マイクロノベル

■■■いラーメン屋

2022/03/27 19:50
 どこに行ったかわからない?
 お客さん、それ言うの何回目だあ? お客さんはいっつも物失くしてる気がするね。俺の気のせいじゃない気がするんだが。
 何? 失くしたのは命? そうかい?
 お客さんどこからどう見ても生きてる気がするけどねぇ……
 命がラーメンになった? 馬鹿言うんじゃないやい。命はラーメンになんてならないよ。うちの評判落とそうってんならよそでやってくれ。はい、お待ち。
 ……おいしいかい? そりゃよかった。明日も来とくれ、約束だよ!

 次の日。

 何、また失くした? 命を? お客さん……まあ、ラーメン食べなって。
 ラーメンなしでは生きられない? ははあ、大袈裟だねぇ。
 ……大将長生きしてくれよって? 言われなくとも、あんたよりは長生きするつもりだよ。
 おいしかったかい? じゃ、また明日。

 数年後。
 いらっしゃーい! ラーメン食べて生き返りな。
 ……ここまでこられたのは大将のおかげ? 俺ぁラーメン作ってるだけだよ。そしてお客さんはラーメン食べてるだけ。ずっとそんな毎日が続くのさ。何も不安なんてない。
 ありがとう? 何だい改まって、調子が狂うじゃねえか。
 ……また明日な。

 次の日、あの客は店に来なかった。
 次の日も、その次の日も。
 あの客が失くした物を見つけられたのかどうかはわからない。
 でも、どこかで元気でいるといいとは思う。
 あの客がまた来たときのために俺ぁラーメンを作る。毎日作る。
いつでも帰ってこられるように。

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