jujutsu
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苺のタルト。バター香る生地と滑らかなカスタードクリームを華やかに彩る真っ赤な苺は、ひと粒ひと粒丁寧にナパージュされていて、グロスを塗った唇のようにふっくらとしていてすてき。
チョコレートのムースケーキ。磨き上げられた鏡面宛らに輝かしいグラサージュ・ショコラは漆黒のヴェールであり、それに秘された仄かなオレンジの風味を思うとときめきが隠せない。
ティラミス。柔らかくぽってりとしたマスカルポーネチーズのクリームに施された、エスプレッソの香水とココアパウダーの大人っぽいお化粧は、少しの背伸びにぴったり。
マカロン。ピンク、イエロー、グリーン、ブラウン。色取り取りに転がるパステルカラーの宝石達は、つぶらでふくよかなフォルムでころころと愛らしさを振り撒いて、可愛いったらない。
エトセトラ、エトセトラ。贅を凝らした珠玉の洋生菓子の数々によって、高専の食堂の一角は、東京の一等地に城を構えるパティスリーのショウ・ケースへと様変わりしていた。
ケーキを一つ一つ指し指し、数日振りに帰って来た級友の為に、店で聞き込んだ説明を再生してゆく。手の示す先を目で追いながら静かに耳を傾ける悟さんだが、時折、「この赤い実は?」「ピスタチオ?」「プラリネとジャンドゥーヤって違うもんなの?」と質問を投げ掛けて来る。それが勉強熱心な児童みたいで微笑ましく、此方の解説にも熱が入ろうと言うもの。
しかし、何時迄も悠長にしていては、折角飾られた生クリームやチョコレートが溶けてしまう。取りを務めるショコラ・ミルフィーユ迄一気に説明を終えると、私は箱一杯に詰められたケーキを悟さんへずいと寄せた。
「で、どれが俺の分?」
「どれでもお好きなものをどうぞ。長期任務、お疲れ様でした。」
「ご褒美? 気が利くじゃん。」
癇に触る驕った物言いだが、ケーキボックスから僅かたりとも目を離さずに、氷に似ている筈の蒼色をきらきらとさせているのでは憎めない。どれにしようかと、十もの選択肢の中で指先が彷徨う。看板を背負うに相応しい鉄板商品を巡りゆき、一つのケーキの上で止まった。
――目敏い。それは先程のプレゼンテーションで掉尾を飾った、このパティスリーの期間限定商品。ショコラ・ミルフィーユであった。
「これが当たりか。」
サングラスの奥の瞳が、手応えを得てにんまりとした。
何時から見られていたのだろう。そんなにも物欲しそうにしていただろうか。恥ずかしさから、正直者らしい頬を押さえる。どれでも良いと言った手前、惜しいだなんて言える道理などない。こんな事ならば二つ買って来れば良かったのだけれども、手持ちを考えると諦めざるを得なかったのだ。そんな逆恨み節も込められた声は、我ながら無愛想に出来ていた。
「失礼を言わないでください。どれも大当たりですよ。それは期間限定品なので、一等ですが。」
「じゃあ、コレ。後は取り敢えず、ショートケーキとモンブランと、ティラミスも。」
「マカロンは?」
「デザートにする。」
気持ちこそはようくわかるが、他人の口から聞くと余りに妙ちくりんな発言でついつい笑いが誘われた。
ショコラ・ミルフィーユ、苺のショートケーキ、モンブランにティラミス。箱を覗き込んで、残数を確認する。取り敢えず、と言う事はもう数個は入る腹具合と言う事であろう。こうして意地悪な所も有るが、全てを取り切らずに選択の余地を残してくれる。その小匙一杯分の優しさは心地よくて、彼とケーキを食する時、私は沢山の種類を用意してしまうようになったのだ。
厨房から拝借した真っ白な大皿を受け取って、一つずつ、そうっと鎮座させてゆく。白亜の皿は忽ち煌めきの満ちる荘厳な舞台と化した。箱の中で犇めき合う窮屈さから解放された、個性豊かなケーキ達。その佇まいは堂々たるもので、自分こそが主役なのだと、安い蛍光灯の灯りをもスポットライトに変える。
「美しいですねえ。」
目の保養とは正にこの事だ。ほう、と吐息を漏らして甘いあまい芸術作品を堪能する。「溶けんじゃねーの。」との催促の声が浴びせられてようやっと我に返り、私も苺のタルトとオペラとベイクドチーズケーキを大皿へと盛り付ける。
これもまた厨房からお借りしたフォークを、二人して握る。大きな彼の手にかかれば、デザートフォークですら子ども用のカトラリーに見えるのだから可笑しいったらない。
「それでは、頂きます。」
「ゴチになりまーす。」
とは言ったものの、悟さんの反応を得る迄は気も漫ろとなっていた。
今回、用意したケーキは新規開拓したパティスリーのものだ。事前に調べ上げた口コミはどれも上々で、店の雰囲気、店員の行き届いた接客態度、肝心のケーキの繊細なデザインや色艶からも外れは無いと確信は持てるが、個々人の味覚に合うかは実際に食してみる迄わからないものだ。
目の前で、サクサク、パリパリ。ショコラ・ミルフィーユが香ばしい音を上げる。亀裂からバターとカカオの香味が飛び出して来た。ココアが練り込まれた葉の如く薄いパイと、挟まれたチョコレートクリームと苺とを一緒くたにフォークに載せて、悟さんは大きく開けた口の中へ仕舞い込む。
「ウマッ!」
間髪を入れずに相好が崩れた。余程、お気に召したのであろう。嚥下するなり黙々ともうひと口分を切り出している。
夏の晴れ空よりもずうっと透明な蒼を湛える瞳が、煌々と、サングラスの壁をものともせずに光っている。眩いその輝きは、私にとって勲章のように思えてならなかった。
――頭をよく使うから糖分を欲するのだと、悟さんが打ち明けた日の事はよく覚えている。如何にも詰まらなそうな言い方だったから、「甘いものは嫌いですか。」と尋ねたら、「不便を感じるだけで別に頓着してねぇよ。」「ブドウ糖でも齧ってりゃ対応出来るから、不便って程不便でもないけど。」と斜に構え過ぎる答えを寄越された事も。
例えば、口にするものが金平糖だったら良かったのか。飴玉やラムネだったら文句は無かったのか。何度も自問したが、自答は、そう言う話ではない、の一点張りだった。
味気無いのが問題なのではない。
自身を呪術を扱う機構のように語る彼の横顔が、酷く神様めいて見えたから、私は彼を如何にかして人間に繋ぎ止めたかったのだ。
だからその日の内に携帯端末で都内のパティスリーを検索し、授業が終わると同時に有数の店に駆け込んで、彼を世にも美しきケーキで殴り付けたのであった。
初めて共にケーキを食べた夜の、悟さんの顔を思い出す。一ピースの中で織り成される妙なる甘味にとろりとゆるんだ白い頬は、今、独り占めしているものと同じだった。
「ねえ。幾ら甘いと言っても、ブドウ糖では味気無かったでしょう。」
「ブドウ糖よりも断然コスパ悪いけどな。」
「そんな事を気にする性格には見えませんでしたが。」
「言ってみただけだよ。」
視線を皿に落とした儘の生返事。悟さんが熱を上げているミルフィーユはと言うと、既に半分程が彼の胃の中へと居を移していたが、残りの半分の惨状たるや、立っているのがやっとと言った有り様であった。上から押し潰されたクリームは盛大にはみ出して、フォークを突き刺す毎に散ったパイの破片と共に大皿の一画に混沌を形成している。眉と眉が薄らと寄せられた所以は、成程、如何やっても崩れるもどかしさにあるのだろう。ならば、と助言を差し向ける。
「ミルフィーユは横に倒してから切り分けると食べ易いですよ。」
「今言うのかよ。八へぇ。」
雑学バラエティ番組を模して、テーブルが八度、極軽く叩かれる。呆れた口振りの通りに中々に低い点数である。とは言えども、悟さんは素直にフォークの先でミルフィーユをつついて倒した。
大雑把な素行が目立つ彼ではあるが、食べものなんて腹に納まれば見掛けなんて、などと情緒の欠片も無い事を言っているのを聞いた覚えが無い。呪術界の御三家の一つに生まれ付き、それも御家待望の六眼と無下限術式を備える者と言う事で、食事にも気を遣われて来た結果なのだろうか。
真偽は定かではないが、悟さんの不図した所作の端々から窺える育ちの良さは、これ迄に充分に目の当たりにして来ている。フォークを持ち上げて此方に差し出す仕草はぎこちない限り、だ、が――。
「え。」
「口開けろ。早く。」
私の口もとに持って来られたフォークには、彼のひと口目と同じく、ミルフィーユを構成する三要素が揃って載せられていた。
悟さんが、「あーん。」と。幼子に為て見せて教えるように、口を小さく開けてみせる。期間限定の逸品を食べたかった気持ちを汲んでくれたのか。食べものの禍根を残さない為の配慮やも知れない。何にせよ願ったり叶ったりの有り難い申し出ではある。だが、この分け与え方は! 同性間ならば未だしも、男女間で遣り取りするとなると恋人の睦み合いじみた行為に思えてならない。相手は只の級友だ、異性である前に親切な友人だ。幾ら言い聞かせようとも、引き結んだ唇は固くてかたくて抉じ開けられやしない。
意識しているのは私だけなのだろうか。悟さんの顔色に変わりは無く、催促するようにフォークを小さく揺すぶっている。ちらつく誘惑は甘美であり、厚意を無下にするのも気が引ける。然りとて、大人しく彼の言う通りに出来るだけの無関心さは生憎と持ち得ていなかった。
こうべを横に巡らせて、逃げ道を模索する。フル回転する脳味噌から名案の訪れを待っていたが、痺れを切らした悟さんの一手の方が早かった。
「後一秒で落ちそう。」
そう脅されては従わざるを得まい。ええい、ままよ!
ぱくん、と食い付く。フォークがするりと引かれる。口内に置かれた、固い食感と、とろける舌触りと、甘酸っぱい果肉。それ等は渾然一体となって味蕾を擽り、目一杯楽しませようとしてくれている。
これが人生初めての咀嚼かのようにこわごわと、ゆうっくりと噛み締める。食道に落ちたのを見計らって、テーブルの向こうから、もう堪え切れないと言う風な含み笑いが届いた。
「どうよ。」
如何、と訊かれても。正直なところ、熱の籠った頬の内側は十全には機能していないのであった。だが、味がわからないからともうひと口を強請る訳にもゆくまい。この分ではきっと、ふた口目もはっきりしてくれないのだから。
何時迄もむっつりと黙り込む私に、悟さんの唇は意地の悪い角度に吊り上がった。全てお見通しだと言わんばかりに悠然と笑いながら、「ん?」だなんて態とらしく答えを急かして来る。
「美味しいです。多分、凄く。」
上手に目も合わせられず、生クリーム色をしたふわふわの髪の毛の先に向けて答える。得意気に鼻を鳴らしたのは、自分が手ずから食べさせた行為こそが美味にひと役買っていると、暗に言っているのか。その所為で味の輪郭がぼやけて仕舞ったと言うのに!
せめてもの慰めに、姿形だけでも忘れないで覚えておこう。皿の上でくったりと横になった、今しも消えそうなショコラ・ミルフィーユの姿を目に焼き付ける。
「やたらご執心だけど、ミルフィーユ、そんなに好きだった?」
「ミルフィーユだけでなく、ケーキは何でも好きです。」
「見境ねー……割りにはハズれた事ないな。」
「見境ならば有りますから。貴男と食べるものに関しては、特に吟味して買って来ているんですよ。」
「成程ね。そりゃあどーも。今回のもだけど、この前買って来たケーキも確かに美味かった。」
「この前――イートインスペースが在るあのお店ですか。」
「それは初耳。」
「ショートケーキの苺が大振りだったお店です。」
「そこ。」
フォークを携えた手で、正解、と指される。「人を指ささない。」と釘を刺しつつ、くだんの店で買って来たケーキのシルエットを思い起こす。あすこのショートケーキは苺の大きさも然る事ながら、苺のシロップが染みたスポンジが絶品であった。
口に入れた瞬間の幸福な記憶を呼び覚まして悦に浸る私を置き去りに、悟さんは――間接キス、だなんて言葉も浮かんでいやしないようなさまで――ショコラ・ミルフィーユの残りを平らげてゆく。
奇麗になりゆく皿の片隅を見るなり、一人相撲を取っている自分が馬鹿らしくなって来るものだ。気持ちを切り替えて、遅蒔きながら、私もベイクドチーズケーキへとフォークを入れる事にした。切り込んでも小揺るぎもしない、どっしりとした重みから見込める濃厚さが嬉しい。ア、と口を開いて迎え入れる。口当たりはクリーミーで優しく、下支えするタルト生地のざくざくとした歯応えとのコントラストが絶妙に楽しい。続いて、こっくりとしたチーズの旨味が口一杯にねっとりと広がる。想像以上に、濃い。しかし、酸味の有る後味がしつこさを感じさせない。美味しい。幾らでも食べられてしまう。未だ一品目ではあるが、この店はリピートしよう、と心に決めた。
「明日、完全にオフ?」
ショートケーキに次の狙いを定めていた悟さんが、不意を打って問い掛けて来た。彼も彼で、ショートケーキの一番美味しい部分とされる尖端を掬い取って、口に運んでいる。深く頷いている姿を見るに、此方もお眼鏡に適ったのであろう。味わっているのは眼鏡ではなく舌だが、なんて言葉遊びを頭の片隅で繰り広げながら、「ええ。」と簡潔に首肯する。「へえ。」と気の抜けた相槌が為されたきり、暫くの間、フォークが皿を打つささやかな音だけが私達の会話となっていた。
「じゃあ、食べに行こうか。この前のケーキ屋に。」
今から、な訳はない。流石にカロリーオーバーだ。文脈から察するに、明日の休みに繰り出そう、との誘いなのだろう。あの店も期間限定商品を売り出し始めたと聞く。――だから、答えは直ぐに出せる筈なのに。何故だか喉に詰まったのは、何時もの軽いトーンとは少しだけ、ほんの少しだけ、違って聞こえたからだろうか。
何となく顔が見られなくて、悟さんの前の大皿の上の、ショートケーキをじいっと観察する。器用にも倒す事なく食べ進められた台座の上に、とっときの真っ赤な苺がでんと取り残されている。私は苺は初めに食べてしまう派なのだが、こうして見ると小さなちいさな雪原に登った朝日のようで、縁起が良さそうではないか。
幻想的な箱庭に勇気付けられて、顔を上げる。答えを待つ静かな蒼い宝玉に映り込んだ私の影は、しっかりと頷いた。
「良いですね。傑さんや硝子さんにも声を掛けましょうか。」
「ちっげーよ!」
がくりと白髪頭が項垂れた。余りに勢いが良かったものだから、あわや皿に居残る数々のケーキと衝突してしまうのではないかと、ひやりとしたくらいだ。
悟さんは抱えた頭をホイップするみたいにがしがしと掻き混ぜている。「あのな。」と。真っ白な髪の隙間から上目遣い――と言うには一つも可愛くない眼光に見据えられる。
「行くのは、俺と、オマエ。二人っきりで。――意味、おわかり?」
「余り食べないだけで、二人共、甘いものが大の嫌いと言う訳ではありませんよ。」
「ちっげーよ……。」
同じ台詞が、今度は意気を失って繰り返された。額を押さえる瞬前に垣間見えた眉間には、ケーキを食べている最中だとは到底思えぬ渋面ぶりが表されていた。辺り憚らぬ極大の溜息が、これ見よがしに吐き出される。
「肝心なところではぐらかすって、ラブコメの主人公気取りかよ。」
口直しだと言わんばかりに、悟さんがショートケーキの苺を頬張る。
矢鱈と鈍感だとけちを付けたいのだろうか。だとしたら何たる言い草だろう。特別な感情を一つも持っていないのは其方の方だろうに。友人としての誘いに舞い上がれとは、まったく無茶を言うものである。
先程のミルフィーユの残像は、網膜のみならず舌の上にも未だ在る。弄ばれたとしか思えない乙女の純情の仇をじっとりと睨めてやる。
「よくわかりませんが、一つも褒めていませんよね。」
「よくわからないなりにお利口だこと。――で、二人っきりだけど行く?」
「勿論。今、あのパティスリーでも期間限定のケーキが出ていますから。」
「それは良いコト聞いた。ミルフィーユのお礼に、ひと口食べさせてよ。」
「自分で注文したらいかがですか。」
「俺は食べさせてやったのに不平等だと思わない?」
「世の中、不平等な事だらけですよ。」
「今はご高説のお時間じゃないんだよね。融通利かせろよ。デートなんだから。」
「随分と冷やかしますね。」
「オマエさ、ここまで言ってんのに何で本気にしないかな。」
不貞腐れたように歪んだ唇が、不機嫌な低い音を奏でた。
意固地にも食い下がるさまは本当のデートに仕立て上げたいように見えて、真意がわからなくなる。今度は私が頭を重くする番であったが、顔を伏せる事は許されなかった。眇められて尚、耀きが損なわれない蒼い光に射竦められる。
「俺の胃袋を掴んだ責任、ちゃんと取れっての。」
真剣なのだと。強引にでも理解させる眼差しで以て告げられたそれは、何所か的外れな台詞であった。自然と、フ、と吹き出してしまう。何だそれは。ケーキを作ったのは私ではないし、まるでプロポーズのようだし、だとすれば段階を吹っ飛ばし過ぎだ。
「面白い事を言いますね。」
彼から効率を取り上げたのは私だ。甘いものを貢ぎ続けて、味を覚えさせたのも私だ。強ち、間違いとも言い切れないのやも知れない。それにしても、胃袋を掴んだ、とは! 繰り返すと笑いに引っ込みがつかなくなった。
次第にけらけらと笑い出す私に、悟さんは不服も不服だと雄弁に表情で語る。舌打ち一つ、面映ゆそうに背けられてしまった顔に、在りし日の横顔は重ならなかった。神様の影なんて、今はもう、ちっとも見えやしない。
「明日はケーキ屋を口説いて婿入りして、一生ケーキに困らない生活でも手に入れてやる。」
「あのお店のパティシエは男性ですよ。」
「知るか。オマエよりは脈あるだろ。」
「そんな事はありません。二人のウエディングケーキの下見といきましょう。」
冗談を軽快に飛ばすには甘く弾み切った声は、この胸がどれ程、期待に高鳴っているかを如実に彼に伝える術となった。
確かめるようにして、悟さんが私の頬を横目で撫でる。呪いを見透すまなことて人の心は読めはすまい。だが、彼が見誤る事はきっと、ない。熟れた苺の色をした私の頬は、二人の契機となる日を前にして、既に目に見える答えとなり得ている事だろう。
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