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時のターコイズ

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「…う…いや……でもちっとぐれーは……」

 

1999年、M県はS市、杜王町。

駅前のバスロータリー付近にはちょっとした池があって、そこには亀が住み着いている。

180はあるであろう体躯と立派なリーゼントをでかい図体ごと縮こませて、手をのばしたり引っ込めたり、ちょっとのばしてまた引っ込めている、ちょっといかつい少年(まぁ普通の少年よりひと回りは大きいけど)に、かたや一人の少女が軽々しく肩をポンッと弾いた。

 

「HEYおまえさん、またハチュールイと激闘を繰り広げるのかね」

「ウォオオオッ!?」

 

黒いセーラー服を着こなして、ポニーテールに結い上げたご自慢の黒髪が揺れる。

亀と格闘していた少年がものすごい勢いで振り返って驚愕している様を年相応になははははーと笑い飛ばし、相変わらず図体に似合わないねと、右手を腰にかけた。

ぱちぱちと目を開閉させて暫く惚けていた青年は、声をかけたのが知人だと分かると大きく安心したように、なんだ…と息を吐いた。

 

「まだだめなの?亀、こんなにかわいいのにね~」

「おれだってよー、好きで嫌いになってんじゃねーの。お前みたいによしよし~って撫でてやりてーよ?でもなんかこう…ヒヤっとしちまうんだよなぁ」

「ほーン……じゃあ、しかたないなぁ」

 

ホレ、と少女が亀を撫でていた手を差し出す。ウグッと息を呑み、睨むようにその白い嫋やかな手を凝視する少年。

はたから見ると甘酸っぱい青春の一ページのようだが、二人にとっては幼少期からのかわらない日常の一環だった。爬虫類苦手を直そう、と言い出したのはどちらだったか。幾年も前のことであまり覚えていないが、少女が爬虫類をかわいがり、そのままの手に少年が触れる。そうやって、間接的にでも慣らしていこう、というのが、爬虫類を前にした二人の習慣だった。つまり、彼はそれくらい亀とかイモリとかが苦手だった。つまり、それくらい少女が生き物に対してしたたかだった。

まさに恐る恐る、ごくりと生唾を飲みながらゆっくり、ゆ~~っくり、ゆ~~~~~っくりと手を伸ばす少年。急かしも咎めもせずに黙って手を差し出して制止する少女。あと少し、あと数センチ。あともう数ミリ……感覚ではすでに触れているという状態の時、どこかの輩から怒号が飛んできてしまった。

 

「何しとんじゃッ!」

「なんのつもりだきさまらッ!」

 

びく、と二人は同時に停止した。気づけば、二人をあからさまに不良って感じの四人が囲んでいた。後ろは池、前に不良。これが背水の陣か……などと、少女はのんきに考えた。

 

「なにって その……この池のカメが冬眠から さめたみたいなんでみてたんです

カメってちょっとニガテなもんで さわるるのも恐ろしいもんで…… その 怖さ克服しようかなァ~~と思って」

「それがどーして女とおてての触り合いっコになんだよ!」

「いや~昔からの習慣でして」

 

恐喝する不良とは裏腹にのほほんと受け答える二人。首だけ不良を見上げてる状態なので向かい合ってしゃがんだままである。

不良の先輩たちの腹は収まらないようで、立てッ!と怒鳴られ、しぶしぶといった形で二人は立ち上がった。

 

「ほほォ~~~

一年坊にしてはタッパあるっちゃ~~~っ

それに女の方は ヘェ~ッ結構いいカオしてんじゃねぇの、足も髪もなげぇしよ~っ。

新入りの女にしとくにはもったいねーよなあ、あ~ん!?」

「そりゃどうも」

 

リーダー格と思われる不良が少女に顔をググッと近づけて、嘗め回すように足先から眺める。少女は顔をゆがめたり嫌がることもなく、ただ視線を受け流していた。

 

「アン?おい、なんだおまえ 目がまっかっかじゃあねえか?」

「あー、ハイ、隔世遺伝です」

「んなわけあるか~ッ、カラコンなんぞ入れおって、生意気じゃねぇのか!?」

 

言う通り、よくよく見てみれば少女の黒目部分はウサギみたいに真っ赤だった。赤というよりマゼンタとかピンクに近く、およそ人がうまれつき持っているようには見えなかった。

目をつけられはしたものの、不良たちのいちゃもんの目的は少年の格好だったらしく、少女から目線は外れていった。

「おいスッタコ!だれの許可もらってそんなカッコウしとるの?」

中坊のときはツッパってたのかもしれねーがッ!と、取り巻きの一人。

リーダー格がいつのまにかさっきまで戯れていたカメを持っており、アイサツしないことに腹を立てて少年に突き出した。あっカメが、と少女がちょっぴり焦る。そりゃ、何年も克服に携わってきているほどなのだから、生き物とか動物が好きなんであろう。乱暴に不良につかまれたカメを心配して前に出ようとしたところを、少年に男らしく制されてしまった。

制しつつも、「コワイです~~~」とすこしおびえる少年。そのにやついたのが気に入らない不良に裏手のビンタを景気よい音で打ち込まれたが、その瞳は以外にも冷めていた。

さっと口元に手を当てる少女。不良の大きい声でちょっとした騒ぎになっていないかと、いまさらあたふたとしはじめる。友人であろう少年が入学初日から変な噂になってしまっては大変だ。登校時間の朝早くだったためか、人影は少なかったのでそれは杞憂に終わったが。

 

「ゴメンなさい 知りませんでした先輩!」

「知りませんでしたといって最後に見かけたのが病院だったってヤツぁ何人もいるぜ……」

キュっときっちり90度に腰を曲げて謝る少年。謝罪もすでに通じないとでもいうように、不良はカメを振り上げた。

「あ、ちょっと先輩さん!?カメを一体…」

「うるせーなッだまってろアマ!」

 

不良の右後方にたたきつけられるカメと、その腕の勢いのまま肘で押しのけられる少女。

強めの力で投げたのか、カメの甲羅にはひびが入り、血液が流れ始める。少女は地面に背中を打ったようで、ついでに引きずった白い肌に擦り傷をいくつか作った。

どこかからか、「さいてェー」とぼやく声が聞こえる。カメに当たり、少女を傷つけたことで自尊心が回復したのか、ガクランとボンタンと財布を置いていけばよいとカツアゲをはじめる先輩方。ボンタンまで所望する所をきくと、少年に恥をかかせる気マンマンのようである。少年は少女に不良の肘が当たった瞬間、すこーし眉をヒクつかせ、歯をちらりと見せたが、そのブルーの瞳はさめたまま。ただ、心なしか冷めるというよりかは冷徹である。見る人が見ればトボけているようでもある。

バス停に並ぶ人がこちらを気にし始めている。少女はケガして情けないやら、公衆の面前で虐げられて恥ずかしいやらで、鼻頭から頬の少しにカッと熱を帯びてしまう。

こちらを下に見て調子に乗っているのか、腰抜けとまで抜かす不良に名前を聞かれる少年。

少年は、

 

「はい 1年B組……東方 仗助です」

 

臆することなく、どもりもしなかった。

 

 

東方 仗助。ニンベンに丈夫の丈に助ける。従来の彼をしる少女は改めて、「名が体を表す」という言葉の意味を見た。

バカにしたようなあだなをつけられても、仗助はありがとうございます、と逆らわずに学ランのボタンに手をかける。

「おいアマ、オメーの名前も聞いとくぞコラ!生徒帳はーっと・・・・?

ンだこれ、なんて読むんだよオイ」

「おいおいカタカナがかいてあんだろーがよー!ア、オ、イ……美人な名前してるじゃねぇかアオイちゃ~~ん」

ギャハハハ、と下品な笑いが少女の脳内にこだまする。ぞわぞわと嫌な感覚が走るが、ぐぐっと下を向いてこらえる。格好や背丈は仗助とあまり変わらないのに、なぜこうも悪寒がするのか。今すぐに立ち上がって怒鳴ってやりたい気持ちがあるが、恐怖心だってある。考えてることが口にうまく出なかったなら、さらに恥をかくことになる。プスプスと音を立てて焦げるような怒りと混ざり合って、少女は口を開くことができなかった。下手に立ち上がることもできなかった。

遠くからバスが走ってきた。不良たちはそのバスに乗るようで、仗助の脱衣を急かす。ついでに、

「チンタラしてっと、そのアトムみてーな髪型もカリあげっど!」

蛇足のおまけつきで。

 

少女が勢いよく顔を上げた。その顔にはもうさっきまでの恥じと恐怖はない。代わりに、驚愕して見開いた瞳と焦燥。やってしまった、というように差した青み。

座り込んでスカートや背中についた土とか砂をなんともせず、仗助に向かって叱咤を飛ばす、が。

 

「まって仗助!もうちょっとこらえて___」

「おい…先輩 

あんた…今おれのこの頭のことなんつった!」

駆けだそうと手も伸ばしたが、ちょっとだけ間に合わなかった。

 

ユ、ラ、リ……と仗助の体がスローモーションのようにぶれた…と思うと、背後から恐ろしくたくましい右腕が弾丸のように放たれ、瞬間不良の顔が、仗助に与えたものよりも音高らかにふっとばされた。少女が、「あ~しまった」というように伸ばした手を顔に当てた。苦笑いになり、憑き物が取れたようにサっと立ち上がってお尻や膝をはたく。畏怖の悲鳴とともに仲間にぶち当たった不良から自分のカバンと生徒帳をむんずとひったくると、カメを拾う仗助のもとへ近寄っていく。

 

「悪ィ、葵。腕見せてくれ……クソ、けっこう擦ったな」

「うん、治してくれるのはいいけど、不良先輩さんを先に直した方がいいんじゃあないかな」

「あン?んまぁ、そっか」

 

いつのまにか傷が治っているカメを池に戻す仗助。その背後で倒れ伏したままだった不良が顔を上げると、グギギギ……と音が鳴るように、顔が治っていく。

仲間たちがそいつを指さしてまた叫ぶ。仗助に葵と呼ばれた少女は、ああ、新入生生活どうなっちゃうのかなあ、と空を仰いだ。

一方の仗助は、カメを直に触ることになったことをダシに、不良へとおよそ16の少年とは思えないようなガンを飛ばしていた。

 

 

 

*

 

 

東方仗助。1983年うまれ、母親は東方朋子。ジョセフ・ジョースターという不動産王との子。

いわゆる、隠し子というヤツ。朝っぱらから修羅場に遭遇した葵……琴葉葵と、広瀬康一は、なんというかいたたまれない気持ちで会話する二人の大男を見ていた。流れで巻き込まれてしまった者同士、なんとなく目線があってしまう。

 

「え、ええと……だ、大丈夫でしたか?さっき突き飛ばされてるのみちゃって」

「えっ!ああ、お恥ずかしいところを……というか、もしかしてぶどうヶ丘の新入生?だったら同い年じゃないかい?」

「本当!?僕は広瀬康一です、あなたは、あおい、さん」

「琴葉葵。楽器の琴に葉っぱ、葵の花の葵で、琴葉葵だよ。よろしく康一くん」

 

琴葉葵という人物について、広瀬康一からの第一印象は、「まるで美少女漫画から出てきたような人」だった。透き通った白い肌、インクでつぶしたような黒の、腰よりながいポニーテール。おそらく改造であろう、指定のものとは違う、半ぞでの黒いセーラー服。整った顔立ち、長い睫毛、薄い唇、かろやかな声……上げるときりがないのだが、彼女はいわゆる「美少女」であった。漫画から出てきたような、というのは、そのモノクロ調な姿格好からだろう。

だが、浮世離れしていたり、近づきがたいわけではなくフレンドリーなのは、その不思議な口調や動作、イントネーションに硬さがないからであろう。

 

こちらで会話が進んだうちに、あちらでも進んでいるようで、どうやら歩きながら説明されるらしい。仗助以上に大きな背丈の男性は「空条承太郎」というらしい。

名前を聞いた瞬間の葵の顔が何とも言えないものだったのが、康一には印象的だった。

 

 

「それと、杜王町に来たのは、もう一件あってな……こちらも人探しだ」

「人探し……ま、また血縁者、とかですか?」

 

承太郎がここへ来た経緯を説明し、仗助がそれに謝り、承太郎が彼への謎を深めたところで、新しく話を切り出した。

間違っちゃあいないが、合ってもねぇ。と承太郎が新しく紙を取り出す。それはずいぶん古いスケッチ画だった。紙は黄ばみ、ところどころ破れ、サインのような筆記体はかすれて読めなくなっている。

 

「おわ、美人っすね」

「ああ…アルセア・ローザという名前に聞き覚えは?」

「いや、ないっす。外国人ですか?」

「そんなところだ。俺たち、ジョースター家が全員この顔を知っている……いいか仗助、よく聞け。康一君もだ」

 

この女は人じゃあない。敵でもない。味方でもない。

 

「……どういうことっスか」

 

承太郎は語る。アルセア・ローザという人物は、いつもも同じ顔、同じ声…多少時代による差異はあるものの、似通う姿のまま、ジョースタ家の血筋にかかわっているという。家族関係、生年月日、親族関係……正確な記録はジョースター邸の消失により残っておらず、手掛かりはこのスケッチ画と、

「ターコイズブルーの髪の毛に、マゼンタより鮮やかな瞳……ってことだけだ」

「ブルー…って、青い髪の毛なんすか!?赤い目って……ほんとに人間とは思えないっすね」

「ああ。おれも因縁を感じざるを得ねー。それに赤い目なんて、よ」

 

女、という単語に、はっと康一が気づく。あたりを見回すと、ついさきほど交友を結んだ彼女の姿がない。

さきほど承太郎に怒号を飛ばされた女の子たちと一緒に行ってしまったのか、いつからいなくなったのか……話に夢中になっていた仗助も、承太郎も気づいていないようだった。

 

「ねぇ、仗助くん、葵さんがいないんだけど…」

「あ?ってほんとだ、いねーっ。……気ィつかわしてくれたのかな、込み入った話だったし」

「アオイ?」

 

承太郎が疑問を口に出す。ああ、そういえば、と仗助が説明をした。

 

「葵っつーのはさっき、おれと一緒にいたやつですよ。琴葉葵。おれとおんなじクラスで、同い年で、幼馴染っつーか、腐れ縁っつーか。そういうやつです……おれのこの能力も見えてるみたいっす」

「それは…スタンド使いということか?」

 

仗助が過去の記憶を巡らせる。確かに彼女は自分の背後にいる腕や足がみえているようだったが、彼女自身がそのような能力を使ったり片鱗をみせることはなかったはずだった。昔からずっとかわらないはず。

 

「たぶん違うと思いますよ。そういう力みしてもらったことはないです。ずーっとかわんねー。」

「……そうか、変わらないか」

 

「……もしかしてあいつを疑ってンすか、アンタ…」

 

ピリ、と仗助の空気が切れ味を増す。さっきのように「髪の毛をけなされたから怒った」のとは違い、張り詰めた冷徹さのある空気。いきなり殴りかかるでもなく、こちらを伺う、落ち着きすぎている空気である。これは……

(髪の毛についてと同格、いやそれよりちょっとばかし上の……触れちゃあいけねー話、か)

 

「葵がアンジェロのように…俺に危害を加えるためになにかすると?その人間じゃねーって女とかかわりがあると…そう考えてるんスか」

 

ドスの効いた、静かな声に、康一の喉がひきつる。まるで16と思えない気配に、背中に冷や汗が流れるのを感じる。フー……と息を長く吐く。やれやれだぜと帽子のつばをさげ、疑っていないことを打ち明ければ、仗助の空気はいくばくか緩いものになった。

話はまた明日、と仗助、康一、承太郎は場所を去った。

 

 

 

承太郎は、仗助の「かわんねー」というところに違和感を抱いたままだった。

杜王グランドホテルに戻った承太郎は、ある所へと電話をつなげる。短い挨拶を告げ、そして、

 

「……琴葉葵という人物について調べる。そちらでもデータベースを漁ってほしい」

そう、告げた。

 

 

思えば、承太郎の時もそうだった。

彼女はずっと変わらなかった。違和感なんて覚えなかった。

ジョセフのときも、ジョナサンのときも。そこにいたことを疑う人はいなかった。

アルセア・ローザという人物は、正確にはジョースター家だけではない。ツェペリ一族、スピードワゴン本人、空条家など、数え切れないほどの「関り」をもっている。だが、それに一切誰も疑いを持ってこなかった。そこが謎だった。

仗助に見せた写真に写る男。謎の怪しい影。それを始めてみた時に、「なにかやばいもの」を感じ取った。それと同時に、また「彼女は現れるだろう」という確信を持った。彼女はジョースターの血が大きなことを成そうとするとき必ず姿を見せる。だから仗助にも伝えたし、承太郎自ら足を動かした。なぜこの血筋に彼女がかかわっているのかはわからない。わからないから調べる必要があった。

 

「……自分でも、なにをしているのかわからねーな。何もわかんねーのに、わかんねーことを疑ってこなかった……それを疑えたのが、てめーが死んだあとだったなんてよ」

 

スケッチ画の笑顔は変わらずに承太郎に向けられている。

 
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