私が今何をしているかと言うと、島の子供達に勉強を教えている。

あの日から、もう半年近く経っていた。

時は遡り、意識を手放してから目覚めた日になる。

私はベッドに寝かされている事に気づいた。
体を起こすとミシェルが心配そうに駆け寄ってくる。
すぐお母さんを呼んでくるといわれ、先程までの状況を思い出した。

(そうだ、私はトラックに引かれたんだ…
それで、目が覚めたらここにいた。しかもその日に見ていた夢と殆ど同じ内容…)

頭の中で整理しようとするが、分からない点が多すぎる。

とりあえず考えられる可能性は、

1.事故で運良く助かり、何者かの手によって島流しにされた。
2.魂が吹っ飛び死後の世界に来た。
3.瞬間移動した。

2は恐らく無いだろう。痛覚があったし、服装も一緒だ。何より死後の世界がこんな所だとは思いたくない。
1は無くはないが、可能性としては低いだろう。誰かに恨みを買うような事をしたつもりはないし、こんな辺境まで流せるような知人はいない。
考えられるのは3だが、あまりそういう類の物は信じてこなかったから、いまいち信じられなかった。

(考えたって分からない)
とにかく今は情報収集が先だろう。

と、そこへミシェルの母がやってきた。
心配そうな彼女へ事情をかいつまんで説明する。
ただ、事故の事は伏せて置いた方がいいと思ったので、日本という場所から来たということ。
ここがどこだか分からないという事、元の場所へ帰りたいという事を話した。

ただし、手に入った情報はあまりにも少なかった。

ここが聞いたこともない小さな島だということ、みんなで食物を育てて暮らしていること。
そして日本なんて所は聞いたこともないということ。

落胆する私を見かねたのか、村長に会いに行けばなにか分かるかもしれないと言われたので、またミシェルに案内してもらう事にした。

「リンがいた日本ってどんなとこ？」
すっかり私に慣れたのか、もう既に呼び捨てだ
「んー、そうだなぁ、私が住んでる所はあんまり都会じゃなかったけど、楽しい所だったよ」
過去形になってしまうのはこの際しょうがないだろう、帰えれるかどうかの目処さえ立っていないのだから。

「えー！いいなぁー！あたしも行きたい！ねぇリンがもし帰れたらあたしも連れてって！」
「あはは、帰れたらね…」

絶対だよー！と息巻くミシェルに対して苦笑いしか返せないのが悲しい。

「あぁ、でも学校は楽しかったなぁ。友達にも会えるし」
「学校！？学校って何！？」

驚いた。この島には学校がないのだろうか？

「んー、そうだなぁ、同じ歳の子達が集まって勉強するんだよ」

「あたしも学校行きたいなぁー！」

ミシェルの目が輝くのを見ながら私も今では懐かしいあの場所に思いを馳せた。

(帰りたい、帰らなきゃいけない。
その為にはどんな些細な情報でも欲しい）

向かう村長宅に希望を抱きながら、私は歩く足を速めた。