優しい彼の裏側
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お食事会当日。
この一週間は、先週よりも気疲れした。
理由は言わずもがな、常に感じるおついちさんの視線のせいだ。
気づけばいつも、何かを探るようにまじまじと見つめているおついちさんを、あの日以来、邪険にできなくなっていた。
「……んで、集まったのはいいが流石にスーツで食いもん屋ってのは息がしづらいから。一旦帰って……おっつんの家に行く途中で名無しのさんを拾って、おっつんの家集合!っていう流れでいいか?」
「……いえ、あの」
「名無しのさんの家、僕と一緒だから」
「……」
おついちさんの誤解を招く言い方に固まる弟者さんたちに慌てて訂正する。
それを聞いて、少し怒りながらおついちさんに食って掛かる弟者さんとそれをいなすおついちさん。
兄者さんは逆になにも言わず、無言で私を見つめながら、てんやわんやな状況に困っている私のもとへと来た。
「聞いてもいいか?」
「なんですか?」
「……家が隣同士っていつからだ?」
「入社式の一週間ほど前です」
顎に手を当て、考え込む兄者さんに少しの不安。
「先週の金曜あたりか。おっつんとなんかあった?」
兄者さんの鋭い質問に驚かないわけもないが、それよりも一番に驚いたのは、私たちの間に何かあった。と気づかれたことだ。
隠すことではないのかもしれない。だけど、言ったら何かが崩れる気がした。
「特に、これといったことはありませんよ」
「……そっか」
腑に落ちないと顔に書いてありながらも、追求をしない兄者さんの優しさは、追求されたときの対処を知らない私にはとてもありがたかった。
その後の私たちには会話はなかったが、気まずさは欠片もなかった。
「ちょっと、何二人でいい感じの空気を醸し出してるわけ?おついちさんも混ぜてよ」
しばらく言い争っていた2人は、ただ黙って見つめるだけの私たちに気づいて漸く止まる。
それはお腹がすいてきた私にはとてもありがたいこと。
だけど変な言いがかりをつけられるのは心外だ。……本人には到底言えないが。
兄者さんも同じことを思ったのか、少しイラついてるようだ。
「なに?お前達はご飯食べないわけ?食べないなら俺と名無しのさんの2人で食べに行くよ?」
「え、兄者そりゃないぜ!」
「そうだそうだ!僕もお腹すいた!」
じゃあ行くぞ!と先をヅカヅカ行く兄者さん。
ただ何かを感じて質問してくれただけなのに、申し訳ないな。と思いながら軽く走る。
「ほらほら兄者くーん。名無しのさん困ってるぞー」
火に油を注ぎそうなおついちさんの発言に、ヒヤヒヤした。だけど振り向いてこちらを確認してくれた兄者さんの顔にはもう怒りはなく、安心する。
ふと、私は過去にこんなに男の人といたことも優しくされたこともないと気づいたとき、私はむず痒いふわふわな名前のない感情を持て余していた。
「じゃあ、僕が連絡したら兄者くんたちがきてくれるのね?」
「ああ。っあ、でも移動時間時短したい」
「わかった。少し早めに連絡する」
私とおついちさんはバス停へ。兄者さんと弟者さんは地下に設備されている駐車場へと別れた。
バスは待つことなく到着し、会社を出てすぐの信号で兄者さんたちの車と並んで少し興奮したのは内緒の話。
「……」
おついちさんはバスに乗ってすぐ、窓の外を見ていた私の肩に頭を乗せる。
驚き肩を揺らす私を咎めることなく乗せ続けるおついちさんの表情は見えないが、とても穏やかな顔をしている気がした。
……感じるばかりで真意が見えないことが、これほどむず痒いと思ったことはない。
あの日、私はおついちさんの何を見つけてしまったのだろう。
「ありがとね。あの時のこと内緒にしてくれて」
兄者さんとの会話をばっちり聞いていたらしい。
その上であんなことを言ったということは、おついちさんのわかりづらい照れ隠しだったのか。
「なんとなく、言っちゃいけない気がしたので内緒にしただけです」
「……そう」
それから私たちの間に会話は一切なかった。
「連絡は僕が準備できしだいするけど、兄者たちの家はここから大分離れてるから。兄者たちが来たら迎えにいくよ。目安はだいたい二十分くらいかな」
「わかりました。……それじゃあ、またあとで会いましょう」
そう言って鍵を開け、ドアノブを捻る。
ところが、おついちさんは私の方を見て、一向に家に帰ろうとはしない。
「……名無しのさん、優しすぎって言われたことない?」
「……どうしたんですか?急に」
「ちゃんと答えて」
急な怪しい笑みに、戸惑いを隠せないまま、答えた私を、おついちさんはだよねえー。と笑った。
その笑顔はゾッとするほど冷たくて、ドアノブにかけていた手に力が入る。
「悪くはないよ、その優しさは。ただ、僕からの一言。優しすぎるが故に招く不幸があるってこと、覚えておいて」
それだけ言って家へと帰るおついちさんを、私が見送る形になる。
ドアがゆっくりと閉まる頃、私の足にかろうじて残っていた力が抜け、床にペタリ……と座ってしまう。
この一週間は、先週よりも気疲れした。
理由は言わずもがな、常に感じるおついちさんの視線のせいだ。
気づけばいつも、何かを探るようにまじまじと見つめているおついちさんを、あの日以来、邪険にできなくなっていた。
「……んで、集まったのはいいが流石にスーツで食いもん屋ってのは息がしづらいから。一旦帰って……おっつんの家に行く途中で名無しのさんを拾って、おっつんの家集合!っていう流れでいいか?」
「……いえ、あの」
「名無しのさんの家、僕と一緒だから」
「……」
おついちさんの誤解を招く言い方に固まる弟者さんたちに慌てて訂正する。
それを聞いて、少し怒りながらおついちさんに食って掛かる弟者さんとそれをいなすおついちさん。
兄者さんは逆になにも言わず、無言で私を見つめながら、てんやわんやな状況に困っている私のもとへと来た。
「聞いてもいいか?」
「なんですか?」
「……家が隣同士っていつからだ?」
「入社式の一週間ほど前です」
顎に手を当て、考え込む兄者さんに少しの不安。
「先週の金曜あたりか。おっつんとなんかあった?」
兄者さんの鋭い質問に驚かないわけもないが、それよりも一番に驚いたのは、私たちの間に何かあった。と気づかれたことだ。
隠すことではないのかもしれない。だけど、言ったら何かが崩れる気がした。
「特に、これといったことはありませんよ」
「……そっか」
腑に落ちないと顔に書いてありながらも、追求をしない兄者さんの優しさは、追求されたときの対処を知らない私にはとてもありがたかった。
その後の私たちには会話はなかったが、気まずさは欠片もなかった。
「ちょっと、何二人でいい感じの空気を醸し出してるわけ?おついちさんも混ぜてよ」
しばらく言い争っていた2人は、ただ黙って見つめるだけの私たちに気づいて漸く止まる。
それはお腹がすいてきた私にはとてもありがたいこと。
だけど変な言いがかりをつけられるのは心外だ。……本人には到底言えないが。
兄者さんも同じことを思ったのか、少しイラついてるようだ。
「なに?お前達はご飯食べないわけ?食べないなら俺と名無しのさんの2人で食べに行くよ?」
「え、兄者そりゃないぜ!」
「そうだそうだ!僕もお腹すいた!」
じゃあ行くぞ!と先をヅカヅカ行く兄者さん。
ただ何かを感じて質問してくれただけなのに、申し訳ないな。と思いながら軽く走る。
「ほらほら兄者くーん。名無しのさん困ってるぞー」
火に油を注ぎそうなおついちさんの発言に、ヒヤヒヤした。だけど振り向いてこちらを確認してくれた兄者さんの顔にはもう怒りはなく、安心する。
ふと、私は過去にこんなに男の人といたことも優しくされたこともないと気づいたとき、私はむず痒いふわふわな名前のない感情を持て余していた。
「じゃあ、僕が連絡したら兄者くんたちがきてくれるのね?」
「ああ。っあ、でも移動時間時短したい」
「わかった。少し早めに連絡する」
私とおついちさんはバス停へ。兄者さんと弟者さんは地下に設備されている駐車場へと別れた。
バスは待つことなく到着し、会社を出てすぐの信号で兄者さんたちの車と並んで少し興奮したのは内緒の話。
「……」
おついちさんはバスに乗ってすぐ、窓の外を見ていた私の肩に頭を乗せる。
驚き肩を揺らす私を咎めることなく乗せ続けるおついちさんの表情は見えないが、とても穏やかな顔をしている気がした。
……感じるばかりで真意が見えないことが、これほどむず痒いと思ったことはない。
あの日、私はおついちさんの何を見つけてしまったのだろう。
「ありがとね。あの時のこと内緒にしてくれて」
兄者さんとの会話をばっちり聞いていたらしい。
その上であんなことを言ったということは、おついちさんのわかりづらい照れ隠しだったのか。
「なんとなく、言っちゃいけない気がしたので内緒にしただけです」
「……そう」
それから私たちの間に会話は一切なかった。
「連絡は僕が準備できしだいするけど、兄者たちの家はここから大分離れてるから。兄者たちが来たら迎えにいくよ。目安はだいたい二十分くらいかな」
「わかりました。……それじゃあ、またあとで会いましょう」
そう言って鍵を開け、ドアノブを捻る。
ところが、おついちさんは私の方を見て、一向に家に帰ろうとはしない。
「……名無しのさん、優しすぎって言われたことない?」
「……どうしたんですか?急に」
「ちゃんと答えて」
急な怪しい笑みに、戸惑いを隠せないまま、答えた私を、おついちさんはだよねえー。と笑った。
その笑顔はゾッとするほど冷たくて、ドアノブにかけていた手に力が入る。
「悪くはないよ、その優しさは。ただ、僕からの一言。優しすぎるが故に招く不幸があるってこと、覚えておいて」
それだけ言って家へと帰るおついちさんを、私が見送る形になる。
ドアがゆっくりと閉まる頃、私の足にかろうじて残っていた力が抜け、床にペタリ……と座ってしまう。