アルンデレーテ
Ⅰ 天使の生まれる大陸
アランレッドの時代からエルデットの時代に変わって幾年、レディウス・エルデットがアルンデレーテ王国の王座に即位してからというもの、長く苦しめられてきた国の内政や隣国『オスウェル国』との関係も良好になり、今やクロロニカの支持を行うまでとなっている。
人は傲り昂り育つと、傲慢の悪魔を身に宿しながら他者を愚弄する。それは国の王である国王でも同じことで、彼らも人であるがゆえに悪魔を宿し、その内に秘める強欲の化身は秘めることすら忘れ、ただただ怠惰を貪るばかりとなるのだ。
そんな人の罪という罪の限りを尽くした父がいてこそ、レディウス・エルデットは反逆の志と正義を持ち続けることができた。彼が父に与えられた傷は数しれず。それは目に見えるものよりも、目に見えないものの方が多く、彼の心を苛む心的外傷として今も絶えず残り続けている。
この天空大陸ウォレフシアには四つの地域が存在する。一つはアルンデレーテ王国。二つ目はオスェル共和国。三つ目はクロロニカ国。そして四つめが、ホリアという大陸を支える水晶と巨樹のある聖域である。
この大陸は神の造物であるアルカーナを崇拝しており、巨樹のあるホリアはアルカーナの住処としてはるか昔から信仰されてきた。
教会から祈りを捧げる方向はホリアへ向けて。その逆を行うことは、神への冒涜として扱われた。
教会に厳重に保管されている『天使の日記』という書物によると、この大陸には数年、いや数百年に一度、『天使』と呼ばれる存在が生まれる。それはかつて死地であったウォレフシアに恵みをもたらすようにと神に懇願し、それに応えた神が死地であった大陸のためにアルカーナを生み出したとされている。その起源は今からおよそ数千年前。嘘のような話であったが、教会の大主教は王弟殿下の第一子である男児と謁見した際に、王弟殿下にこう言い放ったのである。
――貴方様のご子息様はこの大陸の天使の生まれ変わりに間違いございません、と。
王弟殿下はその言葉を聞いた時、信じられないという気持ちと、納得のいくものだと矛盾した思いを当時抱いた。何せ生まれてきたその息子は己と己の妃の容姿とあまりにも乖離していたからだ。
王弟殿下――ファメールはその人の優しさを映したかのような明るい茶髪に、メディウス陛下と同じ空のような蒼の瞳。そして彼の妃も同じく明るい蜂蜜の色をした髪に魅惑を秘めたローズの瞳であった。しかし生まれてきた第一子の男児――ノーアは、太陽の光を受けて輝く美しい白髪に、全ての真実を封じ込めたような琥珀の瞳。彼が初めて目を開きその色が露わになったその時のことを、王弟殿下ファメールや妃、またその召使いもよく覚えている。この子はいったい誰の子であろうと、誰もが胸に冷たい刃を差し込まれたのだから。
アランレッドの時代からエルデットの時代に変わって幾年、レディウス・エルデットがアルンデレーテ王国の王座に即位してからというもの、長く苦しめられてきた国の内政や隣国『オスウェル国』との関係も良好になり、今やクロロニカの支持を行うまでとなっている。
人は傲り昂り育つと、傲慢の悪魔を身に宿しながら他者を愚弄する。それは国の王である国王でも同じことで、彼らも人であるがゆえに悪魔を宿し、その内に秘める強欲の化身は秘めることすら忘れ、ただただ怠惰を貪るばかりとなるのだ。
そんな人の罪という罪の限りを尽くした父がいてこそ、レディウス・エルデットは反逆の志と正義を持ち続けることができた。彼が父に与えられた傷は数しれず。それは目に見えるものよりも、目に見えないものの方が多く、彼の心を苛む心的外傷として今も絶えず残り続けている。
この天空大陸ウォレフシアには四つの地域が存在する。一つはアルンデレーテ王国。二つ目はオスェル共和国。三つ目はクロロニカ国。そして四つめが、ホリアという大陸を支える水晶と巨樹のある聖域である。
この大陸は神の造物であるアルカーナを崇拝しており、巨樹のあるホリアはアルカーナの住処としてはるか昔から信仰されてきた。
教会から祈りを捧げる方向はホリアへ向けて。その逆を行うことは、神への冒涜として扱われた。
教会に厳重に保管されている『天使の日記』という書物によると、この大陸には数年、いや数百年に一度、『天使』と呼ばれる存在が生まれる。それはかつて死地であったウォレフシアに恵みをもたらすようにと神に懇願し、それに応えた神が死地であった大陸のためにアルカーナを生み出したとされている。その起源は今からおよそ数千年前。嘘のような話であったが、教会の大主教は王弟殿下の第一子である男児と謁見した際に、王弟殿下にこう言い放ったのである。
――貴方様のご子息様はこの大陸の天使の生まれ変わりに間違いございません、と。
王弟殿下はその言葉を聞いた時、信じられないという気持ちと、納得のいくものだと矛盾した思いを当時抱いた。何せ生まれてきたその息子は己と己の妃の容姿とあまりにも乖離していたからだ。
王弟殿下――ファメールはその人の優しさを映したかのような明るい茶髪に、メディウス陛下と同じ空のような蒼の瞳。そして彼の妃も同じく明るい蜂蜜の色をした髪に魅惑を秘めたローズの瞳であった。しかし生まれてきた第一子の男児――ノーアは、太陽の光を受けて輝く美しい白髪に、全ての真実を封じ込めたような琥珀の瞳。彼が初めて目を開きその色が露わになったその時のことを、王弟殿下ファメールや妃、またその召使いもよく覚えている。この子はいったい誰の子であろうと、誰もが胸に冷たい刃を差し込まれたのだから。
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