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中途半端

「……っつーわけで真の話を聞く限り、お前と瀬名先輩は付き合ってて、もう最後まで行ってるらしいんだけど」
凛月おまえいつの間に、とまーくん。
まじか。俺とセッちゃんは付き合っていたのか。いつの間に。俺が知りたい。
「ゆうくん情報ってことはセッちゃんが言ってたってことだよねえ……

「俺の記憶が正しければキスもしたことないし、それどころか付き合ってすらいないんだけどねえ」






ゆうくんと衣更が婚いだのは知ってる。幸せにやってるのも知ってる。
にしてもなんで。
真っ赤な顔をしたゆうくんは可愛いけど。
「い、泉さんは朔間先輩の弟さんとどこまで行ったの?」
言えない。まだ婚いですらいないだなんて言えない。だって俺はゆうくんのお兄ちゃんなんだから。兄が弟より経験が少ないだなんてあっちゃいけない。
「最後まで行ったよ、とっくにねえ」
もちろん、そんな事実はない。処女どころか童貞だし、それどころかファーストキスすら終えていない。
泉さんは流石だなあ、とゆうくん。
「じゃ、じゃあ初めて、その、したときって」
「なんかこう流れで……? そういう雰囲気になったから」
ぴく、とゆうくんの動きが一瞬固まる。
「ゆうくん?」
「その、この前、そういう空気になったんだけど、びっくりしちゃって」








朔間凛月が自分にとって特別なのはまえから気がついていた。
最初は王様が自分の葦牙だと思っていたのだ。自分に近い葦牙なんて王様しかいなかったから。でもあのとき、気ついてしまった。王様と近づいたとき以上に反応する体、心臓。気がつけば頭の中まで朔間凛月に支配されていて。
つまり、葦牙だとかセキレイだとか関係なく、好きになっていたのだ。たぶん。
ゆうくんのことも、王様のことも好きだけれど。朔間凛月に対する好きは全然違っていた。
ゆうくんは葦牙を見つけて、婚いだ。そして、恋人として次の段階に進もうとしている。
弟に出来て、自分に出来ないことなんてあっちゃいけない。
さいあく、羽化だけして逃げてしまえばいい。なんとなく、そういう気分だったとか、そういったことを言って。
今一番厄介なのは心臓でも脳を支配する感情でもなく、放置に放置を重ね、気を抜けば力が抜けてしまいそうなくらい疼くこの体なのだ。
王様はたぶんどこかで作曲をしていて、かさくんはそれをなんとかしようとしてるはず。なるくんからはクラスのことで遅れると連絡が入っていた。
しばらく、この布団で丸まる朔間凛月と二人きりだろう、と判断してそっと布団に近づく。深呼吸をして、くまくんのほおにそっと手をかける。くまくんを起こさないように、そっと近づいて。









「瀬名先ぱ……!」
そのままセッちゃんはスタジオを出て行ってしまった。
「……凛月先輩は瀬名先輩に一体何をなさったんですか……?」
ギョッとした顔でセッちゃんを目で追った後、スーちゃんが王様を引きずってスタジオに入ってくる。
「ちょっとふざけてちゅーしただけなんだけど」
「あの反応からして巫山戯てどころではない気がするのですけれど……どこになさったんです?」
スーちゃんのことだから顔を真っ赤にして破廉恥な、とでも言われるかと思ったらそうでもなかった。にしてもどこに、とは。
「どこって」
「それによってこの後の対応が変わるので」
対応……?
「くち、だけど」
「そのとき妙に周りが明るくありませんでした?」
「そういえばそうだった、ような……?」
「Leader私瀬名先輩を探してきます」
「おー、任せた」
スーちゃんが顔色を変えてスタジオから出て行く。
えっなに、俺がセッちゃんにちゅーしてなんでスーちゃんが顔色を変える必要が?
そこでヴヴヴ、とスマホが震える。
今度は一体なんだってんだ。
急用だったら嫌だなあ、とスマホを手に取ると、メールが一件。
差出人不明、タイトルは無し。
怪しさ満点だけど一応開くと、そこには。
『おめでとうございます。 あなたはNo.13、泉の葦牙に選ばれました』
「はあ……?」
泉……ってセッちゃんのこと?セッちゃんの葦牙? 葦牙、って葦の芽とかそういう意味じゃなかったっけ?
「……ああ、それでスオ〜が」
いつの間にか作曲をやめて画面を覗き込んでいた王様が呟く。
「王様、どういう意味かわかるの?」
「おれスオ〜の葦牙だから」
「その葦牙、ってなんなの」



「俺、」
目を逸らせたまま、セッちゃんは話し始めた。

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