短編小説(2庫目)

 向き合っている。
 ような気がしているだけ。
 目の前には積まれた石。いつから積まれているのか、わからなくなるくらい前から積まれてきた。
 崩すのは鬼じゃない。自分自身だ。積んで、嫌になって、だから崩してしまう。
 頑張って積んできたはずなのに、すぐ崩してしまう。
 崩すのが楽しいわけじゃないがひょっとすると楽しいのかも。自分の努力を無にすることで自分に罰を与えているかのような気持ちになって楽しい?
 そんな楽しさはいらないのだが。
 ともかく石を眺めている。この塔もおそらく駄目だ。たくさんのアリがそれを登っている……塔の内部に入り込んで、駄目にしようとしている……というのは幻覚だろうか、真実だろうか。
 未だ目にしていないもの、というのは幻覚と真実の境目にあって、信じるならば真実、信じないならば幻覚になる。塔の内部にいるアリたちは俺にとってはおそらく真実ではあるが、本当に確かめるまでは幻覚だと思うこともできて、それはある種の救いではあるが、本物の救いにはならない。先延ばしにするだけだ。
 ともかくこの塔も壊さなければいけない。石が腐ってしまっているから、石ごと新しくしなければいけないかも。けれどこの河原に石はもうない……河原には石があるはずなのに、ない。
 それは概念の河原だから。境目の河原だから。
 見渡す限り砂が広がり、石は腐ったこれらだけ。
 本当にこれでいいのだろうか。
 手に持てばそれだけで腐ってゆく。腐食してゆく。俺が潔癖すぎるのだろうか。それとも。
 急に何もかもが嫌になって、俺は塔を横薙ぎにした。
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