中途半端
目が覚めたら、赤髪の女子と二人で部屋にいた。
あんずと比べるとひとまわり小さいそのひとは、こちらに背を向けているため顔はわからないが、蘇芳色の髪を肩甲骨のあたりまで伸ばしている。下半身にはなにも纏っておらず、サイズの大きいワイシャツを着ることで何とかお尻は隠されていた。ワイシャツ一枚しか羽織っていないのは自分も同じだった。
落ち着いて周りを見回してみれば、見覚えのない空間であった。ベッドは普段と同じような大きさ柔らかさだけど、部屋の広さが普段の半分、下手したら三分の一。
ああやっと起きたのですか桃李くん、などと言いつつ振り返ってあらわになった顔は、幼馴染の赤髪とよく似た系統のつくりをしていた。あれ、“朱桜“って司のほかに同じくらいの歳の子いたっけ。
「……司であっていますよ。間違いなく、おのれが朱桜司であると自認しております」
表情で察したのか、そんな言葉をかけてくれる。
「何故私と桃李くんなのか、なぜここにいるのか……など疑問は尽きませんが、とりあえず顔でも洗ってきたらどうですか」
司がほら、とドアを指さす。
「水道、毒見はしましたので」
「……まって司、ない!!!!!!!!! ないんだけど!!!!!!」
「何がですか桃李くん、うるさいですね」
うるさいですね、じゃない。とりあえず落ち着こうとトイレに座ったところまではよかった。なにやらいつもと感覚が違うので下を見てみると、産まれてからずっと十五年間一緒だったアレがなかったのだ。代わりに何が付いていたかは直視できなかったけれど。
だいたい桃李くんも髪の毛伸びてるじゃないですか、ドアの向こうから返ってくる。
洗面台の鏡を見る。本当だ、たしかに妹と同じぐらいの長さになっている。
もしかして、とワイシャツの隙間から胸元を覗くと……ほんの僅かだけど、まえよりはある……かもしれない。
間違いない。司だけではなくボクも女の子になっていた。
「どうやら閉じ込められているみたいです、私たち。先ほどドアを開けようとしてみましたが、電流が流れているうえに針が仕込まれていて。まだちょっとぴりぴりします……ああ、いえ、普通に鍵もかけられているようなのですけれど」
先に起きていた司がいろいろ探ってくれていたらしい。
ベッドの右側にあるのがおそらく出口である、電流が流れ鍵がかけられているドア。正面にもうひとつ、さっき入った洗面所とお風呂につながっているドアがある。
ほかに、五百ミリリットルのペットボトルの水がいくつか入っている小さな冷蔵庫が一つ。机が一つ、椅子が二脚、そして自分たちが今いる、広い……といっても普段寝ているのと同じ、キングサイズのベッドがひとつ。部屋面積ののほとんどはこのベッドに費やされている。
「……閉じ込めるにしても……カメラとか、盗聴器とか……犯人からのメッセージとか、なかったの」
「その類のものは一応ひととおり見ましたが見つからなかったですね。……といっても素人判断ですし、信用されても困りますが。messageも特に見当たりませんでしたが、ひとつだけ」
そう言って、司が胸ポケットから紙を取り出す。
四つ折りにしてあったそれを開き、文字が書いてある面をこちらに向ける。
『えっちなことをしないと出られない部屋』
「えっちな、こと」
「ええ、えっちなこと、と書いてありますね」
「ええ……どう判断するの、やっぱりカメラとか付いてるんじゃ? 夢ノ咲のアイドルが、その、いろいろあったって証拠が残っちゃったらまずくない……? ボクたちだけじゃなくてfineとかKnightsとか……夢ノ咲全体の信用問題に関わるでしょ」
「ううん……まあcameraがあっても録画機は接続されていないのだと信じましょう。繋がっていたとしても、もしかしたら私的使用のためかもしれませんし。とりあえず出ることだけ考えましょう……余計なことを考えて餓死、というのが最悪なpatternです」
「まあ、」
「それにこの姿を見て朱桜司と姫宮桃李そのものであると思う人間は少数派でしょう」
確かに。
「……まってこの状況で? えっちなこと? なにもできなくない?」
というか趣味悪くない?
「そうでしょうか、Knightsのファンのかたがたまに送りつけてくるものにたまに混ざっていますよ。『泉くんが女の子だったらレオくんと結婚できたのに』だとか……妄想を書き出した本だとか……まあ、いろいろ」
「Knights、ファン層悪くない……?」
「若い女性が多いですし仕方ないことなのでは……? それよりも『えっちなこと』の定義ですよね」
「思ったんだけどボクと司なら手をつなぐだけで充分えっちのうちにカウントされたりしないかなあ」
「ああ……あの無知っぽい桃李くんがなにかしらアクションを起こした時点でひとによっては『えっち』に分類するかもしれないですね」
司が僕の手を取って、ぎゅう、と握る。それから指を動かし、手を組むような形に変えた。
「このつなぎ方、恋人繋ぎと言うそうですよ」
「たしかにふつうに繋ぐよりくっついてる感すごい、かも」
ぎゅう、と力を入れ、十秒ほど待つ。
「……やっぱりいくら無知っぽい桃李くんでもさすがに手をつなぐ程度ではだめなのでは?」
「……じゃあ、やっぱり、」
す、とほぼ同時に視線が下がった。ボクのはともかく、司の胸元は布を押し返して、ボタンが少しきつそうである。
先に動いたのは司だった。繋いでいた手をほどいて、ボクの胸元を撫でる。
触る、というより撫でるだった。くすぐったい。下から上に、上から下に撫でて、もう一度上に、指先だけ触れて止まる。
「……全くないと思ってたんですけど、こう、意外に柔らかいんですね……」
「その確認だったの!? ってか絶対司は自分の触ったほうが柔らかいじゃん」
仕返しにと司の胸部を鷲掴む。文字通りワイシャツ(ブラウス?)一枚のみなので、布一枚挟んだ先は脂肪の塊である。塊と呼べる程度にある。自分は、なんというか、脂肪をまとっているだけというか。塊ではない。つまり、てのひらに、これでもかってくらい柔らかさが。下着を付けていないので、持ち上げることも可能である。
「ひ、ひとの胸で遊ばないでください!」
きゅ、と乳首をつままれる。
「……っ、」
ん、まって、いま、なんか、ぴりって。
それを察したのか、きゅ、きゅ、と何度も乳首をつままれる。シャツ越しにでも存在がわかるようになったそれを、こねて、爪を立てて。そんなのどこで覚えてくるの、司。
「……ぁ、っ」
カタン、と鍵が開けられたような音がした。
ぜえ、はあと息を整える。腕が疲れたのか、崩れて上に乗っかったままの司が重い。
「ねえ司、どいて……、暑いし重い」
何も言わず、そのままごろん、と横に転げ落ちた。まって腕が下敷きになってるってば。
あんずと比べるとひとまわり小さいそのひとは、こちらに背を向けているため顔はわからないが、蘇芳色の髪を肩甲骨のあたりまで伸ばしている。下半身にはなにも纏っておらず、サイズの大きいワイシャツを着ることで何とかお尻は隠されていた。ワイシャツ一枚しか羽織っていないのは自分も同じだった。
落ち着いて周りを見回してみれば、見覚えのない空間であった。ベッドは普段と同じような大きさ柔らかさだけど、部屋の広さが普段の半分、下手したら三分の一。
ああやっと起きたのですか桃李くん、などと言いつつ振り返ってあらわになった顔は、幼馴染の赤髪とよく似た系統のつくりをしていた。あれ、“朱桜“って司のほかに同じくらいの歳の子いたっけ。
「……司であっていますよ。間違いなく、おのれが朱桜司であると自認しております」
表情で察したのか、そんな言葉をかけてくれる。
「何故私と桃李くんなのか、なぜここにいるのか……など疑問は尽きませんが、とりあえず顔でも洗ってきたらどうですか」
司がほら、とドアを指さす。
「水道、毒見はしましたので」
「……まって司、ない!!!!!!!!! ないんだけど!!!!!!」
「何がですか桃李くん、うるさいですね」
うるさいですね、じゃない。とりあえず落ち着こうとトイレに座ったところまではよかった。なにやらいつもと感覚が違うので下を見てみると、産まれてからずっと十五年間一緒だったアレがなかったのだ。代わりに何が付いていたかは直視できなかったけれど。
だいたい桃李くんも髪の毛伸びてるじゃないですか、ドアの向こうから返ってくる。
洗面台の鏡を見る。本当だ、たしかに妹と同じぐらいの長さになっている。
もしかして、とワイシャツの隙間から胸元を覗くと……ほんの僅かだけど、まえよりはある……かもしれない。
間違いない。司だけではなくボクも女の子になっていた。
「どうやら閉じ込められているみたいです、私たち。先ほどドアを開けようとしてみましたが、電流が流れているうえに針が仕込まれていて。まだちょっとぴりぴりします……ああ、いえ、普通に鍵もかけられているようなのですけれど」
先に起きていた司がいろいろ探ってくれていたらしい。
ベッドの右側にあるのがおそらく出口である、電流が流れ鍵がかけられているドア。正面にもうひとつ、さっき入った洗面所とお風呂につながっているドアがある。
ほかに、五百ミリリットルのペットボトルの水がいくつか入っている小さな冷蔵庫が一つ。机が一つ、椅子が二脚、そして自分たちが今いる、広い……といっても普段寝ているのと同じ、キングサイズのベッドがひとつ。部屋面積ののほとんどはこのベッドに費やされている。
「……閉じ込めるにしても……カメラとか、盗聴器とか……犯人からのメッセージとか、なかったの」
「その類のものは一応ひととおり見ましたが見つからなかったですね。……といっても素人判断ですし、信用されても困りますが。messageも特に見当たりませんでしたが、ひとつだけ」
そう言って、司が胸ポケットから紙を取り出す。
四つ折りにしてあったそれを開き、文字が書いてある面をこちらに向ける。
『えっちなことをしないと出られない部屋』
「えっちな、こと」
「ええ、えっちなこと、と書いてありますね」
「ええ……どう判断するの、やっぱりカメラとか付いてるんじゃ? 夢ノ咲のアイドルが、その、いろいろあったって証拠が残っちゃったらまずくない……? ボクたちだけじゃなくてfineとかKnightsとか……夢ノ咲全体の信用問題に関わるでしょ」
「ううん……まあcameraがあっても録画機は接続されていないのだと信じましょう。繋がっていたとしても、もしかしたら私的使用のためかもしれませんし。とりあえず出ることだけ考えましょう……余計なことを考えて餓死、というのが最悪なpatternです」
「まあ、」
「それにこの姿を見て朱桜司と姫宮桃李そのものであると思う人間は少数派でしょう」
確かに。
「……まってこの状況で? えっちなこと? なにもできなくない?」
というか趣味悪くない?
「そうでしょうか、Knightsのファンのかたがたまに送りつけてくるものにたまに混ざっていますよ。『泉くんが女の子だったらレオくんと結婚できたのに』だとか……妄想を書き出した本だとか……まあ、いろいろ」
「Knights、ファン層悪くない……?」
「若い女性が多いですし仕方ないことなのでは……? それよりも『えっちなこと』の定義ですよね」
「思ったんだけどボクと司なら手をつなぐだけで充分えっちのうちにカウントされたりしないかなあ」
「ああ……あの無知っぽい桃李くんがなにかしらアクションを起こした時点でひとによっては『えっち』に分類するかもしれないですね」
司が僕の手を取って、ぎゅう、と握る。それから指を動かし、手を組むような形に変えた。
「このつなぎ方、恋人繋ぎと言うそうですよ」
「たしかにふつうに繋ぐよりくっついてる感すごい、かも」
ぎゅう、と力を入れ、十秒ほど待つ。
「……やっぱりいくら無知っぽい桃李くんでもさすがに手をつなぐ程度ではだめなのでは?」
「……じゃあ、やっぱり、」
す、とほぼ同時に視線が下がった。ボクのはともかく、司の胸元は布を押し返して、ボタンが少しきつそうである。
先に動いたのは司だった。繋いでいた手をほどいて、ボクの胸元を撫でる。
触る、というより撫でるだった。くすぐったい。下から上に、上から下に撫でて、もう一度上に、指先だけ触れて止まる。
「……全くないと思ってたんですけど、こう、意外に柔らかいんですね……」
「その確認だったの!? ってか絶対司は自分の触ったほうが柔らかいじゃん」
仕返しにと司の胸部を鷲掴む。文字通りワイシャツ(ブラウス?)一枚のみなので、布一枚挟んだ先は脂肪の塊である。塊と呼べる程度にある。自分は、なんというか、脂肪をまとっているだけというか。塊ではない。つまり、てのひらに、これでもかってくらい柔らかさが。下着を付けていないので、持ち上げることも可能である。
「ひ、ひとの胸で遊ばないでください!」
きゅ、と乳首をつままれる。
「……っ、」
ん、まって、いま、なんか、ぴりって。
それを察したのか、きゅ、きゅ、と何度も乳首をつままれる。シャツ越しにでも存在がわかるようになったそれを、こねて、爪を立てて。そんなのどこで覚えてくるの、司。
「……ぁ、っ」
カタン、と鍵が開けられたような音がした。
ぜえ、はあと息を整える。腕が疲れたのか、崩れて上に乗っかったままの司が重い。
「ねえ司、どいて……、暑いし重い」
何も言わず、そのままごろん、と横に転げ落ちた。まって腕が下敷きになってるってば。