幽霊イコールどうしようもないもの
硝煙と、血と、腐敗臭。
むせ返るような、居心地の悪さ。
あいつの立てた仮説が、凝固なものになっていく。
手には拳銃。
目の前には、知らぬ誰か。
敵兵もいれば、流れ弾に当たって倒れた一般市民もいる。
戦争の無常さに腹立たしく思ったのと同時に、空虚な何かが心を埋め尽くす。
ねっとりと返り血が垂れる。
火花が弾ける。
遺体が燃やされる。
跡形もなく消え去っていく。
まるで、火葬のように思えた。
「あー……【そういうこと】」
この女の復讐劇。
同じと言われたのは、正義という名のエゴで人を撃っていた俺のこと。
父親にも置いていかれ、火葬されていくのを女は見るしかなかった。
この女が縋るものは、俺が今撃ったことで消えて無くなったのだ。
おぼつかない足取りで、意識外で動く体に身を任せて。
前世というものは信じないつもりだった。けれどあのとき掴んだ銃の感触、薬莢から臭う硝煙。そのどれもが、なんとも懐かしいものだった。
─“あのとき”撃った一般市民のなかに、この女の親がいたことに気づいたのは、撃った直後に戦場には不釣り合いな笛の音が聴こえてから。
─笛は弔いの音を奏で続ける。ずっと聴いていたらおかしくなりそうで、おれは足早にあの場を去った。
─おれが撃ったあの日から、この女の復讐劇は始まったのだ。
【ひとりめは、わたしのおかあさんをころしたやつ】
─あの後、おれが終戦直前に戦死したと本部に連絡が行ったらしい。
─ 確かに何かがおかしかった。
─反応が鈍い。何かに遮られているような感覚。終わりは早かった。
─最期は、脇腹と肩を撃たれたあと、恐らく失血死したあとに火炎瓶とかで焼かれたんだろう。
─…なんでこんなにハッキリ覚えているのか、不気味で仕方がない。
女の言ってたひとりめは、前世のことだった。
何度も何度も俺の関係者に取り憑き続け、時代を超えて今に至るってことか。
執念深すぎだろ。