先生と一緒(男主・特殊設定あり)
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
彼がこの屋敷に勤め始めてから、大体2年経った。その間に、最低賃金の幅が上がり、ジャケットと革靴を新調した。
それでも彼は古いブーツを履き続けたし、それに口を出して見下げたり、けなす人は、あの屋敷にはいなかった。
ジョースター親子は、ある程度の文章なら書くことも読むこともこなすようになった。授業の始まりの挨拶は日本語だし、日中の挨拶も、時々自然にそうなった。彼はジョースター家と切っても切れない関係を作れるくらい優しかったし、それを否定する人もいなかった。
「うーん……やっぱり、ジョースターくんはひらがなが少しつたないかな……いや、極める必要はないけれど、貴族だし線がまっすぐひけるくらいにはきれいな方がいいかもしれませんね。」
「ははは、数週間も私と差があるんだ。あんまり比べては酷だよ……でもそうだね。彼も大人になるんだ。社会の面々と交わしたときに、一つでも有利に動く必要がある。」
まるで現代で行われる親と先生との面談の図のように、コウとジョージは会していた。そこにジョナサンの姿はない。数日前に行ったテストの答案用紙を眺めながら、今後の教育方針なんかに口を出すのが、ここ数回でコウの仕事の一つになっていた。
「さて…そろそろ馬車が着くころかな。コウくん、彼には君にも会ってほしい……」
「客人ですか?」
「いいや。新しい生徒さ。ついてきてくれ」
「せ、先生」
「……ブランドー君」
ああ、そうか。もう二年も経ってるのか。そりゃぁ君の体は成長するわけだ……。
まるでわが子と久しぶりに再会でもしたような気分だった。まるで、荷が下りたような気分だった。
コウはあの貧民街に、小さい生徒やディオを置いてきたことを、ほんのすこし、心の片隅で後悔していた。ジョナサンに勉強を教えることで、その子たちへの償いをした気分になっていた。ちくちくと胸を痛みが毎夜刺し、憂鬱になって眠れない日もあった。
その蟠りの温床が目の前に現れたのだから、まるで情愛を注ぐ母親の顔にような顔になるのは、当然と言えるだろう。
「久しぶりですね……元気そうだ。でもそうか、今日からは君をジョースター君、と呼んだ方がいいのかな……」
「あ、いや、まだ正式になったわけではないんです。だから、前の、前のように……」
二人は泣きも大げさなりアクションもなかったが、はたから見てるジョースター親子には、それが当然のように、いままで毎日行われた挨拶のように見えたそうだ。
「おや、二人は知己の仲だったのか」
「はい。この屋敷に勤める前から、彼には教鞭をとっていました。まさかこんなところで会えるなんて思ってもみなかったですが。」
「僕だってそうです。でも先生、手紙の約束はなしにしないでくださいね」
「もちろんですよ……ああ、でも、屋敷に来れば君の顔が毎回見れるのは、うれしいことだね」
コウの微笑みが貧民街のときから変わらずに優しいことに、ディオは胸をなでおろした。彼の前では、誰にも負けない男になろうと、変わらない、あの汚い貧民のままでいて良いのだと、もしも神様とかがいるんなら、安らぎの場所を与えてくれたんだろうと、今だけは感謝をした。
そしてさらに決心をした。先生を簡単に雇って引き離してくれた貴族なんかを、取り潰して乗っ取ろう、という硬い意思はさらに更迭寄りも厚く硬くなった。この二年の間に、ディオは父親を地獄に落とすと決意し、金持ちの頂点に立ち、利用できるものは何でも利用すると決めていた。あのクズで醜くて最低の父親からの遺産が導いた、あの環境が導いた、きっと天使のようにやさしい先生とまた再び出会ったのは、決心を固めるに、最適で、最高のことだったのだ。思わずこぼれた笑みを抑えもせずに、目の前で微笑んでくれる先生を見つめていた。
ジョナサン・ジョースターは、後に語った。
あのディオが、あのように、あの笑顔を向けた人は先生しかいないと。取り繕うでも、偽りの友情を結んだあの時代にも、あの人以外には、あの一度以来絶対に見せなかった、と……。