ヴァイオレットさんから記憶を譲り受けた後、私はどうしようもない眠気に襲われ抗えることなく眠ってしまった。恐らくいきなり大量の記憶を受け入れたから脳が疲れたせい。


「……」


突然浮上した意識下で、ドフラミンゴさんが私の頭を優しく撫でてくれているのがわかった。抱き締めたくて目を開けようとして開けられず、逆に身体から動かそうとしても動かせない。思いがけない出来事に焦り、呻き声に近い変な声が出た。


「大分泣かせたみたいだな」


傍を離れ、何処かへ行くのがわかる。

捨てないで！

叫び出しそうなほど不安が押し寄せてやっと身体が動かない理由がわかった。高熱を出しているから動けないんだ。

大きくなってから寝込むほどの熱を出したことはなかったのに、環境が変わればそうはいかないのか。一人心地に考えてドフラミンゴさんが戻ってきてくれた。


「……起こすぞ」

「……ｱ、ﾘｶﾞﾄ……ｺﾞｻﾞｲﾏｽ」


咳き込みそうになるのを我慢しながら聞こえたかも怪しいくらいカスカスな喉で呟けば、ほら、飲め。そう言って渡してくれたのはとてもよく冷えた水。身体が纏う熱とのあまりの差にビックリして落としそうになったけど、何とか受け取り、少しだけ水を口に含む。水は熱を持った喉を冷やしながら空っぽの胃を満たし、暫くその場に留まりさらに下っていく。久方ぶりに感じる感覚にマスターを思い出し涙腺が緩んだ。


「不安にさせてすまなかった」


2ヵ月ぶりのまともな会話は何処かぎこちないのに、廊下での首絞め事件以来の真剣な表情に言葉以上の何かを探ってしまう。


「フッフッフッ、疑り深い目だな。……心配するな、深い意味はねえよ」


子供をあやすように頭を軽く叩き撫でる手は頬を撫で、唇に親指を持っていき弄り始めた。


「……病み上がりでもねぇのに抱くわけにはいかねえな」


嬉しそうに笑う。寂しさも滲み不安定なままのドフラミンゴさん。でも確かにその瞳が私を映しているって自信を持てるから、もう怖くない。


「……」

「なんだ？何か言いたそうだな」

「……」

「フッフッフッ……、言いたくなるまで傍にいてやる」


知ってか知らずか私の意図を上手に汲み取り抱き締めてくれるドフラミンゴさんに思わず笑ってしまう。


「……」


抱き締められて聞こえてくる心音をもっと近くで聞きたくて、動かない身体に鞭を打ちドフラミンゴさんの胸に頬を寄せる。特に何かを言われることはないけど、抱き締めくれる力が強くなって私が寝ていたのは数時間じゃないんだとわかった。


「ﾌｱﾝ……ﾆｻｾﾃ、ｺﾞﾒﾝﾅｻｲ」

「……俺の落ち度だ。何も考えるな」

「……」


抱きしめたい。強く、強く抱きしめて安心してほしいのに、先の無茶でもう動く気配はない。


「……寝たか」


少しでも動けば何倍もの体力を持っていかれたかのように眠気が襲う。
遠くなる意識、最後に感じたのはドフラミンゴさんの唇の感触だった。