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twinkle days(白石vs財前/2年生)

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「白石…俺ら、ちょっと離れなあかんかもしれんわ」


休み時間、謙也と廊下を歩いていると、急に立ち止まって真剣な顔で話してきた。


「ん?いきなり何や」


「白石のせいやないねん。でもな…大事な事なんや…!」
「やから、その大事な理由て何て」
「俺が男として一人前になるための一歩なんや」


よくわからないが、何か変なことを誰かに吹き込まれたようだ。


「…なあ、謙也…」
「なんや。俺は心を鬼にしとるで」
「そうか。でもな…いつまでも謙也は俺の親友や。それに…謙也は今のままで充分かっこええで」
「…白石…」
「お前は、男前や」
「…俺は何目を曇らしとったんやろな。…そうやな、俺は俺や。今の俺で勝負やで!ありがとうな、白石!やっぱり俺の親友やわ」


なんや最後までよくわからんかったけど、結果よければええわ。元気でたみたいやし。


「ん?あの子、財前のクラスの子やん」


謙也に言われてそちらをみると、中庭で1人ぼうっとしている彼女が見えた。


「何してるんやろ。もうすぐチャイムなるで」
「…ちょっと声かけとこか」


声をかけようとそちらに向かうと、先に彼女が立ち上がった。まだぼんやりとした様子で足を踏み出したと思ったら、その場で何かに躓く。


「…おお…結構派手に転んだで。あれは、痛いわ」
「ーー謙也。ちょっと俺、遅れるわ。先生に言うといてや」
「ん、ああ」


彼女の所に走る。後ろで謙也が「次、自習やで!」と言うのが聞こえたので、手で返事を返しておいた。






「痛っ…」
苗字さん、大丈夫か?」
「…っ、白石、先輩」

彼女はこちらを見るととても驚いた顔をしたが、少し痛みが走ったのか顔をしかめた。
見れば膝を擦りむいていて、血がでている。


「立てるか?保健室行くで」
「っ、大丈夫です。洗って、絆創膏貼っておきますから」
「あかん。ちゃんと消毒しとかな、綺麗に治らんで」
「でも…」
「でも、やない。な、素直に聞いとき」
「…ありがとうございます…」
「ええ子や」







保健室の扉をノックし開けると、しん…としていた。先生は不在のようで、今は授業中だからか、いつもより静かに感じる。


「座っとき。先生おらんみたいやから、俺が手当てするわ」

救急箱を棚から取り出し手当ての準備をする。保健委員だから、どこに何があるかは一通り知っているし、手当ての仕方もわかっている。
消毒液を手にとり、視線を彼女の方へ向けると目があった。


「大丈夫やで。手当ては一通りできるし、安心しとき」
「ーあ、ありがとうございます」


消毒液の瓶の蓋をとると、特有の匂いがする。


「…すみません、先輩。授業始まってるのに」
「ええんや。怪我した子を放っとかれん。それに、次、自習やし」


そう笑って言うと、彼女も少しほっとしたのか、控えめに笑う。


「先輩」
「ん?なんや?」
「私、言えなかった事があって」
「うん」
「先輩は、覚えてないかもしれないですけど、入学式の日に同じように手当てしてもらった事があって」

入学式。覚えがあった。2年前の入学式、膝を怪我した女子を手当てした。
…しかも、今日のように派手に躓いていたのを思い出した。


苗字さんやったんやな、あの時の子。覚えてるで」


そう言うと、彼女は目を丸くしてこちらを見て、でもすぐに俯いて恥ずかしそうに顔を赤らめた。

「あの時も派手に転けとったなあ。痕にならんでよかった」
「…あの時、私ちゃんとお礼を言えなくて。今更なんですけど…ありがとう、ございました」
「ええて、そんな。俺が気になって手当てしたんやし」
「でもっ、嬉しかったので。だから、ありがとうございました」
「…はは、こんな感謝されるとこそばゆいわ。ー…ん、ちょい、滲みるで」


消毒液を塗ると、彼女の肩が少し揺れる。


「…もうちょいやから」


一通りの手当てをして、最後に絆創膏を貼った。


「…よっしゃ、もう大丈夫や。次、気を付けるんやで」
「ありがとうございます」


「……」
「……」

どちらからも話すことなく、静かな空気が流れた。何か、この時間が終わってしまうのが惜しいかのような。


(俺、苗字の事好きなんで)


ふと、後輩の台詞を思い出す。
なんで、今思い出したんやろ。


「ー…っ、すまんな。授業、遅刻させてしもうた。もう行きや」
「ー…あ…。…はい」


彼女はもう一度礼を言い、扉に手をかけた。
そして静かに閉まると、静けさだけが残った。


なんやろ、これ。


「(ー…なんやろ、とちゃう。わかっとるやろ、俺)」


引き返さなあかんやつや。

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