ドアが閉まりきった途端足の力が抜け、その場に座り込む。


僕は、名無しのさんに何一つ優しい言葉をあげられない。
あの子を見ると、見透かされている気分になっていつもの僕じゃいられなくなる。

「最低だ……俺」

膝を抱え、子供みたいに震える。
本当はこんな姿だって普段はしない。

この歳になって初めて、この形がとても安心できるんだって気づいた。

こんな弱い自分、知りたくなかった。

prrrrr……prrrrr……

「もしも」
「ちょっと外でてこい」
「え、もう来」
「うるせえ、早く出ろ」

何かにキレてる兄者に嫌な汗が流れる。
急いで立ち上がりドアを開けると、名無しのさんの肩を抱いている弟者に、僕から名無しのさんを守るかのように前に立ちはだかる兄者。

「何したの、おついちさん」

滅多なことじゃ怒らない弟者まで怒ってる。
名無しのさんを見ると、声を殺して大粒の涙を流していた。

「何笑ってんだよ」
「……え」

言われて自分が笑ってることに気づいた。どこまでも最低だ。

「やめだやめだ。こんな空気で飯食えるか」
「名無しのさん、立てる？」
「……ッン……ッ」

弟者が名無しのさんを連れて名無しのさんの家へと入って行く。
それに続いて兄者も入る。

ドアが閉まる直前に兄者が何か言っていたのに、それに気づかないまま俺は何もできずに立ち尽くした。

三人が家へと入った後、一人になった現実が怖くて、春とはいえまだ風は冷たいのに名無しのさんの家の玄関の前で体育座りで居座る。

「俺、名無しのさんが好きなんだよなあ」

誰にともなく呟き、ジワジワと涙が滲んでくるのを感じながら顔を膝に押し付ける。

想うのは遅すぎる懺悔。