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アルンデレーテ

Ⅱ ノーアの誕生
 
 かの赤ん坊が目を開いた時、それはそれは周りの皆を戦慄させるには十分なほどのものであった。
 父親にも母親にも、ましてやその家系の誰にも当てはまらない黄金の瞳。妃――ローレル・エルデットにとってそれはまるで自ら産んだ子の存在を一変させてしまうかのような程の衝撃であった。あまりの衝撃に体が凍てついたことを覚えている。そして頭の中が真っ白となり、その様子に気付いた召使いたちがこぞって赤子の様子を伺ったのだから、その氷風も伝染していく。ハッと我先に現実に返った召使いの一人が、それまでいた噴水のある庭から場内へと駆け込み、慌ててファメールを呼んだのは今でもはっきりと記憶している。
 気付けばローレルは、きゃいきゃいと楽しそうに笑う赤ん坊を腕に抱いたまま自室に帰ってきていた。そこへ、召使いから呼び出されたファメールが慌てて駆け付けてくる。
 結論から言えば、、赤子の瞳を見たファメールも、先程のローレルたちと同じような反応を見せた。まるで鋭利な氷塊がぐさりと胸に突き刺されたような痛みに、思わず顔を顰める。しかし、とファメールは思ったのだ。
 この子を取り上げたのは正しく今皆がいるこのローレルの自室の寝台であったのだ。助産師の女性と数人で、ファメールは彼女の手をずっと握りながら、必死にの思いで彼女はこの子――ノーアを産んだのだ。それは覆しようも無い事実であり、れっきとした真実なのだ。
「ローレル、気を確かに持って…。確かにこの子の瞳は僕たちと違う色をしているけど、僕たちの子に間違いは無いはずだよ」
 そうファメールは未だ憂いの表情でノーアを抱く彼女の肩を摩り、慰めの言葉を贈る。その間も、目が開いて、初めて見える世界が新鮮で嬉しいのか、ノーアはあぅあぅと母に向かって手を伸ばしている。彼女の髪を掴んでは弱々しい力で引っ張り、気を引きたくてしい方がないようだった。
 彼女はそんなノーアの様子を見て涙を流した。そして「ごめんなさい…ごめんなさい…」と謝ると、再びノーアを強く、そして優しく抱きしめた。
「一時でも私の子じゃないと思ってしまった私のことを許して、ノーア…。たとえあなたの容姿が私たちと違っても、間違いなくあなたは私たちの子よ…」
 

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2023/06/27 最終更新
 
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