご機嫌な彼女と二人で教員長屋へ戻っていった。



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