テスデイ短編
「デイビット、今日は何をする予定だ」
「映画を見るんだが、どちらにしようか迷っている」
「時間はあるから、どっちもみればいいのさ、兄弟。今日は映画を堪能する日にしろ。明日はまた別のことをすればいい」
そうだろうと微笑むにテスカトリポカに、つられてデイビットは表情を緩ませる。
「まずはこちらにする。テスカトリポカも一緒に……みてくれるか?」
「そんな顔をするな。カルデアに呼び出しくらわない限りは一緒にいてやるよ。さて内容は……なるほど。んじゃ、ホットチョコレートだな。ちょっと待ってろ、すぐに作ってくる」
「うん」
最近の映画の供はホットチョコレートになりつつある。正確には、シリアスな物語や恋愛物。温かさ甘みが更に没入感をあげてくへる。さすがに、コメディものなどではコーラを飲んだりするが。
それが当たり前になりつつある、ミクトランパでの日々。テスカトリポカの淹れるホットチョコレートは、ただ甘いだけではなく、スパイスなどが少し混ぜられていて、毎回違った味付けだからこそ飽きがない。
「オマエの情緒が少しでも育つようにな」
と、笑いながら、テスカトリポカが差し出してくれる甘いものを、デイビットは楽しみにしていた。味の感想を伝えれば、真剣な顔で頷き、次の味に改良を加える。自分の些細なことでも悩んでくれるのが嬉しくて、デイビットは味の感想をきちんと伝えるようにしていた。
「ほらよ。今日のは少し熱いから気をつけろ」
「ありがとう、テスカトリポカ」
マグを受け取り、一口。確かに熱くて、眉根をよせた。だから言ったろと、テスカトリポカは笑いつつ、デイビットの髪をクシャリと撫でる。
「息を吹きかけて冷ましてやろうか?」
「そんなことをしていたら、いつまで経っても映画がみれないからいい」
明らかな子ども扱いをあしらいつつ、映画を再生する。プロローグが終わり、本編が始まった瞬間、振動音がした。発生源を探す前に、鋭い舌打ちの音が響く。
「テスカトリポカ?」
「すまん、デイビット。カルデアからの呼び出しだ」
盛大なため息を吐き立ち上がる神の姿を見上げ、一つ頷く。
「…………そうか。わかった、いってこい」
「すぐに戻るから、いい子で待ってろよ。映画については俺を待たなくていい。戻ってきたら、感想を教えてくれればいい」
また頭を撫でると、テスカトリポカは身を翻す。金のかすかな輝きが消えるまで、その姿を見送り、小さく息を吐く。
「最初からだな」
再生機器を操作しプロローグから流し始める。隣りにあるはずの温もりがないことを、少し寂しく思いながら。
映画は佳境のシーンにさしかかる。
何気なく選んだものだったが、目が離せず食い入るように見る。ゆるやかに進んでいたと思ったら、急に場面が切り替わり、緊迫したシーンへ。巧妙なやり取りを経て、また場面が切り替わり穏やかなテンポへと戻る。
詰めていた息をゆっくり吐き出し、ソファの背もたれによりかかれば、柔らかく受け止めてくれた。
喉の乾きを覚えマグを手に取る。中身の甘い香りは変わらず、鼻をくすぐり、早く飲むように誘う。それにのり、口をつけて傾けた瞬間。
「あつっ!」
ジワリと舌を焼いた温度に驚く。ヒリヒリとする痛みにデイビットは顔を軽くしかめた。
「まだ冷めてなかったのか」
マグの中でトロリと揺れるホットチョコレート。湯気は出ていないが、熱は残っていたらしく、それがデイビットの舌にやけどをつくった。
「これは、オレが迂闊だったな」
テスカトリポカに注意されてたのも忘れて、口をつけたので、素直に反省する。驚いていた間に進んでしまったシーンを巻き戻し、熱を残すチョコレートに息を吹きかける。チビチビと味わいながら、映画を再開。
「したがいたい……」
ヒリヒリとした痛みが舌をうずかせ、邪魔をしてくる。内容としてはすでにラストシーンだ。氷を舐めれば少しは収まるだろうが、ここまで来たら最後まで見てしまいたい。デイビットは手間を惜しみ、映画に意識を集中させる。
「終わった……中々のものだったな」
エンドロールが流れていくのを見届けながら、感想をポツリとこぼす。途中で失態がありはしたが、満足の行く時間をすごすことができた。
「戻ったぞ」
そこに聞き馴染んだ声が降ってくる。上を向けば、サラリと金糸がこぼれてきて、デイビットの頬をくすぐった。
「おかえり、テスカトリポカ。映画はちょうど終わったところだ」
「満足そうな顔を見るところ、楽しめたようでなによりだ。さっそくだが、どんな内容だった」
表情からデイビットの心情を読み取るのが上手い神は、隣という定位置におさまり、感想を促してくる。これもまた大切な時間だ。一人でみたときでも、二人で並び鑑賞したとしても、己の中に印象付けるという行為ということで、テスカトリポカはデイビットに語らせる。
「そうだな……ストーリーがとても面白かった。どんな、展開を迎え、るんだろうという。ただ、演者があえて、そうしているのかもしれ、ないが拙い部分もあり、その、アンバランスさがまた、引き込んでくる」
ゆっくりと感想を語りだすが、舌のヒリつきによって、少したどたどしい口調になる。それはすぐにテスカトリポカに見抜かれた。
「デイビット。普段はもっとスラスラと流れる水のように語るオマエが、一体今日はどうした? ところどころ引っかかるような物言いだが」
ジトリとした視線がサングラス越しに向けられる。追求の視線に気のせいだろう、と返し、さり気なく視線をそらす。が、神はそれを許すわけもなく。
「デイビット、ちょっとこっちむけ」
顎を掴むなり、強引に顔をテスカトリポカの方へ向けさせられる。反射的に閉じようとした口へ、指がねじ込まれ、噛まないように理性でブレーキを掛ける。器用に指一本でデイビットの口を広げ、テスカトリポカはのぞき込む。
「あー……なるほどな。熱く作りすぎたか」
「てふか、ぽりとひゃ!」
「悪い悪い」
指を抜き際に上顎を軽くくすぐられ、ゾワリとした感覚がデイビットの背を駆け抜けた。噛みつこうとしたが、ヒラリとかわされる。
「まだ痛むのか、それ」
「痛むが……オレの不注意だから、気にしなくていい。テスカトリポカに言われてたことを、映画に熱中するあまりに忘れていた」
「そうかい。それほど楽しめた映画なら、よかったな。が、やけどは見た限り痛そうだ。オマエの不注意でもあるが、熱く作ったのはオレだ。だから、治療してやろうとテスカトリポカ思うワケ」
ニヤッと笑うテスカトリポカに、嫌な予感がし、デイビットはソファの上を後退する。が、すぐに距離を詰められ唇が重なる。
「んっ……っ、んん」
慌てて引っ込めた舌はすぐさま捕らえれ、引きずり出された。やけどをした部分をヌルリと舐められ、痛みと別のなにかが全身を震わせる。そんなデイビットの様子なんてお構いなしに、痛みを癒やし撫でるような舌遣いで、テスカトリポカはキスを続ける。
「ふぁッ……ぅん……」
しつこく舌を刺激されることによって、水音が部屋に響き、あふれる唾液を飲ませられ、飲みきれなかったものは口の端からこぼれる。
「っはぁ!」
ようやく解放されたころには、肩で息をし、テスカトリポカにもたれからなければ、座っていられないほどの状態になっていた。そんなデイビットを楽しげに見下ろし、輪郭をなぞるように頭や頬を撫でていく。
「どうだ、治っただろ?」
「……いや」
確かに舌の痛みはおさまった。テスカトリポカが治癒したの本当のことだろう。だが、デイビットの舌はまだうずいていた。
「テスカトリポカ」
「どうした?」
「まだ……ジンジンする」
しがみつきながら、ポカっと口を開いて見せるデイビットに、テスカトリポカは目を細める。
丹念に舐め、唾液を刷り込んだので、やけどをした箇所はきれいに治っている。が、まだうずくと訴えるのだ。赤く染め上げた肌と、潤ませた紫水晶。開かれた赤い口内でかすかに震える、丹念に甘やかした舌を差し出しながら。
「ほう、そいつは悪いな。まだ、赤みが残ってる。このあともまだ映画を見る予定なのに、これだと集中できないな。なぁ、デイビット」
「うん、お願い」
愛し子の遠回しな誘いに神は笑うと、その口にかじりつく。今度は迎え入れるように伸びてきた舌に、己のものを絡ませながら。
後日、映画のときは少しぬるめの、それでも美味しく感じられるように味を整えられた、ホットチョコレートが出されるようになったとか。
「映画を見るんだが、どちらにしようか迷っている」
「時間はあるから、どっちもみればいいのさ、兄弟。今日は映画を堪能する日にしろ。明日はまた別のことをすればいい」
そうだろうと微笑むにテスカトリポカに、つられてデイビットは表情を緩ませる。
「まずはこちらにする。テスカトリポカも一緒に……みてくれるか?」
「そんな顔をするな。カルデアに呼び出しくらわない限りは一緒にいてやるよ。さて内容は……なるほど。んじゃ、ホットチョコレートだな。ちょっと待ってろ、すぐに作ってくる」
「うん」
最近の映画の供はホットチョコレートになりつつある。正確には、シリアスな物語や恋愛物。温かさ甘みが更に没入感をあげてくへる。さすがに、コメディものなどではコーラを飲んだりするが。
それが当たり前になりつつある、ミクトランパでの日々。テスカトリポカの淹れるホットチョコレートは、ただ甘いだけではなく、スパイスなどが少し混ぜられていて、毎回違った味付けだからこそ飽きがない。
「オマエの情緒が少しでも育つようにな」
と、笑いながら、テスカトリポカが差し出してくれる甘いものを、デイビットは楽しみにしていた。味の感想を伝えれば、真剣な顔で頷き、次の味に改良を加える。自分の些細なことでも悩んでくれるのが嬉しくて、デイビットは味の感想をきちんと伝えるようにしていた。
「ほらよ。今日のは少し熱いから気をつけろ」
「ありがとう、テスカトリポカ」
マグを受け取り、一口。確かに熱くて、眉根をよせた。だから言ったろと、テスカトリポカは笑いつつ、デイビットの髪をクシャリと撫でる。
「息を吹きかけて冷ましてやろうか?」
「そんなことをしていたら、いつまで経っても映画がみれないからいい」
明らかな子ども扱いをあしらいつつ、映画を再生する。プロローグが終わり、本編が始まった瞬間、振動音がした。発生源を探す前に、鋭い舌打ちの音が響く。
「テスカトリポカ?」
「すまん、デイビット。カルデアからの呼び出しだ」
盛大なため息を吐き立ち上がる神の姿を見上げ、一つ頷く。
「…………そうか。わかった、いってこい」
「すぐに戻るから、いい子で待ってろよ。映画については俺を待たなくていい。戻ってきたら、感想を教えてくれればいい」
また頭を撫でると、テスカトリポカは身を翻す。金のかすかな輝きが消えるまで、その姿を見送り、小さく息を吐く。
「最初からだな」
再生機器を操作しプロローグから流し始める。隣りにあるはずの温もりがないことを、少し寂しく思いながら。
映画は佳境のシーンにさしかかる。
何気なく選んだものだったが、目が離せず食い入るように見る。ゆるやかに進んでいたと思ったら、急に場面が切り替わり、緊迫したシーンへ。巧妙なやり取りを経て、また場面が切り替わり穏やかなテンポへと戻る。
詰めていた息をゆっくり吐き出し、ソファの背もたれによりかかれば、柔らかく受け止めてくれた。
喉の乾きを覚えマグを手に取る。中身の甘い香りは変わらず、鼻をくすぐり、早く飲むように誘う。それにのり、口をつけて傾けた瞬間。
「あつっ!」
ジワリと舌を焼いた温度に驚く。ヒリヒリとする痛みにデイビットは顔を軽くしかめた。
「まだ冷めてなかったのか」
マグの中でトロリと揺れるホットチョコレート。湯気は出ていないが、熱は残っていたらしく、それがデイビットの舌にやけどをつくった。
「これは、オレが迂闊だったな」
テスカトリポカに注意されてたのも忘れて、口をつけたので、素直に反省する。驚いていた間に進んでしまったシーンを巻き戻し、熱を残すチョコレートに息を吹きかける。チビチビと味わいながら、映画を再開。
「したがいたい……」
ヒリヒリとした痛みが舌をうずかせ、邪魔をしてくる。内容としてはすでにラストシーンだ。氷を舐めれば少しは収まるだろうが、ここまで来たら最後まで見てしまいたい。デイビットは手間を惜しみ、映画に意識を集中させる。
「終わった……中々のものだったな」
エンドロールが流れていくのを見届けながら、感想をポツリとこぼす。途中で失態がありはしたが、満足の行く時間をすごすことができた。
「戻ったぞ」
そこに聞き馴染んだ声が降ってくる。上を向けば、サラリと金糸がこぼれてきて、デイビットの頬をくすぐった。
「おかえり、テスカトリポカ。映画はちょうど終わったところだ」
「満足そうな顔を見るところ、楽しめたようでなによりだ。さっそくだが、どんな内容だった」
表情からデイビットの心情を読み取るのが上手い神は、隣という定位置におさまり、感想を促してくる。これもまた大切な時間だ。一人でみたときでも、二人で並び鑑賞したとしても、己の中に印象付けるという行為ということで、テスカトリポカはデイビットに語らせる。
「そうだな……ストーリーがとても面白かった。どんな、展開を迎え、るんだろうという。ただ、演者があえて、そうしているのかもしれ、ないが拙い部分もあり、その、アンバランスさがまた、引き込んでくる」
ゆっくりと感想を語りだすが、舌のヒリつきによって、少したどたどしい口調になる。それはすぐにテスカトリポカに見抜かれた。
「デイビット。普段はもっとスラスラと流れる水のように語るオマエが、一体今日はどうした? ところどころ引っかかるような物言いだが」
ジトリとした視線がサングラス越しに向けられる。追求の視線に気のせいだろう、と返し、さり気なく視線をそらす。が、神はそれを許すわけもなく。
「デイビット、ちょっとこっちむけ」
顎を掴むなり、強引に顔をテスカトリポカの方へ向けさせられる。反射的に閉じようとした口へ、指がねじ込まれ、噛まないように理性でブレーキを掛ける。器用に指一本でデイビットの口を広げ、テスカトリポカはのぞき込む。
「あー……なるほどな。熱く作りすぎたか」
「てふか、ぽりとひゃ!」
「悪い悪い」
指を抜き際に上顎を軽くくすぐられ、ゾワリとした感覚がデイビットの背を駆け抜けた。噛みつこうとしたが、ヒラリとかわされる。
「まだ痛むのか、それ」
「痛むが……オレの不注意だから、気にしなくていい。テスカトリポカに言われてたことを、映画に熱中するあまりに忘れていた」
「そうかい。それほど楽しめた映画なら、よかったな。が、やけどは見た限り痛そうだ。オマエの不注意でもあるが、熱く作ったのはオレだ。だから、治療してやろうとテスカトリポカ思うワケ」
ニヤッと笑うテスカトリポカに、嫌な予感がし、デイビットはソファの上を後退する。が、すぐに距離を詰められ唇が重なる。
「んっ……っ、んん」
慌てて引っ込めた舌はすぐさま捕らえれ、引きずり出された。やけどをした部分をヌルリと舐められ、痛みと別のなにかが全身を震わせる。そんなデイビットの様子なんてお構いなしに、痛みを癒やし撫でるような舌遣いで、テスカトリポカはキスを続ける。
「ふぁッ……ぅん……」
しつこく舌を刺激されることによって、水音が部屋に響き、あふれる唾液を飲ませられ、飲みきれなかったものは口の端からこぼれる。
「っはぁ!」
ようやく解放されたころには、肩で息をし、テスカトリポカにもたれからなければ、座っていられないほどの状態になっていた。そんなデイビットを楽しげに見下ろし、輪郭をなぞるように頭や頬を撫でていく。
「どうだ、治っただろ?」
「……いや」
確かに舌の痛みはおさまった。テスカトリポカが治癒したの本当のことだろう。だが、デイビットの舌はまだうずいていた。
「テスカトリポカ」
「どうした?」
「まだ……ジンジンする」
しがみつきながら、ポカっと口を開いて見せるデイビットに、テスカトリポカは目を細める。
丹念に舐め、唾液を刷り込んだので、やけどをした箇所はきれいに治っている。が、まだうずくと訴えるのだ。赤く染め上げた肌と、潤ませた紫水晶。開かれた赤い口内でかすかに震える、丹念に甘やかした舌を差し出しながら。
「ほう、そいつは悪いな。まだ、赤みが残ってる。このあともまだ映画を見る予定なのに、これだと集中できないな。なぁ、デイビット」
「うん、お願い」
愛し子の遠回しな誘いに神は笑うと、その口にかじりつく。今度は迎え入れるように伸びてきた舌に、己のものを絡ませながら。
後日、映画のときは少しぬるめの、それでも美味しく感じられるように味を整えられた、ホットチョコレートが出されるようになったとか。