短編小説(2庫目)

 どこに行ったのかわからない、と何度言ってもどこに行ったかわからないのは同じ。
 昔から失くし物の多い人間だった。
 なんでもすぐに失くしてしまう。大事なものも、そうでないものも。
 学校の課題も、人からもらったプレゼントも、全て等しく失くしてしまう。
 いいことか悪いことかと問うならば、おそらく悪いことだったのだろう。
 だからこんなことになっているのだし。

「なに、■■を失くした?」
「そうなんです、朝起きたら失くなっていたんです」
「■■を失くす奴なんて人間じゃないね。血も涙もない化け物だよ。帰った帰った。二度と社会の表舞台に出てくるんじゃない」
「はい……すみません……」

 部屋に帰って、寝転がる。
 まさか■■を失くしてしまうとは思わなかった。朝起きたら失くしていた、寝ている間に失くしたんだろう。そうに違いない。
 寝ている間の俺が意識のないままさまよって失くしたってのか?
 よくわからないな。
 だがそんなことはどうでもいい。今明らかなのはもう■■に悩まされなくてもよくなるということで。
 ■■なんて持っててもどうしようもなかったからな。これでいいんだ。
 役所の人から誹られようが、自由には換えられない。だってそんなものがあって何になる? 何にもならない。不自由なだけだ。いいんだ。これでいいんだ。

 しかしいざ失ってしまうと心許ない。あるのが当然、とまではいかないが、あれは確かにあったのに。
 ないのか。
 ない。
 ■が失くせと言ったから?
 ■とは?
 そんな奴がいただろうか。
 いたような気がするし、いなかったような気もする。
 ■■■を取りに■を■■■いたときに、声をかけてきたようなかけてきていないような。
 それを失くす道を選んだ俺と違って親友は一足先に行ってしまって、俺はもうそこには辿り着けない。
 悲しくはないがただただ虚しい、俺のあれは何だったんだ?
 そこにないものをあるかのように言って、でも本当はそこにあって、いや、失くしたんだ。失くしたから二度とそれは戻ってはこない。
 どうでもいい。どうでもいいんだ。誰からどう扱われようが俺の自由じゃないか、俺の所有物なんだから。
 本当にそうか?
 わからないからこんなことになっているんじゃないのか?
 俺は布団を被る。
 寒いんだ。この部屋はあまりにも寒すぎる。切れた灯油を補充していないから、エアコンは壊れているから、だからこの部屋はあまりにも寒い。
 外?
 さあ。雪でも降ってるんじゃないか?
 雪の降る日は空気が湿る。
 だから?
 失ったものは二度と戻ってはこない。
 それは俺の存在だったのだろうか。
 いや、違うな。

 どこに行ったのかわからない。なんでもそうだ。俺の見えないところに行って、わからなくなってしまう。
 まるで最初からなかったかのように。
 けれど■■だけはどうしても駄目だった。
 何が駄目なのかはわからない、けれどもそれは異常に■■て、遠かった、遠かった。

 そして■は幸せになった。
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