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序章

——紅鬼。


 それは、七年前にとある村の村人全員が一夜にして殺されたその日から、世間を騒がせていた殺人鬼の異名である。

 彼の特徴について色々と囁かれているが、何しろ、標的にされたり戦ったりした人々の殆どが無残にも殺されてしまっているので、正確な情報がどれかなど知る由もない。

 屈強で体格の良い男だとか、ひょろひょろでのっぽの男だとか、華奢な体の女だとか、まだ小さな子供だとか、ましてや妖の類だなどと噂する人もある。

 しかしながら、これだけは皆同じ証言をする。


——紅い瞳をしていた。


 闇夜の中、月に照らされて不気味に光る、紅い目をしていたと。

 斯く言う私も、三年程前に彼と戦っている。否、彼女と言うべきだろうか。当時十五歳だった私と同い年くらいの少女だった。とても幾人も殺してきたようには見えなかったが、戦ってみるとそれが真実だということを肌に感じた。

 彼女は確実に私を殺しに来ていた。

 あの身体から出ていると思えない力強い拳、ちょこまかと動き私を翻弄してくる軽い身体、使い慣らされた鋭い短刀、まともな人間だとは思えない死人のような紅い目。

 舐めていたらきっと殺されていただろう。

 しかし、彼女は女で私は男。いくら彼女が強いからといって、本気で戦えば殺されることはなかった。むしろ終わりのない戦いに不毛だと感じたのか、彼女の方から逃げていった。

 そんな彼女だが、その年からきっぱり姿を消していた。誰かに殺されたのかもしれないし、殺しから足を洗ったのかもしれないが、その真相は分からない。

 そして“紅鬼"の噂は、時と共に忘れ去られていった。


——私も彼女のことを忘れていた。
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