short short

daitai 1500moji ika no yume okiba.
記事一覧
夏油傑(呪廻)
20200522(金)04:10▼バッカスにおねがい
(『飲酒してぐずぐずな会話をしている男女の話』でリクエストを頂きました。有り難う御座います。)
「私でしょう。」「主旨が見えないんだけど。」「私とさきいかが岸壁で助けを求めていたら、私を助けるでしょう。」「そりゃあねぇ。」「何、その言い方。さきいかではなくチー鱈だったら私を見捨てるって言うの?」「考える間も無く、勿論、って意味だよ。ああ、でも、笹かまだったら迷うかも。」「笹かまは助けを求めない!」「根拠は?」「あのぷりぷりした肌は他の男が放って置かない。傑が駆け寄るよりも早くに悟とかが食べる。」「醤油でも付けて?」「マヨネーズでも美味しい。」「君は?」「主旨が見えないんですけれど。」「何を付けたら美味しい?」「ええー、下着、とか?」「は。」「ひ。」「いや――え――もしかして――着けて――」「確かめてみる?」「……。」「残念、時間切れ。答え合わせの時間です。黒のスポブラにボクサーパンツでした。」「酔いが醒めた。」「折角教えてあげたのに。趣味ではなかったからって拗ねないでよ。」「確かに趣味ではないが……いや、私も悪酔いした。お開きにしよう。」「嫌。傑の穿いているパンツの色も教えてくれないと不公平でしょう。」「はしたないからやめなさい。ほら、ずり下ろさない。」
無遠慮な力で手の甲が叩かれた。アルコールの海に耽溺する脳味噌が、此所は夢と地続きなのではないかと巫山戯た事を夢想する。まさか。「悟。」と、虚像に被さった実像の名を呼んで、淡い期待を破り捨てる。そうだ。私は深夜の食堂で一人、酒を煽っていたのだった。露骨に面倒臭そうに睥睨する蒼いまなこに問い掛ける。
「悟はさ。私とさきいかが崖で助けを求めていたら、何方を助ける?」
「僅差でさきいか。」
「序でに、今、穿いているパンツの色は?」
「黒。」
「やったね。お揃い。」
「嬉しくねー。」
アハハ、と咽頭を引き絞って笑って、しがみついていた日本酒の一升瓶を煽った。
獅子巳十蔵(悠久)
20200521(木)15:40▼おまたせ
(『おまたせ』で縦読みのリクエストを頂きました。有り難う御座います。)
「お帰りくださいませ、お客様。」
またぞろ遣って来た相手は、最強を謳われる剣士様だ。槍を持てど薙刀を持てどカラーボールを持てど、結果は同じであろう。ならば気迫のみを携えて、むん、と私は仁王立ちで立ち向かう。「この店は客を選り好みするのか。」「クレーマーの自覚が無いようですね。」「俺がいつクレームを入れた。」「甚兵衛さんに言い寄っているではありませんか。今も、その心算でしょう。少なくとも業務妨害ではあります。」「あいつが手合わせをすると言ったんだ。」「酒の席の事でしょう。あの人、覚えていませんよ。」十蔵さんは、クソ、と毒突いた。吐き出して尚も苦味が残っている表情だったが、意固地になって踏ん張る程の迷惑行為は働かないと窺えた。
たなに視線を移す。問答も終えた所で、おにぎりの発注を掛けるべく、私は陳列棚と端末とを相手に睨めっこをする。おにぎりの列を一つ倒し、二つ倒せども、十蔵さんは店から出て行かなかった。「……甚兵衛さんは何時戻るか知れませんよ。」「知っている。」知っていて通路のど真ん中に佇むのか。読みが外れたかな、ともうひと悶着を覚悟で口を開こうとすると、十蔵さんは思っていたよりもずっと静かな所作で手を伸べた。「出入り禁止にされたらかなわないからな。」日に焼けた浅黒い手が、群れを成す三角形から一つを選び取る。梅干しのおにぎりだった。「ああは言いましたが、コンビニは不死身衆の方を出禁に出来るような店ではありませんよ。」「お前の気の強さではそれもわからないな。」
せなかを向けた十蔵さんから、ふ、と可笑しそうにする気配がした。このひとでも笑う事が有るのか。お客様も他にはいらっしゃらない事だ。もう少し、今度は世間話でもしてみたい。顔を出した好奇心と手を繋ぎながらレジへと向かおうとする。と。気怠そうな人影が、無機質な気楽さを振り撒く入店音を潜った。「よぉ、お待たせ~。次、休憩どーぞ。」何も知らぬ甚兵衛さんのお出ましであった。
五条悟(呪廻)
20200517(日)19:58▼舞い上がる
(『舞い上がる』で縦読みのリクエストを頂きました。有り難う御座います。)
舞踏に誘っているように見えたのは、このひとが余りにも楽しそうな笑い顔をしているからだ。しかし、差し伸べられた手の平は地に向けて伏せられている。此所をダンス・ホールにする心算は無い事は直ぐに察せられたが、少し考え直す素振りの後に、自分の頭の上辺り迄持ち上げた行動の意図する所はわからない。
「いい? 普段がこれくらいだとして。」
上がる。上がる。悟さんが、天に向かって浮かび上がる。ポインテッド・トゥの爪先が私の目線の高さに来ても、未だ未だ上がる。只でさえ高い身長がにょきにょきと伸びゆくようで、「見越し入道、見越した!」なんて口を突きそうだ。
がらすのエレベータにでも乗っているかのようにするすると上昇する。西の夕空に煌めく宵の明星と並ぶ大きさとなった人影は、手を広げているのだろうか。幾ら矯めつ眇めつしても肉眼では定かならぬが、浮かれた空気は此所迄伝播する程のものであった。
るり色に染まりつつある舞台から、悟さんが颯爽と降りて来た。私とはっきりと目が合うなり高く上げられた快活な笑い声が、地面に突き立った踵の音に覆い被さる。「今はこれくらい好き。そりゃあもう惚れ直した。」
出水公平(wt)
20200517(日)17:57▼分かり合えない
(『分かり合えない』で縦読みのリクエストを頂きました。有り難う御座います。)
分水嶺は果たして何所だったのか、なんて改めて振り返るべくも無い。時に黒色、時に青色、時に黄色とバリエーション豊かに提示される価値観の違いはカラフルで、今日は人混みに紛れていてもひと目で見つけられる事請け合いの真っ赤に染まっていた。
かれの胸元に自然と吸い寄せられる、我が目玉の恨めしいこと。人間には見たくないもの程よく感付いてしまう習性でも備わっているのであろう。堂々と中心に居並ぶ四つの漢字。それを構成する線を一度なぞり、二度なぞり、三度なぞって目も当てられなくなってしまった。せめてジャケットを羽織るなりしてくれれば少しはましに――と脳内でコーディネイトしてみるも、目に焼き付いた『千発百中』のフレーズは余りにも灰汁が強い。如何に飛び抜けたセンスを持つ一等地のアパレル店員とて、手を焼く事は明白であった。
りかいが及ばない。その趣味だけは。『千発百中』を謳うティーシャツの君はきっと、私の百年の恋が覚めた事を知らない。実際の所は出会ってひと目で惚れて、その儘目を疑い、ふた目で覚めた実に浅いものだけれど。顔は良いのになあ。少し視線を上げて、少年と青年とのあわいにある頬の輪郭を堪能する。猫を思わせるまなこが擽ったそうに此方を向いた。「欲しいんだったらちゃんとお願いしてみろよ。」
合わさった視線の先で、出水くんが唇の端を上げる。意地の悪そうな笑い方も様になっているなあ、物言いと言い少女漫画の登場人物でもおかしくはないのでは、などと感心しながら、問い掛けの意図を掴めずに首を捻る。何かを欲しがった覚えはないのだが。「何を?」「これ。」「どれ?」
えりぐりを摘まんで見せる彼の仕草で、やっと悪夢を察した。
ない。それは、ない。
「いる? 喜べ。今なら漏れなくペアルックだ。」「いらない!」
夢野幻太郎(hpmi)
20200517(日)17:55▼そういうこと
(『そういうこと』で縦読みのリクエストを頂きました。有り難う御座います。)
そんな馬鹿な話があって堪るか。一日辺り約一億円もの金が騙し取られているこんなご時世なのだから、警戒はし過ぎると言う事は無い。しかし、末に服うた音の形で止まった男の唇の格好の、なんと間の抜けた事か。
うそみたいな冗談の方が本音よりも滑らかに出て来る、ひん曲がりの口を売りとしている男の言う事だ。お愛想一つで受けずに流して、別の話題を持って来てやれば良い。それが出来ずにいるのは、二枚舌が収まるにしてはぼんやりとしている小さなうろの所為に違いない。
いつ、其所からお得意の台詞が飛び出すか。待てど暮らせど、後ろの席で談笑していた先客が席を立ち、ウエイトレスが食器と卓上をさっぱり片付けてゆき、次の客を通しても、饒舌である筈の男はうんともすんとも言わずにいた。それこそが嘘のただ中に在る男のあらわす真実のように思えてしまった。
うっとりと。口程にものを言うらしい目でも蕩かせてやれば良かったのだろうか。
こう言う時の心得なんてものは、生憎と私も男も持ち合わせていなかったようだ。二人して、未だだだっ広いテーブルの上で暑がっているお冷やを見詰める。鏡でも見ている心地になった。
ときの止まった一卓に亀裂を入れたのは、「お待たせいたしました。」と言うウエイトレスのほっそりとした手であった。紙製のコースターの上に、先刻注文したチョコレート・パフェがそうっと置かれる。チョコレートの細流がうねるソフトクリーム。その山の天辺に座ったマラスキーノ・チェリーが傾ぐさまで、返事が伝わってくれやしないものだろうか!
オペラ(魔入間)
20200314(土)05:12▼あかしは獰猛にして甘美に
うなじに押し当てられたのは若しや、牙、か。つぷり、と皮膚に食い込むそれの硬さに、身体が否応無しに強張る。真意尋ねたさに巌を動かすみたいにやっとこ首をめぐらせようとするも、後ろから喉頸を固定されていては徒労に終わるのみであった。
「ン……ッ!」
ぐ、と。補食行為の真似事でもあるかのように尖りを押し込まれると、掠れた声が鼻から抜けた。痛い。けれども出血を心配する程は痛くはない。甘噛みで済んでいる今の内に、打開策を求めて記憶を浚い、こんな事になった原因を精査する。
今朝は起き抜けの時間から既に暑かったので、何時もよりも高い位置で髪を結い上げた。主を同じくするオペラさんは、「涼しげで良いですね。」と言ってくれた。本日のサリバン様と入間様の予定の確認も、雑事に関わる連絡事項の共有も終えたので、退出するべく席を立ち、扉を開けようとしたら、背後に気配を感じた。振り向く間も無く手首を扉に縫い止められて、喉を捕らえられ、斯うして首に噛み付かれた――のだが、つぶさに回顧しようとも現状に繋がらない。
ぐるぐると目を回している間にも、かぷりかぷりとうなじが食まれている。痕がついているだろうな。血の集まってぼんやりとする頭が、噛み痕の隠れる髪型を幾つかピックアップしようとする。妨げたのは、慰撫するように吹き掛けられた吐息の擽ったさであった。口を引き結んで、身体の奥から漏れ出そうな甘い響きを塞き止める。
「ッ、あの、オペラさん、もう、」
絶え絶えで発した制止の言葉が完成するよりも前に、うなじが戯れから解放された。懇願が聞き入れられたのではなく、単にこのひとの潮時と重なっただけなのだろうと思われた。緊張から浅くなっていた息を整える。拘束は未だ解かれる様子が無い。振り返る事が適わないので、扉に映る、天頂にぴんと耳の立ったシルエットを代わりに睨み据える。
「悪周期の前触れですか。」
「正気でやっていますよ。」
今の今迄ひとの首に無心で噛み付いていたとは思えない淡々とした返答に、見事に調子が崩されてしまった。「正気。」。「正気です。」。影が、こくり、と頷いて呼応した。正気ならば如何して、この手や頸に掛けられた枷を外してくれないのだろう。
その答えは直ぐに知れる事となる。
オペラさんの影がふた度、私に覆い被さった。所有を示すような痕のつけられたうなじに、今度は柔らかな質感が触れる。幾度も、幾度も。それこそ、逃げ出したくて堪らずにいる私の身体を懐柔する優しさを以て、幾度も。
伏黒甚爾(呪廻)
20200309(月)06:28▼虚勢
机に降り立つなり硬い声で挨拶をする小瓶は、退屈そうに眺める男の鋭いまなこを前に畏縮しているようだった。
一つ、二つ、三つ。赤、ピンク、ベージュ。他にも様々な色彩が充填された小瓶を整列させてゆく。キャップの天辺を一つずつ爪先で叩きながら、目の前で生欠伸を漏らす彼に問う。
「何色が好き?」
「特にねぇな。」
「じゃあ、私には何色が似合うと思う?」
「赤。」
「どっちの?」
「その二つ、そんなに変わらねぇだろ。」
「こっちの方は少しくすんでいるの。」
「あっそ。だったらこっちの方がオマエらしい。」
武骨な指先で軽く弾かれたのは、くすんでいないもう一方。ギラギラとして攻撃的な、鮮烈な赤色を誇るマニキュアであった。「らしい、ね。」。――知る気も無い癖に。
毒吐く代わりにくるくるとキャップを回す。途端に溢れ出したシンナー臭は、やけに五感の発達している彼の嗅覚に余程深々と刺さったのだろう。見てみると、きつくきつく、その端正な顔立ちを顰めていた。良い気味だと北叟笑んで、引き上げた刷毛をふちにあて、マニキュア液を均す。始めに親指の爪に色を載せる。
彼が臭気を厭うてベランダに出ようと腰を上げた。
「私、そんなに強い女に見える?」
赤いマニキュアには、ひと塗りで気丈な女になれる魔法が掛けられている筈ではないか。彼のつま先が玄関ではなくベランダに向いている事を確かめて尚、声は小さく震えて、魔法で誤魔化し切れない私の弱気を露わにした。一瞬の沈黙が、酷くおそろしかった。
「少なくとも面倒な女には見えねぇな。」
「それって牽制?」
「その赤、よく似合ってる。」
いやに優しい手付きで頭を撫でられる。ご機嫌取りとは殊勝な事だが、さっさとベランダに退避する彼の背中を見詰めていると、何だか全てを投げ出したくなった。手に握り込んだこの赤いマニキュアを、素知らぬ背中に叩き付けてやりたくて堪らない。
だって、このひとが芯からいとおしく想っているひとは、きっと、こんな赤色なんて似合わないのだから。
オペラ(魔入間)
20200211(火)02:23▼セイシュンキョウソウキョク
「私だってパンくらい買って来られます!」
自棄っぱちな足取りで売店へと駆け出すカルエゴの背中を忌々しそうに振り返って、少女は威勢良く啖呵を切った。
折り目正しくも天に向けてぴんと伸ばされた挙手を前にしたオペラが、細い頤に手を遣り、ふむと仰々しく熟考する素振りを見せる。
「では、カルエゴくんと競争ですね。よーい、ドン。」
言うが早いか、ぱちんと拍子を取る。背中を押されるようにして機敏に反転した少女が疾走を開始した。「カルエゴには絶対に負けませんからーッ!」と意気溢るる声の尾が引く。この分では先行したカルエゴにも直ぐに肉薄するだろう。あっと言う間に爪の先程となった直向きな少女の影に、オペラの唇の端が我知らず、微かに持ち上がる。
「焚き付けますね。オペラ先輩。」
これ迄静観していたバラムが、一歩、のっそりと進み出た。横から声を掛けれども、彼の視線もまた、売店に続く廊下の先に凝らされていた。
「君も参加しますか。」
「遠慮しておきます。」
オペラは巨躯を横目で見上げたが、胸の前で丁重に構えられた両手の意思を受け止めると、「そうですか。」とあっさりと退いた。それから不図、少女の名前をぽつりと口にする。
「可愛いですよね。一生懸命なところとか、特に。」
「……いつもの、面白い、ではなく?」
不意の出来事に言葉に詰まったバラムが一拍遅れで確認する。らしくない事を平然と口にするオペラの面差しは、その声音と同じく常と変わらぬ淡白なものに見えるが、付き合いの深いバラムの目は確かに差異をとらえた。何時だって好奇を好む赤暗色の眼差しが、柔らかな光を帯びているのを、とらえた。
「可愛いと思います。」
首を傾げた格好で固まる後輩に首肯を一つ返して、オペラはそう、はっきりと答える。
「それは――」もしや、好意にほかならないのでは。続けられる筈だったバラムの問い掛けは、ぴくり。何かを受容したオペラの耳の動きによって、静かに遮られた。忙しない二人分の足音が、次第に廊下に反響し始める。
「オペラ先輩ーッ! お待たせいたしましたーッ!」
「叫ぶな、喧しい!」
並走する影、二つ。遠くから聞こえて来る少女のにぎにぎしい声に合わせて、黒い毛並みの尻尾が揺れるのを、バラムは見逃さなかった。
バラム・シチロウ(魔入間)
20200210(月)15:29▼後頭部にだけ教えてあげる
私の頬に戯れ付く髪の毛の先っぽだって好きだけれども、擽ったさを何時いつ迄も我慢出来るかと問われれば、答えは否だ。だから、「バラム先生。」と、「私に髪を結わせてください。」と彼の逞しい腕の中から声を上げたのだ。そうして私は今、バラム先生の長い髪に櫛を通していた。手入れには興味が無いのか、潤いが抜けたばさばさとした手触りであった。こうなると絡まり易いんだよなあ、と化粧っ気が無かった時分の記憶が思い出される。引っ掛けてしまわないように心を配って、ひと房ひと房と梳る。ふ、と息の漏れた気配が届いた。よもや、引っ張って痛くしてしまっただろうか。焦って回り損ねる口で尋ね掛けると、バラム先生は、「いや。何と言うか――」と言葉を探した。「撫でられるのも悪くないと思ったんだ。勿論、これは撫でている訳ではないとはわかっているけれど、それでも悪くないな。うん。はっきり言うと好ましい。」と肩を小さく震わせる。笑っているのだとは、忍び笑いのような控え目な吐息が知らせてくれた。そんな事を言われて意識しないでいられる恋する乙女が、果たしていようか。いや、いまい。櫛を握っていた手で、そうっと、髪を梳く。手櫛で梳く。撫でるように梳く。暫くの間、そうしていた。――好ましい。その言葉の魔術の強力さと言ったら、髪を結うと言う当初の目的を魔界の端っこへと素っ飛ばしてしまう程であった。