おついちさんのおかげで、鏡の前でオドオドすることがなくなる程、サラサラになった髪の毛。それを見て、私事の様に喜んでくれるおついちさんに、精一杯の感謝を込めて背中に抱きついた。


「……どうしたの？」

「特にはないよ。ただ、ありがとうって思っただけ！」


こちらを振り向き、疑り深い目で私の目を見る。ただ、嘘かどうかを見極めるだけだとわかっているのに、必要以上に見つめられると自分の意思に関係なく赤くなっていく顔。
思わず膨れっ面になる私。


「ごめんって！心臓もたないからそんなに可愛い顔しないで！」


相変わらず頭を撫でるおついちさんに、ふと疑問が。


「おついちさんって、誰にでも頭撫でるの？」

「お？どうしたの、急に」

「別に、私は嫌じゃないけど自然にいっぱい撫でてくれるから、普段から誰彼構わず撫でてるのかなって。気になっただけ」


私の声が段々と小さくなっていくのに比例して、段々と妖しい笑みに変わっていくおついちさんの表情。


「なによ」

「んーん。別に」


妖しい笑みは変わらず、何か恥ずかしいことを言ったみたいに感じてきた私は、この話題をどうはぐらかそうかと考え始めた。


「……」


だめだ。なにも思い浮かばない。
そう、考えあぐねていると。


「……誰かの頭を撫でるなんて、権兵衛だけだよ」


わからない。今話している内容や声色は、大人の色気とは関係ないはずなのに。おついちさんの纏っているそれは、まさに大人の色気そのものだった。


「だから、そうやって容易に人を誘わない」

「そっそんなことしてない！」

「そう。なら、僕のこれどう説明してくれる？」


ばか！

それだけ叫んで私は逃げた。