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(CPなし)

ここは日食の中の悪魔がいるお城……と説明されても、完全に理解できたわけじゃなかった。ただ、蒼真くんが脱出のため頑張っていることと、私や蒼真くんを助けようとしてくれている人たちがいることは分かったから、待つことも耐えられた。
最後に見た蒼真くんがとても…そうとても、怖い感じがして、「だめだったら、ごめん」なんて口にしたからそれだけはとても怖かったけれど。
悪魔は入れないと有角さんが言ったこの場所に、ハマーさんもいて、運ばれたヨーコさんが目覚めて、それから見たことのない男の人もやってきて…茶色の髪を一括りに結んだ派手な洋服の人。でも挨拶はしてくれたから悪い人じゃないんだと感じた。
それからしばらくして…もうどのくらい時間が経ったのかはわからないのだけど、有角さんが戻ってきた。
この人はいつも不思議。目を凝らすといつの間にか霧が出ていたと気付くみたいに、いつの間にか現れる。蒼真くんの様子を教えてくれたりアドバイスをしてくれたり(意味は全然わからないけど)、ヨーコさんを担ぎ込んできたり、助けようとしてくれているのはよく分かる。
だから有角さんが帰ってきたことに気付いたとき、有角さんが驚いたように足を止めたのがとても意外で見つめてしまった。
視線の先はあの男の人…の、手に持った長い物?外では悪魔と戦う必要があると聞いたから、あれは武器…鞭なのかしら?

「 …、ユリ…ウス?」

声からも驚いているのが分かった。有角さんのこんな反応初めて見る。それに、この人の名前はゆりうすさんというのね。
ユリウスさんはちょうど斜め前にいて有角さんと向き合っているから、私からは両方ともよく見える。

「 …闇の気配?だが、俺の本来の名を知るお前は…」

ユリウスさんが有角さんを睨みながら呟くと、有角さんはすぐにいつものような表情に戻った。無理やり戻したみたいに。

「…その説明は後だ。蒼真はドラキュラとして覚醒した」
驚いた。何を言ってるのかやっぱりちゃんとは理解できなかったけど、つまり蒼真くんが蒼真くんでなくなるかもしれないということ。ヨーコさんも、傷のせいだけでなく顔を青くしていた。
「だが、混沌に打ち克てれば己を保てる。俺達は同行できん場所だ、蒼真自身に任せるしか…」
「ああ。あいつは俺の鞭を退けたんだ、心配はいらんさ」
「戦ったのか?!」
ユリウスさんの一言に有角さんはまた驚いた。私も驚いた。…蒼真くんがこの人と戦うなんて想像ができない。とても強そうだし、武器をたくさん持ってるし、ハマーさんとはまた違う感じがする。
でも有角さんの驚きはそこじゃないみたい。ユリウスさんが続ける。
「俺がドラキュラの気配に気付かんと思うか?奴を狩るのが俺の宿命だ。『お前なら』知っているだろう?」
「──ッ」
あれ、この二人はお知り合いだったの?そう考えると、ユリウスさんの態度は幾分くだけているようにも感じられる。
「ドラキュラが城に戻った以上、もう鞭は封印の意味をなさん。俺の手に戻っても問題ないだろう」
「蒼真がお前に負けたらどうする気だった…」
「ドラキュラの復活が当面防げたということだ。分からんはずがあるまい」
「魂が再び分離すれば追うことが難しくなる。今ここでのチャンスを逃すわけにはいかない」
「…言っておくが、俺は本気こそ出さなかったが、手を抜いたわけじゃない。俺に勝ったのはあいつ自身の意思の力だ。肩入れの仕方を間違えるなよ?」

おろおろしていると、喧嘩をしているわけじゃねえからさと横からハマーさんが声をかけてくれ、二人とも今はそのへんにしてよとヨーコさんが仲裁に入る。
何にせよ蒼真くんは今は無事で、ここにいる全員の力があれば声を送ることくらいはできるとのことだった。


『俺一人で…やれるのか…』
不思議、そこにいるみたいに蒼真くんの声が聞こえる。考えるより先に声をかけていた。
「あなた一人じゃない」
『弥那?』
これから辛い戦いをしなければいけない彼が心配で胸が苦しい。だけど、ハマーさんやヨーコさん、みんなが入れ替わりで蒼真くんにかける言葉を聞いていると、私も勇気づけられる。
「これが最後のチャンスだ。……… 頼む…」
有角さんの声は、蒼真くんを励ますというよりも…なんだか、祈りを捧げるようだった。素っ気なくて、不思議な力を持っていて、悪魔のことにも詳しくて、だからこんな事態でもずっと落ち着いているように見えたこの人の初めて見せる不安な感情。
「あなたならできるわ」
だから言える、私は信じている。みんなもそう、不安はあってもあなたを信じている。

きっと、ユリウスさんが言っていたように、それが恐ろしいものなら蒼真くんごとどうにかしてしまう方法はあったに違いない。けれどこの人たちはそれを選ばなかった。
みんな、『あなた』のままでいてほしいから。
『あなた』に帰ってきてほしいから。

『──よし、行くぞ!』

さっきまでか細く籠りがちだった蒼真くんの声は、今は力強く響き渡る。






その声が消えるまで、後ろの方でユリウスさんと有角さんが何かを話す声は聞こえていたけど、蒼真くんのことに必死で頭には入らなかった。



「──もっと信じろ、人間を。信じることが人間の力だ。蒼真はお前が思うより覚悟ができてる」
「…………」
「納得できんか?俺はあいつと鞭を交わした…だからこそ分かる。…生半可な気持ちで約束などせんさ」
「約束?ユリウス、一体何の…」
「さあな」
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