完成
深夜24時。
明日は学校があるというのに、僕は星奏館の共有ルームで紙を前にして唸っていた。
紙というか。五線紙である。
クラスと名前、ヘ音記号とト音記号だけは書いたものの、それ以外は何も書けていなかった。
提出、明日なんだけどなあ。
普段は専門の人に曲を書いてもらうことが多いけれども、何かの機会で作詞作曲を担当することになるかもしれないし、もしかしたら将来シンガーソングライターになる道もあるかもしれない。……ということで、アイドル科では年に一回くらい、作詞作曲の課題が出ることになっている。
今回は作曲だけで、歌うことは想定しなくていい。だから多分、作曲の課題の中では簡単な方に分類される……のだと思う。小節数も大まかな構成も指定されているから、考えることは少ない……というのが担当の先生の談だった。
そんなわけあるか、と文句を言いたい。でも本来これは一年次にやるべきだった内容で、などと言われてしまえば、あまり大声で文句も言えない。一年次といえば、みんなが全然まともに授業を受けていなかった頃である。卒業までに歌ありの曲を一曲作るのが目標、とのことだった。つまりこんなのは初歩中の初歩、悩んでなんていられないのである。
何故こんなギリギリまで放置していたのかというと、ずっと忙しくって宿題の存在を忘れていた……とかではなく、ただただ単に、嫌で嫌で放置していたのであった。つまり自業自得。
他のみんなはちゃんと書けたのだろうか。今日までそういう話は一回も聞かなかったしなあ。明星くんも氷鷹くんも、こういうのはなんとなくでできちゃいそうだし、衣更くんも楽器をやっているから僕よりは得意そうだ。
さっさとみんなに頼ってしまえばよかったのかなあ、なんて考えても、こんな時間にみんなを起こすわけにはいかないし、目の前の五線紙が白紙なことに変わりはない。頼ったところでどうにかなる感じの課題でもなさそうだし。
とはいってもなあ、と無意味にシャーペンをカチカチしつつ考える。何も浮かばないものは浮かばないのだ。
思いついた、って思っても結局聞いたことがある曲だったり、ほとんど教科書と一緒だったり。
もういっそサイコロ作曲法とやらを試してみようか。最近はスマホでもサイコロが振れるわけだし、なんて思った頃だった。
「あれっ『ゆうくん』じゃん、どうしたんだこんな時間に」
玄関方面から現れた月永先輩は、周りに配慮してかいつもより小さい声で、眠れないのか〜、なんて言いつつこちらに近づいてくる。
「月永、先輩……はなんでこんな時間に」
「いや〜、庭で作曲してたら敷地内だからいいかって放置されてたぽくて! 気がついたらさっきだったんだよ」
ほら豊作! と紙の束を掲げる。いつも通り、相変わらずのようだった。
「それは……お疲れさまです」
「ありがと〜、『ゆうくん』はどったの……宿題?」
月永先輩はローテーブルの前で立ち止まった。机の上にあるものが何なのか、もう分かってしまっただろう。
ある意味、一番会いたかった相手のような、……一番避けたかった相手のような。
「Trickstarの新曲? ……じゃないか、年組とか書いてるし。作曲の課題? あ〜、去年セナが唸ってるの見たような見てないような」
「泉さんが?」
「おれがいれば作曲する必要なんてないからなあ、あいつ」
五線紙を手に取り、何も書いてないじゃん、と呟く。
「提出いつなの?」
「明日の五時間目ですけど」
「時間ないじゃん、何をそんなに悩んでるんだよ」
「何をというか……何を悩めばいいのかわからないというか、何も浮かんでこなくって」
ふうん、と月永先輩。そりゃあ、作曲が呼吸みたいな月永先輩からしたら、何も浮かんでこないということが理解できないことなのかもしれないけど。
「べつにオーケストラ用の譜面を書けとか一時間くらいかかる大作を作ってこいとか言われてるわけじゃないんだろ?」
「それはそうですけど」
「おれが代わりにやろうか?」
五線紙を置くと、ニコニコと笑いながら僕の顔を覗き込んでくる。
「普通の宿題なら教えられないけど、これに関してはおれも写させてあげられるぞ」
「……ひとのを写しても意味ないので」
「だよな〜、わかってんじゃん」
それに、すぐにバレてしまうだろう。たぶん、僕にしては出来過ぎたものになってしまいそうだし、先生もきっと月永先輩の作風みたいなものを感じ取れるんじゃないだろうか。
「おれもう何人分の課題やったか覚えてないもん」
「そんなだから利用されるんですよ」
「うん、知ってる。……馬鹿だった頃のおれがやった話だよ」
そのまま立ち去るのだろうと思っていたら、月永先輩はそのまま向かい側に腰を下ろした。
「……寝ないんですか? 夜更かしは肌に良くないですよ」
「セナみたいなこと言うなよ! ……このままほっといたら朝まで悩んでそうだからなあ……『ゆうくん』の肌にも悪いし」
「はあ」
「何か指定とかあるの? 自由に書いていい感じ?」
まだ残るのかこのひと、と少し思いつつ、現役作曲家からのアドバイスが貰えるのならそれに越したことはないな、なんて思って、月永先輩に課題を出された時にもらったプリントを渡す。
全部で二十四小節の三部形式、ABA構成にすること、簡単に伴奏を付けること。
が、たしか条件だっただろうか。
月永先輩はひととおりプリントに目を通すと(ちゃんと書類とか読めるんだなあこのひと)、なるほど、と呟いた。
「確かに普段『ゆうくん』が歌ってる曲とは構成が違うから戸惑うよなあ。ピアノの練習曲とかで聴いてるととっつきやすいんだろうけど。『ゆうくん』でも分かりやすい曲って何があるかなあ……要はきらきら星なんだけどあれは短すぎるし」
ええっと。
月永先輩は持っていた紙束から裏がまだ白紙のものを探すと、慣れた様子で楽譜を書き始めた。八小節を三段。
「ほら、三つのブロックに分けられるだろ。そんで一段目と三段目が同じだからABA構成なんだけど……ってここまではわかってた?」
「あまり」
「授業聞けよ『ゆうくん』……」
月永先輩にだけは言われたくない。……けど、しっかり聞いていたかどうかと言われると、正直言うとあんまり聞いていなかった。
「つまり考えるのはこのプリントでいう上四段分だけでいいってわけ。そう考えると多少は楽だろ?」
「多少はですけどね」
三分の二になったところで無なものは無なわけだし。
「納得いかないって顔だな〜、そもそも紙を前にして唸ってるだけじゃ出来るもんも出来ないだろ? おれだってさすがに全くの無から作れって言われたらキツいもん……じゃなくって。おれはもう浮かんだものをすぐ楽譜にできるっていうか……違うな、脳内言語が音楽だから……? 違う、ああもう言語は不自由だな!! 音楽だけはバベルの塔が倒壊してもなお共通言語であり続けてるのに」
「つまり」
「結論を急かすなよ! ……『ゆうくん』はきっと自由すぎて何をしたらいいのかわからないんだろ。安心しろ、音楽はそんな昔からあるわけだから……ある程度は研究し尽くされてるんだよ。こうすればだいたい形になるっていうルールが存在してる。文法がある。ある程度は理詰めで作れるんだよ……って言えば少しは出来そうな気がしてくるだろ? 」
「はあ……」
理詰め、なんて言葉が月永先輩の口から出てくるとは思わなかった。
普段の作曲風景とは全く結びつかない概念である。
……それに、一番嫌っていそうなことというか。
「納得いかないって顔だな〜、『ゆうくん』だって普段喋るときいちいち主語が述語が〜とかここで体言止めとか考えないだろ? でも英語となるとそうもいかないわけじゃん。でも英語も慣れればあまり考えなくても喋れるようになる。作曲も同じだよ、慣れればそういう脳になるから、側から見たらただただ降りてきたものを書いてるように見えるわけ」
というわけで、と月永先輩。
「『ゆうくん』のノートパソコン、DAWか……MIDIシーケンサでもいいけど。入ってない?」
急に聞き慣れた言葉が出てきてびっくりする。……そっか、作曲家だものね。普段は紙を前にしてるところばかり見るけど、最終的にはパソコン作業は必須である。Knightsの曲はけっこう打ち込みも多いし。
「素人がなんの音も聞かずに作曲できるわけないだろ。……おれが手伝ってやるよ」
「できた……」
あれから二時間ほど。
月永先輩の指導の結果、無事にそれっぽい曲が完成した。全くの無から曲が生まれてしまった。タイトルを付けろと言われても何も意味を込めていないので困る曲が出来てしまった。
月永先輩のことだから明星くんばりに抽象的な解説をしてくるのかと思いきや、意外にしっかり、それでいてわかりやすく教えてくれた。……そうか、いちおう元リーダーだものなあ。妹さんの前ではしっかり者をしているとか聞いたこともあるし。
「あとはこれを楽譜に起こせば大丈夫だな、それくらいは『ゆうくん』一人でもできるだろ? ……できる? 楽譜書ける? たまに三年になっても楽譜読めないやつとかいるんだよな」
「大丈夫です、できます……ありがとうございます、こんな時間まで付き合ってもらって……」
「いいっていいって。昼間寝過ぎたからどうしようかな〜とか思ってたとこだったし。……『ゆうくん』に貸しも作れたし」
「泉さんに月永先輩に虐められたって言おうかなあ」
「あっコラ‼︎ やめろよそれおれが絶対に不利なんだから‼︎ ……『ゆうくん』、おれの力は借りたくないとか言うかと思った」
「まあ、宿題を出されてすぐとかなら断っていたと思いますけど。……今はもう、後がなかったわけで」
「そこまで放っておくなよ……おれが言えたことじゃないけど」
ギリギリまで放っておいてもどうせセナが教えてくれるし、と続くのだろう、きっと。
「まあ、こんどパソコン選びとか付き合ってよ。そんでセナにデート中! とかってメッセージ送ろ」
「……まあ、その程度なら」
明日は学校があるというのに、僕は星奏館の共有ルームで紙を前にして唸っていた。
紙というか。五線紙である。
クラスと名前、ヘ音記号とト音記号だけは書いたものの、それ以外は何も書けていなかった。
提出、明日なんだけどなあ。
普段は専門の人に曲を書いてもらうことが多いけれども、何かの機会で作詞作曲を担当することになるかもしれないし、もしかしたら将来シンガーソングライターになる道もあるかもしれない。……ということで、アイドル科では年に一回くらい、作詞作曲の課題が出ることになっている。
今回は作曲だけで、歌うことは想定しなくていい。だから多分、作曲の課題の中では簡単な方に分類される……のだと思う。小節数も大まかな構成も指定されているから、考えることは少ない……というのが担当の先生の談だった。
そんなわけあるか、と文句を言いたい。でも本来これは一年次にやるべきだった内容で、などと言われてしまえば、あまり大声で文句も言えない。一年次といえば、みんなが全然まともに授業を受けていなかった頃である。卒業までに歌ありの曲を一曲作るのが目標、とのことだった。つまりこんなのは初歩中の初歩、悩んでなんていられないのである。
何故こんなギリギリまで放置していたのかというと、ずっと忙しくって宿題の存在を忘れていた……とかではなく、ただただ単に、嫌で嫌で放置していたのであった。つまり自業自得。
他のみんなはちゃんと書けたのだろうか。今日までそういう話は一回も聞かなかったしなあ。明星くんも氷鷹くんも、こういうのはなんとなくでできちゃいそうだし、衣更くんも楽器をやっているから僕よりは得意そうだ。
さっさとみんなに頼ってしまえばよかったのかなあ、なんて考えても、こんな時間にみんなを起こすわけにはいかないし、目の前の五線紙が白紙なことに変わりはない。頼ったところでどうにかなる感じの課題でもなさそうだし。
とはいってもなあ、と無意味にシャーペンをカチカチしつつ考える。何も浮かばないものは浮かばないのだ。
思いついた、って思っても結局聞いたことがある曲だったり、ほとんど教科書と一緒だったり。
もういっそサイコロ作曲法とやらを試してみようか。最近はスマホでもサイコロが振れるわけだし、なんて思った頃だった。
「あれっ『ゆうくん』じゃん、どうしたんだこんな時間に」
玄関方面から現れた月永先輩は、周りに配慮してかいつもより小さい声で、眠れないのか〜、なんて言いつつこちらに近づいてくる。
「月永、先輩……はなんでこんな時間に」
「いや〜、庭で作曲してたら敷地内だからいいかって放置されてたぽくて! 気がついたらさっきだったんだよ」
ほら豊作! と紙の束を掲げる。いつも通り、相変わらずのようだった。
「それは……お疲れさまです」
「ありがと〜、『ゆうくん』はどったの……宿題?」
月永先輩はローテーブルの前で立ち止まった。机の上にあるものが何なのか、もう分かってしまっただろう。
ある意味、一番会いたかった相手のような、……一番避けたかった相手のような。
「Trickstarの新曲? ……じゃないか、年組とか書いてるし。作曲の課題? あ〜、去年セナが唸ってるの見たような見てないような」
「泉さんが?」
「おれがいれば作曲する必要なんてないからなあ、あいつ」
五線紙を手に取り、何も書いてないじゃん、と呟く。
「提出いつなの?」
「明日の五時間目ですけど」
「時間ないじゃん、何をそんなに悩んでるんだよ」
「何をというか……何を悩めばいいのかわからないというか、何も浮かんでこなくって」
ふうん、と月永先輩。そりゃあ、作曲が呼吸みたいな月永先輩からしたら、何も浮かんでこないということが理解できないことなのかもしれないけど。
「べつにオーケストラ用の譜面を書けとか一時間くらいかかる大作を作ってこいとか言われてるわけじゃないんだろ?」
「それはそうですけど」
「おれが代わりにやろうか?」
五線紙を置くと、ニコニコと笑いながら僕の顔を覗き込んでくる。
「普通の宿題なら教えられないけど、これに関してはおれも写させてあげられるぞ」
「……ひとのを写しても意味ないので」
「だよな〜、わかってんじゃん」
それに、すぐにバレてしまうだろう。たぶん、僕にしては出来過ぎたものになってしまいそうだし、先生もきっと月永先輩の作風みたいなものを感じ取れるんじゃないだろうか。
「おれもう何人分の課題やったか覚えてないもん」
「そんなだから利用されるんですよ」
「うん、知ってる。……馬鹿だった頃のおれがやった話だよ」
そのまま立ち去るのだろうと思っていたら、月永先輩はそのまま向かい側に腰を下ろした。
「……寝ないんですか? 夜更かしは肌に良くないですよ」
「セナみたいなこと言うなよ! ……このままほっといたら朝まで悩んでそうだからなあ……『ゆうくん』の肌にも悪いし」
「はあ」
「何か指定とかあるの? 自由に書いていい感じ?」
まだ残るのかこのひと、と少し思いつつ、現役作曲家からのアドバイスが貰えるのならそれに越したことはないな、なんて思って、月永先輩に課題を出された時にもらったプリントを渡す。
全部で二十四小節の三部形式、ABA構成にすること、簡単に伴奏を付けること。
が、たしか条件だっただろうか。
月永先輩はひととおりプリントに目を通すと(ちゃんと書類とか読めるんだなあこのひと)、なるほど、と呟いた。
「確かに普段『ゆうくん』が歌ってる曲とは構成が違うから戸惑うよなあ。ピアノの練習曲とかで聴いてるととっつきやすいんだろうけど。『ゆうくん』でも分かりやすい曲って何があるかなあ……要はきらきら星なんだけどあれは短すぎるし」
ええっと。
月永先輩は持っていた紙束から裏がまだ白紙のものを探すと、慣れた様子で楽譜を書き始めた。八小節を三段。
「ほら、三つのブロックに分けられるだろ。そんで一段目と三段目が同じだからABA構成なんだけど……ってここまではわかってた?」
「あまり」
「授業聞けよ『ゆうくん』……」
月永先輩にだけは言われたくない。……けど、しっかり聞いていたかどうかと言われると、正直言うとあんまり聞いていなかった。
「つまり考えるのはこのプリントでいう上四段分だけでいいってわけ。そう考えると多少は楽だろ?」
「多少はですけどね」
三分の二になったところで無なものは無なわけだし。
「納得いかないって顔だな〜、そもそも紙を前にして唸ってるだけじゃ出来るもんも出来ないだろ? おれだってさすがに全くの無から作れって言われたらキツいもん……じゃなくって。おれはもう浮かんだものをすぐ楽譜にできるっていうか……違うな、脳内言語が音楽だから……? 違う、ああもう言語は不自由だな!! 音楽だけはバベルの塔が倒壊してもなお共通言語であり続けてるのに」
「つまり」
「結論を急かすなよ! ……『ゆうくん』はきっと自由すぎて何をしたらいいのかわからないんだろ。安心しろ、音楽はそんな昔からあるわけだから……ある程度は研究し尽くされてるんだよ。こうすればだいたい形になるっていうルールが存在してる。文法がある。ある程度は理詰めで作れるんだよ……って言えば少しは出来そうな気がしてくるだろ? 」
「はあ……」
理詰め、なんて言葉が月永先輩の口から出てくるとは思わなかった。
普段の作曲風景とは全く結びつかない概念である。
……それに、一番嫌っていそうなことというか。
「納得いかないって顔だな〜、『ゆうくん』だって普段喋るときいちいち主語が述語が〜とかここで体言止めとか考えないだろ? でも英語となるとそうもいかないわけじゃん。でも英語も慣れればあまり考えなくても喋れるようになる。作曲も同じだよ、慣れればそういう脳になるから、側から見たらただただ降りてきたものを書いてるように見えるわけ」
というわけで、と月永先輩。
「『ゆうくん』のノートパソコン、DAWか……MIDIシーケンサでもいいけど。入ってない?」
急に聞き慣れた言葉が出てきてびっくりする。……そっか、作曲家だものね。普段は紙を前にしてるところばかり見るけど、最終的にはパソコン作業は必須である。Knightsの曲はけっこう打ち込みも多いし。
「素人がなんの音も聞かずに作曲できるわけないだろ。……おれが手伝ってやるよ」
「できた……」
あれから二時間ほど。
月永先輩の指導の結果、無事にそれっぽい曲が完成した。全くの無から曲が生まれてしまった。タイトルを付けろと言われても何も意味を込めていないので困る曲が出来てしまった。
月永先輩のことだから明星くんばりに抽象的な解説をしてくるのかと思いきや、意外にしっかり、それでいてわかりやすく教えてくれた。……そうか、いちおう元リーダーだものなあ。妹さんの前ではしっかり者をしているとか聞いたこともあるし。
「あとはこれを楽譜に起こせば大丈夫だな、それくらいは『ゆうくん』一人でもできるだろ? ……できる? 楽譜書ける? たまに三年になっても楽譜読めないやつとかいるんだよな」
「大丈夫です、できます……ありがとうございます、こんな時間まで付き合ってもらって……」
「いいっていいって。昼間寝過ぎたからどうしようかな〜とか思ってたとこだったし。……『ゆうくん』に貸しも作れたし」
「泉さんに月永先輩に虐められたって言おうかなあ」
「あっコラ‼︎ やめろよそれおれが絶対に不利なんだから‼︎ ……『ゆうくん』、おれの力は借りたくないとか言うかと思った」
「まあ、宿題を出されてすぐとかなら断っていたと思いますけど。……今はもう、後がなかったわけで」
「そこまで放っておくなよ……おれが言えたことじゃないけど」
ギリギリまで放っておいてもどうせセナが教えてくれるし、と続くのだろう、きっと。
「まあ、こんどパソコン選びとか付き合ってよ。そんでセナにデート中! とかってメッセージ送ろ」
「……まあ、その程度なら」
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