第4話 寝巻きとお布団
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燭台の灯が、暗い室内をほのかに照らす。
穏やかな顔ですやすや眠る名前を見つめ、頭を撫でる。ん……ともらし、寝返りを打つ彼女の布団がはだけてしまったのを掛け直すと文机に向かった。
……今日は思いもよらない一日だった。
森の中で突然出会った名前という女は、容姿も話している内容も摩訶不思議であった。
話ぶりや持ち物から、まるで遠く離れた未来から来たようだった。彼女は、あまりにも異質なものに囲まれている。もともと迷信など信じないタチの自分でも、彼女の身に起こっていることは信じざるを得なかった。
先ほど、ぽろぽろ涙をこぼして泣いていたのは……。張り詰めていた気持ちがぷつりと切れてしまったからだろうか。
いつもであればどこんじょー!と励ますところだが、自分に見せたその弱々しい姿に思わず抱き寄せてしまいそうになる。その衝動をなんとか抑えて、大丈夫だと言うように背中を撫でるしかなかった。
早く元の世界に戻してやりたい。だが、どうすることも出来ずもどかしい。
そんな事を思いながら筆や墨などを取り出す。
自分ひとりで対処するのは悪手だろう。忍術学園の学園長である大川平次渦正に事の経緯を伝えるため、さらさらと筆を走らせる。
……万が一、ドクタケやタソガレドキなどの敵対している城に情報が漏れたら厄介だ。
それに、物珍しい彼女を攫って戦を有利に進めるため利用するかもしれない。もしくは、彼女が光ったと言っていた紙切れを奪おうとするかもしれない。
彼女をこの家に匿っておくよりも、一流の忍びで固められている忍術学園で過ごさせた方が安心だ。
……文を書き終えると道具をしまって灯りを消した。
――暗闇に月明かりが差し込む。
時折、さわさわと木々が揺れる音が微かに聞こえるくらいで、静けさに包まれている。
部屋の奥に名前を寝かせて、自分は囲炉裏を挟んだ端に布団もひかずゴロリと寝転がる。
男ひとりでの生活では必要最低限の物しか用意しておらず、ましてや客用の布団などあるはずもなかった。
眠ろうとするが、同じ空間に女がいるという事実にソワソワしてしまう。かつて、忍たま達に「忍者の三禁」などと教えていたが……。実際はなかなか厳しいなと苦笑する。名前を見ないよう寝返りを打ち、無理矢理まぶた閉じた。
*
――空が白んできた頃。
ゆっくりと瞬きをして、天井をぼんやりとみつめる。
あぁ、やっぱり夢じゃないのか……。
少し残念に思いながら身じろぎすると、視界の端に雅之助さんが入った。
あれ……?
床板にそのまま寝てる……!?
私に使わせてくれたから、雅之助さんの布団がないんだ。風邪でもひかせてしまったらどうしよう。申し訳なさすぎる!
ガバッと勢いよく起き上がり、ぐーぐー寝ている雅之助さんに慌てて掛け布団をかけた。
床に膝をつき、その寝顔をのぞき込む。だらしなく口を開けて寝ている姿がおかしくて、くすりと笑う。
その動きで彼を起こしてしまったようだ。
「……あぁ、もう起きてたのか」
「はい。あの、お布団……すみません」
寝ぼけた声で目をこすりながら、雅之助さんは床に手をつきゆっくり上半身を起こした。おはようよりも先に布団のことを謝るも、ぼーっとしている。
「っ、……おい!」
「な、なんですか?急に……」
急に大声で叫びながら指をさされ、ビクッとする。
雅之助さんがお前、その格好は……!とたじろいていた。視線をあちこちに彷徨わせて言うものだから訳がわからない。
……なんだろう?と思いつつ、指さされた自分の姿をうつむいて見てみる。
「あー!す、すみませんっ!……って、どこまで見たんですか!?」
慣れない寝巻きで気付かなかったけれど、胸元や裾などがはだけてしまっていたようだ。勢いよく隠しても、もう遅いかもしれない。恥ずかしさで顔も身体も熱くなる。
……朝からなんてことだろう。
雅之助さんは見てないとしきりに言っているが、絶対ウソなのは明らかだ。
そもそも自分の確認不足だし、雅之助さんは悪くない。……そう、頭では分かっている。でも恥ずかしさと気まずさに居たたまれず、そそくさと井戸へと逃げた。
――ぴちゃぴちゃ
井戸の水を汲むのはなかなか難しく、何度もつるべを落としては引き上げながら井戸水を汲み上げる。
ひんやりした水で顔を洗うと気持ちが少し落ち着いてきた。
その後は、昨日のように雅之助さんが手際よく朝食の準備をする横で私も見学させてもらう。
あんな事があって気恥ずかしかったのに。薪をくべたり、かまどを難なく使いこなす様に目を奪われ、恥ずかしさなんかどこかへ飛んでいってしまったようだった。
今日は野菜を切ったり、火を起こすのを一緒に手伝わせてくれた。手本を見せながら一所懸命に教えてくれる姿に、こんな先生がいたら良いな……と思う。
*
――太陽の光が柔らかく降りそそぐ昼下がり。まさしく春の陽気だった。
名前は擦りむいた足を気遣うから、変な歩き方だ。それでも、ケロちゃんとラビちゃんと野菜畑を散歩している。
それを遠くから眺めながら、今朝起き抜けに見た彼女のあられもない姿を思い出してひとり赤面する。
はだけた胸元からは、すっと浮き出た鎖骨やふっくらした膨らみがチラリと見えて。緩くなって役目を果たさない腰紐のせいで白く柔らかそうな太ももが露わになっていた。
その姿に思考が奪われる。
……まずい。
邪念を振り切ろうと、ぶんぶんと頭をふってどこんじょー!と叫ぶ。
「雅之助さーん!野菜畑の雑草取り、お手伝いしますっ」
名前がこちらに駆け寄ってきたので慌てて平静を装う。彼女はを手伝いたいと言っているが、本当はまたあの森に行きたいのかもしれない。遠慮しているのだろうか。
「手伝いは嬉しいが、また今日もあの森の中を調べなくて良いのか? 一緒に見てやるぞ」
「うーん、でも……」
「どうした?」
少し悩んだ様子だったが、お手伝いしたくて……とにこにこしながらこちらを見上げている。
世話になるばかりで気が引けるのだろうか。その気遣いがこそばゆい。その気持ちを無下にするわけにもいかず、さっそく雑草の見分け方を教えてやった。
――そんな風にのんびりと過ごしているうち、だんだんと太陽が沈んでいく。
辺りが少しづつ薄暗くなり始めると、作業を切り上げて雅之助さんとお家に戻った。
一緒に夕飯を作って、二人でいただく。
採れたての野菜を存分に楽しめるなんて、すごい贅沢だ。もぐもぐ頬張りながら美味しさを噛みしめる。
ぽつぽつとたわいもない話をしながら、気になっていたことを聞いてみた。
「……あの、なんでラッキョを熱心に育てているんですか? ラッキョが好きって、珍しい気がしたので」
「そうだなあ」
どちらかと言うと主役を映させる役目という感じがして、ずっと不思議だった。真剣な眼差しでラッキョ達に話しかけてるし……。
「美味いだろう!それに……」
「それに……?って、あ、あの!今夜はお布団使ってくださいね?」
最初はにこにこ得意げだったが、急に何かを思い出したのか険しい雰囲気で口端をピクピクさせている。ただならぬ様子にすぐさま話題を変えた。何か気に触ることを言ってしまったのだろうか。誰かのことを言っていたような、でも聞き間違いかもしれない。
すると、先ほどの殺気がすーっと消えていった気がする。今度は少し驚いた表情だ。
「お前を床に寝かせられるワケないだろう!わしのことは大丈夫だ」
「雅之助さんが風邪でもひいちゃったら、わたし……」
まったく譲る気がない様子で困ってしまう。
雅之助さんは面白い事を思いついたと言うようにニヤリと口角を上げて、あぐらに肘をつき身を乗り出した。
な、なんだろう……?
試すような目つきにたじろぐ。
「……じゃあ、名前。わしと一緒の布団で寝るしかないな?」
「え!? えっと……!」
「冗談だ。気にしないで使いなさい」
衝撃的な発言にあたふたしていると、雅之助さんはニカッと笑いながら立ち上がり、くしゃっと頭を撫でてくる。そのまま食器を洗うため井戸の方へ行ってしまった。
チラリと覗く犬歯と人懐っこい垂れ目がいたずらっ子の雰囲気を強めていて。
「……もう。からかわないでくださいってば」
熱くなった頬をおさえてぽつりと呟く。
――夜。
まだ、どきどきした気持ちを引きずりながら布団に寝転がる。
よく考えてみたら、雅之助さんの布団に着物。全て彼のもので包まれている。恋人でもない、ましてや会ったばかりの男の人なのに。朝の出来事も相まって、恥ずかしくて身体がかあっと熱くなる。
掛け布団をすっぽりかぶる。
ドキドキした気持ちを紛らわせようと、無駄にころころと寝返りを打つしかなかった。
穏やかな顔ですやすや眠る名前を見つめ、頭を撫でる。ん……ともらし、寝返りを打つ彼女の布団がはだけてしまったのを掛け直すと文机に向かった。
……今日は思いもよらない一日だった。
森の中で突然出会った名前という女は、容姿も話している内容も摩訶不思議であった。
話ぶりや持ち物から、まるで遠く離れた未来から来たようだった。彼女は、あまりにも異質なものに囲まれている。もともと迷信など信じないタチの自分でも、彼女の身に起こっていることは信じざるを得なかった。
先ほど、ぽろぽろ涙をこぼして泣いていたのは……。張り詰めていた気持ちがぷつりと切れてしまったからだろうか。
いつもであればどこんじょー!と励ますところだが、自分に見せたその弱々しい姿に思わず抱き寄せてしまいそうになる。その衝動をなんとか抑えて、大丈夫だと言うように背中を撫でるしかなかった。
早く元の世界に戻してやりたい。だが、どうすることも出来ずもどかしい。
そんな事を思いながら筆や墨などを取り出す。
自分ひとりで対処するのは悪手だろう。忍術学園の学園長である大川平次渦正に事の経緯を伝えるため、さらさらと筆を走らせる。
……万が一、ドクタケやタソガレドキなどの敵対している城に情報が漏れたら厄介だ。
それに、物珍しい彼女を攫って戦を有利に進めるため利用するかもしれない。もしくは、彼女が光ったと言っていた紙切れを奪おうとするかもしれない。
彼女をこの家に匿っておくよりも、一流の忍びで固められている忍術学園で過ごさせた方が安心だ。
……文を書き終えると道具をしまって灯りを消した。
――暗闇に月明かりが差し込む。
時折、さわさわと木々が揺れる音が微かに聞こえるくらいで、静けさに包まれている。
部屋の奥に名前を寝かせて、自分は囲炉裏を挟んだ端に布団もひかずゴロリと寝転がる。
男ひとりでの生活では必要最低限の物しか用意しておらず、ましてや客用の布団などあるはずもなかった。
眠ろうとするが、同じ空間に女がいるという事実にソワソワしてしまう。かつて、忍たま達に「忍者の三禁」などと教えていたが……。実際はなかなか厳しいなと苦笑する。名前を見ないよう寝返りを打ち、無理矢理まぶた閉じた。
*
――空が白んできた頃。
ゆっくりと瞬きをして、天井をぼんやりとみつめる。
あぁ、やっぱり夢じゃないのか……。
少し残念に思いながら身じろぎすると、視界の端に雅之助さんが入った。
あれ……?
床板にそのまま寝てる……!?
私に使わせてくれたから、雅之助さんの布団がないんだ。風邪でもひかせてしまったらどうしよう。申し訳なさすぎる!
ガバッと勢いよく起き上がり、ぐーぐー寝ている雅之助さんに慌てて掛け布団をかけた。
床に膝をつき、その寝顔をのぞき込む。だらしなく口を開けて寝ている姿がおかしくて、くすりと笑う。
その動きで彼を起こしてしまったようだ。
「……あぁ、もう起きてたのか」
「はい。あの、お布団……すみません」
寝ぼけた声で目をこすりながら、雅之助さんは床に手をつきゆっくり上半身を起こした。おはようよりも先に布団のことを謝るも、ぼーっとしている。
「っ、……おい!」
「な、なんですか?急に……」
急に大声で叫びながら指をさされ、ビクッとする。
雅之助さんがお前、その格好は……!とたじろいていた。視線をあちこちに彷徨わせて言うものだから訳がわからない。
……なんだろう?と思いつつ、指さされた自分の姿をうつむいて見てみる。
「あー!す、すみませんっ!……って、どこまで見たんですか!?」
慣れない寝巻きで気付かなかったけれど、胸元や裾などがはだけてしまっていたようだ。勢いよく隠しても、もう遅いかもしれない。恥ずかしさで顔も身体も熱くなる。
……朝からなんてことだろう。
雅之助さんは見てないとしきりに言っているが、絶対ウソなのは明らかだ。
そもそも自分の確認不足だし、雅之助さんは悪くない。……そう、頭では分かっている。でも恥ずかしさと気まずさに居たたまれず、そそくさと井戸へと逃げた。
――ぴちゃぴちゃ
井戸の水を汲むのはなかなか難しく、何度もつるべを落としては引き上げながら井戸水を汲み上げる。
ひんやりした水で顔を洗うと気持ちが少し落ち着いてきた。
その後は、昨日のように雅之助さんが手際よく朝食の準備をする横で私も見学させてもらう。
あんな事があって気恥ずかしかったのに。薪をくべたり、かまどを難なく使いこなす様に目を奪われ、恥ずかしさなんかどこかへ飛んでいってしまったようだった。
今日は野菜を切ったり、火を起こすのを一緒に手伝わせてくれた。手本を見せながら一所懸命に教えてくれる姿に、こんな先生がいたら良いな……と思う。
*
――太陽の光が柔らかく降りそそぐ昼下がり。まさしく春の陽気だった。
名前は擦りむいた足を気遣うから、変な歩き方だ。それでも、ケロちゃんとラビちゃんと野菜畑を散歩している。
それを遠くから眺めながら、今朝起き抜けに見た彼女のあられもない姿を思い出してひとり赤面する。
はだけた胸元からは、すっと浮き出た鎖骨やふっくらした膨らみがチラリと見えて。緩くなって役目を果たさない腰紐のせいで白く柔らかそうな太ももが露わになっていた。
その姿に思考が奪われる。
……まずい。
邪念を振り切ろうと、ぶんぶんと頭をふってどこんじょー!と叫ぶ。
「雅之助さーん!野菜畑の雑草取り、お手伝いしますっ」
名前がこちらに駆け寄ってきたので慌てて平静を装う。彼女はを手伝いたいと言っているが、本当はまたあの森に行きたいのかもしれない。遠慮しているのだろうか。
「手伝いは嬉しいが、また今日もあの森の中を調べなくて良いのか? 一緒に見てやるぞ」
「うーん、でも……」
「どうした?」
少し悩んだ様子だったが、お手伝いしたくて……とにこにこしながらこちらを見上げている。
世話になるばかりで気が引けるのだろうか。その気遣いがこそばゆい。その気持ちを無下にするわけにもいかず、さっそく雑草の見分け方を教えてやった。
――そんな風にのんびりと過ごしているうち、だんだんと太陽が沈んでいく。
辺りが少しづつ薄暗くなり始めると、作業を切り上げて雅之助さんとお家に戻った。
一緒に夕飯を作って、二人でいただく。
採れたての野菜を存分に楽しめるなんて、すごい贅沢だ。もぐもぐ頬張りながら美味しさを噛みしめる。
ぽつぽつとたわいもない話をしながら、気になっていたことを聞いてみた。
「……あの、なんでラッキョを熱心に育てているんですか? ラッキョが好きって、珍しい気がしたので」
「そうだなあ」
どちらかと言うと主役を映させる役目という感じがして、ずっと不思議だった。真剣な眼差しでラッキョ達に話しかけてるし……。
「美味いだろう!それに……」
「それに……?って、あ、あの!今夜はお布団使ってくださいね?」
最初はにこにこ得意げだったが、急に何かを思い出したのか険しい雰囲気で口端をピクピクさせている。ただならぬ様子にすぐさま話題を変えた。何か気に触ることを言ってしまったのだろうか。誰かのことを言っていたような、でも聞き間違いかもしれない。
すると、先ほどの殺気がすーっと消えていった気がする。今度は少し驚いた表情だ。
「お前を床に寝かせられるワケないだろう!わしのことは大丈夫だ」
「雅之助さんが風邪でもひいちゃったら、わたし……」
まったく譲る気がない様子で困ってしまう。
雅之助さんは面白い事を思いついたと言うようにニヤリと口角を上げて、あぐらに肘をつき身を乗り出した。
な、なんだろう……?
試すような目つきにたじろぐ。
「……じゃあ、名前。わしと一緒の布団で寝るしかないな?」
「え!? えっと……!」
「冗談だ。気にしないで使いなさい」
衝撃的な発言にあたふたしていると、雅之助さんはニカッと笑いながら立ち上がり、くしゃっと頭を撫でてくる。そのまま食器を洗うため井戸の方へ行ってしまった。
チラリと覗く犬歯と人懐っこい垂れ目がいたずらっ子の雰囲気を強めていて。
「……もう。からかわないでくださいってば」
熱くなった頬をおさえてぽつりと呟く。
――夜。
まだ、どきどきした気持ちを引きずりながら布団に寝転がる。
よく考えてみたら、雅之助さんの布団に着物。全て彼のもので包まれている。恋人でもない、ましてや会ったばかりの男の人なのに。朝の出来事も相まって、恥ずかしくて身体がかあっと熱くなる。
掛け布団をすっぽりかぶる。
ドキドキした気持ちを紛らわせようと、無駄にころころと寝返りを打つしかなかった。