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幽霊イコールどうしようもないもの


「おっせぇよお前ら!」
「俺らは悪くないですぅー当日になってえおえおを誘ったけっくんが悪いでしぅー」
「ちゃんと喋れ?」

 チャイムを鳴らして数秒後にこの辛辣な発言である。後ろから笑い声も聞こえたので後でこちょばしの刑に処す。

 なんとなく決まっている定位置に座って、テレビを囲うように持ってきたゲームやらなんやらを並べる。

「パーティーゲーはあろまいたら全部持ってくからなぁ」
「俗に言うあろまパーティーか。確かに俺らで結局誰が強いか、わからんくね?えおえおちぃゃ……あれ」
「ん?」

 横でいつものようにぼうっと俺らの会話を見ていたと思ったら、もうこっくりこっくりと船を漕ぎ出していた。

 さっきも寝てたよな、と疑問がありながらも、きっくんがクッションと毛布を持ってきてえおえおに被せたところでそんな疑問はどこかに飛んでいってしまった。

「流石、寝るの早いねぇ」
「きっくんも負けず劣らずだけどね」
「褒めんなよ…」
「うわぁ」

 取り留めもない脊髄反射の会話をぼんやりとたのしんで、改めて完全に寝入ったえおえおを見る。

「…ねぇ、きっくん」
「んー?」

 これまた珍しく、静かに眠るえおえおを優しく見守るきっくんに、かけづらい声を、なんとなくかけてみる。ただ、疑問に思ったことを、そのまま。

「俺らか、えおえおか、どっか肝試しとか心霊スポットとかに行ってない?」
「んえ?行ってない…はずだけど」

 ブログのネタ探し等に、えおえおやあろまはよく外出をするが、心霊スポットに行くことはまず無い。

 余程の事でない限り、幽霊に取り憑かれるなんて有り得ない。

「えおえおさ、なんかおかしいよ」
「うん、それはずっと前から思ってた」
「え、それっていつくらいから?」
「一ヶ月くらい前かなー」
「なっが!?」

 予想外の期間に、目玉が飛び出るほど目を見開き驚くFB。

 連想ゲームのように次々と疑問が浮かび上がって、質問しようと言葉が喉元まで出かかったが、きっくんは驚くFBを無視して続ける。

「気づいた数日は体調悪いのかなーくらいにしか思ってなかったんだけど、一週間経ち始めた頃から独り言を言うようになって。ぶつぶつ言ってるから何言ってるのかさっぱりだけど」
「あのさきっくん、実はさ、来る時の電車でさ、えおえおがなんか」
「幽霊に憑かれてるみたいだった。って?」

 きっくんの表情はすでに真剣なものになっていた。

 本当に今日は不思議なことばかりだ。えおえおはすごく死にそうだし、きっくんはすごく勘が冴え渡ってるし。

「そう。それで…」

 受け答えしようとしたら、間に入るようにチャイムが鳴る。家主が急いで扉を開けると、きっくんの感嘆の声が上がった。

 窓から覗く薄いオレンジの空が、あっという間に時間が過ぎていたことを知らせている。

 お昼食べてないけど、いっか。

「あろまぁ!」
「おっす。なんか早めに着いたからきっくん家に寄ったわ。入っていい?」
「どーぞどーぞ!」

 カメラを片手に四人の中でも小柄なあろまが、遠慮なくきっくんの家に上がり込む。

 床にに荷物を置いたやいなや、えおえおの元に駆け寄って顔色を覗く。

「あれ、あろまに話したっけ」
「ん、きっくんから聞いてた。えおえおが変な霊に取り憑かれてるって」

 なんと話が早いものだろう。仲間が本当にピンチになったときにだけ、チームワークが発揮される。

 そんな極振りすぎるチームワークを、もっと実況中にも活かしてくれるととても有難いのだが。

「あと変なこと言ってるとか、実際に聞かないとわかんな」
「ちょっと待ってあろませんせ、なんか聞こえる」

 あろまの発言を遮り、しんとなった部屋から聞こえる細々とした声を、よく耳をすませないと聞き取れない声を探す。

 やはりというか、声の発生源は横たわっているえおえおで、目はつぶっていて、またもや生気は感じとりにくい。

「えおえおだ」
「マジ?あろま、こいつが何言ってるか聞いてくれよお〜オレらにはわかんないんだよぉ〜」
「黙れハゲ。静かにしろ」

「…【Trois】」
「あ」

 またあのときの、えおえおに混じって聞こえる女の声。穏やかで、でも冷たく嗤いながら言っているような。

「【Sept】」
「……これ」
「あろま、なんかわかった?」
「これ、フランス語」
「おおお!ナイス進展!」

 ちょっとした発見だが、着実に一歩進んでいる。もうしばらく、えおえおの口から漏れる声を聞く。

「【Cinq】」
「…確かに、英語じゃないもんな」
「…五だ」

「【Six】」
「六?」

「【Quatre】」
「くあとれ?」
「違う、くぁっと」
「四、か」

 一拍置いて、また同じ言葉を発する。

「【Trois】」
「まろま先生、翻訳おなしゃす」
「ちゃんと喋れや。えぇと、三」

 簡単な単語で良かった。と独りごちて、あろまは空白の欄があるもう要らないであろう紙に、言葉を書いていく。

「【Sept】」
「七」

「【Cinq】」
「…五」

「【Six】」
「……ろく」
「え、ちょっと」

「【Quatre】」
「…よ、ん」

 紙に描かれた五つの数字。恐らくこの場にいる全員が、ここに書かれた言葉を理解した。

 3、7、5、6、4。

「うぉおい、めっちゃこえぇえぞコレ!!」
「うぇぇ…何これぇ」
「ちょ、えおえお、起きて?色々説明したいから起きてくれぇぇ…」

 あのときよりは冷たくない手を握り、声をかける。感化されたのか、きっくんとあろまもえおえおを呼びかけた。

 ふ、と瞼を開け、眠そうにこちらを見るえおえおは、先程まで本当に眠っていたようだ。

 それじゃあ今までのあれは、寝言?

「うっせぇ…」
「こっちのセリフじゃボケ。全部吐けオラ」
「うえぇ、全部?おれ自身もよくわかってな」
「心当たりはあるだろ?」

 あろまの立て続けに問われる言葉に、目を逸らして毛布にくるまろうとする。

 図星だろう。

「…」
「えおえお、話さないとわからんて」
「やっぱ、いいっす。帰るわ」
「ぶぇぇ!?」

 勢いをつけて起き上がったえおえおは、丸めた毛布を台にして立ちがる。

 まだゲームしてないのに。と目で訴えるFBは、引き留めようとえおえおのパーカーの袖を引っ掴む。

「いいって」
「まだゲームやってないでしょぉよー。やろーぜえおえおぉ!」
「だから」
「連れねぇなあぶーぶー」

 きっくんまで頬を膨らましながら引き留める始末。いずれ、あろまもそれに加担するだろう。

「やらないんですかねぇ」
「ちょ」
「「やらない〜、のーかー」」
「ふ、うるせ─」
「?」

 遂にはきっくんとFBのクソ歌セッションも始まり、収集がつかなくなるだろうこの展開に、呆れながらも流れを止めようと言葉を発したとき。

 ぴた、と静止したえおえおに不審感を抱くあろまとFB。特に、FBはここに来る前のあの出来事を、青ざめた顔で思い出していた。

「─に、」
「え」
「にげ、」

 絶望の淵に立たされたような怯え切った顔。痙攣を起こしているようにも見える腕が、ゆっくりと腰に伸びていく。そこには、何も無いはず。

「かってに、うごいて」
「はあ!?」

 そう驚いたのは誰だったか。

 何かが握られる。鈍く室内の照明を反射するそれは、FBが趣味で集めているそれにとてもよく似ていた。

「…あれって、銃?」
「え、本物?しかもご丁寧にサプレッサーまでついてるんですけど」
「え、なになに、どゆこと」
「ああ、あ」

 涙がぽろぽろと、銃を握り締めている手に落ちる。

 突然の出来事に唖然とすることしかできないまま、銃の照準が誰かに定まったのを見るしかなかった。

「っ!」
「ヤバイっ」


 撃たれる……!!








「あ"あ"あ"!!!」

 雄叫びと共に発射された三発の弾は、肩や脇腹を掠める程度で地面に着弾した。

 肉を抉られたような痛みに、傷口を手で押さえて蹲る。

 薬莢が三発分、地面に落ちる。

 ふらふらと後ずさり、手に汗が滲んでいたのか、手から銃が滑り落ちる。

 俯いて、罪悪感に囚われ、家から飛び出した。



【これで、ぜんいん】










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