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ノーアの日記

ディフェルの夢とオルゴールの話


 オルゴールの音が聞こえる。どこからだろう。ここは自分の部屋のはず。そう思ってパチリと目を覚ます。やはりここは自分の部屋だ。そしてベッドの上。まだオルゴールの音は聞こえてくる。この部屋にオルゴールはないはずなのに。だが確かにオルゴールはこの部屋で音楽を奏でている。
 ベッドから起き上がり部屋を見渡す。ベッドと対に位置する大きな鏡の着いたドレッサー。その机の上には、程よく装飾の施された白い小箱が、蓋開けて居座っていた。
 見たこともない箱だ。間違いなくあの箱がオルゴールだろう。
 ベッドから降りて、ドレッサーへ近付こうとする。突然立ち上がったせいか、少し立ちくらみのようなものがした。
 オルゴールの前まで来る。カランコロンとなり続けるオルゴール。誰が持ってきたの来たのだろうか。そう考えて、ディフェルは瞬時に彼の双子の兄の顔を思い浮かべた。彼がそう思うのも仕方の無いことだ。あの兄が全て好意でやっていることはわかるのだが、どうも鬱陶しくなる時がある。申し訳ないが、お節介を焼くのも少しは控えてほしいものだとディフェルはため息をついた。そうでないとこちらが持たない。
 しかし、今回のオルゴールは大して嫌になることでもない。兄がやったことであるという証拠は無いが、このオルゴールの旋律は嫌いではない。甘く優しく響く音の中に、漂う哀愁のようなメロディ。まるで慰められているような気分になる。
 ドレッサーの椅子を引いてそこへと座る。途端に強い睡魔に襲われた。先程までベッドの上で横になって目を閉じてはいたが、眠っていたとはあまり思えなかった。そもそも何故自分がベッドで横になっていたのか、それ以前の記憶すらはっきりしない。最後に覚えていることは、暖炉のある部屋で兄と二人でいたことだけ。しかし、それもぼやけてあやふやだった。
 腕を組んでドレッサーの机の上に置く。組んだ腕を枕代わりにして、ディフェルはオルゴールの音色に、溶けていくように眠りについた。
 
 ◇◆◇
 
 カーテンから差し込む光に目を眩ませながら覚醒する。外からは小鳥のさえずる声が聞こえてくる。
 目を擦りながら布団を押しのけ、ベッドから体を起こす。耳に響くのはオルゴールの音だった。
 一眠りしたのにまだ流れているのか。そう思ってディフェルがドレッサーに目を向けたその瞬間、耳に響くオルゴールは最後の音を弾いて鳴り止んだ。
 ドレッサーの上に、あの白い小箱は無かった。
 
 
 
 部屋に戻ると決まってオルゴールのネジを巻く。程よく装飾の施された白い小箱の蓋を開けると、カランコロンと心地好い音を奏で出す。リリジスはすぐ目の前の椅子を引いて流れる音に、ひとり聞き惚れていた。
 
 
 
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