奇妙な夜
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言葉にできない感情を、共有しあうかのようにお互いを強く抱きしめあう。
時間にしてみれば数分だったかもしれない。だけど感覚は、それ以上に感じる。
「……俺のこと、嫌いにならないで」
それが、唯一のお願いだから。
切なそうに笑うおついちさんのこの言葉に、どれだけの我慢が隠されているのか計り知れない。私は、おついちさんに我慢してもらってばかり……。
「……なるわけない」
抱きしめるだけじゃ足りない、もっと、溶け合いたいとさえ思うほど、今のおついちさんは不安定に見えた。
「……ご飯」
「今日の担当は俺だったか」
空気も、私たちも、日常へかえる。気持ちを切り替えるのは簡単ではないけれど、二人でだから少しだけ簡単になる。
私も、おついちさんの支えになりたい。
「どうする?もう少し寝る?」
「ううん。一緒に行く」
「……そっか」
また泣きそうな表情になるおついちさんの手を、強く握って台所へと歩いた。
我慢しないで。
そう言えたら、おついちさんは少しでも楽になれる?
「なに食べたい?」
「……野菜が食べたい」
「りょーかい」
私はソファーに寝転がり、クッションを抱きしめご飯を作ってくれている背中を見つめる。今、とても頼もしく見えている背中は、私のよく分からないフィルター越しに見る虚像。本当のところは、いつもなにかを怯え、それから守るための臆病な背中。
私と一緒。
「もー、泣かないでって言ってるのに。なに考えてたの?」
「……泣くようなことは、考えてなかったの」
「……そう」
頭を撫でてくれる手が、温もりが、いつも当たり前であるように。
「……っトイレ行ってきてもいい?」
「いいよ」
「ありがとう」
妙に下っ腹が重い。
それはまるで、一週間の女の子デーが始まる前兆にも似た感じ。急いでトイレへと駆け込み座ると、ポチャンッとまだなにものにも汚されていない綺麗な水に赤いシミができる。
「最悪……っ」
鼻を啜りながら、トイレの角に隠すように設置してあるナプキンを取り出す。それからついでとばかりに、用を足し、トイレから出ると。
「下着、汚れなかった?」
壁に寄りかかり腕組をして立っていたおついちさんの開口一番。思わず聞き返しそうになる驚きの一言に、ドアを閉める。
「ちょっと?!なんで閉めるの!」
「いや!あの!うん?!」
「だーかーらー!下着、汚れなかった?!」
おついちさんが私の生理周期を把握しているとわかった衝撃的な瞬間。
生理は生理現象で抗えようもないもの。だから一緒に生活している以上、いつ来てる来ていないがおついちさんにわからないわけじゃない。でも、いついつ来るとまで把握されていると知ってしまうととても恥ずかしい気持ちでいっぱいになる。
「ほらぁ、出ておいで?」
「……」
「泣くほど僕が知ってるの嫌だった?」
「……」
トイレから出て、おついちさんに抱きつき、胸あたりに収まる頭を擦りつけるように横に振る。
嫌じゃない。決して嫌じゃないけど、とても恥ずかしいのだ。
「……」
「……」
なにも言わずただ、抱きつくだけの私の頭をずっと撫でてくれる。
「言わないと、おついちさんわかんないな」
「……いっ嫌じゃないけど、恥ずかしいだけで……」
「うん」
「その、心配してくれてありがとう」
上を見ると、とても優しい眼差しで私を見ていた。
「もー、美味しいでしょ?だったら素直にそういう顔すれば良いの!……ね?僕のことばっかり考えてくれるのは嬉しいけど、でもそれで悲しい顔されたらおついちさん困っちゃう」
「……してないし、考えてないもん」
「嘘つき」
いつもはお互いに向き合って食べているご飯の時間、それが今日は横一列に並んで食べている。
座る位置が変わるのは、弟者さんや兄者さんとご飯を食べたりするとよく起こることだから何にも問題はない。しかし、横に座っているにも関わらず、ずっとこちらを見たままのおついちさんには問題大有りだ。
気にしないように、とは考えるも一度気にすると気になるのは人間の性分だと思う。
「私の顔に、何かついてる?」
「ううん、何にもついてないよ。どしたの?」
「……特にどう、っていう事はないの」
気づいてない。
無意識に見てるの?
だとしたら、めちゃくちゃ恥ずかしいのにやめてなんて言えない。
モヤモヤと考えながら食べるせいか、ご飯やおかずを口に運びはするも味が一つもわからない。
「ストップ!権兵衛ちゃん、ちゃんと味わってる?」
「……うん」
「嘘。なに考えてたの」
「なんでおついちさんずっとこっち見てるのかな?と、お風呂に事。考えてました」
当然、一緒にはいるのは無理だ。だけどあえて口にしたのは相手がおついちさんだから。
「……一緒に入るのは当然無理だよね」
「うん」
正当な答えが返ってきたことに、平然を装いながらも酷く驚く。この流れなら別々で入るのは確定。
そう、早とちりした私を、数秒後の私よ殴ってほしい。
「でも、洗いには入るよ」
「ん?!」
可愛くない声が出たとか、ご飯を茶碗ごと床に落としたとか、そんなことがどうでもよくなるほど動揺する私をよそに、至極心配そうに私の顔を覗きこむおついちさん。
お腹痛いの?なんて、聞かれても答える余力が今の私にはない。
「だいじょーぶ!何とかなるって!」
「……」
もうどうにでもして。
もう、そう言うしか道はなかった。
「はい!今日も元気に入っていきましょー!」
「……」
絶賛女の子デーの為、服までは脱ごうがパンツは断固脱がない。
これは絶対に曲げてはならない信念だ。だからおついちさんのこの言葉に酷く腑に落ちず、私はお風呂のドアの前で立ち尽くしていた。
「……やっぱり、無茶だよね」
悪いのは、完全におついちさんのはずなのに。私が悪いのだと勘違いしそうな程の落ち込みように、思わず何か妥協策があるんじゃないかと考え始めてしまう。
「ごめん!調子に乗りすぎました!……だから、そんな泣きそうな顔しないで」
もはやどちらが悪いのかわからなくなる。
「……おついちさんとのお風呂は楽しいよ。でも、やっぱりこの血は見られたくない……です」
「だよね」
「でも!一人じゃまだ洗い方が完璧じゃないからそばにはいてほしい!」
だから何をいっているんだ。そんな方法ないだろう。
そんな誰かの声が聞こえてきそうになる。
「じゃあ、ドアの前にいるから。わからないことがあったら色々聞いて」
おついちさんは、困ったような笑顔でそう言ってくれた。もうどちらが無茶を言っているのか。
その後の会話はなく、気まずい空気のになりつつある浴室に響くのは、私が体を洗う水が床に叩きつけられ跳ねる音だけ。
「……たぶん、洗えました」
「良くできました!……突然だけど、良いきっかけだからまた、別々に入るようにしようか」
「……え」
これは、願ったり叶ったりな展開のはずなのに、自然と出た声にならない動揺の声に酷く混乱する私と、対照的におついちさんはいつも以上に機嫌の良い声。納得ができない。
「……ん?」
「ん?」
お互いの頭の上にはたくさんのクエスチョンマークが飛び交うのに、答えは一向に出てこない。
「寂しい?」
「……たぶん」
「たぶんって」
「……寂しい、とかっていう気持ちはわかないけど……うーん、なんか、拒まれたって気がする」
「……」
実際に拒んだのは私なのだと、言ってから気づく。そして、それが事実なのだと確信を得たのはおついちさんからの無言の返事。
「……ごめん、なさい。私何してんだろう。おついちさんを傷つけてばかりだ」
「そんなこと」
「あるの!」
無意識に、なんて言葉じゃ片付けられないくらい私はおついちさんに甘えすぎた。
こういう時、泣く女は嫌いなのに涙が勝手に溢れてくる。ズルいやつだ、と心の自分が叫ぶ。
これがドア越しでよかった。
「泣いてる?」
「そんなわけないよ」
「もー、だから嘘つくの下手すぎ」
笑えない状況なのに、笑ってくれるのはおついちさんの優しさ。
「じゃあリビングで待ってるからねー」
おついちさんが脱衣所を出るのに合わせ、私は湯船から飛び出るようにでて急いで着替えを済ませる。
そうして、おついちさんの元へと早歩きという名のダッシュで向かい抱きつく。
「私ね!しっかりする!おついちさんに迷惑かけないくらいうーんとしっかりする!」
「……」
だからね、もう少し肩の力を抜いても良いんだよ。
時間にしてみれば数分だったかもしれない。だけど感覚は、それ以上に感じる。
「……俺のこと、嫌いにならないで」
それが、唯一のお願いだから。
切なそうに笑うおついちさんのこの言葉に、どれだけの我慢が隠されているのか計り知れない。私は、おついちさんに我慢してもらってばかり……。
「……なるわけない」
抱きしめるだけじゃ足りない、もっと、溶け合いたいとさえ思うほど、今のおついちさんは不安定に見えた。
「……ご飯」
「今日の担当は俺だったか」
空気も、私たちも、日常へかえる。気持ちを切り替えるのは簡単ではないけれど、二人でだから少しだけ簡単になる。
私も、おついちさんの支えになりたい。
「どうする?もう少し寝る?」
「ううん。一緒に行く」
「……そっか」
また泣きそうな表情になるおついちさんの手を、強く握って台所へと歩いた。
我慢しないで。
そう言えたら、おついちさんは少しでも楽になれる?
「なに食べたい?」
「……野菜が食べたい」
「りょーかい」
私はソファーに寝転がり、クッションを抱きしめご飯を作ってくれている背中を見つめる。今、とても頼もしく見えている背中は、私のよく分からないフィルター越しに見る虚像。本当のところは、いつもなにかを怯え、それから守るための臆病な背中。
私と一緒。
「もー、泣かないでって言ってるのに。なに考えてたの?」
「……泣くようなことは、考えてなかったの」
「……そう」
頭を撫でてくれる手が、温もりが、いつも当たり前であるように。
「……っトイレ行ってきてもいい?」
「いいよ」
「ありがとう」
妙に下っ腹が重い。
それはまるで、一週間の女の子デーが始まる前兆にも似た感じ。急いでトイレへと駆け込み座ると、ポチャンッとまだなにものにも汚されていない綺麗な水に赤いシミができる。
「最悪……っ」
鼻を啜りながら、トイレの角に隠すように設置してあるナプキンを取り出す。それからついでとばかりに、用を足し、トイレから出ると。
「下着、汚れなかった?」
壁に寄りかかり腕組をして立っていたおついちさんの開口一番。思わず聞き返しそうになる驚きの一言に、ドアを閉める。
「ちょっと?!なんで閉めるの!」
「いや!あの!うん?!」
「だーかーらー!下着、汚れなかった?!」
おついちさんが私の生理周期を把握しているとわかった衝撃的な瞬間。
生理は生理現象で抗えようもないもの。だから一緒に生活している以上、いつ来てる来ていないがおついちさんにわからないわけじゃない。でも、いついつ来るとまで把握されていると知ってしまうととても恥ずかしい気持ちでいっぱいになる。
「ほらぁ、出ておいで?」
「……」
「泣くほど僕が知ってるの嫌だった?」
「……」
トイレから出て、おついちさんに抱きつき、胸あたりに収まる頭を擦りつけるように横に振る。
嫌じゃない。決して嫌じゃないけど、とても恥ずかしいのだ。
「……」
「……」
なにも言わずただ、抱きつくだけの私の頭をずっと撫でてくれる。
「言わないと、おついちさんわかんないな」
「……いっ嫌じゃないけど、恥ずかしいだけで……」
「うん」
「その、心配してくれてありがとう」
上を見ると、とても優しい眼差しで私を見ていた。
「もー、美味しいでしょ?だったら素直にそういう顔すれば良いの!……ね?僕のことばっかり考えてくれるのは嬉しいけど、でもそれで悲しい顔されたらおついちさん困っちゃう」
「……してないし、考えてないもん」
「嘘つき」
いつもはお互いに向き合って食べているご飯の時間、それが今日は横一列に並んで食べている。
座る位置が変わるのは、弟者さんや兄者さんとご飯を食べたりするとよく起こることだから何にも問題はない。しかし、横に座っているにも関わらず、ずっとこちらを見たままのおついちさんには問題大有りだ。
気にしないように、とは考えるも一度気にすると気になるのは人間の性分だと思う。
「私の顔に、何かついてる?」
「ううん、何にもついてないよ。どしたの?」
「……特にどう、っていう事はないの」
気づいてない。
無意識に見てるの?
だとしたら、めちゃくちゃ恥ずかしいのにやめてなんて言えない。
モヤモヤと考えながら食べるせいか、ご飯やおかずを口に運びはするも味が一つもわからない。
「ストップ!権兵衛ちゃん、ちゃんと味わってる?」
「……うん」
「嘘。なに考えてたの」
「なんでおついちさんずっとこっち見てるのかな?と、お風呂に事。考えてました」
当然、一緒にはいるのは無理だ。だけどあえて口にしたのは相手がおついちさんだから。
「……一緒に入るのは当然無理だよね」
「うん」
正当な答えが返ってきたことに、平然を装いながらも酷く驚く。この流れなら別々で入るのは確定。
そう、早とちりした私を、数秒後の私よ殴ってほしい。
「でも、洗いには入るよ」
「ん?!」
可愛くない声が出たとか、ご飯を茶碗ごと床に落としたとか、そんなことがどうでもよくなるほど動揺する私をよそに、至極心配そうに私の顔を覗きこむおついちさん。
お腹痛いの?なんて、聞かれても答える余力が今の私にはない。
「だいじょーぶ!何とかなるって!」
「……」
もうどうにでもして。
もう、そう言うしか道はなかった。
「はい!今日も元気に入っていきましょー!」
「……」
絶賛女の子デーの為、服までは脱ごうがパンツは断固脱がない。
これは絶対に曲げてはならない信念だ。だからおついちさんのこの言葉に酷く腑に落ちず、私はお風呂のドアの前で立ち尽くしていた。
「……やっぱり、無茶だよね」
悪いのは、完全におついちさんのはずなのに。私が悪いのだと勘違いしそうな程の落ち込みように、思わず何か妥協策があるんじゃないかと考え始めてしまう。
「ごめん!調子に乗りすぎました!……だから、そんな泣きそうな顔しないで」
もはやどちらが悪いのかわからなくなる。
「……おついちさんとのお風呂は楽しいよ。でも、やっぱりこの血は見られたくない……です」
「だよね」
「でも!一人じゃまだ洗い方が完璧じゃないからそばにはいてほしい!」
だから何をいっているんだ。そんな方法ないだろう。
そんな誰かの声が聞こえてきそうになる。
「じゃあ、ドアの前にいるから。わからないことがあったら色々聞いて」
おついちさんは、困ったような笑顔でそう言ってくれた。もうどちらが無茶を言っているのか。
その後の会話はなく、気まずい空気のになりつつある浴室に響くのは、私が体を洗う水が床に叩きつけられ跳ねる音だけ。
「……たぶん、洗えました」
「良くできました!……突然だけど、良いきっかけだからまた、別々に入るようにしようか」
「……え」
これは、願ったり叶ったりな展開のはずなのに、自然と出た声にならない動揺の声に酷く混乱する私と、対照的におついちさんはいつも以上に機嫌の良い声。納得ができない。
「……ん?」
「ん?」
お互いの頭の上にはたくさんのクエスチョンマークが飛び交うのに、答えは一向に出てこない。
「寂しい?」
「……たぶん」
「たぶんって」
「……寂しい、とかっていう気持ちはわかないけど……うーん、なんか、拒まれたって気がする」
「……」
実際に拒んだのは私なのだと、言ってから気づく。そして、それが事実なのだと確信を得たのはおついちさんからの無言の返事。
「……ごめん、なさい。私何してんだろう。おついちさんを傷つけてばかりだ」
「そんなこと」
「あるの!」
無意識に、なんて言葉じゃ片付けられないくらい私はおついちさんに甘えすぎた。
こういう時、泣く女は嫌いなのに涙が勝手に溢れてくる。ズルいやつだ、と心の自分が叫ぶ。
これがドア越しでよかった。
「泣いてる?」
「そんなわけないよ」
「もー、だから嘘つくの下手すぎ」
笑えない状況なのに、笑ってくれるのはおついちさんの優しさ。
「じゃあリビングで待ってるからねー」
おついちさんが脱衣所を出るのに合わせ、私は湯船から飛び出るようにでて急いで着替えを済ませる。
そうして、おついちさんの元へと早歩きという名のダッシュで向かい抱きつく。
「私ね!しっかりする!おついちさんに迷惑かけないくらいうーんとしっかりする!」
「……」
だからね、もう少し肩の力を抜いても良いんだよ。