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中途半端

たたん、たたんと


 夢ノ咲が貸し切っているため、この車両には俺とゆうくんしかいない。

「二人じゃなくて一人だよゆうくん。俺はゆうくんの護衛」
「……そう」
「ゆうくんも数少ない超度7のうちの一人なんだから自覚してよねえ。そんなのを一人で放っぽっておくわけないでしょ」
「でも衣更くんも、」
「この前の任務でやらかしてたでしょあいつ。あまり超度7をこき使うわけにはいかないの。それに今回の取引相手、俺と面識あるからねえ。なんかあったらそっちの方がやりやすいでしょ」


「……今回の任務、周りはみんなプロテクターつけてるんだよね」
 ぼそりとゆうくんが呟く。
 超度7のゆうくんはリミッターを使ったとしても超度4程度にしかならない。念動力や瞬間移動能力なら超度が3下がるとそれなりに出力が下がるが、精神系の能力であるゆうくんは結果の解像度に差が出る程度であまり変わらないようだ。つまり、プロテクターの有無に気がつく程度の力は残っている。
「明星くんたちにもプロテクトがかかってた。僕の周りで何もつけてないのは泉さんだけ」
 情報が規制されてるって、気がついてるんだからね。と言いたいのだろう。
 そしてゆうくんに伏せられた情報がなんなのか、きっとゆうくんも察しがついている。さっきのやり取りも答え合わせの一部だったのだろう。
「……護衛ってより牽制のほうが近いのかなあ」

「どう、できそう? 泉さん」
 がりがり、と棒で地面を引っ掻いていた手を止め、ゆうくんが顔を上げる。
 言いたいことはわかった。でも。
「ゆうくんの前だしできるって言いたいところだけどちょっとキツいかなあ……大きさも重さも距離も俺の上限ギリギリだし。悔しいけど俺は超度六なんだよねえ……ゆうくんのとこの氷鷹みたいにはいかない」
 一般人には超度三と超度四の差が大きいと思われているらしいけど実際は違う。
 まだ上が存在する超度六と上限であるに関わらず、記録以上の力を行使することが出来、枷を付けても一般人に混じることが許されない超度七。この差はかなり大きいのだ。地球と太陽、あるいはそれ以上。少なくとも超度六側はそう思っている。普通の能力者、の上限である超度五以上、超人である超度七以下。そう思わざるをえない。
「あまり言いたくないけどKnightsはこういうときに使われるのを想定してないから俺としても割と未開」
「……僕が補助したらどうかな」
「……補助?」
「標準だけでも。泉さんは移動させることだけに力をつぎ込んでほしい」
「ゆうくんやったことあるの?」
「ないよ。Trickstarのみんなはガード高いし……でも超度六の泉さんなら」
 超度が高ければ高いほど、能力が近いほど精神攻撃は難しい。常識である。
 超度七のゆうくんといえど、戦闘中の気を張った超度七の精神に介入は出来ないのだろう。でも超度六なら。
「……瞬間移動能力っていちおう分類は合成能力だよ……ってのは流石に把握してるんだよねえ?」
「知ってるよ。……というかだからこそ、かな。泉さんが能力を使う瞬間、僕は頭を空っぽにするから、僕の演算能力を泉さんが使って。流石に移動の補助はできないけど……空間把握とかその程度ならお手伝いできるよ、泉さん。系統近いもん」
 かちゃ、とゆうくんが身につけていた腕輪……リミッターを外す。
「えっゆうくんそれリミッターなんじゃ」
 超度七ってもっとちゃんと管理されてるんじゃ!? リミッターって自力で外せるの!? そう思ったけどゆうくんはこれはサブ機だから、と笑う。
「メインのリミッターが壊れた時用のなんだけどね。……とりあえずこれ泉さんに貸すね」
 そのまま、俺の腕にかちゃり、とはめた。きゅい、と音がして腕輪が手首にフィットする。
「とりあえずリミッターの機能は切れてるはずだから能力の行使に影響は無いはずだけど……大丈夫?」
 そう言われて一番リミッターによる影響を受けやすい能力……空間把握能力を発動させる。うん、問題なさそうだ。
「……大丈夫」
「おっけ。僕たちのリミッター、ブースターって機能がついてるんだけどね……ってこれは秘密なんだけど。漏らさないでね、泉さん」
 そんな大事なこと喋って大丈夫なの、ゆうくん。
「……まあ、敵さんにはバレてるから、超度七未満の人たちには秘密って感じ。泉さんが喋らなければ大丈夫。泉さん、僕以外相手ならガード固いでしょ。……で、ブースターなんだけどね、念波を合成というか……変換というか……なんだろ。繋げる機能なんだよね。それを使って僕の力を泉さんの能力の形式に変換する。……わかる?」
「……分からないけど説明できないんでしょ。大丈夫」



「……あのね。さっきの。たぶん泉さんだったからできたんだよ」


瀬名泉
超度六、瞬間移動能力。
超度四から努力で超度六まで上り詰めた努力家。
キッズモデル時代、同じく能力者であった真と仲良くなる。
Knightsに所属。狙撃担当。
休みが不規則になったためモデルは半休業中。

遊木真
超度七、接触感応能力。
超度二程度だったが事故に遭い、目覚めたら超度七になっていた。
キッズモデルをやっていたこともあったが能力のこともあり引退。今でもカメラはあまり得意でない。




「……逆に聞くけどさあセッちゃん。なんでバレてないと思ってたの」



「ってか真はとっくにわかってると思ってた。瀬名先輩と真、結構接触多いだろ?」
「うーん、そうだけど泉さんも超度六だしね。それに泉さんが所属してるKnightsって機密事項とかいろいろ多いらしくて、いっつもプロテクター付けてるから」

「泉さんの周りの人たちもプロテクター付けてるし、付けてないにしてもリミッターをつけてる時の接触が大半だからあまり読めないしね。だから泉さんの心に触れたのは今回が初めてだったの」
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