俺の戸締まりを待っててくれたおっつんたちと合流し、急いで動画を撮りに帰る。

普段はうるさい車の中が、走るエンジン音しかしないほど静かで空気も重い。
別に気まずいわけじゃないが、普段と違うのがなんか腑に落ちない。そう思いながら俺は窓の外を見てた。

「……ところで、弟者くん。名無しのさんとなに話してたの？」
「え？別にこれといっては話してないよ？仕事頑張りすぎないでね！とか、そんな感じ」
「……名無しのさんってなんか、可愛くね？」
「可愛い……というか、なんかこう、構いたくなる小動物感！が俺は好き！」


不意な俺の言葉に、驚くおっつんと、もとより高かったテンションをさらに上げて俺の言葉に反応する弟者。
名無しのさんの話題で盛り上がっている俺たちを、おっつんは不機嫌そうに頬杖をついて、外を見ながら聞いていた。

「今度、食事に誘ってみようか」
「……どうしたの？おついちさん」
「いや、そんなに気になるなら誘えばいいんじゃないかなあって」

どこか自嘲気味に、目は死んだような笑顔でそう提案してくるおっつんに、俺たち二人は地雷を踏んだとわかった。
でもなんとなし、それでも何か良いことがある気がしていつにする？なんて。

俺がテンション高めでおついちの案に乗るから、弟者が不安そうな顔でいつにしようか。とか、あー、その日は……とか。
あーだこーだと、少しギスギスした感じに言い合う俺たちの空気を変えようと、隙あらば間の手をいれるように話してくれた。
そのおかげか、名無しのさんを食事に誘う話題は比較的穏やかに決まり、話は流れ、家につく頃にはいつも通りの俺たちに戻っていた。


「……」
「どうしたの？おついちさん」
「いや、なんでもないよ。それよりごめんね。なんか、車のなかでギスギスしちゃって」
「そんな、俺に謝らないで兄者に謝ってよ。……兄者も、誰にでも虫の居所が悪い日だってあるって、知ってるから」

本当は虫の居所云々って話じゃないって、そんな馬鹿じゃない俺たちはわかってた。
けど、ここで何かを言ったところで変わらないし、弟者にしたらここでは喧嘩をしたくない。ってのが本音だろう。
俺はそんな二人の会話を遠くから聞きながら、家の鍵を開けていた。