第2話 おじゃまします
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ガラリと戸を開けて遠慮はいらないぞ、さぁ入った入ったと促されるまま歩を進める。
知らない男の人の家について行くなんて普段ならあり得ないことだった。けれどこの状況で頼れるのは雅之助さんしかいない。
野垂れ死ぬよりはマシだと思い、もう一か八か……ついて行こうと思ったのだ。森で遭難しかけた恐怖を引きずっていたせいか、少し大胆な決断もなんともなかった。
ニカッと笑った人懐こい顔やケロちゃんラビちゃんとのやりとりから、悪そうな人ではなさそうだと感じたけれど……。
そうこうしているうちに家の中に入ってしまった。
そこは見たことのない様相の民家だった。
足元は土がそのままとなっていて少し歩きにくい。
端には風呂や炊事に使うであろう薪が積み置かれ、桶が並んでいる。
少し高くなったところが居間となっていて、そこで生活しているようだ。
「そんなにここが面白いのか?」
「す、すみませんっ!」
私があまりにもきょとんとした顔でキョロキョロしていたのか、雅之助さんが不思議そうに尋ねる。よそのお家の中をまじまじ見るなんて失礼だったなと慌てて謝るも、気にしないでいいと笑ってくれて。
ぼんやりと、私のいたところとは違う、そう感じた。もっと騒がしい……キラキラしたところから来た、気がする。
それでも、ここは懐かしいような感覚で……。
「お腹が空いただろう、今支度するから待ってろ」
ぼーっと考えていると、雅之助さんは朝ごはんの支度に取り掛かり始めていた。
いきなりお家にお邪魔して、いきなり朝ごはんをいただく状況に、頭がついていかない。お気遣いなく……と言って断ってみるも、雅之助さんは全く聞いていないようだ。
立ちすくんでいるのも何なので、履き物を脱いで揃えてから失礼しますと部屋の端にちょこんと正座する。
「それにしても、何があったんだ? お前は、ここらで見ない不思議な格好をしているしなあ。……それは南蛮のものか?」
土間に置かれた籠の山菜を選んでいた雅之助さんだったが、やっぱり私が気になるようで。作業の手を止め不思議そうな顔で問いかける。
「南蛮って……。面白いことおっしゃいますね。私、近くのお寺で桜祭りがあったので出掛けてたんです。たしか、お守りをいただいて……。でもこれ、光ったんです!……っ、くしゅん!」
……こんな場面でくしゃみをしてしまい恥ずかしい。誤魔化すように手に握っていた紙を広げてみる。
雅之助さんもなになに?と言うふうに、作業の手を止めこちらにやって来た。手元の紙を覗き込もうと距離がぐっと近くにつめられ、少しどきっとしてしまう。
「ケロちゃんに食べられちゃったのと、土で汚れて全然読めません……」
ゆっくり、これ以上破れないように広げてみる。半分くらいケロちゃんにかじられ、残りは林の中を彷徨ったせいか土で薄汚れてしまっていた。さらに、かたく握り締めていたせいでしわくちゃになっている。
雅之助さんは悪かったなとバツが悪そうに頭をガシガシと掻くけれど、いえいえそんな……なんて答える。
この状況から脱出する手がかりかもしれない。本当はそう僅かに期待していたため、希望が失われたようで残念だった。でも、ケロちゃんを悪く言いたくなくて。
――お寺にいたのに気がついたら森の中にいて、誰かに助けを求めるため歩き回っていたところ、ケロちゃん達に出会った。
これまでの状況を改めて伝える。
自分で説明していても訳がわからず落ち込む。雅之助さんも、この辺りにお寺はないしなぁと困っているようだった。二人してうーん……と黙り込んでしまう。
「……あの。ちょっと聞きたいことが」
「なんだ?」
「なんで山奥で、こんな暮らしをされているのですか?……だから私のことも珍しく見えるのかなって」
「まあ、野菜を育てているからなあ。珍しく見えるというか……お前みたいなやつは見たことがない。まったく、変なことを言いおって」
困ったように笑ってこちらを見てくる。
……え?私の方が珍しいって?
何を言ってるのか分からない。雅之助さんの方が変じゃないか。
思考が止まったかのように理解が追いつかない。頭の中がグラグラする。
「だって……こんなのって。うそ、ですよね……?」
「……いや、名前。嘘だと良いのだが。わしも訳がわからん。すまないな」
えぇ……とうろたえる。嘘だと言って欲しくて、泣き出しそうな気持ちをこらえて雅之助さんを仰ぎ見ると、どうしたものかと困っていた。
ふと肩にかけていた小さいかばんの存在を思い出してガサゴソと探す。
少しの化粧品とハンカチと、これは……。
四角い無機質の塊を手にとる。
たしか、遠くの人と話せるものだったような……?
突起を押してみるが真っ黒の面のままだった。
雅之助さんは目が点になるくらい驚いていて、じっとこちらを見ている。
「名前、なんだその手に持っているものは……?」
「これは……遠くにいる人とお話しできるものだと思います。私も記憶が曖昧で……。やっぱり、分かりませんよね」
私は半ば諦めて力なく説明すると、ちょっといいかと雅之助さんがそれを手に取り不思議そうに見ている。
「うーん、やはり見たことが無いものばかりだ。最初にお前を見た時は、どこかの姫君が逃げて来たのかと思ったが……。寺から逃げてきた訳でもなさそうだしなあ」
雅之助さんは居間のへりに腰掛け、ここがどんな所かどんな生活をしているのかを教えてくれた。初めて聞くことばかりで悲しくなる。
「私は……きっと姫なんかじゃないです」
うつむいて放心状態の私を不憫に思ったのか、雅之助さんはやさしく頭をポンポンと撫でてくれる。
そして否定も肯定もせず、山菜を抱えて井戸へ向かって行ってしまった。
……なんでこんなことに。
一所懸命に思い出そうとしても、自分の家族や小さい頃の記憶が指からさらさら落ちていく砂のようにこぼれて消えていって。
残された私は、呆然と宙を見つめ続けるしかなかった。
しばらくすると、雅之助さんがいつの間にやら食べやすいように切った山菜と、研いだお米を鍋に入れている。
私の胃袋は鉛を飲み込んだようにずしんと重く、食事をいただく気分ではなかった。
それなのに、コトコトと雑炊を煮込むにつれておいしそうな香りが立ち込めると、意に反してぐーっとお腹が鳴ってしまって。
「……すみませんっ」
「いいことだ。お腹を空かせた方がより美味しくなるぞ!」
恥ずかしくて咄嗟にお腹を押さえる。雅之助さんは鍋をかき混ぜながら、嬉しそうに目を細めていた。
「できたぞ、こっちに来い」
ずっと部屋の端っこに小さく座っていた私に呼びかける。長く正座していたせいかうまく歩けず、よろよろと壁伝いに歩く。そんな姿に雅之助さんは、どこんじょーだ!名前!と豪快に笑うのだ。
お椀にあつあつの雑炊をよそってもらい、ふぅふぅと冷ましながら一口いただく。素朴ながら旬の山菜の味が際立ち、色々な食感が楽しめてとても美味しかった。
なんだか先ほどまでの重苦しさが解けて行くようで、美味しいご飯の力ってすごいなと改めて思う。
「とっても美味しいです……!」
自然に笑みがこぼれる。まったく……現金なやつだなんて笑われたけれど、そんなやり取りが嬉しかった。
「……あの、突然お家にお邪魔しちゃいましたが、奥さまにお断りせず大丈夫でしたでしょうか……?」
快くお家に入れてくれたものの、いきなり押しかけた形だ。今さらだけど申し訳なさでいっぱいになり恐縮しながら聞いてみる。
「わしは一人で暮らしているから、嫁さんはいない。だから心配はいらん」
「そうなんですね。……失礼しました」
「あぁ、もちろんお前を襲ったりしないから安心して良いぞ!」
自信満々に言うものだから…。
それ自分で言います?なんて会ったばかりなのにも関わらず突っ込んで、くすくすと笑ってしまった。
「いい顔だ」
「……ありがとうございます」
思いがけない、優しい言葉に胸が熱くなる。
……なんだか涙が出そうだ。
でもこんなところに一人で住んでいるなんてやっぱり何か理由があるのかな?などと思ってしまう。
聞いて良かったのか、少し気まずい。雅之助さんのことが気になって、チラチラ盗み見る。
「なんだ?わしの嫁になりたいのか?」
「ち、ちがいます!初対面なのに失礼ですっ!からかわないでください!」
その雰囲気を壊すように、わははと笑ってからかってくる。冗談とは分かっているのに、いきなりの事でどぎまぎして焦る。
……初めて会ったのになんて人なんだろう。
でも、とたんに緊張が薄れていくような気がして。
先ほどまでパニック状態で気がつかなかったけれど、雅之助さんをよくよく見ると……。
ボサボサの茶色い髪や少し開いた衿元からのぞく厚い胸板がたくましくて、意識するとドキドキしてしまう。
そんな私の様子を見て、雅之助さんはさらに大きく笑った。
出会ってまだ少ししか経っていないのに。その快活さも去ることながら、その底抜けに明るい性格に、思わずなんでも話してしまいそうだった。
でも決して私を問い詰めるようなことはせず、見守ってくれている感じがする。ただ単に深く考えていないだけなのかもしれないけれど、とても居心地が良かった。
一緒にいたら何とかなりそうな、そんな安心感に包まれているようで。
雑炊を食べ終わると一緒に片付けを手伝おうと側に駆け寄る。
雅之助さんに、せっかく綺麗な服が汚れるからとやんわり断られて。休んでいなさいと言って井戸へ向かってしまった。
その後ろ姿を見ながら、これからどうなってしまうのか不安もあるけれど……
少しわくわくしている自分がいるのだった。
知らない男の人の家について行くなんて普段ならあり得ないことだった。けれどこの状況で頼れるのは雅之助さんしかいない。
野垂れ死ぬよりはマシだと思い、もう一か八か……ついて行こうと思ったのだ。森で遭難しかけた恐怖を引きずっていたせいか、少し大胆な決断もなんともなかった。
ニカッと笑った人懐こい顔やケロちゃんラビちゃんとのやりとりから、悪そうな人ではなさそうだと感じたけれど……。
そうこうしているうちに家の中に入ってしまった。
そこは見たことのない様相の民家だった。
足元は土がそのままとなっていて少し歩きにくい。
端には風呂や炊事に使うであろう薪が積み置かれ、桶が並んでいる。
少し高くなったところが居間となっていて、そこで生活しているようだ。
「そんなにここが面白いのか?」
「す、すみませんっ!」
私があまりにもきょとんとした顔でキョロキョロしていたのか、雅之助さんが不思議そうに尋ねる。よそのお家の中をまじまじ見るなんて失礼だったなと慌てて謝るも、気にしないでいいと笑ってくれて。
ぼんやりと、私のいたところとは違う、そう感じた。もっと騒がしい……キラキラしたところから来た、気がする。
それでも、ここは懐かしいような感覚で……。
「お腹が空いただろう、今支度するから待ってろ」
ぼーっと考えていると、雅之助さんは朝ごはんの支度に取り掛かり始めていた。
いきなりお家にお邪魔して、いきなり朝ごはんをいただく状況に、頭がついていかない。お気遣いなく……と言って断ってみるも、雅之助さんは全く聞いていないようだ。
立ちすくんでいるのも何なので、履き物を脱いで揃えてから失礼しますと部屋の端にちょこんと正座する。
「それにしても、何があったんだ? お前は、ここらで見ない不思議な格好をしているしなあ。……それは南蛮のものか?」
土間に置かれた籠の山菜を選んでいた雅之助さんだったが、やっぱり私が気になるようで。作業の手を止め不思議そうな顔で問いかける。
「南蛮って……。面白いことおっしゃいますね。私、近くのお寺で桜祭りがあったので出掛けてたんです。たしか、お守りをいただいて……。でもこれ、光ったんです!……っ、くしゅん!」
……こんな場面でくしゃみをしてしまい恥ずかしい。誤魔化すように手に握っていた紙を広げてみる。
雅之助さんもなになに?と言うふうに、作業の手を止めこちらにやって来た。手元の紙を覗き込もうと距離がぐっと近くにつめられ、少しどきっとしてしまう。
「ケロちゃんに食べられちゃったのと、土で汚れて全然読めません……」
ゆっくり、これ以上破れないように広げてみる。半分くらいケロちゃんにかじられ、残りは林の中を彷徨ったせいか土で薄汚れてしまっていた。さらに、かたく握り締めていたせいでしわくちゃになっている。
雅之助さんは悪かったなとバツが悪そうに頭をガシガシと掻くけれど、いえいえそんな……なんて答える。
この状況から脱出する手がかりかもしれない。本当はそう僅かに期待していたため、希望が失われたようで残念だった。でも、ケロちゃんを悪く言いたくなくて。
――お寺にいたのに気がついたら森の中にいて、誰かに助けを求めるため歩き回っていたところ、ケロちゃん達に出会った。
これまでの状況を改めて伝える。
自分で説明していても訳がわからず落ち込む。雅之助さんも、この辺りにお寺はないしなぁと困っているようだった。二人してうーん……と黙り込んでしまう。
「……あの。ちょっと聞きたいことが」
「なんだ?」
「なんで山奥で、こんな暮らしをされているのですか?……だから私のことも珍しく見えるのかなって」
「まあ、野菜を育てているからなあ。珍しく見えるというか……お前みたいなやつは見たことがない。まったく、変なことを言いおって」
困ったように笑ってこちらを見てくる。
……え?私の方が珍しいって?
何を言ってるのか分からない。雅之助さんの方が変じゃないか。
思考が止まったかのように理解が追いつかない。頭の中がグラグラする。
「だって……こんなのって。うそ、ですよね……?」
「……いや、名前。嘘だと良いのだが。わしも訳がわからん。すまないな」
えぇ……とうろたえる。嘘だと言って欲しくて、泣き出しそうな気持ちをこらえて雅之助さんを仰ぎ見ると、どうしたものかと困っていた。
ふと肩にかけていた小さいかばんの存在を思い出してガサゴソと探す。
少しの化粧品とハンカチと、これは……。
四角い無機質の塊を手にとる。
たしか、遠くの人と話せるものだったような……?
突起を押してみるが真っ黒の面のままだった。
雅之助さんは目が点になるくらい驚いていて、じっとこちらを見ている。
「名前、なんだその手に持っているものは……?」
「これは……遠くにいる人とお話しできるものだと思います。私も記憶が曖昧で……。やっぱり、分かりませんよね」
私は半ば諦めて力なく説明すると、ちょっといいかと雅之助さんがそれを手に取り不思議そうに見ている。
「うーん、やはり見たことが無いものばかりだ。最初にお前を見た時は、どこかの姫君が逃げて来たのかと思ったが……。寺から逃げてきた訳でもなさそうだしなあ」
雅之助さんは居間のへりに腰掛け、ここがどんな所かどんな生活をしているのかを教えてくれた。初めて聞くことばかりで悲しくなる。
「私は……きっと姫なんかじゃないです」
うつむいて放心状態の私を不憫に思ったのか、雅之助さんはやさしく頭をポンポンと撫でてくれる。
そして否定も肯定もせず、山菜を抱えて井戸へ向かって行ってしまった。
……なんでこんなことに。
一所懸命に思い出そうとしても、自分の家族や小さい頃の記憶が指からさらさら落ちていく砂のようにこぼれて消えていって。
残された私は、呆然と宙を見つめ続けるしかなかった。
しばらくすると、雅之助さんがいつの間にやら食べやすいように切った山菜と、研いだお米を鍋に入れている。
私の胃袋は鉛を飲み込んだようにずしんと重く、食事をいただく気分ではなかった。
それなのに、コトコトと雑炊を煮込むにつれておいしそうな香りが立ち込めると、意に反してぐーっとお腹が鳴ってしまって。
「……すみませんっ」
「いいことだ。お腹を空かせた方がより美味しくなるぞ!」
恥ずかしくて咄嗟にお腹を押さえる。雅之助さんは鍋をかき混ぜながら、嬉しそうに目を細めていた。
「できたぞ、こっちに来い」
ずっと部屋の端っこに小さく座っていた私に呼びかける。長く正座していたせいかうまく歩けず、よろよろと壁伝いに歩く。そんな姿に雅之助さんは、どこんじょーだ!名前!と豪快に笑うのだ。
お椀にあつあつの雑炊をよそってもらい、ふぅふぅと冷ましながら一口いただく。素朴ながら旬の山菜の味が際立ち、色々な食感が楽しめてとても美味しかった。
なんだか先ほどまでの重苦しさが解けて行くようで、美味しいご飯の力ってすごいなと改めて思う。
「とっても美味しいです……!」
自然に笑みがこぼれる。まったく……現金なやつだなんて笑われたけれど、そんなやり取りが嬉しかった。
「……あの、突然お家にお邪魔しちゃいましたが、奥さまにお断りせず大丈夫でしたでしょうか……?」
快くお家に入れてくれたものの、いきなり押しかけた形だ。今さらだけど申し訳なさでいっぱいになり恐縮しながら聞いてみる。
「わしは一人で暮らしているから、嫁さんはいない。だから心配はいらん」
「そうなんですね。……失礼しました」
「あぁ、もちろんお前を襲ったりしないから安心して良いぞ!」
自信満々に言うものだから…。
それ自分で言います?なんて会ったばかりなのにも関わらず突っ込んで、くすくすと笑ってしまった。
「いい顔だ」
「……ありがとうございます」
思いがけない、優しい言葉に胸が熱くなる。
……なんだか涙が出そうだ。
でもこんなところに一人で住んでいるなんてやっぱり何か理由があるのかな?などと思ってしまう。
聞いて良かったのか、少し気まずい。雅之助さんのことが気になって、チラチラ盗み見る。
「なんだ?わしの嫁になりたいのか?」
「ち、ちがいます!初対面なのに失礼ですっ!からかわないでください!」
その雰囲気を壊すように、わははと笑ってからかってくる。冗談とは分かっているのに、いきなりの事でどぎまぎして焦る。
……初めて会ったのになんて人なんだろう。
でも、とたんに緊張が薄れていくような気がして。
先ほどまでパニック状態で気がつかなかったけれど、雅之助さんをよくよく見ると……。
ボサボサの茶色い髪や少し開いた衿元からのぞく厚い胸板がたくましくて、意識するとドキドキしてしまう。
そんな私の様子を見て、雅之助さんはさらに大きく笑った。
出会ってまだ少ししか経っていないのに。その快活さも去ることながら、その底抜けに明るい性格に、思わずなんでも話してしまいそうだった。
でも決して私を問い詰めるようなことはせず、見守ってくれている感じがする。ただ単に深く考えていないだけなのかもしれないけれど、とても居心地が良かった。
一緒にいたら何とかなりそうな、そんな安心感に包まれているようで。
雑炊を食べ終わると一緒に片付けを手伝おうと側に駆け寄る。
雅之助さんに、せっかく綺麗な服が汚れるからとやんわり断られて。休んでいなさいと言って井戸へ向かってしまった。
その後ろ姿を見ながら、これからどうなってしまうのか不安もあるけれど……
少しわくわくしている自分がいるのだった。