中途半端
あの泉さんの真っ赤になった顔。
泉さんはいつも格好付けているか、でろでろに崩れた表情をしているかのどちらかだったから、あんな普通の、本来女子に向けるべきであろう反応をされたのは初めてだった。
泉さんも胸に触るとさすがに照れるし罪悪感も覚えるんだなあ、と一周回って冷静になってしまった。
泉さんも考えるのだろうか。僕の胸に触れて、舐めて、そして、下に、泉さんのを。
かっと体が熱くなる。
それがいつか実行に移されるのだろうか。
泉さんの部屋の、泉さんの匂いがするベットに押し倒されて、キスをされて、それから。
いやいやいやいや。
そもそも泉さんと僕は付き合ってないんだから。
泉さんが言う好きだとか可愛いだとかはあくまで妹としてで、決して、そういうことじゃないんだから。って、なんでそんな。まるで、僕が。
いつもはひいっだの泉さん気持ち悪いだの言って逃げだすゆうくんが今日は違った。一言も発さず、微動たりせず、きれいな顔を真っ赤に染めている。
「ゆうくん……?」
……というかセッちゃんもおかしい。いつもならゆうくん今日も綺麗だねだとか色々言いそうなものだけど、ただゆうくんをじっと見ているだけで口を開こうとしない。かといって行動を起こすわけでもなく、手を握ったり、開いたり。
「どうしたのセッちゃんついにゆうくんに手出したの……?」
「やっほ」
「わあっ!?」
ゆうくんが勢いよく振り返る。
ゆうくんはあれから数分経ったにもかかわらず、相変わらず顔を真っ赤に染めたままだった。
「ど……どうしたの、朔間くん」
「朔間って呼ばないで。さっきゆうくん変だったからさあ〜? どうしたのかなって」
ついに手でも出されたの? と付け足すと、ちがっ、と即答された。ちゃんと発音できてはいなかったけど。
「ゆうくん落ち着いて〜? もうセッちゃん帰ったからさあ。ほら、女の子同士恋バナでもしようよ恋バナ」
「こっ……?」
ただでさえ赤かった顔がこれでもか、というぐらい赤くなる。大丈夫なのかなこの子。
「ゆうくん大丈夫……? ちょっと血抜こっか……?」
大丈夫もう少しで嫌でも減るから、と返事が返ってきた。そういう問題じゃないんだけどなあ。
「ほらゆうくん深呼吸しよ〜? すう、はあ。お菓子食べる?」
「その。昨日、泉さんを巻き込んで転んじゃって」
「事故ちゅーでもしたの?」
「してないよ! ……着地が、悪くて。……泉さんの顔に胸を押し付けちゃって」
す、とゆうくんの胸元に視線を移す。夏服だから、というのもあるのかもしれないけどその双丘は立派に存在感を発揮していた。双丘というか双山。
「……そのあと僕を引き剥がす時に掴んだ場所が胸で」
「…………」
「いず、泉さんいつもならゆうくんから近づいてくれるなんて! とか気持ち悪いこといっぱい言うのに固まって何も言わなくて。ごめんって言って走ってっちゃって」
「ええ……セッちゃんなら責任とるから結婚しようとか言いそうなのに……」
「俺の話も聞いてよ〜。ま〜くんが
「……ってゆうかそれ。何カップあるの」
ばっと抱きつかれ、背中を撫でられる。みっつ、という声が聞こえたかと思うとくっと引っ張られて、締め付けが緩くなった。
そのまま袖に手を入れられ、肩紐をうまいこと腕から抜かれ、胸元に手を入れられて、ずるりと。
「でっか……ホック3つもついてる……Gのろくじゅうご……ってはあ……?」
信じられない、という目を向けられる。
信じられないのは朔間くんの行動力の方だよ!?
「どうせゆうくんのことだから一年前に買ったブラまだ使ってるとかでしょ……? これにプラス一か二かされるでしょ……?」
朔間くんが僕のブラを自分の胸元に当ててでっか、と呟く。
「り……凛月くんはどうなの」
「Bのろくじゅー」
「り……りつくん、あんまり、揉まないでっ……! 擦れて、なんか、っ」
さっきから凛月くんに揉まれるたびに乳首がブラウスに擦れて、なんというか、その。
「ゆうくんばっかきもちよくなってずるいなあ……? 私も脱いだらおあいこだよね?」
気持ちよくしているのは凛月くんのほうなのに。そう言っても動じず、後ろに手を回して
「結局ゆうくんはセッちゃんのこと好きなの」
そう問いかけるとゆうくんの顔が曇る。
眉を寄せ、視線を下げて少し視線を右に
「好き、なのかな、泉さんのこと」
「今度ブラとか買いに行こ? セッちゃんには可愛いの見せたいもんね?」
「みせ……っ!?」
たぶんだけどセッちゃんって下着にうるさいと思うんだよねえ。美は内面から、みたいな。
ゆうくんが適当に値段で選んだ下着を着けてるって知ったらゆうくんを下着屋に連れて行くぐらいのことは余裕でしそう。いや、絶対する。セッちゃんならやる。
「……にしてもそのデザインはないから。安物でももうちょっとマシなデザインあるでしょ」
「りつくんには胸が大きい人の苦労がわからないでしょ……」
「……にしても。いいじゃん買っとこうよ。ゆうくんのそのドジっ娘ぶりだといつセッちゃんに下着見られるかわかんないし」
「恋バナ……ってゆうくん好きな人いるの? 誰? 俺の知ってる人?」
「……ゆうくんに好きな人がいるってなんでいままで気づかなかったんだろ……ゆうくん絶対そういうの顔に出そうだしわかりそうじゃない……?」
当たり前だよアンタなんだから。
……と突っ込もうと思ったけどゆうくんのためを思ってやめた。ゆうくんだって悩んでるんだからセッちゃんも悩みまくるがいい。この調子じゃ
「……誰、Trickstarのやつら……? 衣更……?」
「ま~くんだったら私が許すわけないでしょ」
ここだけは否定しておく。セッちゃんにま~くんがいじめられるとか考えたくない。
「くまくんは知ってるの……?」
「セッちゃんには秘密にするってゆうくんと約束したからねえ」
「はあ? 何それゆうくんと約束って」
気が付けば僕と凛月くんの集会は恒例化していた。あの、最初の時のようなあれやこれやはないのだけれど。一週間に一回、どちらかの家に寄ってお互いの近況を話す。たまにKnightsのもう一人の女子である朱桜さんがたまに参加したり。彼女はKnightsのリーダーである月永さんのことが好きだそうだ。
「
「……どうしよ、ま~くんに、キス、された」
凛月君は真っ赤な顔でそう呟いた。
「キッ……」
「凛月君と衣更くんってもう最後までじゃないにしてもそれなりのとこまで行ってると思ってたんだけど……」
彼女の様子からするとそうでもないようだ。
なんかいろいろ慣れてそうだし、てっきりそうなのだと思っていたのだけれど。
「恋が分からないほど子供ではないのですよ。恋愛を題材にしたものは古くから存在しますし、古典で扱う文章にも恋愛がらみのものがあるでしょう」
朱桜さんはそこで一呼吸置いて。
「でもそれとこれとは別というかいざ自分がその身になるとそれどころじゃないと言いますか……」
「……というか、そもそも僕の初恋は泉さんだから」
何か、引力が働いたようだった。泉さんが動いたのがわかった瞬間、自然に目が閉じていた。
唇に柔らかいものが触れて、離れていった。
そっと目を開けると、そこには耳まで赤くなっているのをを隠すように手で顔を覆う泉さんがいた。
……ああ、今、泉さんとキスをしたのか。
ようやく実感して、同時に顔が赤くなるのを感じる。ついに、泉さんとキスをしてしまった。
「調子、狂う」
こんなつもりじゃなかったのに、と呟く。
ゆっくりと、赤い顔を隠すように顔に当てていた手を離し、そっと僕の手を握った。
少し冷たい手。そのわりに少し汗が滲んでいる。
「……ゆうくん」
「……なに、泉さん」
すう、と息を吸う。
いつも僕を見ている視線が、今は下がっていた。
口を開いたり閉じたりで次の言葉はなかなか出て来ない。
いつもあんなに大好きだの愛してるだの言っている泉さんでも緊張することがあるのだなあ、と一周回って落ち着いてきた。
握られていなかった左手を、そっと泉さんの手に添える。
「泉さん」
「……ゆうくん」
「はい」
「ゆうくんのことが、好きです。妹としてじゃなくて、女の子として。……お嫁さんになって欲しい、とかそういう好き、です」
そろり、と視線をあげて、目が合わせられる。
きゅ、と手に力がこもって。
「俺と付き合ってもらえますか」
「……妹はいつか見送らなきゃいけない日が来るでしょ。幸せになってねって」
泉さんはいつも格好付けているか、でろでろに崩れた表情をしているかのどちらかだったから、あんな普通の、本来女子に向けるべきであろう反応をされたのは初めてだった。
泉さんも胸に触るとさすがに照れるし罪悪感も覚えるんだなあ、と一周回って冷静になってしまった。
泉さんも考えるのだろうか。僕の胸に触れて、舐めて、そして、下に、泉さんのを。
かっと体が熱くなる。
それがいつか実行に移されるのだろうか。
泉さんの部屋の、泉さんの匂いがするベットに押し倒されて、キスをされて、それから。
いやいやいやいや。
そもそも泉さんと僕は付き合ってないんだから。
泉さんが言う好きだとか可愛いだとかはあくまで妹としてで、決して、そういうことじゃないんだから。って、なんでそんな。まるで、僕が。
いつもはひいっだの泉さん気持ち悪いだの言って逃げだすゆうくんが今日は違った。一言も発さず、微動たりせず、きれいな顔を真っ赤に染めている。
「ゆうくん……?」
……というかセッちゃんもおかしい。いつもならゆうくん今日も綺麗だねだとか色々言いそうなものだけど、ただゆうくんをじっと見ているだけで口を開こうとしない。かといって行動を起こすわけでもなく、手を握ったり、開いたり。
「どうしたのセッちゃんついにゆうくんに手出したの……?」
「やっほ」
「わあっ!?」
ゆうくんが勢いよく振り返る。
ゆうくんはあれから数分経ったにもかかわらず、相変わらず顔を真っ赤に染めたままだった。
「ど……どうしたの、朔間くん」
「朔間って呼ばないで。さっきゆうくん変だったからさあ〜? どうしたのかなって」
ついに手でも出されたの? と付け足すと、ちがっ、と即答された。ちゃんと発音できてはいなかったけど。
「ゆうくん落ち着いて〜? もうセッちゃん帰ったからさあ。ほら、女の子同士恋バナでもしようよ恋バナ」
「こっ……?」
ただでさえ赤かった顔がこれでもか、というぐらい赤くなる。大丈夫なのかなこの子。
「ゆうくん大丈夫……? ちょっと血抜こっか……?」
大丈夫もう少しで嫌でも減るから、と返事が返ってきた。そういう問題じゃないんだけどなあ。
「ほらゆうくん深呼吸しよ〜? すう、はあ。お菓子食べる?」
「その。昨日、泉さんを巻き込んで転んじゃって」
「事故ちゅーでもしたの?」
「してないよ! ……着地が、悪くて。……泉さんの顔に胸を押し付けちゃって」
す、とゆうくんの胸元に視線を移す。夏服だから、というのもあるのかもしれないけどその双丘は立派に存在感を発揮していた。双丘というか双山。
「……そのあと僕を引き剥がす時に掴んだ場所が胸で」
「…………」
「いず、泉さんいつもならゆうくんから近づいてくれるなんて! とか気持ち悪いこといっぱい言うのに固まって何も言わなくて。ごめんって言って走ってっちゃって」
「ええ……セッちゃんなら責任とるから結婚しようとか言いそうなのに……」
「俺の話も聞いてよ〜。ま〜くんが
「……ってゆうかそれ。何カップあるの」
ばっと抱きつかれ、背中を撫でられる。みっつ、という声が聞こえたかと思うとくっと引っ張られて、締め付けが緩くなった。
そのまま袖に手を入れられ、肩紐をうまいこと腕から抜かれ、胸元に手を入れられて、ずるりと。
「でっか……ホック3つもついてる……Gのろくじゅうご……ってはあ……?」
信じられない、という目を向けられる。
信じられないのは朔間くんの行動力の方だよ!?
「どうせゆうくんのことだから一年前に買ったブラまだ使ってるとかでしょ……? これにプラス一か二かされるでしょ……?」
朔間くんが僕のブラを自分の胸元に当ててでっか、と呟く。
「り……凛月くんはどうなの」
「Bのろくじゅー」
「り……りつくん、あんまり、揉まないでっ……! 擦れて、なんか、っ」
さっきから凛月くんに揉まれるたびに乳首がブラウスに擦れて、なんというか、その。
「ゆうくんばっかきもちよくなってずるいなあ……? 私も脱いだらおあいこだよね?」
気持ちよくしているのは凛月くんのほうなのに。そう言っても動じず、後ろに手を回して
「結局ゆうくんはセッちゃんのこと好きなの」
そう問いかけるとゆうくんの顔が曇る。
眉を寄せ、視線を下げて少し視線を右に
「好き、なのかな、泉さんのこと」
「今度ブラとか買いに行こ? セッちゃんには可愛いの見せたいもんね?」
「みせ……っ!?」
たぶんだけどセッちゃんって下着にうるさいと思うんだよねえ。美は内面から、みたいな。
ゆうくんが適当に値段で選んだ下着を着けてるって知ったらゆうくんを下着屋に連れて行くぐらいのことは余裕でしそう。いや、絶対する。セッちゃんならやる。
「……にしてもそのデザインはないから。安物でももうちょっとマシなデザインあるでしょ」
「りつくんには胸が大きい人の苦労がわからないでしょ……」
「……にしても。いいじゃん買っとこうよ。ゆうくんのそのドジっ娘ぶりだといつセッちゃんに下着見られるかわかんないし」
「恋バナ……ってゆうくん好きな人いるの? 誰? 俺の知ってる人?」
「……ゆうくんに好きな人がいるってなんでいままで気づかなかったんだろ……ゆうくん絶対そういうの顔に出そうだしわかりそうじゃない……?」
当たり前だよアンタなんだから。
……と突っ込もうと思ったけどゆうくんのためを思ってやめた。ゆうくんだって悩んでるんだからセッちゃんも悩みまくるがいい。この調子じゃ
「……誰、Trickstarのやつら……? 衣更……?」
「ま~くんだったら私が許すわけないでしょ」
ここだけは否定しておく。セッちゃんにま~くんがいじめられるとか考えたくない。
「くまくんは知ってるの……?」
「セッちゃんには秘密にするってゆうくんと約束したからねえ」
「はあ? 何それゆうくんと約束って」
気が付けば僕と凛月くんの集会は恒例化していた。あの、最初の時のようなあれやこれやはないのだけれど。一週間に一回、どちらかの家に寄ってお互いの近況を話す。たまにKnightsのもう一人の女子である朱桜さんがたまに参加したり。彼女はKnightsのリーダーである月永さんのことが好きだそうだ。
「
「……どうしよ、ま~くんに、キス、された」
凛月君は真っ赤な顔でそう呟いた。
「キッ……」
「凛月君と衣更くんってもう最後までじゃないにしてもそれなりのとこまで行ってると思ってたんだけど……」
彼女の様子からするとそうでもないようだ。
なんかいろいろ慣れてそうだし、てっきりそうなのだと思っていたのだけれど。
「恋が分からないほど子供ではないのですよ。恋愛を題材にしたものは古くから存在しますし、古典で扱う文章にも恋愛がらみのものがあるでしょう」
朱桜さんはそこで一呼吸置いて。
「でもそれとこれとは別というかいざ自分がその身になるとそれどころじゃないと言いますか……」
「……というか、そもそも僕の初恋は泉さんだから」
何か、引力が働いたようだった。泉さんが動いたのがわかった瞬間、自然に目が閉じていた。
唇に柔らかいものが触れて、離れていった。
そっと目を開けると、そこには耳まで赤くなっているのをを隠すように手で顔を覆う泉さんがいた。
……ああ、今、泉さんとキスをしたのか。
ようやく実感して、同時に顔が赤くなるのを感じる。ついに、泉さんとキスをしてしまった。
「調子、狂う」
こんなつもりじゃなかったのに、と呟く。
ゆっくりと、赤い顔を隠すように顔に当てていた手を離し、そっと僕の手を握った。
少し冷たい手。そのわりに少し汗が滲んでいる。
「……ゆうくん」
「……なに、泉さん」
すう、と息を吸う。
いつも僕を見ている視線が、今は下がっていた。
口を開いたり閉じたりで次の言葉はなかなか出て来ない。
いつもあんなに大好きだの愛してるだの言っている泉さんでも緊張することがあるのだなあ、と一周回って落ち着いてきた。
握られていなかった左手を、そっと泉さんの手に添える。
「泉さん」
「……ゆうくん」
「はい」
「ゆうくんのことが、好きです。妹としてじゃなくて、女の子として。……お嫁さんになって欲しい、とかそういう好き、です」
そろり、と視線をあげて、目が合わせられる。
きゅ、と手に力がこもって。
「俺と付き合ってもらえますか」
「……妹はいつか見送らなきゃいけない日が来るでしょ。幸せになってねって」