時のターコイズ
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あとの結果は、ご存知の通りである。
ビンのなかに再びアクアネックレスをとらえた仗助と承太郎はアンジェロを捕縛し、いくらかの情報を聞き出した後、口をすべらせたことにプッツンきれた仗助がアンジェロ岩を生成した。
葵は仗助のスタンド…クレイジー・ダイヤモンド(承太郎命名)により傷は修復されたが、過度の貧血と精神状態の危険により二日入院。カウンセリングと定期通院で経過観察の日々を送ることとなった。
……
葵が目覚めると、そこは病院のベッドの上。体が重い。気怠くて仕方がない。
「知らない天井だ…」
ガラガラに枯れた声を確認できたので、とりあえずナースコールを押した。
葵が目覚めたと連絡が入り、学校帰りに速攻で駆け付けた仗助は、ずいぶん面白かった。人の名前を叫びながらダッシュで部屋に飛び込んでくるなんて。ほかの患者のことを考えなさい、といえば、まるで今気づいたかのように看護婦さんや、同室の患者たちにに謝っていた。
仗助はしきりに葵に平気か、辛くないか、と聞き、そのたびに葵はへっちゃらだよ、と答える。
良平を完全に治せず未だ目覚めないことを仗助は悔いているようで、能力を過信していたことを反省しているらしく、葵の下腹部をぶちぬいたことに、
「なんかあったら責任…責任でいいのか…?とにかく、どうにかすっから」
と謝った。喜ばしいことに葵の大事なところは問題なく正常に機能しているらしく、医師の診断を聞いた仗助は大きくため息をついてよかった、と感嘆を漏らした。
その姿を見て、看護婦や葵の義父・水奈瀬が青春ですねーなんて言ったのを、葵はちょっと赤くなりながら「からかわないで!」と怒った。
その後、仕事を切り上げてお見舞いにやってきた葵の義兄と合わせ、琴葉家の保護者に承太郎が事情を説明。ヒステリックなことでも言われるかと思いきや、
「お疲れ様です。葵を守っていただいてありがとうございます」
と、当たり前のように受け入れられ、労われたことに、承太郎と仗助は少し腰を抜かした。
そのことについて葵は、「そういう人たちなの」と苦笑した。
そして、家族水入らずで話すこともあるだろう、と仗助と承太郎は病院を後にしたのである。
「あのね仗助、ああいうことは、めったに女の子に言うもんじゃないよ」
「ああいうこと?」
「おい、もーその話はいーだろっ!おれだって今思い返すとけっこー恥ずかしいんだからよ!」
ある日の帰り道。退院し学校に通い始めた葵と仗助、それに康一。最近は、この三人でよく帰る。
あの日その場に居合わせていなかった康一に葵が説明すると、ひゃーっなんて声をあげて、二人一緒に笑った。仗助は頬をかいて居心地が悪そうな、恥ずかしそうな顔をしている。
くすくすと笑う葵を見て、康一は、「元気になってよかったね」と嬉しそうに笑った。
「お見舞い行けなくてごめんね、葵さん」
「んーん、全然いいのよ。二日くらいしか入院してないし。ほとんど寝てたから気にしないで」
康一君はやさしいねぇ~と葵が笑うと、仕返しとばかりに、おめーも隅におけねーんじゃねーの?と仗助がにやついた。
互いに互いをからかい合って、三人は和やかに通学路を歩いて行く。
アンジェロ岩に挨拶も忘れずに。
「ところでさぁ、あの承太郎さんはどーしたの?」
「ああ、あの人はまだ……「杜王グランドホテル」に泊まってるぜ
…なんでもまだこの町について調べることがあるそーだぜ」
康一の問いかけに、おれはよく知らねーんだけどよ、と頭を指さす身振り付きで仗助が答えた。ふ~~ん、と納得したようなしていないような声を上げた康一が、またも仗助に質問をした。
「仗助くん…葵さん」
「うん?どしたよ」
「この家、3,4年ズウーッと空き家だよね…?」
彼が話すに、仗助を見上げて質問する際に、背後に建っているぼろぼろの廃屋の二階、こちら側から見上げられる位置の窓に、ろうそくを持った人影を見つけたらしい。
誰か住んでいるんじゃないかと不思議にその窓を指さす康一に、仗助と葵はクエスチョンマークを浮かべた。
実は、仗助と葵の家はここからほど近い場所にある。学校の帰り道やコンビニに行くときなんかもさんざ通るのだから、誰か引っ越してきたなら気づくはずなのだ。浮浪者対策で不動産屋が見回りにも来ていることも仗助は知っていた。
そのことを述べると、康一は、言われてみればとわずかに開いた門扉から内側へ顔をのぞかせて、南京錠が降りていることを確認した。
幽霊でも見たのかな…とぼやく康一に、幽霊はコワイぜ、と仗助が嫌な顔をする。
「ン~~??あれ?なんだっけ…私なんか忘れてる気がするんだけど…」
「どうした葵、お前まで頭抱えてよー…ま、まさか霊障とか言うんじゃあねーだろうな!?」
康一が敷地内へ顔をのぞかせているとき、一方の葵は頭を抱えていた。
先日の事件後、病院で目覚めてから、忘れていることがある気がして、ずっと頭に違和感が引っ掛かっているのである。思い出そうと切っ掛けを頭の中をひっかきまわしてみるも、どうにも思い出せない。
というか、正直あの事件のときのことも曖昧になっているのだ。医者に相談してみれば、ひどい有様だったから、なるべく思い出さないように、ショックを防いでいるのかもしれないといわれた。一応それで納得はしているが、事件の惨状とともに別のことも忘れてしまっている気がしてならない。
その違和感のわだかまりが、今この廃屋を目の前にしてひしひしと大きくなってきているのだった。
「言わないよ、ただなんか違和感があって…既視感みたいな?なんか忘れちゃいけないことがあったんだけど…思い出せなくって」
「思い出せないなら大したことじゃないんじゃねーの?事件のこともあるし…思い出さない方が身のためかもしれないしよ」
「仗助は私を心配しすぎ。そこまでヤワじゃないですー…まぁそのうち思い出せるといいんだけど。」
そんな二人の会話は、康一の何か気づいたような、察したような、一言の叫び声と、さびた蝶番のきしむ音で門扉の方へと引き戻された。
グエッ、と苦し気に喘ぐ声。はじかれたように葵と仗助がその方向を向けば、わずか見開いていたはずの鉄の門は閉じられ、そこから顔をのぞかせていた康一の首が間にはさまれ、人体から発するるべきではない音を言わせている。
独りでに閉まったのではない。大きな体躯から伸びる足でわざと康一をしめている人物が、門の向こう側に立っていた。
「ひとの家をのぞいてんじゃねーぜガキャア!」
文字通り足蹴にしている康一を見下ろし、ボンタンのポケットに手を突っ込んでにやついている少年。仗助と同じか少し小さいくらいの背丈で、$、billionなんて縫い合わせられている改造制服。髪型は仗助とは少し違うが見事な不良ヘアーで、その目は三白眼。
見るからに不良であり、仗助のような「いい不良」ではなく「いやな不良」の体をしていた。
康一くん!と切なげに叫んだ葵を背にかばい、仗助がにらみを利かせる。
「イカレてんのか?離しなよ」
語調は優しくあるものの、顔は怒りと苛立ちが表れている。向こうもこちらに気付いたのか、それとも声をかけられるまでは気にしていなかったのか。その冷淡な目をこちらに向けた。
尚喘ぎながら苦し気に呻く康一の首をもてあそび、背後の建物を親指で指してその不良の男が言った。
「おい!この家はおれのおやじが買った家だ…妙なせんさくはするんじゃねーぜ 二度とな」
「ンナことはきいてねっスよ、てめーに放せといってるだけだ」
早く放さねーと怒るぜと仗助が言い返せば、向こうはこちらを見下しているのか、指を差してニヤニヤと笑いながら、口の利き方がなっていないとか、初対面の人間に対しとか、それを言うなら失礼なのはそちらだと、仗助にかばわれている葵が思うような、ちょっとズレたことを「口のきき方知ってんのか?」と聞いてきた。
その言い分に仗助のボルテージが上がる。語気は荒げ、売り言葉に買い言葉と一触即発の空気が漂っていた。
その重く危ない空気をまさに切るように、何かとても素早いものが仗助の目の前、不良の背後の、先ほど康一が見上げていた窓。
この騒動の切っ掛けの場所から、康一の締められた喉に向かって、
「ぐえ」
刺さった。
*
葵には何が起こっているのか、いまいち理解できていない。さっき仗助にすぐかばわれて、見えるのは背中だけ。音だけで判断するにも、康一の呻き声や、仗助と不良の会話や、門扉のきしむ音が混ざってうまく聞こえない。
ただ、さっきから頭の中が、警笛でも爆音で鳴っているかのように痛い。思い出さなくちゃいけないことがある、と主張する声がする。
ただ、何かしらが壁になっているのか、事象を整理することもできない。うずくまりたいくらいに頭がガンガンと鳴っているが、それが仗助の足を引っ張ることになるのはわかる。
切っ掛けがあれば、それがあればこの頭痛はなくなる。思い出せばいいのだというのがわかる。
そのきっかけが欲しい。そのきっかけ、切っ掛けが…
「あっ」
窓から降ってきた。